流星のロックマンーいつもと少し違う夏休み   作:ヒザクラ

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夏休み二日前〜響ミソラの事情

《俺は反対だぞ。ミソラだけならまだしも、何でハープと一緒に一緒に暮らさなきゃなんねぇんだ》

《あら、良いじゃない。せっかく同じFM星人同士なんだもの。仲良くしましょ?》

《出来るわけねぇだろ! っつーか俺はAM星人だ!!》

「だから二人とも、喧嘩しないの!」

「あはは……」

 

 渇いた笑い声しか出ない星河スバルは思う。

 どうしてこうなってしまったのか、と。

 

ーーーー

 

 メテオG事件解決から既に一年が経過した。事件の爪痕はほぼ無くなり、スバルも身体の調子も元通りになり、今では元気に学校に通っている。奇跡的に生きていた暁シドウも順調に回復し、元気に仕事をこなしているとクィンティアやジャックから連絡があった。

 相変わらず電脳ウィルスがたまに沸いてくることもあるが、特に大事件が起こるという事もなく、ここ一年は平和に過ごしていた。

 そして、小学生にとって最高のイベントが近付きつつあった。

 夏休み。

 あと二日ほど学校に通うだけで、数週間の休日がやってくるありがたいイベントだ。宿題のことを考えると憂鬱だが、休みのためならば惜しくはないしそもそもきちんとやれば特に問題はないだろう。夏休み期間中は委員長こと白金ルナや牛島ゴン太、最小院キザマロと遊ぶ約束もしている。スバルも楽しみにしていた。

 ワクワクしながら放課後を迎え、スバルは校門を後にすると、ハンターVGから唐突に電子音が鳴り響いた。

 

《スバル。メールだ》

「誰から?」

《あー……響ミソラだってよ》

「え? ミソラちゃんから?」

 

 ハンターVGに入っているウィザードである宇宙人、相棒のウォーロックの言葉にスバルは首を傾げる。今は仕事の時間ではないのだろうかと疑問に思ったが、メールを無下に扱う訳にもいかない。すぐにメールを開く。

 

『急に連絡してゴメンね。今私、望遠鏡があるあの広場にいるんだ。スバル君も学校終わってところだよね? ちょっと相談事があるから、直接会って話せないかな?』

「相談事……なんだろう」

《行くのか?》

「もちろんだよ。困ってるなら助けないと」

《ククク……惚れた弱みってやつか?》

「そ、そんなんじゃないよ!」

 

 顔を真っ赤にして反論するが、それも笑いの種になっているのだろう。ウォーロックの含み笑いにスバルは口を尖らせて黙り通す。

 響ミソラは、国民的に有名なアイドルだ。知らない人はまずいないだろう。星河スバルを除いて。

 まだスバルが塞ぎ込んでいた時は、テレビには全く興味を示さなかった。ミソラと出会ってからは、なるべく彼女の新アルバム等は買うようにしている。ファンとかそういうことではなく、生まれて初めてできた友達だから、というのが理由だ。

 ミソラも出会った時は塞ぎ込んでおり、その心の隙をFM星人ハープが誘惑し、二人が合体ーー所謂電波変換をし、ハープ・ノートとなって一時事件を引き起こしたが、スバルとウォーロックもまた電波変換ができる存在であり、見事ハープ・ノートの暴走を止めることに成功。二人は和解し、そしてスバルにとって初めてのブラザーバンドを結んだのだ。

 境遇はほぼ一緒。スバルには母親がおり、父親も帰ってはきたが、それでも母親を失ったミソラの気持ちは充分にわかる。

 そして、彼女が困っていたら、すぐに助けようと心に決めたのだ。

 

「よし。広場に行こう」

《となると……ハープもいるよなぁ。俺はトンズラぶっこくか》

 

 言いつつハンターVGから出てくるウォーロック。その巨体はスバルの倍ほどもあり、見た目はまるで熊のようだ。青い身体に青い爪をギラリと輝かせ、背中からは電波なのだろうか、青白い炎のようなものが出ている。

 恐ろしい姿をしてはいるが、スバルは別段気にせずにハンターVGに触る。

 

「ダメだよ、ロック。以前と違って、もうロックの姿はみんなに見えてるんだから。忘れたの? 空中に化け物が現れたって、街のみんながパニックになったの」

《あぁー……んなこともあったなぁ》

「ほら、おとなしくハンターVGに戻る。ウィザードoff」

 

 スバルが呪文染みた言葉を言うと、ウォーロックの姿が消える。代わりに、ハンターVGの中に戻ったウォーロックは溜め息を吐いた。

 

《言っとくが、面倒ごとなら勘弁な》

「もー……ロックはハープの事になるとやる気無くすね」

《ったりめーだ。女は苦手なんだよ》

 

 一つ欠伸をする相棒を見てクスリと困ったように笑ったスバルは、急ぎ足で望遠鏡のある広場に向かった。

 

ーーーー

 

「ミソラちゃん、お待たせ!」

「スバル君! 来てくれてありがとう!」

 

 スバルは急ぎ気味だったためか、若干息が上がっていた。しかし、目の前にいる少女の笑顔を見て、そんな疲れも吹っ飛んでしまった。

 相変わらず自分のトレードマークにもなっているのか、クマをモチーフとしたフード付きの服に短パンを履いている姿だが、彼女は国民的アイドル。フードを被ってバレないようにしているつもりだろうが、モロバレである。

 すると、ミソラの隣にウィザードが現れる。ハープのような姿をしているが、目や口、他にも手になっているのだろうか、丸い物体がハープに付いている。持ち手の部分には白桃の電磁波が流出している。

 その不思議な存在である彼女もまた、ウォーロックと同じく宇宙人であり、ミソラのパートナーでもあるハープというFM星人だ。

 

《ポロロン……久しぶりね、スバルにウォーロック。一ヶ月前のライブ以来かしら?》

《ケッ。俺は別にそのままどっかに行っても良かったんだぜ、ハープ》

《相変わらずガサツねぇ。乙女心の一つや二つ、理解しようと思わないの?》

《言ってるだろうが。俺は女は苦手なんだ》

「はいはい、そこまで。ハープもロック君をいじめないの」

《はーい》

 

 間伸びした返事とクスクスと笑う姿には反省の色が全く見られず、そのままミソラのハンターVGに戻るハープに、ウォーロックは気に入らないとでも言うかのように鼻を鳴らした。

 

《相変わらず何考えてるかわかんねー奴だ……》

「あはは……ところでミソラちゃん。相談事っていうのは?」

「あー……うん。そうだね。まぁ、相談事っていうよりお願いしたいことって言った方が良いかな……?」

 

 バツが悪そうに言うミソラにスバルは真剣な表情になる。また事件でも起きたのではないだろうか。

 

「困り事ならなんでも言って。協力するよ」

「うん……ありがとう。まぁ、困ったって言えば困ってるかな……?」

《勿体ぶってねぇで、とっとと要件言えよ》

 

 随分と歯切れの悪いミソラに、ついにウォーロックが若干イライラしたのか本題を言うよう促す。たしかにいつものミソラらしくないなとはスバルも感じていた。

 

「えっと……最近ニュースとか見てる?」

「ニュース?」

《こいつは見てねぇぞ。最近新しい宇宙や星の本かって、飯食うのもそこそこに部屋に籠ってそればっか見てんだ》

「あー……簡単に想像できるね」

「僕そこまで酷い?!」

 

 ウォーロックとミソラの存外な扱いに、思わずスバルはツッコミを入れてしまう。

 スバルの父親である大吾を救ったとはいえ、スバルの宇宙や星に関する興味は全く尽きないのだ。下手をすれば周囲が見えなくなっているのではないかと、前に委員長こと白金ルナに叱られたこともあったが、まさかウォーロックやミソラにまでそんな扱いをされることに驚愕し、若干凹んでしまう。

 

「そんなスバル君に、これを見せてあげる」

 

 声自体は明るいが、表情が曇っているのが丸分かりだ。そんなに酷い状態なのかと思い、いよいよもってスバルは身構える。

 ミソラはハンターVGを操作し、とあるニュースの一面を立体化させてスバルに見せる。

 まず目についたのは写真だ。写っているのはミソラと見たこともない金髪のイケメン。仲睦まじそうに並ぶ姿にスバルは若干心が痛んだ。何故傷んだかは理解できなかったが、次に横にある文章を見て、その痛みは吹っ飛んだ。

 

『速報! あの城島雄二と響ミソラ、カップル疑惑?!』

「……あー……」

《んだこりゃ?》

 

 いつの間にか現れていたウォーロックは、文章を読んでも全くわからないようだ。スバルはこのどデカイ文章を読んだだけで全てを察した。

 

「……デマだよね?」

「当たり前でしょ!」

 

 唇を尖らせながら記事を消すミソラを見つつ、今の記事が間違いだという事実に少しだけホッとしたスバル。

 

「何で仕事の帰りにただ偶然一緒に帰っただけでこんなニュースが流れるの?! ホント酷い!」

《アイドルなんだから、ある程度は想定してたでしょ?》

「してたけど! してたけど、いざこういう変なニュースが流れちゃうと、誰でも怒っちゃうよ!」

 

 頬をまるでリスのように膨らませているミソラに、不覚にも可愛いと思ってしまったスバルはつい吹き出してしまった。そんな彼の態度が気に食わなかったのか、怒りの矛先がスバルに向いてしまう。

 

「何で笑ったの、スバル君?!」

「いや、リスみたいで可愛いなぁって」

「か、かわ……?!」

「でも、このニュース見ただけだと、何の相談かわかんないよ?」

 

 次に彼女が見せた表情は、何故か顔を赤らめ照れているように見える。しかし、百面相するミソラに気にもとめていないのか、すぐさま浮かんだ疑問をぶつける。

 ミソラは少しだけフードを深く被り、一度咳払いをしてからすぐにフードを脱いだ。

 

「ふぅ……それでね、今私の家にマスコミがたくさんいるんだ。身動き全然取れなくて」

《電波変換してなんとか事務所に行ったんだけど、そこにもマスコミが群がっててねぇ》

 

 補足するように言うハープに、スバルは改めてミソラの凄さを垣間見た。何故こんなにも人気があるアイドルが、ただの一般小学生とブラザーなのか疑問すら感じてしまう。

 

「それでね、事務所の社長とマネージャーから、ほとぼりが冷めるまで仕事はお休みだって言われて……で、でも、実家だと身動き取れないから……えっと……」

 

 悩んでいるのか、未だに結論を言うことが出来ず、顔を赤らめつつ再びフードを深めに被るミソラ。しかしスバルは大体の予想を立てていた。

 しばらく身を潜めるための場所が欲しいといったところだろう。なるべく人が来ないような、それでいてきちんと生活が出来るといった場所……すぐには思い付かないが、彼女はスバルにとって初めての友達。全力は尽くすつもりだ。

 そこまで考えた後、ミソラはついに意を決したのか、俯いていたまだ赤い顔を勢いよく上げ、スバルを見つつ口を開いた。

 

「し、しばらくスバル君の家に泊まらせてくだひゃい!!」

「…………………………………………え?」

 

 何て言われたのか瞬時に理解できず、およそ5秒程の長考を得て絞り出した声は、未だに理解出来ずに素っ頓狂な声を出してしまった。ミソラは噛んでしまったからか、はたまた大胆発言してしまった羞恥からか顔を真っ赤にしているが、スバルはそんなミソラの異変に気付くことはない。むしろ次第に理解し、スバルまでもが顔を真っ赤にしてしまった。

 

「え、えぇ?! ぼ、僕の家に泊まるの?!」

「う、うん。ダメ、かな……」

「だ、ダメっていうか……そもそも何で僕の家? てっきり静かな場所で生活にも困らない場所を探してほしいって言われるんじゃないかと……」

「だからスバル君の家なんだよ」

 

 ミソラの言葉にスバルは首を傾げる。

 

「コダマタウンだったらマスコミも追いかけてこないだろうし、静かな場所だし、生活にも困らない。けど住む場所が中々見つからなかったんだよ。ほとんどのマンションとかアパートに部屋が見つからないし、そもそも部屋が見つかっても大家さんとかにすぐバレそうだし……」

《で、一番信用できるスバルを頼ったって訳か》

 

 ウォーロックの補足にミソラは頷くが、ウォーロックは鼻を鳴らしつつ言葉を繋げる。

 

《俺は反対だぞ。ミソラだけならまだしも、何でハープと一緒に一緒に暮らさなきゃなんねぇんだ》

《あら、良いじゃない。せっかく同じFM星人同士なんだもの。仲良くしましょ?》

《出来るわけねぇだろ! っつーか俺はAM星人だ!!》

「だから二人とも、喧嘩しないの!」

「あはは……」

 

 スバルは渇いた笑いしか出てこないが、頭の中では必死に内容を整理していた。

 現在響ミソラは嘘のニュースに惑わされ、家や事務所にマスコミが待ち構えている状態だということだ。なので事実上の休止状態であり、騒ぎが落ち着くまでマスコミが来ない、かつ生活もできる場所を探している。そんな場所を探して、最終的に選んだのがスバルの家だということだ。

 正直言うと、マズイのではとも思う。両親がいるとはいえ、屋根の一つ下で年の近い少女と、しかも国民的アイドルと暮らすということだ。思春期真っ盛りとかそういう問題ではなく、まずファンにバレたら真っ先に社会的に消されそうでもある。

 暮らすなら白金ルナのところが良いのでは、とスバルは思ったが、最近ミソラとルナは時折何故か睨み合うことがあるため、もしかしたら仲が悪いのではないかと考えてしまう。もしそうなら、一緒に暮らしてしまうと何が起きてしまうのかわからない。ゴン太やキザマロはどうだろうかと考えるが、あの二人はミソラの大ファンだ。一緒に暮らすと懇願されれば、天に召される可能性も否定できない。

 ここまで考えて、スバルの家が確かに妥当だろう。両親は理解してくれるだろうし、なによりミソラは大切なブラザーだ。無下に扱う訳にはいかないだろう。

 それに、断れない理由がもう一つある。

 

「ロック。ミソラちゃんのお願い引き受けようよ」

《あぁ? お前は賛成なのかよ!》

「うん。それに良く考えてみなよ。一応父さんや母さんにも聞いてみるつもりだけど……ダメって言うと思う?」

《……》

 

 いつも騒がしいウォーロックが黙ってしまうほどに、スバルの両親は賛成の意を示すことは明白だった。むしろ「娘が出来たみたい」と嬉々として受け入れてくれるだろう。

 三体一という多数決のもと、敗北を喫したウォーロックはミソラのハンターVGに入っているハープに向かって指を差す。

 

《いいか、ハープ! 変な気ぃ起こすようなら、俺が直々にぶっ飛ばしてやるからなぁ!!》

《ガサツねぇ。そんな気は微塵も起きないから安心しなさい》

「……ということは、スバル君もロック君もオッケーっていうこと?」

「うん。一応父さんと母さんにも聞いてみるけど、多分喜んで泊まらせてくれると思うよ」

「……!! ありがとう!」

 

 最初こそオドオドしていたものの、宿泊に賛成のスバルの言葉を聞いたミソラは一瞬にして笑顔になり、思わずスバルの両手を掴んで感謝を述べる。急に女の子から手を掴まれ、スバルは顔を真っ赤にして照れ始める。

 

「み、ミソラちゃん……手……」

「え? もう、スバル君はウブだなぁ。これからしばらくお世話になるんだから、固いことは無しにしようよ!」

「えぇ……」

 

 国民的アイドルが一般の男子小学生に手を掴まれたという事実だけでファンから罵声を浴びせられそうだというのに、呑気に構えるミソラに若干呆れてしまった。

 しかしーー

 

「これからよろしくね、スバル君!」

「……うん、こちらこそ」

 

 笑顔で接するミソラに、スバルはこれから何が起きるんだろうと、少しワクワクしていた。

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