レオリオという者だが、質問あるか?【再連載】   作:義藤菊輝@惰眠を貪るの回?

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 やべぇ、寝みぃ……。


回想×談話×決闘

 俺が捨てられていた日は、あいにくの曇天模様だった。らしい。

 ゴミが雨のように降る育ちの故郷では、所々で腐敗した生ゴミやらガスやらで自然発火が起こり、煙たさが無くなる日は無かった。

 自分が転生したことに気がついたのはその頃。左から右にブロンドヘアを流した少女を見たときだ。その女性は、貴方も不憫ね。とそれだけを言うと、クーファンから俺を引き上げていた。

 幻影旅団の姐御。俺にとって手厳しい姉であり、優しさをくれる母のような女性。パクノダその人だった。

 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「えっと、お前の質問は俺が何者だったか。だっけか?」

 うん! と元気よく返事するゴンに気圧されるように、俺は当たり障りない範疇で自分の過去を話していく。

「俺はよぉゴン。孤児でな? なんて言うか、ゴミ溜めみたいな街で育ったんだよ。あれだ、スラムっていう奴だ」

 何もない街。いや、ゴミ以外何もない街が正しいが、そんな街で育った以上、欲しいものは奪うしかなかった。

 俺を育ててくれたパクノダは、子供を抱える母親に、物々交換の形で俺に母乳を与えてくれた。パクノダ自体は生年月日が不明だが、だいたい団長と年は近いはず。そこからすれば当時はまだ10歳前後だったろう。考えれば考えるほどよくやったと思う。

「病原菌はうようよ居るし、感染症なんかは日常茶飯事。そんな街で育ったこともあってよぉ、俺を除いて血の繋がってない10人の家族とは仲が良かったんだよ」

 この前喧嘩したがな。なんてガハハと大声を上げながら笑う。

「始めはただ欲しかった。奪うことでしか欲を満たせねぇ街だったからな。お前さんからしたら不思議なことだろうが、そう言う場所はいくらでもある。だからこそだ。家族とは関係ない友達が死んだとき。俺はあいつらと同じだった道から少しずつ逸れてったんだ」

 どういうこと? ゴンが首を傾げて聞き返す。そんな時だった。

『これからさっきの倍近い嵐の中を進む! 命が惜しい奴は、今すぐボートに乗って帰りやがれ! 良いな!』

 巫山戯るな! とか、何!? とか、考え得る限りの暴言と悲鳴を聞き流し、俺とゴンはその場を動かない。

「チビ助は降りた方が良いんじゃねえのか?」

「死ぬかも知れないところにお医者さんが行く方が駄目なんじゃない?」

 二人して、心にもないことを口にして笑い合う。

 あの日、あいつが俺の腕の中で死んだのは必然か偶然か。ただ、金が市場を支えていない街からやっとのこさ別の街の病院に行ったあいつが、金があれば助かるんだってさ。とそう言った顔が忘れられない。

 ハンター協会からやってきた2人のプロハンターに弟子入りして医者としての知識、そして免許を手に入れることが出来た俺が、今ここに居るのは運命だろう。勿論、原作主人公であるゴンと出会うのも。

『船から降りる気のねぇ奴は、今すぐ操舵室に来い! 良いな!』

「あの髭面の野郎……」

「ここで愚痴ってても仕方ないよ。行こうレオリオ」

 ゴンに袖を引かれるまま俺は歩き出す。客室を出て、通路を進み、乗組員にニヤニヤと笑われながら。

「残った客は三人か……。名前は?」

「オレはレオリオという者だ」

「俺はゴン!」

「私の名はクラピカ」

 一番左にいたオレから順番に、金髪の小柄な少年へと順番に名を述べていく。

「お前ら、なぜハンターになりたい」

「なぜ私たちが一船長である貴方に志望理由を聞かれなくてはならない」

「良いから答えろ」

 ギシギシと船が歪む音が響く中、唐突な話によって生まれた沈黙を破ったのはゴンだった。

 ゴンのハンターになりたい志望動機は未知への探究心。その殆どが、自分を捨てた父が見たものを見るためというのが中々にどうかと思うが。

「オレは……。あんまり人に言えるような事じゃないんでね、答える気はない。決闘してでもな」

「えぇ? 良いじゃんレオリオ、理由くらいさ」

「私もレオリオに同じくだ。虚偽は強欲と同じく恥ずべき行為。私の志望動機は初対面の人間に告白できるほど浅くない。この場では答えることができない」

 そう言った俺達に船長が言った言葉は単純明快だった。

「降りろ」

 その一言で、クラピカの目が変わる。

「試験はもう始まってんだ。ハンター試験を受けてぇ奴は星の数ほど居る。分かるか? そんな数を予め篩にかける。それが俺達だ」

 俺自身は分かっていたこと。だからこそ文句を言ったわけだ。何処まで話せば良いかを見極めるために。なんせ、

「私はクルタ族の生き残りだ」

 クラピカの同胞を皆殺しにした盗賊グループ、幻影旅団のメンバーであるから。

「幻影旅団への仇討ちなんかやめとけ」

「どういう意味だ? レオリオ」

「せめて〝さん〟くらいはつけて欲しいもんだな……。礼儀がなってねぇ。次はないぞ」

「だからどういう意味だと聞いている! 死など厭わない、恐れない! この怒りが心に火を灯す限り私は彼奴らを追い続ける」

「無駄死にするだけだ。医者として言う。怒りを燃料に動く体なんざ、生きるために抗う事より愚かで無意味だね。賭けるか?」

「喧嘩してる場合か! 言わなきゃなんねぇのはレオリオだけだ」

 チッと、舌打ちを打った俺は、金だと答えた。

「金があればなんでも出来る。欲しいものも手に入る。でかい家、良い車、うまい酒。それに  

  品性は金では買えないぞ。()()()()

 どうしてこれほどに苛立つのか自分でも分からない。ただ言えるのは、品性は金では買えないとそう言いながらも、年上であるはずの俺に最低限の礼儀を怠っていると言うこと。

「3度目だ。幻影旅団に代わってそのクルタ族の血を絶やしてやる。お前の眼は高く売れるだろうな」

「取り消せレオリオ」

「4度目だ。表に出ろ」

 望むところだとそう言ったクラピカは、俺の少し後ろを着いてデッキへと出る。船長が待てとかなんとか大声で言ってるが無視だ。〝念〟も知らねぇ今のコイツが俺達に敵うことは絶対にあり得ない。ウボォーに叩き潰されて終わりだ。

「今すぐ訂正すれば許してやるぞ、レオリオ」

「テメェの方が先だ。俺は譲らねぇ」

 デッキを埋め尽くすような大波に煽られて蹈鞴を踏む乗組員は意識から除外され、やかましい声を無視してクラピカが突進してくる。

「行くぞ!」

「来いよ」

 ヌンチャクのように繋がった二振りの木刀を構えたクラピカに対してバタフライナイフを開いて低く構える。

 医者が人を傷つけるのか何て声は聞かない。医者は医者でも闇医者だ。秩序は最低限守れば良い。

   バキッ!!

 耳障りな騒音に気を取られた俺達は続く悲鳴がした方へと目を向ける。

「カッツォ!!」

 強風で船が傾き、カッツォと呼ばれた船乗りが足を滑らせ甲板から海へと落ちかける。そこに追い打ちをかけるように、強風で折れたマストの一部が顔面にぶつかる。

「っざけんな!!」

 目の前で人が死ぬなんざ目覚めが悪い。思わず俺は拳を握り締め、デッキを殴りつける。

見えざる神の救いの手(ファーシュテクト・ヒルフェ)!!』

 ガンっと音を鳴らして破壊された甲板からから、普通であれば不可視の腕が伸びて行く。するすると腕は伸び、そのまま甲板から飛び出て、海へなげだされたカッツォを掴んだゴンの両足を掴む。

「ゴン……。速ぇな……っと!」

 引き戻すように不可視の手を戻し、ゴンとカッツォをデッキへと引き上げる。

「気絶はしてるが、鼻血以外何もないな。息もちゃんとしてる」

 カッツォの状態を確認した俺は、そこら辺に居る人にアタッシュケースを持ってくるよう伝え、携帯を取り出す。

「もしもし、突然済みません先生。はい、失神で……。顔に当たってるので、はい、え? あ、ドーレ港です。はい。分かりました」

 パチッと音を鳴らして携帯をポケットにしまうと、ちょうど届いたアタッシュケースからガーゼを取りだし鼻に詰めてやる。

「ドーレ港に着いた後、カッツォに立ち眩みとか色々変なことが起きたらこの紙を医者に渡してくれ。俺の先生の名前も入ってるから、基本何処の病院に行こうが診てくれる。よっぽどのヤブ医者じゃねえ限り大丈夫だろう」

 そう言って俺は簡単なメモ書き程度に、カッツォの症状をまとめ、俺の名前と師匠の名前を書き連ねる。ついでに俺の印鑑も押しておく。

「それでクラピカ、ゴンへの説教は終わったか?」

「あ、ああ」

「クラピカがお前の足を引っ張って助けてくれる人でよかったな、ゴン。カッツォも幸い軽傷で済んだ。決闘なんかしてた俺が言うのもなんだが」

「ちょ、ちょっと待って? 俺の足掴んでたのって、クラピカだけなの? 両足掴まれてる感覚があったんだけど……」

「それは私もだ。ゴンの足を掴んだとき、酷く軽く感じた。何かしたんじゃないか?」

 そう言われ、俺は片手で顔を覆う。まさかこの時点で〝念〟を感じられるとは思ってなかった。クラピカも、重さという点では同じ。

「あー。何て言うかな、確かに俺はあることをした。それが何か分かっていないから、クラピカには幻影旅団への仇討ちを止めた部分もある。ただ、クルタ族を軽んじる発言は全面的に撤回するぜ」

「私も非礼をわびよう。すまなかったレオリオ()()

 水くせぇから気にするな。何て頬を掻きながらぼそっと口にすると、船長が試験なんてどうでも良いだなんて言い始めた。

「いつか、レオリオのやったことを聞くからな」

「そうだな。まあ、それで良いさ」

 船長に舵取りを教えてやるとそう言われ走って行くゴンの背中を見ながら、俺は静かに答えた。

「あーっもう! 嵐は要らねぇ」

「本当にな」

 甲板に寝転び見上げる空は、思っている以上に気持ちの良い青空だった。


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