親友以上の気持ち   作:ゆうとん。

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4話 やるべきこと

 あれからというもの、僕はせめて僕と一緒にいる時くらいは笑ったりして欲しいと思って、ちょっとしたゲームを一緒にやったりしている。

 ゲームをやっていれば何もかも忘れられるのではないか、という算段だ。

 

「へへっ、勝った!」

 とりあえず最初は何をやったかと言うと――〇✕ゲームである。9マスの中に〇と✕を描いて、自分の記号を揃えれば勝ちという単純明快なゲームだ。

 そんなゲームであるが故、引き分けが多くなるのだが――あまり考えておらず、普通に負けてしまった。

「あっ……負けちゃった。」

 なんというか……何事も無かったかのようにあっさり負けてしまったので、誠に遺憾である。ゲームだし、仕方のないことなんだけど。

「どうしたんだ?知生らしくないぞー?」

 そう天間に煽られてしまう。まあ勉強もよく出来る凄いヤツだと天間は思っているだろうし、そう思われるのは当たり前か。

「あはは、ごめん。何にも考えてなかった。」

「ははっ、そうなのか。道理で勝てたわけだ。」

 僕は理由を正直に述べた。別にわざと勝ちを譲った訳では無いのだが、考えもせずに〇を付けていったらこうなってしまった。

 まあ、さっきのことはもういいから、次で勝負しよう。

「じゃあさ、もう一回しようよ。」

「負け惜しみか?でも、今度は負けちゃいそうだな……。」

 天間の言う通り、今度は真剣に考えるつもりだ。こういうゲームは、単純ではあるのに奥が深い。

「まあ、勝つつもりだからね。」

 そう言って、第2ラウンドを開始した。

 

 

「そういえば、どうしてこんなこと、突然やろうと思ったんだ?」

 ――あ。そういえば、それについての理由を全く考えていなかった。どうしよう、という気持ちで焦り、悩む。

「え……っと、たまには気分転換として、やった方がいいと思ってさ。勉強だけじゃ、疲れ溜まっちゃうでしょ?」

 とりあえず、それらしいことを言ってみせる。でも、本当のことではあった。

「あー……そうだな。楽しいと、疲れ吹っ飛んじゃうよなあ。」

 そう言った天間の表情は、とても幸せそうな笑顔だった。いつも見た笑顔とは違うような気がして、僕も幸せな気分になる。

「うん。だからやろうと思ったんだ。」

 その笑顔を更に増幅させるように、そう言った。元々そういう策だったし、それが成功したなら幸いだ。

 

 

 そうして何度目か分からない試合の途中に、授業5分前のチャイムが鳴ってしまった。

「ん……やっぱり楽しいと、時間も忘れちゃうなー。」

「そうだねえ。」

 そうしみじみと語る天間に、頷いて賛同してみる。楽しければ楽しいほど、時間が惜しくならないことはない。

「じゃあ、明日も何かしようね。」

「おう!」

 天間に明日の誘いをすると、元気に反応してくれた。天間自身も楽しいのか、その二つ返事は妙に速かった。

 

 

 

 

 そして次の日。昼休みに入り、僕たちは早速遊び始めようとした。

 今日やるつもりのゲームは、絵しりとりだ。しりとりとして繋ぎたい単語の絵を描き、それを元に更に繋げていくという、意外と難しいゲームだ。

 なお、本当に分からない時以外は、絵の答えを言ってはいけないというルールにしている。まあ正直、その点に関してはあまり決めていなかったんだけど。

「じゃあ、天間くんからでいいよ。」

「オレからか?よーし、描いちゃうぞー!」

 順番を渡された天間は、意気揚々と描き始めようとした。どんな絵を描いてくるか分からないので、僕も身構えておく。

「こんな感じでどうだ?」

 そう言って、数秒後に提示してきた絵は――リンゴのようだ。円形に凹んだ部分とへたが描いてある。

「あー、なるほど……。」

 次は何を描こうか悩む。「ご」だし、ごまなんて描きやすいだろうか。――いや、ここはアレを描いたら面白そうだ。

「ん?ああ、それか。」

 天間が納得したようで助かった。「ゴール」を連想してもらおうと思ってバスケットゴールを描いたのだが、その誘導は上手くいったようだ。

 

「うーん……あ。」

 閃いたのか、天間は突如描き始めた。そうして描き終えたのは、縦長の六角形にキラキラとしたマークだ――間違いなく、ルビーだろう。

「じゃあ……これかな。」

 ルビーで最後の文字が「い」だから、ここは無難にイカを描いてあげた。なるべく分かってもらいやすく描いたつもりなのだが、分かってくれるだろうか。

「あー、すげえ。分かりやすいなー。」

「えへへ……ありがとう。」

 天間の口からは、そんな賞賛の声がポロッと出ていた。そのぐらい、純粋にそう思ったのだろう。その様子を見て、嬉しい気持ちが増幅した。

 

「ほら、続き描いちゃって。」

「そうだなー……。」

 天間は「か」を元に、何を描こうか悩んでいる。カエルとか、金などが普通だろうか。いや、天間のことだから、カレーとか描いてくるかも。

 うん、と軽く頷いた後に描いてあったのは、僕が予想した通りのカレーであり、思わず吹きそうになった。

「なんだよぉ。」

 これにはこの天間も不服そうだ。だって、本当に予測したものを描いてくるなんて思わないもの。それで吹くまでに至らなくとも、少し笑ってしまったという現状である。

「あはは、ごめん。まさか本当にそれを描くなんて思わなかったから……。」

「むう……だって、これが最初に思いついたやつだったんだぞ?普通それを描くだろ?」

 天間は依然ふてくされた様子で、至極真っ当なことを指摘された。まあ僕が笑った理由は、天間らしい答えを予想して、それが本当に返ってきてしまったことによるのだが。

 

「そうなんだけどさー。まあ、いいや。」

 とりあえずそのことは置いておこう。次は「え」だから――エリンギ?分かりづらいな……駅?描くのが難しそう……。「え」は意外と難しいらしい。

 結局、エレベーターにした。矢印も描いたし、きっと分かってくれるだろう。

「ん……?それ、なんだ?」

 どうやら、これでは分からないらしい。ヒントも既に描いてしまったので、天間が閃いてくれることを待つしかない。

「えー、分からない?」

「んー……。」

 唸り声を上げながら、悩みに悩みまくっている。これって、そんなに難しいだろうか?もしくは単純に思い出せないのかもしれないが。

「あっ、エレベーターだな!」

 天間は閃いたようで、元気にそう答えた。僕はその興奮気味の返事に応じるように頷いてあげる。

 そして、何にしようかなーと気楽な顔で考える天間。予想しようかと思ったが、何だか的中する気がして、やめた。

 

「これだな。」

 天間はそう言い、描き進めていく。そしてそこに描き残されたのは、アメだった。アメとして描いてある包み紙がかなり上手くて、ちょっと驚いてしまう。

「うーん……。」

 「め」という頭文字が付く単語は、すぐには思い浮かばないので難しい。

 ――少し考えてみても、何だかメダカ当たりしか分かりやすいのが思い浮かばない。もうそれでいいか、と思って、不確かながらも描き進めた。

 

 

 ――「知生って、本当に絵が上手いよなあ。」

 絵しりとりが終わり、ちょっと休憩した際に発した天間の言葉は、僕を賞賛するものだった。

 別に自分は絵が上手いと思っているわけではないのだが……天間から見れば、僕の絵はそれほど上手いらしい。

「別にそんなに上手くないよ。……でも、ありがとう。」

 自己を愛する力はそれほど持ってはいないが、それを言われて嬉しくないはずがない。僕はちょっとした恥ずかしさを隠しながら、そう言った。

「ほら、オレなんかこんな絵だからさ……。」

 そう言った天間は、少し悲しそうだ。少なくとも僕はそうは思えなかったのだが。カレーとか、アメとかとても上手かったし。

 

 ――もしかして、食べ物になると自然に画力が上がるとか……?だとしたら、凄い――というか、恐ろしい能力を身につけていることになるのだが。

 でも、天間は食べ物への執着心は著しいので、無理な話ではないのかもしれない。理由が分かってもなお、恐ろしいことには変わりないけど。

「いや、割と上手かったよ。」

「え、そうか?本当……だよな?」

 その言葉を受け止め切れないのか、天間に嘘を付いたことも無いのに疑われてしまった。

「そんな嘘付くわけないじゃん。本当だよ。」

 僕は天間を安心させるように、そうなだめた。すると天間は、途端に恥ずかしそうな顔になる。

「へへっ……褒めるのもいい加減にしろよぉ。」

 本来は威圧あってのその言葉なのだろうが、今の天間は恥ずかしがり、かつ頬が緩み切ってるので、怖さなど全くなかった。

 まあ、天間に怖さを抱いたことなんか1度も無いんだけど。

 

 

「ふふ。恥ずかしがってる天間くん、久々に見たなぁ。」

「なんだよ……前にも、そんなことあったか?」

 僕は笑いながら、昔のことを思い出した。僕が天間と友達になった後、体育の授業で『上手いね。』と一言かけたら、似たようなことを言われたものだ。

 今の天間は忘れているらしいが、僕はしっかりと覚えている。

「あったよ。ほら、友達になってから初めての体育の時。」

「――ああ、あれか!そういうこと、思い出すなよぉ。」

 ――思い出さないはずがない。だって、あの時の恥ずかしがっている顔に一目惚れしたのだから。

 あの時の僕は、振る舞いこそ普通にしていたものの、心の中で悶絶していたのだ。なんてかわいいんだろう、と思ったのは序の口で、かわいさにどこか怒りすら感じたものだ。別に、嫉妬しているわけではないんだけど。

 僕がそんなことを考えていることも知らない天間は、唇を上げ不貞腐れた表情をしている。単純に、恥ずかしがっていた過去を思い出して欲しくないのだろう。

 

「あはは、ごめんごめん。でも、思い出しちゃうよ。天間くんと友達になったの、結構嬉しかったから。」

「へへ、そうか?」

 さっきの理由もあるが、もう1つ理由があった。そっちの理由はしっかりと伝えようとする。

 一旦言葉を区切ると、天間は自分の番だと言うように反応し、微笑んでいた。本当に、感情に起伏がある人だ。

「うん。……明確に"友達"な人がほぼ居なかったからさ。」

 確かに友達のようには接せていた。だけど、それは本当の友達ではない、かけ離れた距離にいるような友達だった。僕にコミュニケーション能力が無かったから、仕方ないことだったのかもしれない。

 そんな僕でも、天間と仲良くなる以前にはゲームを共にする友達が出来たことがあった。まあその子は、運悪く転校してしまったのだけど。

 

 

「……オレも、いなかったんだ。」

「――えっ?」

 天間がそういう話の乗り方をしてくるとは思わなくて、思わず間抜けな声を出してしまった。だが天間は気にせず喋り続ける。

「友達っていう存在が、怖かったんだと思う。オレのプライベートに、ずかずか入り込んできそうでさ。」

 そう単調に話す天間は、いつもの天間とは違っていた。元気はなさそうで、向けられている天間の目は、何だか虚ろだ。

「――あ、けど知生は違うぞ。最初はオレのそういうことに距離を置いてくれてさ。分かってくれる友達が出来た、って思ったんだ。」

「……そっか。」

 もうその目には虚ろな感情などどこにもなく、ただ優しく笑みを浮かべている。あんまり深くは考えない方がいいのかもしれない。

 そう思うが、一瞬見せられたあの目は、どうにも放っておけなかった。

 

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