イチャイチャ成分が欲しくて書いただけの産物
それはまだ私が小さかった頃。
それはまだ私が学んでいた頃。
それはまだ私が凡人を拒絶していた頃。
そいつはなんの前触れもなくやってきた。
空から、雲の上の上の上の方からやってきた。
私の家の道場に落ちてきた。
「いってててて……」
異星人。
私の幼少期を創った男であり、私の未来を創った男。
今はもうこの世にはいない。
あの男は不思議な存在である。
私が何気なーく置いていた熱源探知機に突如として現れたその男は、私の家の道場に墜落した。その時の様子はその場にいたちーちゃんから事細かに聞いた。
曰く、とてもとても高い場所から瓦屋根を突っ切って地面に激突した。
曰く、その男はまるで何も無かったかのように傷一つない健康体だった。
曰く、その男は名前以外のことを覚えていないと言った。
それだけで退屈だった私の心をアイツは射止めた。
普段話さない親からその男のことを洗いざらい吐いてもらって。
調べるためだけに不登校気味だった小学校にも行って。
全ては地球の外の世界を知るために。異星人の生活を、習慣を、能力を知るために。
でもそれは勘違いだった。
アイツの謎を解明するために費やした小学校生活6年間。その全てがとは言わないまでも、ほとんどが消え去ってしまった。
結論から言おう。アイツは間違いなく、驚くほどに凡人だったのだ。
身体能力。ちーちゃんや私に敵わないどころか他の凡人相手でも負ける時は負ける。
知能。私に勝てないならまだしも、高々学校のテストで中位で低迷している。
容姿。私やちーちゃんのような美人でも、ただただ醜いブサイクでもない普通の顔。
何もかもが普通で特徴と言える特徴は『宇宙人』というあだ名とその由来くらいなもの。
最初は宇宙人が人間に擬態するためにバレないように凡人を装っているのだと思った。でもその考えも2年3年と月日が経つにつれて変わっていった。
だってそうだろう? 私の監視技術は着実に進歩している。きっと、アイツのことで知らないことは無い。この6年間ずっとずっとずっとずっと見てきたし聞いてきた。
でも結論はそれだった。アイツは他の奴らと変わらない凡人だった。
そんな凡人の名前を、今私は忘れられずにいる。
何故? どうして私はアイツの名前を忘れられないの?
私の才能が理解できず天才という言葉を押し付ける他の凡人たちと何ら変わらないのに、私はこの名前を忘れられずにいる。一体何が違うというのだろう。
「……やっと気がついたかバカ者め。いや、やっとスタートラインに立ったと言えるかな? まぁ頑張れよ束。それは私にはなんともできない。だがこれだけは言える。その答えを得た時、お前は新しい何かをさらに創り出せるようになるだろう」
中学が始まった時のちーちゃんはそんなクサイことを私に言った。ちなみにこの台詞は音声として記録、保存されている。
「え〜! そりゃないよちーちゃん! なにかアドバイスをちょ〜だい♡」
「そうだな。とりあえず今までの記録をまとめてみて、実際にアイツと行動を共にして、自問自答すればいいんじゃないか?」
「そんなことでこのモヤモヤが本当に解決できるの!?」
「きっと出来るさ。それじゃあな」
「お、篠ノ之じゃん」
「やっほー宇宙人。元気してる?」
「……お前は相変わらず、そのあだ名を忘れてくれないんだな。今じゃそんなこと言うのお前だけだぞ」
宇宙人。これは凡人たちがコイツに付けた名前だが、中々に的を射ている。
何度も言うがこの男は遥か彼方の空の上から降ってきた。しかも自身の名前だけしか覚えておらず記憶はほぼほぼ混濁状態。小学校入学1か月前に事故にあっているという珍物件だった。
この男の両親はその時に亡くなっており、そしてこの男自身も行方不明になっていた。道場に降ってきたあの日までは警察署では彼の捜索願いが出されていたのである。
そんなこともあってか当時の同級生は彼を『宇宙人』とまくしたてたのだ。
彼は「宇宙人、またはそれに類するものに改造された元人間」と噂されるようになり、彼の住む孤児院でも他の子供たちからは煙たがられるようになっていった。
「私はずっと君を疑っているからねぇ……」
「んじゃまだどこかに監視カメラつけてんのか? 一番俺のこと見てるだろうに粘るなホント」
「私が異星人と会いたい理由、分かってるくせに」
「自分と同じ天災に会いたいから、だっけか? 」
そう。私はもうこの星に愛想を尽かしてしまった。
ちーちゃんのような人はいるけれどそれ以外は凡人だ。私の同類なんてものはこの世界にいやしない。
ならば広大な宇宙に可能性をたくそうではないか。きっと私なら言語だって瞬時に理解出来る。それだけじゃない。きっとその生物の構造だとか本能なんていうのも理解出来るだろう。
そのための翼は……まだ制作途中だけれど。
「俺はまだ早急すぎる気がするけどな。まぁ、やりたいならやればいいさ」
「宇宙人って私のやることなすことにあんまり口出さないよね? ちーちゃんみたいにからかえなくてつまんないな〜」
「他人がどうこうしようが気にしてないだけだよ。まぁ、誰か人の命を奪うとか、俺に迷惑こうむるようなことは流石に止めに入るけど」
そう言ってコイツは空を見る。放課後になったばかりの空はまだ青く、太陽は横から白い光で私たちを照らし、影は少しばかり細長い。
「で? なんで篠ノ之はここにいるのさ。織斑なら剣道部だぞ」
「んっふっふ。気づかないとは鈍感だね〜」
「……もしかして俺に用なのか?」
「うん! 宇宙人さ、デートしない?」
「は?」
んー驚いてる驚いてる。ホントそういう話題には弱いよねーこの異星人。この前色仕掛けした時もすぐに気絶して倒れちゃったし。
「……あーこの後は」
「用事ないよね? 私君のことならなんでも知ってるよ☆」
「分かった。どうせいつもの様に訳のわからないものをあさりに行くんだろ?ゴミ山なら付き合うぜ」
「ウンウン、違うよ! 今日はー服を見繕ってもらおうかなー!」
「……おう」
oh......の間違いじゃないのかね宇宙人。
「かなり久しぶりに来たなここ」
「孤児院住まいじゃ縁遠い場所だもんねー」
「一度柳韻さんに頼み込んで望遠鏡を買ってもらって以来買いに来たことないからな」
「それなら束さんに頼めばいいのに」
ここはショッピングモールみたいなところだ。服だけでなく食料品や電気製品を販売する店もあれば、レストランや映画館といった娯楽施設もある。
まぁ宇宙人には金がないし、私はジャンク品を組み合わせて必要なものを造るからほとんど来たことないんだけどね。
「で、まずはどうするんだ? 俺としてはさっさと用を済まして帰りたいんだけど」
「ダメだよー宇宙人。今日は夕食含めて束さんに付き合ってもらうから!」
「おいおい。俺にそんな金は……!」
そこで彼は言葉を紡ぐのをやめた。無理もない。
なぜなら私の手には今、二枚の一万円札があるのだから。
「今日我慢してくれたら、この二万円を好きに使ってもいい権利をあげよう」
「……いつまで?」
「そりゃあ夕食までだよ。束さん夜は奢ってもらいたいし~?」
「イエスマム」
ちょろい。
「……帰りたい」
「ダメって言ってるでしょ! さっきのアレ、ちゃんと録音されてるからね~?」
「ぐっ」
「それよりも、どうどうこの水着。似合う?」
「し、篠ノ之にはなんでも似合うだろ!」
「もちろん! 束さんは天災だからねー。わかる。わかるよ。凡人にはさぞかし見るのがつらかろう! じゃあ次」
「ひでぇ!」
やっぱりこいつをからかうのは面白いなぁ。ちーちゃんだといつもアイアンクロー食らっちゃわないといけないし説教臭くなっちゃうけど、この男ならそんな心配はない!
束さんはこう見えてS気質なんだよね~。
「どうどう? 束さんの生着替えを音で楽しんでる変態宇宙人君、楽しい? 嬉しい?」
「心苦しいに決まってんだろ!」
「でもでも男としてはどうなのさ~」
「……」
「なんでそこで言葉が詰まるのかな? やっぱり宇宙人だから人間の体に興味あるの?」
「……ノーコメントで」
うわぁ……。やっぱりこいつ引くほど正直だね。そこは否定してくれた方が面白いのに。
よしお着がえ終了ごかいちょ~う。
「はいこれ、どうどう?」
「……か、かわいいと思います」
「ふーん。……うさぎをイメージして白にしたんだ~。それに最近色々成長してきたからちょっと攻め気味のを」
「なぜ解説をはじめるっ!?」
「そりゃからかいたいからに決まってるよ?」
「こ、この~~っ!!」
耳まで赤くしちゃって可愛いなぁもう! まぁ束さんの天才ボディだし? 悩殺されない奴の方がすくないかー。
「それじゃ次は宇宙人に選んでもらおうかな~。あ、拒否したらお金あげないからね」
「……この鬼畜ウサギめ」
「恨むなら、金に目をくらませた自分を恨みたまえ~」
さてさて何を選ぶのかな?
自分の性癖をさらけ出すのかなぁ。それとも場をおさめるためにそこら辺にある普通の奴を選ぶのかなぁ。
「じゃあ、これで」
「えー! これぇ? 結構ピッチリしてるけど……露出度低くない? 大丈夫? 満足できる?」
「いったい何の心配してんだお前は! ……俺はどっちかつうと……その……、か、体のラインが浮き出るタイプの方が好みなんです……」
「───。ふ、ふふふふ……いいこと聞いちゃったな♪」
うん。これにしよう。うさ耳は似合わないけど宇宙人が自分に正直に選んでくれた奴だし。
ぱぱぱっと会計を済ませて店の出口へと向かう。いいもの見れたし今日はこのくらいにしといてやろう。
「しかし……どうして水着なんだ?」
「ん? だって夏休み近いじゃん」
「お前どうせ外でないだろ」
「ぐっ……。うそうそ、ほんとは君がよく海に行くからさ、束さんも泳ごうかなーなんて」
「俺泳ぎに行きたいから海に行ってるわけじゃないぞ。正確にはあの浜辺の方に用があるんだ」
「知ってるよ♪ 束さんは君のこと何でも知ってるからね~。だ・か・ら、この水着は宇宙人君専用のモノなのだー」
「……やめてくれよ」
「ふぅ……食べた食べた」
「ほんと、宇宙人君はそばが好きだよね。ていうか舌がすこし大人っぽい? 親父臭い」
「いいだろ人の好き嫌いは別に。お前も大人になれば山菜天ぷらそばのおいしさがわかるようになるさ」
なんでそこで山菜を強調するんだろうか。そんなんだから親父臭いって言われちゃうんだぞ!
おなかを膨らませて帰路に就く。モールを出たらもう日は沈んでいて、夏の近い季節の割には雲一つない星空が広がっている。
このあとはそう、宇宙人が好きな例の浜辺だ。
「いきなり海に行きたいと言い出すとは……。さてはそんなに束さんの水着姿が見たいんだな~?」
「見たいわけじゃないし、たぶん見ねーよ」
そうだべりながら二人で歩く。そしてふと気が付いた。あれ? いつの間にか身長越されてる……。
こ、この束さんがこいつを下から見上げなきゃならないなんて……!
「でも、よかったよ楽しそうで」
「え?」
改まっていったい何を言うんだこいつはと思った。その言い方はまるで、最近の私が楽しそうじゃないように見えているってことじゃないか。
「なんかさ、最近の篠ノ之悩んでそうだったからさ」
「はぁ? そんなことあるわけないじゃん。束さんは細胞レベルで完成された天才だよ? 完成されてるんだよ? そんな束さんが悩みを抱くなんてこと想像できる? 想像できないよね。宇宙人君はバカなのかな。やっぱり異星の人でも束さんにはかなわないのかな。それにたとえ悩みがあったとしても君に悟られるようなボロを出すはずないじゃん」
「お、おう。なんか久しぶりに聞いたなお前の長台詞。そっか、今日足りないなと思ったのはそれか」
な、なに言ってんだこいつ……。私罵倒してるんだぞ? とうとうそっち系に目覚めてしまったのか……。
「なんか気持ち悪いよ宇宙人。この束さんに悩みがあるとか、罵倒を聞いて喜んでるとか。ショッピングモールの中でのあの弱気な君はどこ行っちゃったのさ!」
「俺は星空の元じゃ無敵だからな」
なんだよそのドヤ顔は単純にむかつくんですけど。
「着いた」
そしていつの間にか、こいつのお気に入りの場所に到着していた。
そこはただただ広い砂浜。
街灯も建物もほとんどないここには光も同様に存在せず暗く、浅瀬にはごつごつとした岩があって泳げるようなところではない。ゴミだって落ちているし、とてもじゃないが綺麗とは言えない場所。
そこがこいつのお気に入りだった。
夏が近い季節とはいえ、さすがに夜の浜辺の風は体を冷やす。そんな風よけのない砂浜の真ん中でたたずみながら、頭上に広がる広大な星空を見上げるのがこいつの趣味だった。
「───」
「……」
何も変わらない大きな大きな広い星空。だというのにこいつはそれを見てふつふつと体を震わせてただ笑う。
星空はこいつの居場所だった。
どんな時も夜になると空を見上げ、同じように笑うのだ。
剣道の練習の帰り。小学校の遠足の帰り。私の両親が誘ったとあるキャンプで眠りにつく前。夜遅くまで私の家で遊んだ時や、夏の肝試しのときだって。
その空が雲一つない夜空であったときなどはほぼ確実に空を見上げて笑う。その笑みは、夢を思う少年のそれだと親は言っていた。
きっとその通りなのだろう。私はこいつの夢を知っている。こいつのしたいことを知っている。
宇宙飛行士。
空から降ってきた宇宙人のような彼の夢は、帰巣本能なんじゃないかと思えるような
「いいなここは。天気もいい。今日は星が見れて、風を感じられる最高の日だ」
手を広げて風を感じる。視線は
手を伸ばして月を掴む。視線は
こうなったこいつは私もちーちゃんも、私の両親でさえ見向きもしない。
ただ満足するまで待つしかない。光を発するのはご法度だ。曰く、光のない場所であの
ただ見ているだけで何が満たされていくというのだろう。変わらない空を見て何を思えるというのだろう。私には到底理解できないことだった。
私にも
でも目的が違う。似ているようで違う。私は
こいつのそれは違う。この男はただそこにあるものが見たいだけに見える。実際そうなのだろう。
「篠ノ之」
「え……?」
突然、彼が私を呼んだ。その目はまだ
だから少し驚いた。こいつはここで私を呼ぶようなこと、しないはずだ。
「さっきの話の続きだよ」
「……私が悩んでるって話?」
「そう」
いつもと違う声。トーン。重苦しいようで笑っている声。今から夢を嬉しそうに語りそうな声。
それがとても、ひどく怖ろしく思えたのはなぜなんだろう。ふと、真っ白になった私の頭の中でその疑問が浮かび上がった。
「結構言い訳並べてたけどさ。でも悩んだことあるだろ?」
「……否定はしないよ」
「その悩みたちはきっと夢への悩みだっただろ。わかるよそれ。俺も悩んだことがあるから」
嘘をつかないはずの、ついたことのない正直者の彼の言葉が、この時だけ嘘だと思えてならなかった。
だってこいつは今、夢をみているじゃないか。一直線に駆け上がっているじゃないか。どこに悩みを抱える要素があるというのだろう。
「だから何も言わなかった。なにかに行き詰って、苛立ちを隠しても隠し切れなくてピリピリしてた。でも何もしなかったし何も言わなかったよ」
「どうして?」
「だってお前、あきらめるような奴じゃねぇから。それを乗り越えられると思った。それを乗り越えて
私になる。どういう意味だろう、そう思って少したって続けて彼は言った。
「自分の夢をかなえるために足掻いたやつはそいつだけの光を手に入れる。それがきっと個性ってやつ。お前はたぶん手に入れたんだと思う。夢への切符みたいなやつを」
「そんなことが君に分かるの?」
「わかるさ。だってちょっと前のお前はキラキラしてた。まだ苦労しなきゃだけど難所は超えたって、夢へは確実だって感じがした」
こいつは彼は何も見ていないのに何でも知っている。私はいつも色んな方法で彼を記録しているけれど、こいつは違う。すぐに心を見透かしてくる。
そう。少し前に私の創っている
とても、とてもとてもはしゃいだものだ。フレームもブースターもまだ形になっていなかったけれど、達成感に満たされて喜んだ。
でも……。でもそれが今……。
「でも今のお前は違う。違う悩みを持っている。だって篠ノ之、今のお前には苛立ちなんて微塵も存在しやしない」
「ならどうして、私が悩んでいるなんて思うのさ」
「だってお前、これからとんでもないことをしてしまいそうっていう恐怖、罪悪感みたいなものを持ってるじゃん」
そう。すべて彼の言うとおりだった。
認めたくなかった。理解したくもなかった。私が今、私自身がやろうとしていることに恐怖しているなんてことを。
原因は全てこいつにある。
こいつが宇宙飛行士になりたいと思っていなければ、その過程で軍人なんかになりたいと言ってこなければ、私はこんな感情と相対することはなかっただろう。
こいつは孤児院住まいの人間である。
その早熟した人格と真面目さが評価されて孤児院ではかなり独立して動くことが許されているがそれは建前で、宇宙人の疑いがかけられているこの男を気味悪がって遠ざけていたのが真実だった。
その結果夜出歩くことも許されたし、他人の家での宿泊も許可された。
だから孤児院住まいの人間にしてはとても自由で活発で、明るい男だった。
でもこの社会ではそうはいかない。
経済的にとても苦しい環境だ。とても宇宙飛行士になれるような状況じゃない。
それは彼も分かっていた。そんな彼が見つけ出した答えが空軍パイロットだった。
軍人にはある程度の給料とある程度の住まいが用意される。空軍なら
精神的にも肉体的にも鍛えられ、経済的余裕がうまれるまで働くつもりならば、宇宙飛行士になるまでの過程の中で選ぶ選択肢としてはいいのかもしれない。
でもそれも、それだけじゃない。宇宙飛行士になるという夢までも、私の創ったISは破壊しかねない。
コアの適正があらゆる男性になかったからだ。
宇宙へと飛び出せる新しい翼。その適正がこの男には存在しない。
きっと、このISが世界に出回れば彼は
確証はあった。他でもないこの天災、篠ノ之束の確証だ。
ISは世界を変える。その特性からきっと、女尊男卑の世界に。
なんせ、ISに関連する技術は全ての分野において革新といえるものになる。そこには当然宇宙も軍事も含まれる。というか、これらの分野が最も大きな影響を受けるだろう。
私は、この夢に向かって突き進む幼馴染の、生きがいともいえるものを破壊してしまっていいのだろうか?
そんな、少し前の私なら全く考慮しなかったことが、私の頭から離れないのだ。
「篠ノ之。今から俺のありがたい持論を聞かせてやる。よく聞けよ」
「───っは、天才の私が参考になるようなことなのかな?」
「なるさ。これは才能がどうこうって話じゃない。才能なんて存在しない精神の、心の話だからな。人間なら一考の価値ありだよ」
なんだそれ。まるで宇宙人みたいな言い回しじゃん。どうしようもなく
彼は少し
「恐れるな。やりたいと思ったなら必ずやり通せ」
そうハッキリと簡単な言葉で言った。私が悩みを抱える原因となった奴の口からハッキリと。
「俺はな、思うんだ。
「……なんでさ」
「こんな広大な宇宙でここ地球が、そこにある世界がどう変わろうがそれは些細なことのようにしか思えねぇんだ」
世界が変わろうが些細な事。私の悩みを吹っ飛ばすかのように語るそれは、教え聞かすものから夢を伝えるものへと変わっていった。
「俺は
未来を思う感情に似ているかもしれない、と彼は言う。
研究者なら、世界の神秘を探し求めている者なら絶対に理解できない思考回路だ。わからないことが、知らないことが嬉しいなんて思うなんて。
なぜならそういう人種は可能性に恐怖する。確定した未来が欲しいと願うから発見を求めるのだ。
でもこいつは違う。可能性が、網羅できないほどの可能性があることがとてもとても喜ばしいことなのだ。
「俺はこの目で数多ある可能性のカケラを見たい。伝えたい。だから俺はここから飛び出していきたいんだ」
「だから、誰かの命を奪うことを許せないのは……」
「そう、可能性を消すことになる。それはダメだ。世界は、宇宙は銀河は、可能性でできているんだから。それを確定させる存在、可能性を創り出す存在である生命を消しちゃいけない。たとえ、どんな理由があったってな」
そう言って私の方を見るその目には光があった。炎がゆらめていていた。
あぁそうか。私はこの目に惹かれて、この目に恋をしたんだ。だからどうしようもなく、この目の中の炎が消えてしまうことに恐れている。
「自分の中に可能性があるならやれよ篠ノ之。恐れるな。それはこのちっぽけな青い地球に変化をもたらすだけだ。やれ。やらなきゃ怒るぞ」
「ははっ、それってとってもすごいことなんだよ? 天才にしかできないことなんだよ?」
「
「───」
呆れた。馬鹿馬鹿しくなった。なにを私は迷っていたんだろう。
「じゃあ私、世界を変えるよ」
「おう、やってくれ」
「私、君の夢がかなえられない世界にしちゃうよ?」
「そうか。でも
「いいんだね?」
「あぁ。俺が最も恐ろしいと思うことは、自分で何も叶えられなかったことじゃないからな」
「ふふふ。ヘンなの。やっぱり宇宙人だよ君は」
好きな人が認めてくれた。なら、どこまでやっても大丈夫だよね?
今ある世界を壊して消して、新しくしてもそこに数多の道があるのなら。止まらないでいてくれるよね。
「ねぇ宇宙人」
「なんだ?」
「言葉にしたらそれは可能性になるよね」
「そうだな。言葉にしたらそうなるかもしれないのが世界だ」
「私、それ全部できるから」
「そりゃ楽しみだ」
「うん。だから私予言する。絶対君の隣に、ずっとずっといるからね!」
「……へ?」
それから、篠ノ之束は織斑千冬とともに『白騎士事件』を引き起こす。
世界はISによって変わり、女性しか乗れないという特性から、篠ノ之束の予測通り女尊男卑の流れが蔓延していった。
軍事はIS産業に移行し、宇宙開発産業もISへと緩やかに切り替わる。
そんな中、彼はやはり空を目指すべく、空軍の操縦者育成学校に入った。今はISの意味のない援護の仕方を学びながら、大半の仕事を共にするであろう輸送機の操縦を練習している。
彼の眼の中の炎は消えていない。
「宇宙に行けなくなったぁ? 馬鹿言え、まだ男でも行けるだろ。既存の社会システムが壊れただけでロケットは造れる。なにを言っているかわからないだぁ? 起業するんだよ。民間会社でもロケットは造れるんだ」
そう言って彼は空を目指して機会を伺う。
まだ自分は100年ある人生の四分の一も終わってないんだと言って。100年生きれることが絶対と言わんばかりの自信を含めて。
そんな夢へと邁進する途中の、ある休日の日にそれは届いた。いや、現れたといった方が正しいか。
フルスキンのISに突如さらわれた別名宇宙人は、そこで驚愕と喜びに満ち満ちた親友以上恋人未満の幼馴染に出会う。
「やった、やったよ! 君にもIS適正があったんだよ! うわ――――い!! 今日は宴だ――ー!!!!」
幼馴染とはいえ自分のことでここまで嬉し泣きをしてくれる彼女を彼は好いていた。そのスタイルも彼にこうかばつぐんだったのは言うまでもない。
もうとっくにお互いがお互いに惚れている。
IS学園には最近になってとある科が活発になっている。
創立してからまだ10年も経っていない学園でそれが最近のことになるのかはわからないが、とにかく今はそこが熱い。
これも全て束と
今では私よりもあのバカの名前の方が騒がれる。ふ、まさかあの叫び声にも似た歓声が恋しくなるとはな。
『本当に信じられませんね。世界で
『はい。各国は織斑一夏君の適正発覚に際し、2回目となる一斉男性適正テストを実施するようです』
世間は我が愚弟とあいつの名前で持ち切りだ。いやはや、学園に身を置いていなかったらさらに取材が来ていただろうな。
『そして一人目も帰ってくるんですよね』
『はい! 人類で初めて太陽系を突破した彼が戻ってくるんです!』
『お、もしかして貴女は彼のファン───』
また騒がしくなるな、この学園も。
「しかし、あいつがここの教師になるとはな。昔あいつの言っていた通りだ。十代二十代で人生の全てを予測することはできんな」
戻ってくる。あいつはこの学園の宇宙科の教師となるために。
こ、これは……想像以上にキツイ……。
皆が皆、俺に視線を浴びせてくる。動物園の檻の中で暮らす動物たちの気持ちが今わかったぜ。あの人の時はこんなんじゃなかったんだろうなぁ……。束さんが匿ったって聞くし。
周りはみんな女子ばっかりだ。
6年ぶりに再会した幼馴染である篠ノ之箒には何故かそっぽを向かれてしまい、助けてくれそうな存在は皆無。
くそ、どうしてこんなことになっちまったんだ。始まりはそう、高校入試の試験会場で偶然ISに触れてしまったこと───
「「「きゃああああああああああああああああああああああ!!!」
って今度はなんだよ!?
いきなり周囲から黄色い歓声が鳴った。みんなの視線はすべて前の教卓に向いている。
どうやら担任の先生が入ってきたらしい。こんな歓声を浴びせられる先生って一体───。
「おぉう。織斑先生の言ったとおりだ。年頃の女の子にまで有名人扱いされるとは」
俺は知っている。その人の名前を。昔千冬ねぇや箒、束さんと共に、様々な場所を駆け巡った兄のような人物。
「俺の自己紹介聞いてたか? ここでも宇宙人呼ばわりされるのは勘弁願いたいが」
ちょっと親父臭いその人は、かつて空から降ってきたと言われている有名人。
幼少のころから宇宙ばかりを見ていた彼は、その不思議な経歴から『星の人』と呼ばれている人物。
「次の宇宙飛行までの五年間、おまえたち一年の指導役として働くことになる。まずは君たちの副担任からだ。よろしくな」
まだその瞳の中の炎は消えていない。
この人は新しい可能性を見続けている。
読まなくてもいい主人公の設定。
前世から宇宙を夢見る少年ではあったものの、いまいち情熱に欠けていた。
だらだらと時間をつぶしていった彼は、このままでは夢に届かないことを自覚しながらも、どこかあきらめたように平凡な生活を送る。
そこで友人の死に立ち会うことになる。
その葬式にも招かれた彼は、その友人が夢見ていたこと、やりたかったことなどをつらつらと語り聞かされた。
そこで人一人には、数多の選択肢があることを実感するが、それ全てを奪ってしまう死というものにとてつもない恐怖を感じるようになる。
生きているうちにやるべきこと、やりたいことをやろうと夢に向かって走り出し始めるのだが遅く、いまの人生全てを使っても無理だと思い知らされる。
最期は人助けの末の事故死。
妊婦が轢かれそうになったところを目の当たりにした彼は、夢へと届かない自分よりもその妊婦のお腹の中の赤ん坊に未来を託し、死ぬ。
転生してからはもう一度チャンスが生まれたことに喜び、孤児院住まいという境遇に悩みながらも夢を掴むために諦めずに走り続けることを決意する。
好きなことは挑み続けること。嫌いなことは死と何もしないこと。
割と趣味の分野が広く、プラモやゲームを主に楽しむ。
彼に与えられた転生特典は、「Gに耐えられる頑丈な体」
束は容姿が普通と称したが割とイケメン。普通にその顔に惚れていてツンデレしていた可能性がある。
IS適正に関してもこの容姿に関しても全て神様の気まぐれで与えられている。
束には告白されたのでそれ相応の気持ちを持っている。下の名前で呼ぶ同年代は彼女だけ。
題材になったのはつい先日発売された某戦闘機ゲームのネームド。空に生きるという点を使わせていただきました。
はじめて短編書きましたけど楽しいですねこれ。
面倒な伏線やらなにやらを出し惜しみなく書けるので。
今回の作品は「空中落下系異世界転生者って周りから見たらこんな感じやろ」という考えと、束とのイチャイチャを織り交ぜたものになります。
ほんとは連載にして束が惚れていく段階みたいなものを描写したかったですけど、主人公の個性がマジで空から落ちてきたこと以外ないので没に。
私の頭ではエピソード考えつかなかったし、文才が足りなかった……。
読んでくれた読者様方には感謝を。
もっとハーレムじゃなくて一途系のイチャイチャ増えろ。
2月22日追記
はわわわわっ、凄い評価の嵐で内心はちきれんばかりの嬉しさが溢れかえっております!
お気に入りや評価してくれました読者様には感謝を。
次話投稿についてのアンケートをしておりますので良ければご回答ください!
ちなみに1話だけしか投稿するつもりは無いので悪しからず
2月24日追記
アンケート終了したしました。800人も回答していただいてありがとうございます!