レオリオという者だが、質問あるか?【再連載】   作:義藤菊輝@惰眠を貪るの回?

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奇術師×階段×湿原

「お前も受けていたんだな」

「それを言うなら君も。だよ♢ レオリオ」

 珍しく集合に応じたのに酷いじゃないか。とあの日のことを思い出すように静かに話し始める変態は、舌舐めずりを行う。

「クロロがあそこまで怒ったのは初めてだよ。羨ましいね♡」

「言ってろ変態。二度とごめんだね。殺されかけたわ」

 思い出すのは数ヶ月前の出来事。幻影旅団のメンバーとして、強盗行為に加担し仕事が成功した打ち上げの席でだ。

 あいもかわらずボロボロな廃墟の中で、盗品が入った木箱を机に缶ビールやら酒類を並べ宴をしていた中で宣ったのだ。

   巣……。やめるわ。

「何時思い出しても笑えるよ。あのクロロの顔を見ただけで行った甲斐があったよ」

 クロロにはぶち切れられ、ノブナガには刀を向けられ、フェイタンには傘を後頭部に突きつけられた。誰よりも怒っていたのは恐らくシズクだろう……。目に光がなかった。

「マチとパクノダがいなかったのが残念だよ♡ そうしたらもっと面白かっただろうに。なんせ君の母親代わりと姉代わりだしね」

 シズクだけであれだったのだ……。あれ以上は考えたくない……。そう、問答無用で攻撃してきたんだ。シズクが。

「そんな話は今良い。そんなことよりも、だ」

 俺がわざわざヒソカに話しかけたのには理由がある。

「今回のハンター試験にゃクルタ族がいる。お前が入る前……、だいたい2年くらいか。確か俺が14の時だ」

「ふーん。あの猫目かい? 青い服の」

 俺は小さく頷くことで、ヒソカの問いに肯定の意を示す。

「俺とお前は無関係。良いな?」

「う~ん。それだと僕にとってメリットがないんじゃないかな?」

 知るかよ。俺はただ平穏に、穏便に試験を受けて、そのままハンターになることが目的なんだ。お前の享楽に巻き込むな。

「それじゃあ君が相手してくれるのかい?」

「ふっざけんな!! 誰がテメェみたいな戦闘狂(バトルジャンキー)と殺り合うか」

 そりゃ残念。と不満を垂れるヒソカに対して、俺は絶対だからなと念をおす。

「それじゃあここに居る人たちはどうなんだい? 僕たちの話を聞いていると思うんだけど?」

「それなら……、適当に殺しとけよ。どうせこんなレベルの奴なら直ぐ死ぬだけだ」

 医者が言って良い言葉じゃないね。というヒソカのもっともなお言葉は右から左へ受け流す。そんなもん知るか。命の重さなんてお前らのせいで吹っ飛んだわ。

「それじゃあ……。殺っちゃおうか」

 医者から許可もらったし。と〝念〟を込めた殺気を突然ヒソカが放ち始めたことで、俺達二人の近くで走っていた受験生は、一斉になって距離をとる。人によっては恐怖からか足をもつれさせ、地面とお友達になる奴もいる。

「抑えろ。その内殺りたいだけ殺れる」

「へぇ……。やけに先を見抜いてるような言い方だね♧」

「どうせ前回もあったんだろ? 殺し合い的な試験」

 正解♡ と、身の毛もよだつようなねっとりした言い方をするヒソカにため息をもらした俺は、言いたいことはそれだけだとペースを上げて前方へと向かう。

 走り始めてどれぐらいたっただろうか。アモリたち三兄弟の罵詈雑言でニコルがリタイアしたのは確か80キロメートル前後だったはず。

 近くにはいないこともあってそれが起きる前なのか起きた後なのかも分からない。

 流石に地獄のような階段が何キロ地点だったのかまでは覚えていないので、今現在どの辺りにいるのだろうか。

「こんなことなら先に調べときゃ良かったな……」

 サバン市からヌレーメだかメヌーレだかよく分からない湿地までの距離。多分二次試験までは今走った3倍ちょっと走らないと行けないんだろうな。と辟易する。

「とりあえず変態から逃げよう……」

 俺はそっと首元のレジメンタルストライプのネクタイに指をかけ、息苦しさを少しだけ解消する。もちろん、第一ボタンも開けて。

 少しだけ晒した肌に風当たるのを感じながら、俺は更に前へ、終わりの見えない先へ向かっていった。

 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「あ、レオリオ!!」

 全く先が見えない階段が目の前に現れてからしばらく。トントンと軽い足取りで階段を上っていた俺の後ろからゴンの声が聞こえてきた。

「やっと追いついたよ~。速いんだね!」

「まあ、鍛えてるからな……。んで、そこの銀髪のガキはなんで俺を睨んでんだ?」

 ゴンの隣、予想通り目つきの悪いクソ餓鬼が後ろの方からやってくると、直ぐさま俺を睨む。

「いや、ゴンの知り合いが前の方にいるって聞いてたけど、結構おっさんなんだな」

「これでもまだ十九だ」

 嘘だー! とチビ二人に指をさされて否定されれば、少しばかり悲しくなる。船のクラピカと違って、悪意が全くないことも問題だ。

「よう坊主。俺はレオリオという者だ。年はさっきも言ったように十九。お前は?」

「俺? 俺はキルア。ゴンと同い年の十二」

 社交辞令的なテンプレートな挨拶を済ませた俺達は、スピードが緩くなってきた先頭に追いついてしまう。歩きながら二段飛ばしをしていたサトツ……。お前は良い奴だったよ……。

「緩急付けられる方が面倒くさい」

「それには俺も同意だね。あーあ、ハンター試験って言ってもこんな程度かぁ」

 脇にスケボーを抱えながら階段を上るキルアは、右手をポケットに突っ込んで、つまんねー。と愚痴をこぼす。

「キルアは何でハンター試験受けに来たの?」

「なんでって……。世界で1番難しい試験だって聞いたからどんなもんかなって。特に理由は無いな。ゴンは?」

「俺は親父がハンターだから!!」

 船長に志望理由を尋ねられた時と同じように、明るくハキハキと喋るゴン。それを静かに受け止めるように話を聞いているキルア。

 本当に相性が良いんだな。気づいたら俺よりも前に出ていた二人を後ろから眺めていると、志望理由の話題が俺へと向いていた。レオリオはお金がいるんだよね? と。

「まあそれもある。が、ハンターライセンスがありゃ大抵なんでも出来るからな。治療に使えそうな非合法な薬も集められるし研究も出来る。俺にとって取ったときのメリットが多いからな」

「俺の兄貴並みに強いのに。要らないでしょ」

「お前の兄貴が誰なのかは知らねぇが、俺はただの一般人だ」

 またもや二人に指をさされながら、嘘だー! と叫ばれてしまえばもう逃げ場はない。そもそも闇医者をしてる時点で一般人な訳がない。

「この中にいる奴らの中で勝てないって思うの、あのピエロと、試験官と、アンタだけだよ」

「えらく自信があるな。キルア」

「事実だから」

 ニヤリと嘲笑うかのような笑みを浮かべたキルアに続く俺達の視線の先。サトツよりも更に向こうに異変が現れた。

「光だ! 出口だ!!」

 先頭集団の一人が気づいて声を上げる。明確な目標が決まれば希望が見え、それにすがりつくように意識は伝播する。

「とりあえず外に出るぞ」

 私に着いてくること。それが試験だと宣言したサトツの表情はまだ変わらない。

 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「ここは……どこだ?」

 久しぶりの地面の感触。それは少しばかり地中の水分が多い感触がある。それは大気も同じであり、湿気が多くて蒸し暑い。そこら中で霧が発生しているのもあり視界が大分悪い状態だ。

「あっ……」

 階段の終わり。出口の目の前で力尽きたのかその場に倒れた男が、閉まっていくシャッターに気がついてその手を伸ばす。

 だが、無情にも願いは叶わず、シャッターはそのまま降り、その受験生は目の前で不合格となった。

「ここはヌメーレ湿原。通称〝詐欺師の(ねぐら)〟。生態系の頂点などと言う者は存在せず、人間すらもだまし、殺し、糧とする。決して騙されぬように、私に着いてきて下さい」

 やはりここでも試験内容は変わらない。ただ一つ分かっていることは、一次試験を折り返したと言うことだけだ。

「そう言えばクラピカは?」

「安心しろ。私はここだ」

 階段を難なくクリアしたらしいクラピカは、俺達が集まっているのを見たのだろうこちらへとやってきていた。

「それにしても、詐欺師の塒か……。やはり気を抜けるような場所は  

   嘘だ! そいつは嘘をついている!

 シャッターが下ろされた階段の裏側。のろのろと足を引きずりながら血まみれの男が現れる。

「俺が本当の試験官だ。その証拠にこれを見ろ。そいつはコイツと同じ人面猿だ」

 腕と足が細く長いため非力。そのため人に似た顔を使いあらゆる者を騙し死へと誘う。力の代わりに頭へと能力を持って行った存在。

「そいつに着いていけばお前た  

 だがそれ以上男が喋ることはなかった。

「う~ん。こっちが本物だね♡」

 サトツの両手には三枚のトランプがあり、それに対して血まみれの男はと言うと、顔面に三枚のトランプが刺さっている。

 ハンターはハンター協会から依頼があった上でその仕事を行う。故に、〝ただの〟という言葉を付けていいかは分からないが、受験生であるヒソカの攻撃を避けるなり受け止めるなりといった行動が取れていなければおかしいのだ。

「一度目は許しますが、二度目は即失格といたします」

 三枚のトランプをヒソカに投げ返したサトツは、目の前で起きた出来事が、ここから先いくらでも出てくると注意を促す。

 それでも試験内容は変わらない。俺達受験生がしなければならないことは、試験官であるサトツに着いていくこと。


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