深海戦線猟綺譚 ~兵装実験艦夕張・パンドラの社~   作:八切武士

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分割再投稿の3つめです。

ようやく硫黄島に辿り着いた夕張さんを待っていたのは、基礎研修と仕出し弁当だった……




 【第一章 <起> 海原に一滴、零れ落ちて 第三話】

 

 

【硫黄島・駐屯地内鎮守府】

 

 

 緊張させられたけど、硫黄島までの航海中は特に深海棲艦に脅かされる事もなく、私は小ぢんまりした港から無事上陸し、名取に促されて、既に他の娘も乗っているジープの後部座席に押し込まれた。

 大型車なので、後部座席に三人乗った所で狭くは感じないが馴染みのない相手に挟まれているのはちょっと落ち着かない。

 

「えっと、あなたは……」

「特型駆逐艦2番艦の白雪です」

「初雪でーす」

 

 ちょっと名前を聞いてみると、左右から声が上がった。

 成る程、どちらも吹雪型らしい。

 特に切り出せる話題もないまま、基地まで着いてしまった。

 立派な飛行場に隣接された建物だ。

 案内される中、ちらりと、アメリカ国旗のついた飛行機が駐機されているのが目に入る。

 日の丸がついた飛行機も混ざって置かれているのを見ると、実際にもう、大東亜戦争は過去の事なのだろう。

 何よりも、私はプロペラのついてない飛行機等見た事が無かった。

 建物に着くと、名取は白雪に運転を任せて駆逐艦達を返すと、小さな会議室の様な部屋に私を案内する。

 

「取りあえず、こういう時にいつも見て貰う研修用のビデオがあるので……あ、ありました」

 

 説明しながら、彼女はとても大きなテレビの下にある機械へ、樹脂製の箱テープを挿入した。

 

『一般社会情報啓蒙研修Ⅰ ~新規浮上艦向け~』

 

 何を意図しているか形容しがたい曲と共にタイトルが表示された。

 察するに、さっきの箱テープ入っている画像がテレビに流れているらしい。

 映写機で銀幕に映していた画像が、直にテレビに流れるとは中々凄い。

 正直、説明される前に、まわり中の未来技術がいちいち気になってきた。

 最初に新しい戦争が始まっている事を示唆されていなければ、もっとはしゃいでいたかも知れない。

 

「あ、これ、どうぞ」

「ありがとう」

 

 緑色の容器に入ったお茶かと思ったら、透明な瓶に入った色が透けているらしい。

 お~○、○茶と書いてあるから、お茶なのだろう。

 ねじ込み式の蓋を開けるとぷつぷつと音がした。

 お茶だった。

 一口飲んで、思ったより喉が渇いている事に気がついた。

 一息で半分程飲み干してしまう。

 画面では、簡単に、大東亜戦争以降の流れをざっくりと資料映像を交えて解説音声が説明していた。

 結局の所、日本は敗北した様だ。

 それもかなり酷く。

 とは言え、いきなり解説されても、実感は難しい。

 “艦”の記憶があるとは言え、兵の感覚では無いのだ。

 私はこれをどう取れば良いのか。

 明確にできない感情が渦を巻いて、記憶が途切れる。

 不意におどろおどろしい曲が耳を叩いた。

 顔を上げると、解説は深海棲艦との戦いの始まりについてに移った様だ。

 注意を惹いた事を確認したかの様に、曲の音量は下がる。

 今度は不安を誘う様な不協和音を含んだ静かな曲。

 実際、呆然としてしまった新入りの意識を引きつける意図で編集されているのだろう。

 中々秀逸な演出だなと、何となく考える。

 深海棲艦の被害だが、最初は海賊によるものや、天候による海難が疑われたらしい。

 しかし、余りにも急激に被害は拡大し、民間船だけではなく各国の軍艦が撃沈される事態が多発する。

 世界が深海棲艦を認識し、各国が緊急事態を宣言した時には、人類側のシーレーンはほぼ寸断され、制海権を奪われた状態に陥っていた。

 

(あれが深海棲艦……)

 

 映像記録の中に移った深海棲艦は、まるでいびつなクジラの様な姿をしたものから、大まかには人型をしたもの、金属塊から人間の手足を生やした様な者まで様々な種類が居た。

 おおまかに人間大程度にも関わらず、大東亜戦争時代の艦船と同程度の防御力と火砲を備えた深海棲艦に、当時の新鋭艦は苦戦を強いられたらしい。

 大東亜戦争後に砲戦や雷撃戦は廃れて久しく、高度な誘導ロケット……ミサイルを超々長距離から撃ち合う時代では、軍艦と言えども、駆逐艦の砲撃に容易く屈する程度の防御力しか備えていなかったのだ。

 

(深海棲艦を倒す為には、ミサイルを米粒に直撃させて、大きな的になるボール紙でできた船体で戦うしかなかったって事かしら)

 

 航空戦も似た様な状態で、まず、目視困難な大きめのラジコン?位の敵機を追尾できるミサイルが無い。

 しかも、旋回性能の高い、米粒以下の目標を機銃で撃ち抜くのは困難を極め、格闘戦は更に絶望的だったらしい。

 そんな状況を一変させたのが私達、“艦娘”の存在だ。

 最初の一人、特Ⅲ型駆逐艦、電が現れたのを皮切りに、旧帝国海軍の艦が続々と“浮上”した。

 また、“艦娘”達と特別な絆“内線”でコミュニケーションできる才能を持った人間も発見され、“提督”と呼称されている。

 深海棲艦と同等の能力を持ち、人間に味方する“艦娘”とそれを効率よく統率できる“提督”の出現によって、戦線は徐々に互角に近づいてきた。

 その後の研究で、“儀式的”な手順を踏む事で、人為的に艦娘を“召びだす”方法がある程度確立し、現在では概ね、こちら側有利で戦況は推移していると、解説は結ばれている。

 ビデオの後半は、日常生活を送る上での注意事項が詳しく説明されていた。

 内容は色々あるが、折に触れて強調されているのは、腕力や搭載火器の行使についての注意事項。

 自分が軽く小突くだけで大抵の生き物を殺害可能な兵器としての一面を持っている事を常に意識し、節度ある行動を取る様に繰り返し警告されている。

 その禁を破れば、法的、道義的な責を問われるだけではなく、極めて重大な結果を招く様だ。

 兵器である私達には“うっかり”は許されないという事。

 

(それにしても、妖精さんって、普通は私達と“提督”しか見えないんだ、と言うか、私達、“艤装”が本体って、本当かしら?)

 

 ビデオを見た後は、一端休憩という事になり、弁当と新しい飲み物が届けられた。

 使い込まれた樹脂容器を開けると、赤魚の煮付けが主菜で、まだほんのり温かった。

 休憩とは言っても、“艦娘”は人間と同じ意味では便所を使う用事は無いので、用足しの休憩は無いらしい。

 今後どうなるのか聞いてみると、基本的な研修が終わった後に内地の初期受け入れ施設に移送されて、もっと詳しい教育と書類手続きを受け、今後の進路を決めてゆくらしい。

 

「基本的には、訓練を受けて深海棲艦と戦うんですけど、今は結構戦況が安定しているので、希望すれば学校へも通えると思いますよ」

 

 ここまでの話では、正直、最期の記憶より、かなりマシな状況に感じる。

 取りあえず、ご飯は大変美味しかった。

 少なくとも、前線の兵にまともな銀飯が配給されているのは確かだ。

 少なくとも兵站の件については、先の大戦から上も学んだらしい。

 食うや食わずでは、私達も満足に戦えないだろう。

 

 午後は基地の担当官による簡単な“おりえんてーしょん?”があって、写真を撮ったり、幾つか書類へ記入した後、目を通しておく必要のある資料を渡された。

 そういえば、写真を撮られて、初めて自分の顔を見た。

 淡い色の髪に、何となく黄色がかった様な色合いの瞳。

 まぁ、見た目はそう悪くないんじゃないかと思う。

 というか、名取も、さっきの駆逐艦の子達もみんな可愛い顔をしていた気がする。

 “艦娘”と言うのはそういうものなのだろうか。

 軍艦と言うより、まるで慰問講演のタカラジェンヌじみている気がする。

 この容姿は、私達が“淑女”として愛された一面を示しているのかも知れない。

 

 客用の個室へ案内されて、今日は休む事になった。

 どうも初日は、外部の情報には無制限に接触できないらしい。

 垂れ流される素の情報にいきなり晒されると、困惑する艦娘が多いからとの事。

 まぁ、それは何となく分かる。

 さっきの終戦から続く歴史経緯はちょっと、刺激が強かった。

 なので取りあえずは、渡された資料と、ついでに貰った本を幾つか読む。

 数十年分の情報の欠落をすぐに埋めるのは難しい。

 と言うより、全てを埋める事など不可能だし、そもそも全部を埋める必要があるのか等と考えている内に眠っていた。

 翌朝は、ドアを叩く音で目が醒めた。

 慌てて飛び起きて、部屋の惨状を確認する。

 床に落ちた資料を拾い上げ、布団を記録的な速さで畳む。

 足音を殺して、ドアの前へ走り、そっと開ける。

 

「あー、おはよ、私は雷巡北上、よろしく~」

 

 爽やかとはほど遠い声で挨拶したのは、髪の毛を三つ編みにした艦娘だった。

 クリーム色のセーラー服を着ている。

 

(なんか、艦娘って制服自由だなぁ)

 

 当然、初対面だ。

 

「あ、はい、おはようございます、夕張です」

「ん、知ってる~」

 

 少し戸惑って挨拶を返すと、彼女は手に持っていた皿を差し出した。

 反射的に受け取ってから確認すると、丸く握られたお握りが載っていて、皿全体に透明なフィルムがかけてある。

 

「はい、あと30分位で本土行きの便がでるからさ、急いでたべちゃってね~」

 

 二の句が告げない内に、彼女は部屋に入り、応接用の椅子に腰を下ろしてしまった。

 何処からともなく取り出した板状の機械をつんつん、なでなでして、何事かをしている様子だ。

 少し迷ったが、30分後の便に乗ると言うのなら、搭乗場所への移動を考えればのんびりしている場合ではない。

 私は取りあえず残った椅子に腰を下ろして、お握りを胃に押し込む作業に入った。

 幸い、飲み水は、半分程残ったまま机においたままのお茶がある。

 ついでに言うと、お握りも結構おいしい。

 よく塩が利いているし、塩だけじゃなくて、ふりかけを混ぜたものと、カレー風味にしてあるのが混在していて、最後まで飽きが来ない様に工夫されている。

 前線基地でこんなに良いまかないが出るとはこの時代も大したものだ。

 

(ま、できればもっと味わって食べたかったけど……)

 

  食事を差し入れてくれただけで、十分親切なので、贅沢を言ってもしょうがないのだが。

 

「お、早いねぇ、早飯も芸の内だよ、行こか」

 

 特に荷物がある訳でもない為、北上に資料類を渡して手ぶらでついて行く。

 ぶらぶらと歩いている様で、以外と北上の歩みは早い。

 滑走路へずかずかと進んでゆく彼女の後を追ってゆくと、巨大な輸送機が駐機されていた。

 不意に北上が踵を返した。

 

「んじゃね、後はうまくやんなよ」

「あ、どうも、ありがとうございます」

 

 声をかけた頃には背が遠くなっている。

 

(なんかなぁ)

 

 何とも調子の狂う人だった。

 私は気を取り直して輸送機に乗り込み、胴体内部で左右対面式になっている座席に腰を下ろす。

 周りには軍の士官、じゃなくて、自衛官達が数人と、米兵が乗り込んでいる。

 見つめすぎたせいか、米兵と目があってしまい、にっこり笑って挨拶されてしまった。

 取りあえず、曖昧に挨拶を返してから目線を外す。

 

(ほんとに同盟軍なんだなぁ)

 

 常識がひっくり返りすぎて本当に困る。

 しかし、10人も乗っていない中で、女性自衛官が3、4人も居るのにも、又、戸惑う。

 そう言えば、昨日読んだ資料には何か書いてあった気がする。

 

(確か、深海棲艦に対する初期対応で各国の海軍は重大な人的損傷を受けて、特定の世代以降は女性兵士が激増したんだっけ……)

 

 本土に着くまで、取り留めのない考え事をしている内に結局眠り込んでしまった。

 

 

 To Be countinued......




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