深海戦線猟綺譚 ~兵装実験艦夕張・パンドラの社~   作:八切武士

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 シャワールームに現れた意外な人物達の手助けで、気を取り直す事ができた夕張。
 改めて資料を分析し始めた資料からは、予想通り、どぶ泥の様な醜い現実が現れるのであった。


 【第四章 <結> パンドラの社 第四話】

【艦娘療養所・夕張の自室】

 

 

 今日も気の重い昼食時間を過ごしてからデスクトップPCに座り、“検体003”について、資料を探る。

 あれから数日経ったが、特に日常に変化はない。

 しかし、先日、又五月雨の外部での“治療”があった。

 今度は、五月雨と一緒に、艦娘の基礎訓練課程をこなすという“設定”だった。

 素直で、教えやすい五月雨は可愛い生徒で、何も知らなければ、きっと、楽しい1日だっただろう。

 何も知らなければ。

 彼女と過ごす日は1日潰れてしまうので、それだけ資料の分析が遅れる。

 ついでに言えば、工房にもまだ侵入できていない。

 正直、吐き気のする考えだが、由良と河田が、以前の晩の様な過ごし方をしてくれなければ、自分の艤装を分解する時間は取れなさそうだ。

 結局、合間を見て、例の資料を分析し続けている。

 

(……又、“近代化改修”関係の技術情報、でも、これ、普通の近代化改修じゃないわね)

 

 さして驚く事ではない。

 ごく普通の“近代化改修”であれば、手順はそれなりに確立しているし、艦娘関係者達の間では、秘密でもなんでもない。

 原理についても細かい事は分かっていない、と言うのも知られた話だ。

 内容が内容だけに、世間一般に対して積極的に詳(つまび)らかにはされないけども。

 “近代化改修”のやり方は幾つかあるが、一般的なやり方は、艤装の中に納められた艦娘のブラックボックス、“艦内神社”の中身を移植するやり方だった筈。

 艤装のバイタルパート深くに仕舞われた“艦内神社”は、艦娘の核を構成する重要な要素だ。

 艦娘の艤装と共生する妖精さん達は、艦内神社から産まれる為、艦内神社の機能を失った艦娘は艤装を維持する妖精さんを自力で補給できなくなる。

 他の艦娘から移乗させて貰う事による延命は可能だが、対症療法になる。

 人間で言えば、骨髄を侵されて血液が作れなくなるのに近いかも知れない。

 本当に重要なものだ。

 見た目は神棚の様なものが多くて、中には、普通の神棚に入っているお神札と、艦娘の名前が書かれた札が納められている。

 “近代化改修”の代表的な手法は、この艦娘の名前が記された札を、相手の艦内神社へ移植するものが有名だ。

 問題が無ければ、名前札同士は融合し、一つとなるか、移植された札から墨が抜けて白紙になり、“近代化改修”は成功する。

 夕張としては専門分野では無い為、細かい話は思い出せないが、事例と手法によって、結果はかなり違うものになる筈だ。

 当然、うまく行くばかりではない。

 多重人格症状や、記憶障害、自分の記憶由来ではない精神的外傷等、重篤な副作用を生じるリスクがある。

 実施には入念なケアが必要だし、そもそも、“艦内神社”自体、気安く弄っていいものではない。

 しかし、この資料を見ていると、やたらと“艦内神社”への干渉のやり方が記載されている。

 違和感を感じるのは、引用資料の記載が著しく、副作用発生の事例に偏っている事だ。

 

(“検体004”……五月雨ちゃんの記憶の書き換えも、確か、“近代化改修”の技術、その失敗事例の部分転用だった、意図的に、安定的に失敗……とはちょっと違うけど、一部の記憶だけ上書きされる様に再現性を高めたもの)

 

 そして、もう一つ特筆すべきなのは、引用資料から更に逆引きしてゆくと、“検体001”へ繋がる事だ。

 

(……)

 

 少し方向を変えて、“検体001”から繋がる周辺資料を調べてみる。

 

(……なに、これ?)

 

 “近代化改修”、“内線”、“擬体科”、“艤装改修”、“心療内科”、“精神科”、多数のジャンル分けされた技術情報や臨床例へリンクがとんでいる。

 見ているだけで気分が悪くなってきた。

 夕張自身、“兵装実験艦”等と名乗っている身だ。

 実験的な扱いをされるという事がどういう事であるか、ある程度は知悉している。

 初期の検体、それも、調達の難しいものであれば、使える限り使い回されるものだ。

 場合によっては、使い物にならなくなるまで。

 当然、秘匿性の高い実験であれば、機密漏洩防止の為、厳重に保管されるか、秘密裏に。

 

(処分される)

 

 夕張は、抑えきれない胸のむかつきを、ミネラルウォーターで流し込む。

 肺か心臓の辺りが燃える様に痛む。

 画面を変えて数分間、ただ目を閉じる。

 

(……きっと、この程度で吐いてたら、胃から中身が無くなって、艤装から重油が出てくるわね)

 

 自嘲気味に考え、大きく息をついた。

 画面を資料に戻して、“検体001”と他の検体達と共有されている資料を確認してゆく。

 

(“検体002”は他より少ないわ……それに、”近代化改修”についての技術情報はない)

 

 “検体002”の資料に繋がっているのは、擬体と、艤装の技術情報に、“内線”の関係情報。

 “近代化改修”が含まれていない事を考えると、恐らく、“検体002”は、“服従化”と“コントロール”技術中心のテストベッドとして扱われているのだろう。

 

(……“検体002”は、擬体と艤装が一体化してるタイプみたい、だとすると……摩耶さん、“検体004”は五月雨ちゃんだから……なら、“検体001”は……由良)

 

 “検体001”なんてラベルが剥がれてしまうと、“あいつ等”が由良にどれだけの事をしたのか、番号じゃない、名前に紐付けられたそれが、突きつけられてしまう。

 

(……人格も、体も、全部何もかも切り刻まれて、弄られて)

 

 初めて、人を殺したいと思った。

 河田、林、多田、これに関わった人間全てを。

 殺意のままに意識を彷徨わせると、焦げ臭い鉄錆臭と、血のぬめりを感じる。

 下らない実験に興じるき○がい共に、血を流させてやりたい。

 みんな、家族や友達、何か守りたくて、海に出て、何人も、帰ってこなかった。

 連れて帰れなかった。

 

(……私たちは、こんな奴らの為に戦ってきたんじゃ、ない)

 

 殺意を込めて睨みつけた画面の中に、ふと、引っかかる項目があった。

 

(“SSR構想”、“インプラントD-X”……?)

 

 “検体001”、由良についてのファイルに、小さく、紛れ込んでいた言葉。

 リンク先が記載されていない。

 詳細もなく、関連資料は閲覧制限が更に厳しい旨のみ記載されている。

 他の、摩耶、夕張、五月雨のファイルも確認してみると、“SSR構想”は由良と、夕張、“インプラントD-X”は由良、摩耶、五月雨のファイルに記載がある様だ。

 何故か、これだ、と思った。

 

(……今まで読んできた事は殆ど、既存の症例とか、技術情報からの流用か延長)

 

 改めて、4つのファイルと、資料を確認し直す。

 

(……由良と私のファイルには“近代化改修”でやりたい事、目的が書いてない、由良と摩耶さん、五月雨ちゃんのファイルには、“内線”と制御の実現方式についてが欠如してる……)

 

 心当たりがあった。

 

(your eyes only……)

 

 持ち出し複製が許されない、機密中の機密事項。

 そこに、求める答えがありそうだ。

 

(もう少しね……)

 

 夕張は、マグを確認した。

 コーヒーがない。

 今夜は長くなりそうだ、カフェインなしではキツいだろう。

 

 To Be Countinued...




 ここまで読んでいただいてありがとうございます。
 夕張さんによる資料分析が再開されました。

 次回、更に事実が明かされる事に……

 よろしければ次回も読んでいただければ幸いです。 
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