親友以上の気持ち   作:ゆうとん。

3 / 11
3話 異変

「ほっ!」

 あれから数日が経った。あの日の翌日、天間はやはり怒られたものの、依然としてへらへらした様子でいた。あまりダメージになっていないのだろう。それを見ていて、とてもほっとした。今は何をやっているかというと──。

 

「おりゃっ!」

 体育の授業で、バドミントンを行っている。最初はほとんど下手だったのだが、運動能力に長けている天間がみっちり教えてくれた。自分も楽しい競技だとは思っていたので、自分から進んでやることが出来て──嬉しかった。

 天間は、運動となれば勉強と話は別で、かなり上手い。あまりルールを知らなくても、自分の大きさを活かした立ち回りをしてくるのだ。もちろん、力づくで、とかではない。

 ただ、天間に何故そんなことが出来るのか質問はしたのだが、『何となくでやってるだけだぞ。』と言われてしまったのを覚えている。何となくでそこまで上手いのなら、ちょっとした恐怖を感じるのだが。

 

 

「うわっ!」

 そんな天間は、僕を1度クリアで離した後、ドロップを打ってきた。何とか取れたものの、ネットに引っかかってしまう。

「へへ、もうちょっと警戒しないとダメだぞ。」

 からかう声でそう言ってきた。不思議と怒りは感じなかったが、悔しくはあったのでムッとしてみる。

「だって、天間くんの球際どいんだもん。」

「そのぐらいしないと、練習にならないからな。」

 雰囲気はいつものようにへらへらとしていたが、体育だけは真剣なようで、天間の目がそれを物語っていた。

 

「……でも、知生。本当に上手くなったな。前なんて、オレの優しい球すら取れてなかったじゃないか。」

「しょうがないじゃん。教えてくれる人も居なかったし。」

 正確には、教えてもらうことが出来なかったのだが。コミュニケーション能力が低いせいで、気さくに話しかけることが出来ないのだ。

「でも、体力はあるんだろ?」

「んー、ちょっとだけね。でも、やっぱりあんまり無いよ。」

 縄跳びだけは好きで、小学1年生の時からいつでも縄跳びで遊んでいた。そのおかげもあるのか、脚の筋肉だけは立派に付いており、体力も人並みはある。

 

「普通にあると思うけどな。」

 謙遜する僕に、天間はなおも評価し続けた。そんなにあるだろうか……?持久走ではむしろ遅い方なので、あんまり体力はないと思うのだが。

「まあ、天間くんが言うならあるのかなあ。ありがとね。」

 あまり謙遜するのも忍びないと思ったので、素直に受け入れてあげた。

 

「へへっ、どういたしまして。じゃあサーブやるぞ!」

 お礼の言葉を返すと、天間はそそくさとそう言い、シャトルを打ってきた。遥か高く、体育館の天井に届きそうなほどまで打ち上げられたシャトル。

 高さは遊んでいるが、狙いは鋭く──アウトラインの一歩手前を貫こうとしている。僕はその思惑を断ち切るために、落ちてくるシャトルに力強くラケットの中心を当てた。

 天間の身長なら手を伸ばせば届きそうなクリアを、天間はわざと見送って後ろで打った。後ろで打っているのに、先程と同じようなシャトルを打てるのだから恐ろしい。

 そのシャトルをわざと力半分で打ち返すと、もう天間は動き始めていた。天間はこういう判断をするのが本当に上手い。

 そして天間の打ったシャトルは、軽くネットを越えるだけの運動量しか持ち合わせていない。僕がさっき取れなかったシャトルだ。既に中央に来ていた僕は、急いで食いついて高い弾道にした。

 クリアと変化したシャトルを見据えて、天間はすぐに落ちる位置を予測し、場所を動いていく。さて、今度はどんなシャトルが来るんだろう。そう思っていたのだが。

 

 

 ──スカッと空気を殴る音がして、それだけだった。つまり天間は、シャトルを打てなかった、ということになる。

「あれ……。」

 打てなかった、という思ってもみない結果には天間も驚いたようで、思わずそんな声を漏らしていた。

 天間は上手いが、やはり失敗してしまうことはあるようだ。だが、授業中にミスする回数はせいぜい2、3回ほどなので、恐ろしく感じてしまうところはあるが。

「あはは、失敗したね?」

 そんなことを思いながら、僕は天間にそう言ってみせた。

「まあ、たまにはミスることだってあるだろ?もう一回だ!」

 そう言って、天間はもう一度シャトルを打った。

 

 

 だがその思いを不安にさせるかのように、その後の天間はミスを連発させていた。単純に数が2倍になった、とかの比ではない。

 何か悩んでいるのだろうか。心配性というのもあるが、あまり失敗しない天間がこうも失敗していると、心配もしたくなる。

 授業はもう終了しそうなので、さっきのことを聞いてみた。

「天間くん、大丈夫?」

「大丈夫って……何がだ?」

 僕の声で振り返った天間は、一瞬苦悩の顔をしたような気がした。本当に一瞬だったので、僕の思い込みで勘違いを起こしたのかもしれないが。

「ほら、あんなにミスしてたからさ。天間くんにしては珍しいから。」

「……別に、なんでもないぞ。」

 思った通りの心配を言ってみせたが、天間はぶっきらぼうにそう答えた。あまり触れて欲しくない事柄なのかもしれない。それ以上言うのも気が引けたので、言うのは止めておいた。

 

 でも、プレイに集中出来ないほどの問題がきっとあるはずだ。天間は体育の時だけ、まるで別人がやっているかと思うほど熱心で、そして上手い。そんな人物が幾度となく失敗しているのだがら、問題が無いはずなんてない。

 でもきっと——こっち側から言っても、きっと何も話してくれないだろう。2年という短い付き合いだが、それだけは分かっていた。

「そっか。」

 心の憤りを抑えて、そう言う。言いにくいことなのだろう。言いたい時に言ってくれればいい。少なくとも今は——そう思っていた。

「ねえ、天間くん。」

「ん?」

 でも、いつでも言えるように。天間が助けて欲しいと言ってきたら、すぐに助け舟を出せるように、こう言った。

 

 

「悩みがあったら、いつでも言ってね。僕は天間くんの味方だからさ。」

 

 

 

 

 その次の日。天間は特に何か悩みを言ってくれる訳ではなく、そのまま今日を迎えてしまった。天間は何も言うつもりはないのだろう。そう割り切って、僕からも聞くのは止めておいた。

 自分はそういうことについて、受身になることが多い。その理由は、自分の考えを押し付けたくないからだ。もしそんなことをしてしまったら、その人の肩身が自分のせいで狭くなるような気がして、怖いのである。

 そう考えながら、目の焦点が合っているのは天間の背中。本当に広いなあ、と思う。大きさだけ見れば、中学生とはとても思えない。こんなに広いからこそ、そういう悩みを溜め込めてしまうのだろうか。

 

 ……あれ、こんなに制服しわしわだったっけ。注意してぴんと張っている制服を見ると、どこもかしこもしわだらけだった。どうしてこんなにしわだらけなのだろう。あと、ほつれているところもあるような──。

 そう見ていると、ふと天間の制服に埃が付いていることに気づいた。そっと取ってみると、天間は何も言わない。僕が埃を取ったことを知らないようだ。

 

「ねえ、天間くん……。」

「んっ?」

 そんなことがあったよ、と天間に伝えようとしたのだが、天間は僕の言葉に、敏感に反応してきた。そんなにビクッとしなくてもいいと思うのだが。

「ああ、ほら──背中にゴミ付いてたよ。」

「あぁ……ありがとな。」

 笑いながらそう言うと、天間もそれに合わせて笑ってくれた。天間の微笑む顔は、僕を幸せにしてくれる。

 

 

「さっきの授業、分からないところある?」

 天間を気遣って、そう聞いてみる。さっきの授業は古典だ。

「いや、大丈夫だ。覚えるだけだしな。」

 後ろを向かないまま、天間はそう答えた。僕のノートを見て写しているのだ。古典でも分からないところはありそうだが、天間は何も言わなかった。

「あのさ……。」

 昨日のことがどうにも気になって控えめな声でそう言ったが、天間は集中していたのか、聞こえていない。僕はその状況に甘えて、言うのを止めた。またそんなことを言ったら、しつこいと思われそうだからだ。

 

 

「よーし、出来たぞー!」

 意気揚々と天間は言ってみせた。どうやら、写し終わったようだ。

「おー、おめでとう。じゃあ次の授業頑張ろっか。」

 そうは言ったが、また寝てしまうんだろうなあ、という気持ちが拭えない。

「そうだな。えっと、次の授業は──」

「数学だよ。」

 それを聞くや否や、天間は少し嫌な顔をした。それだけで、数学が嫌いであることが伺える。

「うーん、数学か……。寝ちゃうと置いてけぼりにされるから、辛いんだよなあ。」

 そんなことか、と一瞬腰が抜ける思いをした。寝るか寝ないかとか、そういう話ではないのだが。

 

「それこそ、寝ないように頑張ってよ。」

 天間に、ますます寝ないことを勧めた。それを言って1時間寝なかったら、明日は雪が降るほどのレベルではあるが。そのぐらい、天間は常に寝ている。

「へへ。まあ……一応頑張るぞ。」

 前回の反省を活かしたのか、"一応"という言葉を使ってきた。まあ確かに意気込みだけは良くて、その後寝るなら意味が無いと思っていたのだけど……いざそう言われてみると、やっぱり意気込みだけはあった方がいい気がする。

「まあ、無理にとは言わないからさ。起きる時間伸ばすぐらいの気持ちで。」

「おう、分かった!」

 助言をしてあげると、天間は元気にそう返事した。その返事に、とりあえず見守ってあげようという気持ちになる。

 

 

 

 

「天間──って、また寝てるのか。」

 いざ数学の授業になったのだが、今回は割と序盤の方から寝ていた。流石に起こそうか迷ったが、迷っている間に先生が指してしまったようだ。だが、それだけでは起きそうもない。

「東田、天間を起こしてやれ。」

 そう言われるのは目に見えていたので、早速僕は天間の大きな背中を、軽く押すように拳を当ててみた。

「ん……。」

 声になるか否かの声量でそう言うと、天間はゆっくりと起きた。後ろで見ているだけだが、とても眠そうである。

 

「天間、この問題分かるか?」

「えっと……。」

 恐らく、処理能力が眠さで著しく低下している頭で、黒板に書いてある問題を必死に解こうとしているに違いない。

「知生、答え何だ?」

「……1/2だよ。」

 後ろを向いて助けを求める天間に、仕方なく答えを教えてあげた。まあ少しは考えていたし、それで分からなかったらそれこそ仕方ないことではあるが。

「えっと……1/2です。」

「おお、合っているな。東田に感謝した方がいいんじゃないか?」

 天間が、僕の答えをオウム返しのように先生に伝えると、先生が天間をからかった。

 僕の答えをそのまま発言される時が一番怖い。自分だけが間違っているのならいいのだが、この場合は発言した子も巻き込むので、罪悪感に苛まれてしまうのだ。

 

「……寝ててごめんな。」

「えっ?……ああ、うん。」

 てっきり、普通に感謝の言葉を言ってくると思っていたので、拍子抜けした。天間らしくないと思いながら、ちょっと曖昧に答えてしまう。

 

 

 

 

 その後、何だか授業に集中出来なかった。というのも、やっぱり、最近の天間の様子がおかしいと感じる。

 前なんかそんなこと言わなかったのに、なんてことも言ってくるから──もしかしたら、想像以上の悩みを隠しているのかもしれない。そんなこと、出来れば考えたくはないんだけど。

 でも、天間の態度が変わっているのは火を見るよりも明らかだ。天間が何か手遅れになる行動を起こす前に、僕が止めなければいけない、という気持ちに襲われていた。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。