「ウルアァァァァァァァ!」
「じゃあな。波ァァァァァ!」
突き出されて合わさった掌から莫大なエネルギーが放出される。それを恐怖するかのように筋肉で覆われた肉体を持つ戦士が雄叫びを放つ。
「ブロリーをもといた星に帰してやってくれぇ!」
離れた場所で誰かの声が響く。
〈願い〉が聞き入れられエネルギーの奔流が戦士の体を直撃する瞬間、その体を光が包み込み消し去った。
膨大なエネルギーを放った張本人が突き出した掌を向けたまま消えた理由を模索する。
恐怖を覚え、さらには回避不可能だと思われる技が目の前に来た瞬間に冷静でいられるはずがない。ましてや本能で戦っていたあいつがその瞬間だけ理性を取り戻せたは思えない。
「「高速移動か?…いや、気を感じないな。別空間に移動させられたと考えるべきか」」
さきほどの雲色は戦っている最中に見えていたものとは違う。
「「神龍か。いいタイミングだったぜ」」
合体戦士《ゴジータ》は青い髪を揺らしながら不適に笑う。
「「また会おうぜブロリー」」
何処にいるとも知れない遠くにいる最強の相手に《ゴジータ》は声を飛ばした。
「うわぁ、なんとも不思議な惑星ですね悟空さん、師匠!」
少年が見た目同様に興奮した様子で目の前の光景の感想を述べている。
ブロリーとの戦いを終えてから数ヵ月後。悟空たちはブロリーが暮らしている〈惑星バンパ〉へとやってきていた。
水や食料、住宅などを与えた悟空たちであったがそれで「はい、さよなら」では終わらない。
自分より強い存在であるブロリーと戦いたい、色々なことを教えたいという2つの感情から悟空はまた会いに来たのだ。
「うひゃ~あっちぃないつ来ても」
「カカロット、貴様はまだ2回だけだろう。いつもというのはバカしか言わん」
「来てることには変わりねぇんだからいいじゃねえか」
「貴様のそういうところが気に食わんのだぁ!」
漫才のようなやり取りを繰り広げる2人をもう1人が苦笑いしながら見ていた。止めれば自分が巻き込まれるということで制止させないのだろうか。
心優しい少年で悟空たちには実力は遠く及ばないが、潜在能力は一級品。ベジータも一目置く存在の彼の名前はキャベ。
《第6宇宙》にある〈惑星サダラ〉出身のサイヤ人。サダラ防衛隊のエースとして活躍するほど戦闘能力が高い。
スーパーサイヤ人に目覚めさせてくれたベジータのことを師匠と呼び、指導してもらえることを望んでいる。
そんな彼が今ここにいる理由は偶然だ。悟空とベジータがブロリーに会いに行く日に、遊びに来た〈第6宇宙破壊神〉シャンパと〈天使〉ヴァドスに着いてきていた。
シャンパの遊びに来たというのは、ただ単に地球の美味いものを食べに来たということである。キャベは当初来る予定はなかったのだが、シャンパに「ついてくるか?」という問いに即答した。
同行を許可してもらってからキャベはテンションアゲアゲであった。師のベジータに会えるという喜びと、悟空というサイヤ人最強に会えるという歓喜にも似た感情で顔がにやけるほどに。
「師匠、当初の目的を果たしましょう」
「ふん!カカロットと話していると俺様の脳ミソが腐りそうだ」
「ひでぇこと言うなよベジータ」
「事実を言ったまでだ。俺の予想が合っていたのだから少しぐらいは見習ったらどうだ?」
未だに夫婦漫才らしきものを繰り広げている2人にキャベの言葉は伝わらないようだ。どうすればいいのか悩んでいる間に悟空が気付いてくれた。
「そろそろ行こうぜベジータ。ブロリーが待ってるかんな」
「貴様とのやり取りは反吐が出る」
文句を言いながらも悟空の言うことを聞いているベジータもベジータなのだが。そのことをキャベが口にできるはずもなく、微妙な空気が居座ったまま背後の洞窟内に入っていく。
奥行きがありかなりいり組んでいるため、強風が吹き荒れても内部にはそこまで影響しなさそうだ。そもそもこんなところに何故悟空さんや師匠を追い詰めたサイヤ人がいるのだろうか。
眼に入る光景を見た限り、水が十分にあるとは思えない。食料さえ見つけるのは困難なのではないかと僕は思った。
けどそれは杞憂に終わる。何故なら洞窟の最深部には家があったからだ。
「師匠、これは一体…」
「ブルマがカカロットに持ってこさせた代物だ。衛生的にもこっちのほうが良いからな」
「理解しました」
周囲を見渡せばあらゆる生活用品が並んでいる。釜戸まであるということは自炊もできるということ。聞かされていたように娯楽がない場所だけどそれなりに楽しく暮らしているみたいだ。
「オーッス、来たぞぉ」
「…孫、悟空久し、ぶり」
「言葉上手くなったなブロリー」
ドアが開かれて出てきた人物が放つ圧倒的な存在感に、僕はたじろいでしまった。普通にそこにいるだけで僕の呼吸は荒くなる。恐怖が体を占領するかのように言うことを効かない。
「落ち着けキャベ。深呼吸するんだ」
「は、はい。スーハースーハー」
「落ち着いたか?」
「なんとか…」
師匠の言う通り落ち着いて呼吸をすると、どうにかその場に立っていられるようになった。
それでもこの人と視線を合わせることさえできる気がしない。こんな人とお二人は拳を交わせていたのかと思うと、自分との次元の違いを見せつけられる気がした。
嫌悪感がないのはまだ自分にはのびしろがあるからだろうか。まだ鍛える余地があるからだろうか。
「こ、こんな人と戦ったのですか?」
「本気のブロリーはもっと強いぞ。オラも勝てる気がしねぇ。合体でもしなきゃ無理だ」
「俺は二度とゴメンだ。誰がやるかあんなダサいポーズ」
「ポーズですか?《ポタラ》には必要ないはずですよね?」
《ポタラ》とは界王神が持つ宝石のことで一個人が持てるような代物ではありません。
「カリフラとケールがやったやつじゃねぇんだ。《ポタラ》とは違うもうひとつのとっておき技があるんだなぁ。それは《フュージョン》だ!」
「《フュージョン》?」
「そうだ。ただ《ポタラ》と違うのはポーズが必要になるその一点だけだ。そのポーズがダサくて俺はもうやらんがな」
師匠は〈惑星ベジータ〉の王子だから仕方ないのかもしれません。王子というプライドは下級戦士として育った悟空さんとは相容れない存在ですから。
短いですがこんな感じで書いていこうかと思っています。