深海戦線猟綺譚 ~兵装実験艦夕張・パンドラの社~ 作:八切武士
やはり、1画面辺りの文字数が少ない方が読みやすいでしょうか?
【太平洋・硫黄島近海】
代わり映えのない青空と水平線が続く中で、白く泡立つ航跡だけがどこかへ向かっている事を教えてくれる。
移動のついでに砲撃以外は色々試してみたが、大体適当に何がしたいか思うだけで艤装は動きを追随してくれる様だ。
かなり大きなものを担いでいる感じだが、振り回される感じは特にない。
自分の、そう、人間の方の体と同じ。
後は、具体的にやって欲しい事を声に出すか、具体的に思い浮かべて“お願い”すると、妖精さん達が艤装を動かしてくれるのも分かった。
多分、なれればこっちがやって欲しい事まで察して動いてくれそうな気配がある。
自分も妖精さん達も訓練が必要だ。
(……何と戦うかは知らないけど)
などと考えていると、艤装からひょいと肩の上に妖精さんが跳び乗ってきた。
10時方向に未確認機あり、と言いたいらしい。
視線をあげると、確かに、何か豆粒の様な何かが飛んでいる。
もっとよく見ようと意識を集中すると、ぐいっと視界が望遠された。
(下駄履き機……水偵、零式水偵かしら?)
徐々に大きくなってくる機体の翼には大きく日の丸が記されている。
やはり零式艦上偵察機らしい。
帝国海軍機であれば、帝国海軍所属……だった筈の自分にとっても、味方の筈なのだが。
(これ、見つかってるわよね)
明らかにこちらを視認しているらしく、ぐんぐん近づいてきている。
「う~ん」
取りあえず、敵意のない事は伝えておいた方が良いだろう。
私は取りあえず手を振ってみた。
本能的なものか、飛行機に直上を取られるのは少し恐怖を感じるが、雷装や爆装をしている訳でもない"味方”の偵察機相手には過剰な反応だろう。
水偵は特に何事もなく頭上を通過し、大きく弧を描いて元来た方向へ戻っていった。
2時間程そのまま航行していると、不意に頭の中に声が響いた。
『所属不明艦に告ぐ、こちらは日本国海上自衛隊、貴艦は我々の警備区域に接近している、所属と艦籍、行動目的を述べよ……オーバー』
一瞬、考え込み、ノイズから無線での呼びかけだという事に気がついた。
(日本国……日本?)
もう一度、今度は、多分英語で同じ内容と思われる内容が繰り返される。
三度目はないかもしれない。
私は慌てて、無線を送ろうと念を凝らした。
『……えっと、こちら、夕張……帝国海軍所属』
確か、最後に“私”が所属していたのは……咄嗟に頭に浮かんだ単語を送信する。
『最終所属は、第8艦隊 第3水雷戦隊、目的は、帰国……できれば、佐世保へ……えっと、おーばー?』
次の返事までは、少し間があった。
『こちら、硫黄島警備艦隊所属の軽巡、名取です……夕張、そちらの目的は了解しました、出迎えるので進路を維持願います、周囲警戒を怠らず、もし、攻撃されたら即、こちらを呼び出して下さい……オーバー』
『はい、こちら夕張、進路と速度維持します……おーばー』
軽巡名取、長良型の軽巡だった気がする。
あの回答だと、取りあえず、いきなり砲撃される事はなさそうだ。
(でも、攻撃されたらって……やっぱり、“敵”が居るって事よね?)
少々の不安を抱えながらしばらく航行していると、前方で何かがちかちか光っているのが目に入った。
簡単な発光信号だ。
『ワレナトリ、ワレナトリ……ソノママ、イジサレタシ』
(お迎えが来たみたい)
『ワレユウバリ、リョウカイ』
取りあえず、肩の妖精さんに返して貰う。
視力を望遠してみると、白と赤のセーラー服の子を先頭に、艦隊を組んでいるらしい。
すれ違う時に、艦隊の全容を確認できた。
6隻編成で、先頭の“名取”より小柄な少女達が続いている。
皆、基本、セーラー服らしい。
通り過ぎた艦隊は距離をとって反転し、やがて横に並んできた。
「どうも、無線でお話した名取と言います」
「夕張です」
近くで見ると、彼女の制服には小さな紙垂(しで)が左右についている。
遠目で見るより結構凝った制服だ。
なんだか、軍艦としてはかなり華美な気がするが、自分の制服も余り人の事はいえない。
(……今は、みんなそうなのかしら?)
チラリと艦隊の娘達を見ると、割と普通のセーラー服だ。
ただ、足が丸出しのスカートなのは良いのだろうか。
(……やめよ、私もタイツ履いてる以外変わらないし)
「聞きたい事は色々あると思いますけど、ひとまず、硫黄島の“鎮守府”で説明します……今は、一つだけ」
(鎮守府?硫黄島に?)
頭の中に困惑が広がる。
鎮守府なんて、横須賀とか、佐世保の大規模拠点にしかない筈だ。
「日本と言うか、“私達”は連合軍とも他の人間達とも戦っていません、その代わり、深海棲艦と戦っています」
「しんかいせいかん?」
しんかい、は深海だろうか。
「深海棲艦は全ての船を襲います……私達は制海権を守る為、全ての海で深海棲艦と戦っているんです」
名取はなるべく簡潔に教えてくれている様だが、昭和十九年位で色々記憶が止まってる感じの私としては、いきなり、大東亜戦争なんてとっくに終わってると言われても、少し、困る。
少しなのは、一人で航行している間に、言葉にはできないけど、薄々、もう、全然違う世界に放り込まれてしまったのではないという予感を感じていたからだ。
大体、人間の体に艦艇の記憶なんて馬鹿げた状況が先にあると、どんな馬鹿げた説明だとしても、肯定できなければ発狂するしかない。
「あれは……見れば分かります、気をつけて下さい、“昔の記憶”に頼ってもうまくは戦えません、訓練が必要です、この体を使うための」
To Be Countinued......