「以上です!!」
織斑一夏が自己紹介を終えた瞬間、教室中の女子生徒が崩れ落ちた。 それも仕方ないだろう、散々気を持たせたあげく、名前を言った以外は何も言わずに終わったのだから。 そしてそれらを見ていた千冬は頭痛を堪えながら静かに元凶となった自分の弟、一夏の背後に迫り右手に持っていた出席簿を振り下ろす。
ズバァーーーーーン!
「いっ?! 痛ってーーーー!!!。」
「馬鹿者!! 自己紹介くらいまともに出来んのか!」
「げっ?! 織田ノブナガ!!」
「誰が赤毛の戦国乙女だ!!」
ズバァーーーーーン!!
「痛ってーーーー!!!!!」
「全く、高校生にもなってなんたる様だ!」
「で、でも千冬姉!」
ズバァーーーーーン!!!
「織斑先生だ!!! 公私混同するな!」
「$ヰ£%Å&£∂!!!!」
三度振り下ろされた出席簿により声にならない叫びをあげて机に臥せる一夏。千冬はそんな一夏を尻目に教壇にむかい。
「すいません山田先生、SHRを任せてしまいまして。」
「いえ、お気になさらずに織斑先生。それで彼は?」
「もう来てます。」
千冬はそう言うとクラスを見渡し
「さて、今更ながら自己紹介の必要も無いと思うが言わせてもらう。私がこのクラスの担当教師、織斑千冬だ。今日から1年に渡り、君たちにISの知識と技術、そして心構えを教えていく。確りと心して授業を受けてくれ!」
「キャアァァァァァーー!!!!」
「ち、千冬様よ! 本物の千冬様よ!!」
「感激ですわ、千冬様の教えを受ける事が出来るなんて!」
「私、千冬様に会うために青森から来ました。」
「私は鹿児島から来ました!!」
「喧しい、騒ぐな!! これ以上騒げば退学させるぞ!!」
千冬の言葉に一瞬にして騒ぎが収まる。
「全く毎年毎年、学園はこんな奴らを私のクラスにまわして・・・ともかく、先程言った通り私の役目は君達にISの事を教える事だ。 先程私に会うためとか、言っていたが、その様な考えを持っている者は直ぐに立ち去れ!! ここはISについて学ぶ場所で私との面会場所ではない!」
千冬の言葉にクラスの女子生徒達の顔が強張る。
「さて、SHRの時間も残り少ないので自己紹介は各自でするように。それからもう1つ、このクラスにはもう一人加わる事になった。所々の事情により入学式には間に合わず先程着いたばかりだ。 真道、入れ!」
千冬の声に答えるように教室のドアが開き、一人のの青年・・・トモルが入室する。 そしてトモルはそのまま千冬の横まで進み生徒達の方に顔を向けると
「みなさん遅れて申し訳ありません。国の適性検査で発見された二人目の男性装着者の真道トモルです。みなさんより年上になりますが、どうぞよろしくお願いします。」
そう言うとトモルは頭を下げる。 その瞬間
「キャァァァァァーーーー!!」
「ふ、二人目よ。二人目!!」
「織斑君と違って、知的雰囲気を醸し出すイケメンお兄さんよ!」
「このクラスになって良かった!」
「騒ぐな馬鹿者共!!」
千冬の一喝で騒ぎは修まる。
「ちなみに真道は既に高校卒業資格を有しているので、一般科目は免除となっている。その辺りは覚えているように。 真道の席は窓側の一番後ろだ。」
千冬の言葉にトモルは自分の席に向かっていく。
SHR後の休憩、トモルの元に一夏が近づいてきた。
「よお、俺は織斑一夏だ。一夏と呼んでくれよトモル。」
あまりの馴れ馴れしさにトモルは眉を潜めて
「先程も自己紹介させて貰ったが、真道トモルだ。ただ織斑君、君とは初対面で俺は年上にあたる。初対面の年上の人物に対してあまりにも礼節を欠いていないかい? ましてや下の名前で呼び捨てなんて。」
あまり煩く言いたくなかったのだが、只でさえ望まぬ高校生活の初っぱなから、その原因を作った人物の言葉にトモルは少し苛ついてしまった。
「俺さ、硬っ苦しいのは苦手なんだよ。それに別にいいじゃないか学園でたった二人の男性なんだし、それに俺たち友達だろ?」
あまりにも馴れ馴れしい物言いにトモルの苛つきが増していく。
「悪いが、君と友達になったつもりはない。もし、友人になりたければ礼を学んでから、最初からやり直せ。」
「なんだよ! そんな事言うなよ、たった二人の男性なんだし仲良、イテッ! 何だよ! って箒?」
トモルの言葉にイラつきをみせトモルに食って掛かろうとすると背後から一人の女子生徒が近づいて一夏の頭を叩く。 一夏が女子生徒を箒と名前で呼んだ事から知り合いらしい。
「全く何をしているんだ一夏、目上の人に対する言葉使いがなっていないぞ。」
「でもさ箒、俺は「でももへったくれも無い!」 なっ?!」
一夏の反論を遮る箒。
「全く、剣道をしているなら目上の人に対しての礼節の必要性を理解しているはずだろう?」
「いや、俺は「グダグタ抜かすな!」」
「全く言い訳ばかりして。それではあらためまして真道さん、私は篠ノ之箒と申します。礼節を弁えない一夏にかわりお詫び申しあげます。誠に失礼いたしました。」
あまりにも古風なしゃべり方にトモルは苦笑しつつ
「此方こそよろしく篠ノ之さん。それから篠ノ之さんが謝る必要はないよ、悪いのは織斑君であって篠ノ之さんでは無いんだからね。」
まだ何かを言おうとする二人だったが、予鈴が鳴り席に戻る事になった。
一時間目の授業が始まった。 内容はIS理論だが、入学前に渡された参考書を読んで予習していれば簡単にわかる内容だ。
だが、トモルの前の方の席に座る一夏は周囲を見回したり何かに怯えるように震えており挙動不審だ。
授業を進める山田真耶は突然入学が決まった一夏とトモルを気にして
「織斑君、真道君、これ迄の所でわからない場所はありますか?」
「今の段階は最初の方なので全く問題ありません。」
トモルの答えにに一夏は信じられないという顔をしてトモルを見る。
「えっ?! いや、トモル嘘は良くないぞ! お前わかって無いだろ!」
一夏が突然、失礼な事を言ってくる。
「織斑君、先程も言った通り、下の名前で呼び捨てにしないでくれ。それから俺は嘘なんてついて無い。俺はエディフィにIS開発関係で就職が決まっていたんだ。最低限の知識は勉強した。そもそも入学前に渡された参考書を読んでいれば解る内容だぞ。」
「えっ?!参考書?」
「ちょっと待て織斑、お前は入学前に渡された参考書はどうした?」
教室の後ろで授業を見ていた千冬が、一夏の席まで近づいて机の上に参考書がのっていない事に気づいて問いかける。
「えっと、あのとんでもなく分厚いやつですか?」
「そうだ、入学の手引き、制服と一緒に渡されたはずだ。」
「えっと、その・・・・・・・・あの・・・・タ、タウンページと間違えて捨てました!」
「なっ?! この馬鹿者!! す、捨てただと!! や、山田先生、直ぐに回収の連絡を!」
「は、はい!」
一夏の答えに慌てて真耶に回収を命じる千冬。事態が飲み込めない一夏。 いや、一夏以外にも大半のクラスメイトはわかっていなかった。
「織斑君、IS学園の参考書というのは一般には出回っていません。 何故なら部分的とはいえ機密指定されている内容が記載されており、外部の人間への閲覧が制限されているからです。」
トモルの話に一夏の顔色が変わる。
「ともかく織斑、今日の放課後までに再発行しておくので、今週中に予習しておけ。来週の月曜日にお前にだけ特別にテストするからな。 それから真道、織斑に絶対助力するなよ。今回の一件は織斑の自業自得、自分の力だけで解決させるのでな。」
「わかりました織斑先生。」
トモルは千冬の言葉を了承した。 この時点でトモルは気づいていた、千冬はトモルには手を貸すなと言っていたが他のクラスメイトには言っていない事に。 最も当の一夏は全く気づいていないようだったが。
「ト、トモル!助けてくれ! 俺に勉強を教えてくれ!」
「織斑君、君は何回言えば覚えるのかな下の名前で呼び捨てにするなと!」
「そんな事、どうだっていいだろ!ともかく助けてくれ! このままじゃ千冬姉にどやされてしまう!」
「はぁー、それも先程、織斑先生に言われていただろう!俺は君に助力することを禁止された。生憎と織斑先生に逆らってまで君に力を貸す所以は無い。」
「そ、そんな事言わずに頼むよ。黙っていればわかんないだし!」
「何度言ってもダメなものはダメだ!」
いい加減トモルは、一夏のこの図々しさに嫌気がさしていた。そこに
「少々宜しいでしょうか?」
声がした方を向くと金髪をロール状にセットした女子生徒がいた。
「はぁ?」
「はい、どういった御用件でしょうか?」
確りと対応したトモルと無愛想な一夏の返事、女子生徒は一夏の対応に少々眉をひそめながら
「お話し中に申し訳ありません。私はイギリスの代表候補生序列第3位を勤めますセシリア・オルコットと申します。先程の休憩中にご挨拶が出来なかったので遅ればせながら御伺いいたしました。」
「それはどうも御丁寧に。では此方もあらためて自己紹介を、俺は真道トモルです。二人目の男性装着者でエディフィの所属になっております。 最低限の知識は有しておりますが実技の方は経験不足なので、よろしければ代表候補生である貴女に御指導の方をお願いしたいのですが?」
「私でよろしければ何時でも構いませんわ。所でエディフィの所属と仰有られましたが本当ですか?」
「えぇ、元々エディフィに就職予定でしたので、その縁でそのままエディフィ所属のパイロットという運びに。」
「まあ、あの世界でもトップクラスの企業に就職が決まっておられたとは。貴方の有能さが伺えますわ。」
トモルとセシリアの会話に目を白黒させる一夏はおもわず
「なあ、代表候補生ってのなんだ? それにエディフィってなんだ?」
この一夏の発言にクラスメイト達は膝を崩した。
「あ、貴方、本気で仰ってますの?」
呆れるセシリア。
「い、一夏、お前は一般常識すら無いのか?」
何時の間にか来ていた箒が一夏に突っ込む。
「えっ? 箒は知っているのか?」
「当たり前だ。代表候補生とは読んで字の如し、ISの国家代表の候補生のことだ。代表候補生になる為にはまず予備候補生になるための試験を受けて合格し、更に予備候補生内での序列つまりは順位をあげて候補生補欠になり、代表候補生の序列入れ換え試験で合格して初めて代表候補生になれるんだぞ。」
「へー、詳しいんだな箒。でも代表候補生なんていっぱい入るんだろ? 別に珍しくないんじゃ?」
「馬鹿者!! 各国で人数にばらつきはあるが、代表候補生になれるのはごく僅だ。例えば日本なら代表候補生の数は10人。イギリスは7人。」
「へーそれじゃあエリートなんだ。スゲーな! それじゃあエディフィってのなんだ?」
「本当に知らないのか一夏? エディフィとはいうのは日本でもいや、世界でもトップクラスのISメーカーだ。 いや、ISだけどじゃなく日本の自衛隊が国防に採用しているパワードスーツ【エクテアーマー】の製造会社だ。」
「なんだ、そのエクテアーマーってのは?」
ここまで無知だと説明していた箒ですら疲れてしまい言葉が出て来ない。 箒のあとを次いでトモルが説明を続ける。
「ISが登場してからというもの、各国の防衛はISに傾倒しつつあったんだ。だが、ISは絶対数がないのでいざという時に大丈夫なのかという問題点が出てきた。」
そこで言葉をきり、一夏を見ると何とか理解しているようだったので、続けるトモル。
「そこで最初に注目のされたのが国連主体で開発されたパワードスーツ【EOS】だった。だけど、これは扱いも難しい上にISには遠く及ばない物だった。その時に発表されたのがエディフィのエクテアーマーなんだ。このエクテアーマーはEOSより性能が上でしかも扱いやすい、といった点が評価され日本が防衛の柱として次々と採用していったんだ。ちなみに今、他の国が自国の防衛用として採用の申し込みが次々ときている。」
「へーすげえ会社だな。」
更に説明しようとしたが予鈴がなった為にそこで終わった。
代表候補生の設定に関しては、此方のオリジナルとなってます。