親友以上の気持ち   作:ゆうとん。

2 / 11
2話 学校生活

「よぉ!」

 学校へ行く道で合流した天間は、元気な声でそう言ってきた。今日はいつもより低い気温だが、制服を羽織るだけで、手袋などはしていない。ちょっと寒いのではないだろうか。

 いや、毛皮があるんだから、天間的にはそんなに寒くないのだろう。

「おはよ。今日も寒いね。」

「おう。知生はいつもそんな格好で寒くないのか?」

 僕の服装は、ほとんど天間と同じだが、手袋はしている。少しは寒いが、特別寒い訳では無いので大丈夫なのである。

「まあ、少しは寒いけど……我慢出来る程度だよ。」

「ふうん、そうか。知生は人間だし、寒そうだなと思ってさ。」

 まあ確かに、僕には天間と違って毛皮はない。でもこの地域は特別冷たい風が吹くわけではないから、そんなには寒くないのだ。

 でも、正直毛皮は羨ましいなあと思うときはある。夏は暑そうで大変だと思うが。

 

「あはは、そうなんだ。……そういえばさ、他に遊べる日ってある?もっと遊びたくなっちゃって。」

 そう言うと、天間の顔は歪んだ。金曜日みたくすぐに直るのかと思っていたが、その顔は元に戻らなかった。

「……すまん、親に怒られた。」

 言葉はただそれだけだったが、天間から放たれた声は怒りに満ちているような気がした。僕はその声を聞いて、一瞬肩がすくんでしまった。

 やっぱりこの天間は、何かを隠している気がする。今まで学校で勉強を教えていただけのせいで、天間の学校以外のことなど考えたこともなかった。以前考えた、構ってもらえないという問題は、本当だったりするのだろうか──。

「ごめんな、知生。」

 その声で、僕は我に返った。ちょっと考え過ぎだったかな。でもどうして親に怒られただけで、そこまで感情を出すんだろう?僕には理解出来なかった。

 

 

「いや、大丈夫だよ。あれが最初で最後なのは、ちょっと寂しいけど。」

 思わず本音が漏れてしまったが、天間は気にしない様子で、もうへらへらとしていた。やっぱりこの天間が最高だ。

「へへ、そうだな。まあ遊べなくても、いつもみたいに勉強を教えてくれ。」

「ははっ、分かってるよ。」

 僕はそれに、笑いながら答えた。天間を悩ませるものは気になるけど、気にしない方がいいのかもしれない。というか、あんな様子を見ていたら、言うことなんて出来なかった。

 少なくとも、天間の隣にいれる時は付き添ってあげなくちゃ。何故だか分からないけど、急にそんなことを思っていた。

 

 

「あっ……!」

 考え事をしていたせいで、凍りついた排水溝を踏んで滑ってしまった。このままあっという間に倒れて、激痛が伴うのだろう。そう思って目を力強く瞑ったが、急にぐいっと後ろに引っ張られて、柔らかい壁に身を委ねてしまった。

「大丈夫か?」

 僕が滑らないように抱きついている天間がそう言ってきた。そこまで物事が進んで、やっと理解が出来た。だが正直、それどころではなかった。

「あっ……ありがとう。」

 自分の心拍数を誤魔化すかのようにそう言った。助けてくれたとはいえ、こんな状態にされたら胸が高鳴るに決まってる。

「て、天間くん、よく助けれたね?」

「あー。そりゃあ目の前で転びそうになってたら、助けたいって気持ちになるだろ?」

 望んでいた答えと若干違う答えが返ってきた。物理的な意味で問いたのだが……。まあ天間なら出来るのだろう。そう勝手に考えた。

 

 

 

 

 丁度4時間目の英語が終わり、給食が配られる時間となった。だが目の前の天間は、そんなことを知らずに呑気に寝ている。

「天間くん!」

「んぐっ……?」

 背中をドンドンと叩いて起こそうとすると、身体がビクンと一瞬痙攣して、その後辛そうな返事が返ってきた。どうやら、熟睡していたようだ。

「給食だよ。」

 天間を動かすためには、その言葉だけで十分だった。

「おっ、給食か!へへっ、待ってたんだ。」

 さっきの眠気はどこへやら。天間は目を有り得ないほどに輝かせてそう言ってきた。まぁ、そういうところがかわいいのだけれど。

 

「英語はどうする?結構難しいところやってたよ。」

 寝ていた天間に、授業の内容を教えた。半分ぐらいは起きていたようだが、眠気には勝てず、もう半分の時間は寝ていた。

 仲良くなった頃は寝る度に起こしていたのだが、どうしても寝てしまうらしく、もう面倒くさくなってやっていない。もちろん、授業が終わる頃には起こしているのだが。

「んー、じゃあ食ったら教えてもらう。」

 天間はそう適当にいうと、机の向きを変えて給食の準備をした。

 天間の食べっぷりは物凄いものである。少食である僕が残すと全部食べてくれるし、更にクラス内の残り物も食べてしまうし、挙句の果てには違うクラスに行ってまでお代わりする時だってある。天間の食欲は限界を知らないようだった。

 

 

 

 

「いただきます。」

 全員に均等に配分された配膳があるかを確認して、そしてみんながそう言う。そうすると、みんな待っていたかのように急いで口に運ぶ。

 もちろん天間も例外ではない。……というか、逆にある意味例外かもしれない。だって、こんなに早く食べるなんて思ってもみていなかったし。

 こればっかりは中1の4月から見てきたが、ご飯を一生懸命にかき込んで頬をリスのように膨らませる天間を見て、その時からかわいいと思ってしまった。

 そんなことを思っている間も、天間は時たまおかずと共にご飯をかき込んでいる。もうちょっと味わって食べて欲しいものだが。

 

「よしっ。」

 少し経ったあと天間はそれだけ言うと、立ち上がってお代わりを貰い始めた。このクラスの他にもお代わりをする子はいるが、天間ほど食べるのが速く、食欲の多い子はいない。それほど、天間は食に関して恐ろしい人なのだ。

 どれだけ残っていても平然とした表情で全て平らげてしまうし……どんな胃を持っているんだ、と問い質したくなる。まあ『分からない』とかの答えが返ってくるんだろうけど。

 そしてそんな考えを浮かべていると、手に並盛ほどのある茶碗を持った天間が帰ってくる。僕は遂に我慢出来なくなって、さっきのことを問いてみた。

 

 

「天間くんってさ、本当によく食べるよね。」

「あー。いくら食っても、満腹にはならないんだ。満腹に近づきはするんだけどな。」

 へへっと笑う天間は、とても幸せそうだった。食べることが好きなのだろう。その表情は、それを物語っていた。

「そっか。」

 僕の返事を受けると、天間はお代わりしたご飯をかき込み始めた。

 まぁ流石に食べ過ぎだと思ってしまうほど食べてはいるけれど、天間が幸せそうなら、何も言うつもりはなかった。

 ──それに文句を言ってしまったら、天間の大事なものを壊してしまいそうだから。

 

 

 

 

 みんな食べ終わったのか、もう配膳を机の上に置く者は居らず、机の向きも直していた。ここから大体25分ほど休憩になるだろう。

「知生ー、英語教えてくれー。」

 まあ、僕は仕事があるようなのだが。なんだかんだ楽しいので、嫌なわけではなかった。

「はいよー。ええっと、今日はこれをやったんだよ。」

 僕がプリントを持ってきてそう言うと、天間も同じプリントを探し始めた。

「お、これか?」

 そう言って、天間は探し当てたプリントを見せてきた。どうやら、全く同じなようだ。

「うん、それそれ。じゃあ教えてあげるね。」

プリントも持っていたので、いざ天間に教え始めた。

 

 

「相変わらず教え方上手いよなあ、知生って。」

 一通り教えることが出来ると、天間は僕のことを褒め始めた。授業を50分やってもそんなに内容が濃い訳ではないから、要点とか、書いたところを教えるだけならそんなに時間はかからない。

「そう?まあ1年半くらい教えっぱなしだからなぁ。」

 ははっと笑って、何故上手くなったのかを説明した。

「へへ。だから知生に頼んじゃうんだ。知生の方が分かりやすいからな。」

 天間は自分の後頭部を撫でながら、恥ずかしそうに言う。そう言ってもらえるのは嬉しいが、少しは授業に参加して欲しいものだ。

 

「それは嬉しいけどさ……授業中もちゃんと起きててよ。」

 天間は授業中、ほとんど寝ている。最初はちゃんと聞いていたりするのだが、頬杖を付いたまま寝ていたり、書く体制のまま寝ていたり。起き続けている姿は見たことがなかった。

「えー、だって眠いんだぞ?寝ない方が凄いだろ。」

 それが当たり前だろうとでも言いたげな天間。いや、起きているのが普通なんだけど。

「一応言っておくけど、起きてるのが当たり前だからね?寝ちゃいけないんだってば。」

「むう……す、少しぐらい良いだろ?」

 僕の忠告が効いたのか、弱々しい声に変わり、許可を求めるような言い方になった。まあ、眠いのなら仕方ない。天間が普段どんな生活を送っているか気になりはしたが、聞くのは止めておいた。

「……しょうがないなあ。でも、起きる努力はしてね。」

「へへっ、やっぱり知生は優しいな。」

 僕がそう言うと、天間は笑顔で僕の長所を述べた。そんなことを言う天間の笑顔が眩しくて、こっちも笑顔になった。

 

 

 僕がそれについて返事をしようとすると、昼休みが終わる5分前の予鈴がなってしまった。

「あー、もうこんな時間か。」

 予鈴を聞き終えた天間は、残り惜しそうにそう言った。時間の流れが早い、ということだろう。

「そうだねぇ。でも、あと2時間やれば学校も終わりだよ。」

「あー、そうだな……。」

 そう言ったのにも関わらず、天間は何故か良い顔をしなかった。やっぱり、家に帰れることはいい事ではないのだろうか。

 

 

「えっと……次の授業って何だ?」

 話を変えたいのか、天間はそう聞いてきた。今日は月曜だから──。

「公民だよ。」

 未だ時間割を覚えていない天間に、そう答えてあげた。まぁもう冬も終わりそうな季節なので、ここまで来たらずっと覚えないんだろうけど。

「おっ、そうか。寝ちゃうんだよなあ、その授業。」

 午前中も結構寝ていたのに、まだ寝足りなさそうな顔をしている。先生の教え方も悪いのかもしれないが、いつも寝ているし、天間にはあまり関係の無い話な気がする。

 

「まあ、少しは寝ないように頑張ってね?」

 僕はさっき言っていたことに念を押した。ただ、この天間はそれを本当にやってくれるのか、と甚だ疑問だが。

「へへ、寝ないって。何なら、その次の授業も寝ないぞ!」

 ──絶対ありえない。時たま寝るんだったら信憑性はまだあるものの、天間はほぼ毎回寝ているから、信憑性は全く無いのである。

「本当かなあ……。」

 僕の心配は晴れないまま、授業を迎えることになった。

 

 

 

 

 放課後、僕と天間は一緒の帰路を辿っていた。

「やっぱり寝ちゃったじゃん。」

 僕はちょっと怒ったような声でそう言った。実際は怒ってないが、こうでもしないと天間が反省しないからだ。

「へへ……すまん。眠気には勝てないみたいだ。」

 顔をほんのりと赤らめて、恥ずかしそうに言う天間。少しは長く起きているのかと期待したのだが、結局いつも通りの時間が経過すると寝てしまっていた。

 これまで天間の授業中に寝るのをやめさせることについて手を尽くしてきたが、何回やっても無理だった。流石に、こっちが折れるしかないのかもしれない。

 

 

「あ……なあ。」

「どうしたの?」

 何を言うのか気になってそう促したが、天間は言いづらいのか、なかなか言おうとしない。

「その……今日だけ、もう1回知生ん家に行っていいか?」

 天間の口からは、意外な言葉が出てきた。怒られてもなお、僕の家に来たいと言うのだから。

「いいけど……怒られたんじゃないの?」

「いいんだよ、楽しければさ。」

 天間のために一応忠告しておくと、お気楽な言葉が返ってきた。楽しさを伴うとなれば、怒られることもいとわないらしい。

「まあ、それならいいんだけど。じゃあこっちだね。」

 天間を案内するようにそう言って、先程とは少し違う道を辿っていった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。