大魔王inヒーロー学校   作:ソウクイ

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大魔王に即死は効かないですよね


第11話

黒い霧に何処かの施設に飛ばされたバーンさま…それとヒッソリと葉隠もいた。飛ばされたバーンさま達はヴィランに囲まれた。

 

数分後…バーン様達を囲っていたヴィラン達が全員縛られて寝転がっていた。即落ち2コマという光景か。

 

「よ、よしこれで良いよね?い、行こう!」

 

空中で動く手袋。手袋だけなのに元気な娘とわかる葉隠、彼女の後ろを歩くバーン様は思う。縛った彼等は放置でいいんだろうか?助けて欲しいと言われたのに、ナゼか葉隠が死にたくなかったらとか言い出して縛ることになった。

 

因みにバーンさまは…未だに訓練と認識して相手が本物のヴィランだと思っておられない。助けを願う彼等の何処を見てヴィランだと思えるだろうか。本気で助けて欲しいと願ってるように見えた。演技には見えなかった。

 

これは訓練なんだろう。

 

昨日の混乱を思い出せば緊急時にどう対応するのかは大事だろう。人を個性で攻撃するという危険な模擬戦もぶっつけ本番でやった雄英……偽物のヴィランを用意しての訓練はやりそうだ。

 

まぁ訓練としても本物のヴィランとしても、どちらにしても本当にヴィランに襲撃されたという前提でどう行動するか。

 

考えた結果、脱出する事にした。

 

正当防衛は良くても自分からヴィランと戦いに行くのはダメだろう。ヴィランとの交戦をなるべく避け、外に出て救援を呼ぶというのが正解だと判断した。とても真っ当な判断をした。

 

「そ、そうだね……脱出して応援呼ぶのが正解だよね…なんだよね…」

 

葉隠も同意したので、向かうのは初めに来た正面入り口。もしもバーンさまが本当に本物のヴィランと判断していれば、出入り口を無視して一番近くの外壁を破壊して最短距離で外に出ただろう。

        

ふとバーンさまは考える。

 

バーンさまは訓練をしていると思っているがふと思った。もしこれが万一訓練でなく本物のヴィランによる襲撃だとしたらどうだろうか。昨日の、昼食時の騒ぎがタイミング的にヴィランと関係してないとは思えない。

 

思い出せばオールマイトが居ないのが可笑しいみたいな事を手を付けた男が言っていた。知っていたなら今回の襲撃の前にヴィランはオールマイトが出る授業の情報を事前に入手している事になる。どうやってその情報を入手してきたと考えれば、内部犯からの内通もあり得るがそれを隠すためのブラフで無ければ先日のマスコミ騒動の時が怪しくなる。

 

もし答えが正解なら…

 

 

各施設に飛ばされたバーン様や生徒が向かうUSJ入り口中央階段。中央に来ていた多数のヴィランが倒れていた。一人でヴィランの集団の中に突撃した相澤が倒したのだ。

 

相澤の実力の高さもあるが幾ら数が多くても生徒でも倒せる程度の相手しか居なかった事も大きい。雑魚といっていいチンピラが殆んど構成員なヴィラン連合、プロヒーローの教師どころか生徒すら倒せない戦力……目的はオールマイトの抹殺、…しかし…それが妄言でなく本当に可能と言える手札がヴィラン連合には存在した。

 

 

『脳無』

 

 

相澤は絶対絶命のピンチを迎えていた。

 

 

 

 

「ぐうぅ!」

 

中央階段では相澤は激痛に苛まれる体を動かし戦闘を続ける。

 

「ーー」

 

相澤が戦っているのはヴィラン連合の最大戦力。他の人員と比べれば小さな子供の遊びに大人が混ざってきた様な場違いな強さ。

 

脳を剥き出しにした異常と思える生き物。意思を感じない目、機械か何かのようにただ淡々と苛烈に相澤に攻撃を続けている…相澤はまるで恐ろしく強い人形と戦わされてる様な気分にさせられた。

 

相澤の力は視線さえ向ければ相手の能力を封じるという厄介極まりない個性。個性に由来した肉体の強さまでは封じられないが、この個性社会では上位に位置する個性と言ってもいい。

 

ただ相澤の力は封じる力でありそれを抜けば鍛えただけの人間。並みのヴィランでは束になっても勝てない強さを発揮するが、鍛えて恐竜に勝てるのかという話だ。

 

脳無は単純な肉体の強さだけで戦い相澤の個性が意味を成さない。脳無を相手には肉体のスペックが技術、経験で埋められる差じゃない。肉体のダメージだけが一方的に刻まれていく。ドンドンと相澤だけ動きが鈍り、相澤に勝機は欠片もなかった。

 

しかし

 

「いい加減に倒れろよ。イレイザーヘッド」

 

手をアクセサリーにしたヴィラン、死柄木が相澤に不満を漏らす。相澤は生徒が散らされた後に脳無の襲撃を受け、それからの相澤はただ手も足も出せず逃げ回っている。最初はそれを無様と笑ったが………長くなると笑えなくもなる。

 

例えれば、寝るときに現れて叩き潰せない蚊、ゲームで言えば低レベルの一撃で倒せる敵に連続で回避をされる。その内倒せるにしても無駄な抵抗に苛々が募った。

 

逃げるのが手一杯の相澤に勝ち目がない。そんな勝ち目のない戦いで相澤の顔は笑っていた。

 

「鬱陶しい。サンドバッグにされてその顔はなんだよ。殴られ過ぎて頭が可笑しくなってるのか?殴られるのが嬉しいドMの変態か?それともなにか?……ヒーローらしく勝てる大逆転の策でもあるのか」

 

死柄木は脳無に勝てる手段なんて無いと思うが、相澤の笑みに僅かに警戒もさせられた。

 

別に相澤の頭は可笑しくなってない。だからと言って勝てる作戦もない。ただの時間稼ぎ。元から単独で突撃してから相澤がやることはそれだけ、その身を盾に足止めをする事。なら相澤の浮かべる笑みは、別に相手を挑発するためのハッタリか虚勢かと言うと、そう言うわけでもない。相澤は六年前、いや七年前か、まだ若手の頃に無意味に死にかけ大きな挫折を味わった。少しづつ築き上げてきたヒーローとしての自信を一時は失った。

 

だがヒーローとは挫折すれば再び立ち上がれる者だ。折れたままの人をヒーローとは言わない。挫折が大きいほどより強くなって立ち上がるモノがヒーローだ。

 

つい最近七年前の挫折を嫌でも思い出せる生徒がやってきた。七年前と今の相手、圧倒的な強敵である事しか共通点はない。それでも相澤は脳無を相手にリベンジを果たせている気がした。

 

まだ立って戦えているだけで上等!あの時の様に無意味な雑草の様に無様に潰されてない!

 

もう相澤はボロボロの満身創痍。全身から血が垂れ骨が幾つ折れてるのか判らない。過言でなく死に体だがその目は、その立ち姿は、その笑う顔は、弱っているなんて思わせない力強さを感じさせる。七年間の挫折から折れずにヒーローを続けた相澤は今も立っていた。

 

まさに相澤はヒーロー。ヒーロー嫌いなヴィランにとってとても苛々とさせられ許せない姿だ。

 

「はぁ、もういい。メインディッシュも居るんだ。黒霧、しぶといだけの虫は脳無とオレ、黒霧の三人で速攻で潰しちまおう」

 

「わかりました死柄木」

 

黒いモヤ、黒霧は手首をアクセサリーにした男、死柄木に頷いた。明らかに他の三下ヴィランと違う二人が動く。相澤に更なる危機が迫る。

 

それでも相澤は笑う。確実に死ぬ。それがどうしたと思う。相澤には動揺も悲観もない。生徒の一人が逃げたという発言から考えてあと少しで救援は来る。もし此処で自分が死んだとしても、あと少し時間を稼げば自分が死んでも生徒は助かり自分たちが勝つと信じられた。

 

ボロボロな相澤が勝者の顔をし無傷な死柄木が悔しそうな顔をしている。勝者と敗者はどちらだろうか。しかし相澤に誤算があった。

 

守るべき生徒もまたヒーローを目指す存在だと言うことだ。

 

「相澤先生!!援護します!」

 

「潰れろや!」

 

「先生大丈夫ですか!?」

 

爆豪が問答無用で黒霧を爆破し尾白などが相澤の前に立つ。誰かのピンチ、それを見てヒーローを目指す者が動かない訳がない。相澤が時間稼ぎをしてる内に各所に散らされた生徒の何人かが戻り、戻ってきた彼等全員が相澤を助けようと動いた。弱冠一名怪しいが。

 

「あーあ戻ってきたのかよ。雄英の生徒はスゴいな。ヴィラン連合情けないな」

 

相澤はギリギリで助かった。

 

「な!お前ら避難してろ!」

 

だが相澤本人が良かったと感じてない

 

さっきほどまでどんなにボロボロでも消さなかった相澤が笑顔を消している。苦い顔を見せていた。脳が出たヴィランは生徒にどうにかなる相手じゃない。リーダーと思える手のヴィランも崩れた肘を見ると危険な相手だ。相澤は此のままだと生徒が死んでしまうと思った。自身が死ぬ覚悟はあっても生徒を死なす覚悟なんて持てるわけがない。

 

そしてヒーローの苦しみに喜ぶのがヴィラン、生徒が死なずに帰ってきた事に不快感を感じていたが、相澤のようやく見せた苦しそうな顔に機嫌を良くした。

 

「おいおい先生なのに可愛い生徒が助けに来てくれて喜ばないのかイレイザーヘッド。教師なら教え子の助けに喜べよ。あぁ喜べないか。だって……」

 

「やめろ!俺が相手だろ!!」

 

その先を察した相澤の制止の叫び。

 

「いやだ。やめない。脳無命令変更だ、死に損ないの前で生徒を潰してや………」  

 

笑いながら指示を出そうとして止まった死柄木。

 

「……なんだ」

 

何かを感じ慌てて視線を何かを感じた方向に向けた。

 

誰か来る。

 

「あ、あれは」

 

歩いてきたのは長身長髪の黒い服を着た大きな角の生えた誰か。死柄木だけでなく、その場にいたヒーローもヴィランも全員が視線を向けている。男は死柄木の元に向かっている。自分に向かってくる相手に死柄木は声をつまらせた。

 

死柄木はこの雄英の施設に来た時から息苦しさを感じていた。心が大音響の警鐘を鳴らしていた。しかし死柄木は大仕事に緊張でもしていたのだと自分を納得させてしまった。

だが目の前にして理解するしかない。息苦しさと警鐘の正体はコイツだったと。自分の格上と相対した時にある息苦しさ、死柄木の元に向かってきている。だれも動かない。何の妨害も受けず男は死柄木の近くまで歩いてきた。

 

「なんだよお前は」

 

死柄木は明らかに怯んでいた。

周りを見回して無傷の生徒と大ケガを負った相澤を見て何かを考えた。

 

「……昨日、雄英の校門で起きた騒ぎに覚えはあるか?」

 

死柄木に向けられた質問。一つ一つの文字が脳に直接入り込むような、体を縛る重石のような。聞いてる側が重圧を感じてしまう声だった。返答を間違えれば危険だと思わされた。

 

死柄木は口を開いた。

 

「雄英の門ね…あぁあれか、あの門は俺が壊したんだよ。ちょっと今日のスケジュール貰うのに騒ぎを起こしたんだ。はは、あんな簡単に入り込めると思わなかったな」

 

死柄木はプライドから素直に答える事を拒絶しようかと考えたが、雄英の無能さを吹聴するのだと考え直し正直に話すことにした。答えても特に不利益が有るとも思えなかった。

 

前提として致命的な”誤認”があった。

極自然と相手が“同じヴィラン”と言う認識…

 

「そうか……」

 

その一言から怒りを感じ体が震えた。

ただの怒りの圧力から感じたのは『死』

死柄木の生存本能が働いた。

腕だけがまるで別の生き物の様に動いた。

 

死柄木は両手で相手の腕を掴んだ。死柄木の個性である『崩壊』を発動させる条件は整った。死柄木は笑った。

 

「じゃあな」

 

個性が発動した感覚はあった。

なのになんでだ

 

「…は?」

 

死柄木は間抜けな声を出した。

 

死柄木の個性は全部壊してきた。これまで敵も知り合いも家族も例外なく全て壊れて消えていった。それなのに……

 

木の折れたようなバキッという音がした。死柄木は最初は何の音かわからなかったが、視線を落とし自身の関節とは違った場所で垂直に落ちた腕を見て理解した。灼熱の痛みがきた。

 

「!!!!??」

 

「死柄木!!」

 

焦ったこえ、黒い服の男の腕を掴んでいた死柄木の腕は折れていた。痛みに呻く死柄木。それを見て相手は腕を近付けてきた。死柄木は攻撃が来ると覚悟した。

 

『ホイミ』

 

嘘のように痛みが引いた。

折れていた腕が…正常に戻っていた。

折った本人に治療された。

何で治したのか理解できない。

理解できないことは恐怖となった

 

死柄木は叫んだ。 

 

「の、脳無やれ!!」 

 

何か大きなモノが飛んできた。黒い服の男は死柄木から離れ後方に下がる。そして爆発した。黒い服のいた場所にできたクレーター。土煙のまだ立ち上るクレーターから出てきた脳を剥き出しにした生き物、対オールマイト用ヴィラン脳無。脳無と黒い服の男、バーンさまは相対する。睨みあう両者。

 

雄英襲撃事件、最大の戦いが始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

念のためにいうが、ヴィランVSヴィランでなくヴィランVS初々しいヒーローの卵。ヒーローが蚊帳の外とか思ったなら勘違いだ。

 

 

 

 


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