翌日の放課後、トモルは刀奈達四人と千冬を伴って第8アリーナのピットにいた。
トモルの専用機が届けられるという事で、第8アリーナを貸し切りにして対応となった。そして千冬は立ち会いの教員として、この場にいるのだった、
ちなみに、この日の一夏は昨夜の千冬とのマンツーマンでの指導が余程堪えたのか、トモルに纏わりつく余裕すらなく、ぐったりとした様相で1日過ごしていた。
もっとも指導内容が身についていたかと言えば疑わしくその証拠に、授業中の質問にもしどろもどろで回答したり、更に帰りのSHRで一夏にも専用機が渡される事が本人に伝えられたが、当の本人は言われた事の重大さをちゃんと理解しておらず、不思議そうな顔をしていた。 その顔を見て直ぐに一夏の状態を悟った千冬がかなり分かりやすく説明をして、何とか理解したようだった。
「それで真道、今日来るというエディフィーの技術者というのは?」
「今日来るのは、エディフィーの総合技術開発部門の主任技師を務める神先未知という女性です。」
「なに?! あの電脳の天才【白の魔術師】神先未知なのか!」
千冬が驚く。 神先未知・・・僅か10歳で様々な科学分野で博士号を取り、その後も数々の発明をし、その技術はISのみならず、あらゆる分野で幅広く活用されている。 篠ノ之束に次ぐ日本が生み出した第2の天才と言われている。
「世間ではそう言われてますが、本人はちょっとドジなところのある普通の女性ですよ。」
「随分親しそうだな?」
「幼馴染みですし。」
「更識・布仏姉妹だけでなく神先未知まで幼馴染みとは、流石に驚いたぞ真道。」
千冬の言葉にトモルの後ろにいる刀奈達は顔を見合わせて苦笑する。
そして来客を告げるチャイムが鳴り、扉が開く。
「失礼します。」
そう言ってメガネをかけた女性と二人の金髪の女性が入って来る。 まずはメガネをかけた女性が、
「エディフィー社、総合技術開発部門主任技師の神先未知です。」
未知に続き金髪ショートヘアーの女性が
「エディフィー社、IS開発部門技師のエマリー・オンスです。」
そしてもう一人の金髪ロングヘアーの女性が
「同じくエディフィー社所属、護衛部門並びにIS開発部門の部長を務めるスコール・ミューゼルです。」
「な?! スコール、何故貴女が?」
千冬は未知と共に入室してきた女性の一人・・・スコールを見て驚く。 それもそのはず、彼女は第1回モンドグロッソでアメリカの国家代表として出場し、圧巻の強さを見せたのだ。千冬とは出場部門が違った為に対戦することはなかった。
しかし、そんな彼女も決勝を前に怪我をしてしまい決勝を辞退、そのまま代表を引退し表舞台から姿を消したのだ。
「代表引退後にエディフィーが拾ってくれたのよ。」
「そうなのか。」
「それではすいませんが真道君の専用機を運びこんでもよろしいでしょうか?」
「もちろんです。」
未知の問いかけに千冬が答えると、入り口からコンテナが運びこまれてきた。
「久し振りねトモル。」
「そうだな未知。確か最後に会ったのは3月の末だったよな。しかも挨拶しただけでまともに会話してなかったな。」
「そうね、ともかく今はトモルの専用機の作業が先ね。」
未知とはそう言ってタブレットを操作するとコンテナが開封されて中のISの姿が露になる。 そこにはフレームが剥き出し状態のISがあった。
「トモル、そのまま背中を預けるように乗ってちょうだい。最適化と1次移行を行うから。」
トモルが未知の言葉に従ってISに背中を預けるように乗ると、未知はISとタブレットをコードで繋ぎ、更にもう1つタブレットを取り出して、それとも繋ぐとそれをコンテナの段差に置く。
「アイザック、ISの最適化と1次移行を行うからサポートして。」
『ワカリマシタ、プロフェッサーカンザキ。』
コンテナの段差に置いたタブレットから声がした。
有機コンピューター【アイザック】、未知が作り上げた人格インターフェースを備えるスーパーコンピューターだ。常に未知と共にあり、様々な場面で未知をサポートする。 タブレットから声がしてそれに千冬は驚く、だが他の面々はそれが何か知っているので驚かない。
未知とアイザックの作業スピードは凄まじく、普通なら30分はかかるであろう最適化と1次移行が僅か5分で終わらせたのである。
そしてトモルの乗るISに変化が起きる。 フレーム剥き出しのISが騎士を想わせる真っ白い完全装甲のISとなっていた。
「トモルそれが貴方の専用機、第3世代型IS【オーガン】よ。」
「オーガン・・・」
トモルは自分の手足を確認しながら軽く動かしてみる。
「それじゃあ刀奈ちゃん、この後はよろしくね。アイザックはデータ収集を。」
『ワカリマシタ、プロフェッサーカンザキ。コレヨリ、オーガンノデータシュウシュウトカイセキヲカイシシマス。』
トモルはISを展開した刀奈と共にアリーナに出る。千冬も様々なシステムを制御するためにアリーナ管制室に向かった。
そして残った未知はエマリーと共に
「さて簪ちゃん、会長から話は聞いているわ。貴女の機体はエマリーが担当するわ。」
「オンスさん、よろしくお願いします。」
「エマリーと呼んでちょうだい♥」
「わかりましたエマリーさん。」
「それじゃあ、簪さんは現行ロールアウトしている2機のIS、汎用性の高い『ジーライン』と高機動型の『ペイルライダー』のどちらを使うか選んでください。」
エマリーはそう言ってタブレットに2機のデータをよびだすのだった。 2機のデータを見比べて簪は
「ジーラインを使いたいです。」
「ジーラインね。それならこの状態で渡す事になるわ。あとは何か付け足したいパーツや武装はあるかしら?
「それでしたら・・・・」
二人は機体のカスタマイズの打ち合わせを始める。
そんな2人とは対称的にアリーナでは、文字通り刀奈が手取足取りといったぐあいにトモルに対してISの基本動作を教えていた。
入学前にエディフィーで20時間の訓練を受けたとはいえ、結局は基本動作の詰め込みで、とりあえず出来たという具合だった。
刀奈はそんなトモルの基本動作の直すべき箇所を、事細かく指摘していく。
刀奈の指摘している箇所は、エディフィーで陽子が指摘した箇所でもある。ただ陽子は指摘はしたが、改善させるだけの時間的余裕がなく指摘だけに留まっていた。
そんな2人の様子を管制室から見ながら千冬は舌を巻いた。 刀奈の指導もさることながらトモルの飲み込みの良さと順応性に。
事前情報によりトモルがエディフィーで20時間の実技訓練を受けているのは知っていたが、20時間とは思えない程の技量を垣間見ていた。
無論、代表候補生や国家代表とは比べ物にはならないが少なくともIS学園の同じ搭乗時間の生徒と比べても格段に上の技量だった。
(まさか、これ程のものとは。これでは・・・)
弟の一夏のスタートが遅れたのもさることながら、物事に臨む姿勢の違いというのが大きく響いているのを千冬は感じていた。
(一夏よ、おまえはこれから死に物狂いで挑まなければトモルに置いていかれるばかりだぞ。無論、姉として精一杯の支援はしてやる。だがお前自身が覚悟を持ってやらなければ意味が無いぞ。)
未だに、何処か他人事のように過ごしている一夏に対して千冬はそう思うのであった。
オリジナル設定 スキルについて
今作品においてスキルという物が出てきます。
これは一種の特殊な技術です。国家代表や1部の代表候補生は厳しい訓練の据えに何らかのスキルを持っています。
射撃が得意な操縦者は射撃に関するスキル、例えば早打ちや曲撃ち、百発百中に近い正確無比な射撃といったもの。
これらは自分自身の努力の据えに身につけるものもあれば、技能を持った人から教えてもらい身につけるものもあります。ただ修得には並々ならぬ鍛練が必要となります。ただし、決して唯一無二の物ではありません。
また同じ名称のスキルを修得しても、そのスキルの練度が違えば差がでます。またスキルの有無が絶対的有利になるという事ではありません。
そしてスキルを複数取得を試みて取得した操縦者はいない事もありません。しかし現在ではかなりの少数で、実際に同時使用している選手は皆無と言っていいでしょう。
というのも複数のスキルを実戦で同時に使いこなす事に集中力と精神力がついていかず、まともに使う事が出来ずに中途半端な状態になったからです。
この事から、現在は複数のスキルを修得するのではなく1つのスキルを極めるという方向性で固まっています。