流星のロックマンーいつもと少し違う夏休み   作:ヒザクラ

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夏休み一日目ー宿題と感謝

 響ミソラは現在嘘のスキャンダルに翻弄されている身である。故あって一番安全なのは星河スバルの家だと考え、居候という形で事務所が事態を揉み消すまでの間、スバルの夏休み中まで匿ってもらうことにしたのだ。

 ブラザーでもある唯一信頼できる彼の側でなら、何事もなく終える事ができるだろう。

 というのが昨日までの考え方だった。

 現在スバルとミソラは、スバルの自室にてテーブルに向かい合って座っている。しかし特に会話することもなく、スバルは黙々とある事に専念していた。一方ミソラもそのある事に専念しなければならないのだが、いかんせん気が乗らない。せっかくの夏休み初日なのだから、最初くらいはスバルと遊びたいという想いもある。しかし、ミソラの心情を読み取れないスバルは黙々と作業を続けている。

 

「……ねぇ、スバル君」

「ダメだよ、ミソラちゃん。せめてお昼までやろうよ」

 

 優しい声色で言うが、少々圧のある言葉を紡ぐスバルだが、ミソラは遂に堪忍袋の尾が切れた。

 

「つまんないんだもん! 夏休みにこれがあるのは仕方ないよ?! でも最初くらいは遊ぼうよー!!」

「ミソラちゃん、今隠れてなきゃいけないっていう状況なのわかってるよね……? それに仕方ないよ。宿題やらないと委員長に怒られちゃうよ」

 

 スバルの言葉にミソラは「うっ」と言葉を詰まらせ、渋々と宿題を終わらせるためにペンを手に取る。

 そう、現在二人は夏休み初日であるにも関わらず宿題をしているのだ。いや、真っ当な学生ならば初日から宿題をやっても何も問題はないのだが、ミソラ達はまだまだ遊び盛りの小学生。いくら隠れていなければいけないアイドルであっても、スバルと遊ぶのをワクワクしていたのだ。

 しかし、そんな(浅い)計画も虚しく、朝早くからスバルのハンターVGにルナから電話が来たのだ。内容は、ルナ達が帰ってくるまでの間に宿題をある程度終わらせるというものだ。当然、ミソラを含む五人の誰かが全く進んでいなければ、遊びは延長して宿題会を開催すると、ルナの脅しにも似た提案を出したのだ。

 スバルは快くOKを出した。生真面目な彼のことだ。宿題そのものをやる事には賛成なのだろう。今はこうやって宿題会を開かせる訳にもいかないのだろうが、それ以上に友人と遊ぶのも大切にしたいと思っているが故に、宿題を積極的にやっておこうということだろう。

 それについてはミソラも賛成だ。賛成なのだが……今現在、このスバルの部屋には二人しかいない。ウォーロックとハープは、何故かウォーロックがハープの弦に縛り付けられながら屋根の方へと消えていった。なので実質二人きりなのだ。にも関わらず、スバルはミソラを気にする様子もなく黙々と宿題を進めている。

 

(少しくらい意識してもいいのに……)

 

 ミソラはリスのように頬を膨らませながらスバルを睨みつけるが、気付く様子は無い。

 ミソラは溜め息を吐いて、宿題へと視線を落とす。

 スバルの鈍感さは嫌でも実感している。まるでアニメや漫画の主人公のごとく、こちらからアピールしても気付かない程だ。なので今の立場を利用し、スバルと一緒にどこかに遊びつつアピールをしようと考えていたまでは良いのだが、ルナのおかげでその作戦も水の泡と消えた。

 ミソラは半分ヤケになり、いっそのこと宿題を終わらせて皆と遊ぶ際にそれとなくアピールしようと考え、ペンを走らせた。

 そもそも宿題があるのも問題があるのではないか。自分はアイドルという多忙な立場でもあるのに、教師達は無遠慮に宿題を出してくる。将来はアイドルかスバルの嫁になると決めているのだから、宿題なんてなくてもやっていけるというのに。

 そんな自暴自棄に陥りつつある時だった。

 

「明日はどこかに行こうか」

「……へ?」

 

 素っ頓狂な声を出してしまい恥ずかしくなってしまうが、今はそんな事はどうでもいい。ミソラは顔を上げてスバルを見ると、彼は優しげに微笑んでいた。

 

「家に籠ってばかりじゃダメだからね。たまには外に出ないと」

「……良いの?」

「うん。ただし、ちゃんと変装すること。良い?」

 

 スバルは少しだけ渋めの顔をしつつミソラにクギを刺す。ただ、そんな事は些細な問題だ。

 あの唐変木なスバルから誘われただけで、こんなにも嬉しくなってしまっているのだから。体の奥底から力のようなものが湧き出てくる。それほどまでの影響力が確かに存在するかのように。

 ミソラは次第に笑顔になる。

 

「うん! 約束だよ!」

「うん、約束。だから、もう少しだけ宿題、進めようね」

「もち! よし、頑張るぞー!!」

 

 先ほどまでの憂鬱な時間が嘘のように消え、ペンを走らせるスピードは格段に上がっていた。

 宿題をやりつつ考える。明日は何を着て行こうか。どこへ行こうか。いや、彼と一緒なら何処だって楽しいに決まってる。昼食は少し洒落た店でも良いかもしれない。大胆にも彼の腕を抱いて街を闊歩しようか。一体どんな反応をするだろうか。

 次々と浮かんでくるプランに、ミソラは常に笑顔で宿題を進めていた。

 

ーーーー

 

「いっただっきまーす!」

「いただきます」

「はい、召し上がれ」

 

 現在の時刻は既に18時を回っていた。母親であるあかねが用事から帰宅し、晩御飯をすぐに用意してくれた。ウォーロックとハープはいつの間にかハンターVGに戻っていた。

 スバルは控えめに、ミソラは元気良く両手を揃えてご飯とあかねに感謝の意を込めて声を出し、特製のハンバーグを食す。

 

「ん〜! 美味しいです!」

「あら、ありがとう。おかわりもあるから、ドンドン食べてね?」

「ありがとうございます! あ、今度このハンバーグの作り方教えてください!」

「もちろん良いわよ! 好きな子に食べさせたいわよね?」

「え……あ、いや……その……」

 

 思わぬ攻撃にミソラは頬を赤らめつつスバルを見るが、肝心のスバルはウォーロックが冗談を言っているらしく、軽く口論していたため聞いていないようだ。安心したような聞いてほしかったような、そんな複雑な心境にミソラは陥った。

 

「……お約束すぎる……」

「ん? ミソラちゃん、何か言った?」

「スバルはもう少し乙女心を勉強しなさい」

「それって勉強できるものなの?!」

 

 ミソラはわざと不機嫌そうな顔をしつつハンバーグを頬張る。とにかく柔らかく、なのに肉汁がたっぷり染み込んであり、ソースとの相性も抜群だ。自分も何度か作ったことはあるのだが、あかねのように柔らかく仕上げる事ができなかった。どんなコツがあるのだろうと、今からワクワクしている。

 ちなみにスバルは不機嫌顔のミソラに少々たじろいでいた。

 

「で、明日はミソラちゃんと出掛けるんでしょ?」

「う、うん。夕飯までには帰るよ」

「ええ、楽しんでらっしゃい」

「うん。それで母さん。ミソラちゃんに服とかない? 普通の服だとバレちゃうから」

 

 現在ミソラが持っている服は計4着程だ。急いでいたというのもあったので、最低限の物しか持ってきていないのだ。そのどの服もテレビ等でも頻繁に使う物ばかりなので、その状態で街を歩けば即バレるだろうとスバルは推測したのだろう。

 しかし、ミソラはキョトンとした表情でスバルを見る。

 

「今ある服で誤魔化せば大丈夫じゃない? 意外とバレないよ?」

「一回コダマタウンでパニックになりかけたでしょ」

「……テヘッ♪」

 

 200年ほど前に流行ったと言われている『テヘペロ』を可愛らしく表現したが、かえってスバルを悩ませてしまう羽目になった。

 スバルは溜め息を吐きつつ、

 

「ミソラちゃん、もう少し有名人っていう自覚を持った方が……」

《無駄よ、スバル君。この子、意外とズボラだから》

「あー……」

「納得しちゃった?!」

 

 ハープの言葉に同意するスバルに少しだけショックを感じるが、実際その通り(かもしれない)なので反論の余地もなかった。

 そんな漫才もどきをしていると、あかねがクスクスと微笑んでいたのにミソラが気づくと、恥ずかしさが勝ってしまい、いそいそと頬を赤らめつつご飯を口に運ぶ。

 

「本当に仲がいいのね、二人とも」

「ぶ、ブラザーですから!」

「そういうことにしておくわ」

 

 意味ありげに微笑むあかねを見て思う。この人には敵わないと。

 

「そうね……確かにミソラちゃんの持ってる服少なかったし、母さんが一つ見繕ってあげるわ」

「え……そんな、悪いですよ」

「良いのよ。ここにいる間だけ、私を……私と大吾さんの事を本当の親だと思ってくれれば」

 

 言いながら優しく微笑むあかねの姿を、ミソラは自分の母親と重ねた。

 病気で寝込みがちな母親だったが、それでも優しく微笑みながら歌を聴いてくれていた。絶対に忘れてはいけない記憶だ。

 ミソラは食事の手を止め、顔を伏せる。そうしないと、涙目になっている姿を見せてしまうからだ。

 

(……ママ)

 

 今は亡き母の思い出が蘇ってしまう。ここ最近は忙しく、ホームシックになるような事はなかったのだが、スバルやあかねの前ではどうしても弱くなってしまうようだ。

 今スバル達がどんな表情をしているのかわからない。ただ、スバルも食事の手を止めていることだけはわかる。

 静寂が辺りを包むが、不意にミソラの手に温かい何かに包み込まれた。

 

「私ね、ミソラちゃんに言おうと思っていた事があるの」

「えっ……」

 

 思わず顔を上げてしまったが、自分がまだ涙目であることに気付く。急いで顔を伏せようと思ったが、あかねの優しげで、しかし寂しげな表情を見て、顔を伏せるのを止めた。

 

「スバルの初めてのブラザーになってくれて……友達になってくれてありがとう」

 

 あかねの言葉に、ミソラは少し目を丸くする。

 

「大吾さんがいなくなってしまったあの日から、スバルも私も時間が止まったみたいに同じ日々を過ごしてた……スバルなんて、学校行くのを怖がってずっと休んでた。お昼は家で本を読んでて、夜には展望台に行って星空を見上げてた……3年間も毎日欠かさず……空を見上げてたら、父さんが見つかるかもしれないって」

「……」

「でも去年、スバルに少しずつだけど変化していることに気付いたのよ」

「そ、そうなの?」

「当たり前よ。私はスバルの母親なのよ?」

 

 スバルの疑問に、あかねは微笑みながら答える。

 

「そして、スバルに初めてブラザーが出来たって聞いて……私、とっても嬉しかった」

「……」

 

 ミソラは、ただ無言であかねの話を聞いていた。

 

「それからよ。あの子が学校に行くって言い出したのは……そこで私はようやく気付いたの……ああ、やっと私達の時間が動き出したんだって」

 

 あかねは一雫の涙お零しながら、ミソラの目を見つめていた。

 

「だから、感謝しなくちゃって。きっかけをくれた貴方に、ありがとうって」

「……私だけじゃありませんよ。ルナちゃんやゴン太君、キザマロ君だって……」

「そうだとしても、きっかけをくれた一人には違いないわ。だから……」

 

 あかねは少しだけ言葉に溜めを作り、口を開く。

 

「ありがとう……本当にありがとう、ミソラちゃん」

 

 あかねは大粒の涙を流しつつ、感謝の意をミソラに伝えた。

 とても辛かった3年間だったのだろうと、ミソラは思う。父親が行方不明になり、スバルもあかねも辛い毎日を過ごしてきたのも、想像ができる。それはおそらく、ミソラも母を亡くし、母に聴かせるための歌を金儲けの道具として扱われ、絶望していた毎日を送ってきた自分のように。

 今は大吾も無事帰ってきた。その時点でスバルとミソラの似たような境遇は無くなったようなものだが、それでもミソラはスバルによって救われたのだ。感謝しなくてはならないのは自分の方だと言うのに。

 だからこそ、ミソラは空いている手をあかねの手に被せる。

 

「私も……感謝の言葉を送らせてください」

「ミソラちゃん……?」

「私も、スバル君がいなかったら、今ここに私はいなかったと思います。どこか遠く離れた場所で、ただママに聴かせるためだけに歌を送っていたと思います。けど、今は違う。私は色んな人を笑顔にするために、歌いたい。そんな夢を作るきっかけをくれたのが、スバル君です」

 

 ミソラも涙を流しつつ、力強く、しかし優しくあかねの手を握る。

 

「スバル君を生んでくれて、出会わせてくれて、本当にありがとうございます……」

「ミソラちゃん……」

 

 お互いに涙を流しつつ微笑み合う。いつの間にかホームシックはどこかへと消えてしまった。今は、ただあかねの気持ちを受け止めたいという一心しかなかった。それでも、今この瞬間は、とても心地良いと感じていた。

 

《……湿っぽいな、ったく》

「でも、ミソラちゃんらしいよ」

《へっ、そうかよ……》

 

 スバルとウォーロックの会話が聞こえ、あかねはティッシュで自分の涙を拭いたあと、ミソラの涙も拭いてあげた。

 

「さて! 明日は二人共出掛けるんでしょう? ご飯食べて、お風呂入ったらすぐに寝なさい」

「うん、わかったよ」

「はーい! あ、でもハンバーグのお代わり良いですか?」

「もちろんよ! 子供なんだから、たくさん食べなさい。スバルはお代わりは?」

「それじゃあ、僕も!」

「はいはい。うふふ……」

 

 先ほどまでの湿っぽい空気が嘘のように無くなり、楽しげな会話がスバル宅に響いていた。

 同時に、明日はスバルとどんな一日になるのか、ミソラはワクワクしながらも、少し緊張していた。

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