深海戦線猟綺譚 ~兵装実験艦夕張・パンドラの社~   作:八切武士

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ただ一隻の軽巡に翻弄される支援艦隊。

戦線の崩壊に繋がりかねない流れを断ち切る為、一撃を加えようとしているのも、又一隻の軽巡であった。

ただ一丁の拳銃。
一門の機銃すら載っていない艤装。

兵装を持たぬ兵装実験軽巡。
夕張は、いかなる一撃をもって流れを変えようと言うのか?


 【第四章 <結> パンドラの社 第十九話】

 

【外洋・戦闘海域:夕張】

 

 

 由良も、五月雨もどこにいるか分かる。

 闇の中に、ぼうっと、浮かび上がる光。

 それは、現実に光っているのか、意識化に伝わる情報を脳が何とか処理したした結果なのかも分からない。

 光る影達が、支援艦隊を襲っている。

 

(私の艤装には、1門も砲が載ってない……現実では、でも……できる、筈)

 

 夕張は確信をもって、思い描く。

 艤装の唸りが強くなり、視界の端をちらちらと、蛍火の様な青白いちらつきが浸食し始めた

 

(……超々遠射蒸気加速砲展開)

 

 みりみりと音を立てて、艤装が変形する感覚と共に、巨大な砲身が右肩越しに降りてくるのを感じる。

 左肩に降りてくるのは、超高圧縮した蒸気を貯め込む専用缶だ。

 

 血相を変えた妖精さんが飛び出してきて、肩の上で脚を滑らせ、胸元のスカーフに辛うじてぶら下がる。

 

『フメイナ ギソウノセツゾクヲミトム

 カンノ ウンヨウニ キワメテ シンコクナショウガイアリ

 タダチニ ハイジョ セヨ! 』

 

 どうやら、本当にいけたらしい。

 夕張は全力で咆哮を上げている発動機の振動を背に感じながら、妖精さんを手に乗せ、艤装へ戻してやった。

 もう、振動は艤装全体がバラバラになりそうな勢いになってきている。

 

(全缶直結蒸気弁、切り替え良し……連続砲撃設定にて加圧開始……追加固定錨を全て投錨……)

 

 無い筈の錨が5個も、6個もどぽん、どぽんと海中に投錨される音が耳を打つ。

 

(砲内主蒸気室、加速蒸気室群、第一列、第二列、共に正常加圧中……)

 

 視界下にHUD表示された気圧弁のメーターがレッドゾーンに突入した。

 

(回転弾倉、全薬室装填よし……)

 

 夕張は、ペアを組んで砲撃中の長良と名取に照準を合わせた。

 艤装の振動が低くなる。

 

『撃て!』

 

 赤い警告表示が視界にでかでかとフラッシュした。

 

(直接照準、曲射は要らない……)

 

 引き金を絞った瞬間、目の前が爆発で真っ白になる。

 弾体に遅れて放出された蒸気の爆発だ。

 凄まじい反動に全身が軋み、踏ん張った足がじわりと後退していく。

 艤装から海底に降りた鎖が伸びきり、ぎりぎりと音を立て、反動に抵抗する。

 体の動揺を抑えている間に、弾体は現実にはあり得ない速度で低伸弾道を描き、海を割る勢いで巻き上げた波を後に曳きながら飛翔。

 白みがかった闇の中、目の前に四角く切り取られた様に浮かぶ砲撃用HUD内で、五十鈴の右肩から先がごっそりと消失したのがちらりと見えた。

 巨大なシリンダーが回転し、新しい弾体が準備される。

 艤装の振動がまた激しくなった。

 なんだか、ひどく苦しい。

 

(加速蒸気室群、第一列、再加圧開始……第二列圧力問題なし、撃てる!)

 

 攻撃を察知してぱっ、と散った艦隊の中で、若干動きが鈍っている五十鈴と名取のペアの回避予想進路へ第二弾を発射。

 殆ど発射と同時に着弾する弾頭が、五十鈴の擬体を、艤装ごと粉々に吹き飛ばした。

 

「以外と当たるじゃない……でも、これ、滅茶苦茶疲れる……」

 

 既に、結構な量の冷却水を失った気がする。

 艤装どころか、擬体からも軋む感触を覚えながら、夕張は引き金を絞った。

 

 

【外洋・戦闘海域:支援艦隊】

 

 

『よし!第一艦隊は退け!浦風は深雪、白露は磯波、球磨は多摩を回収、第二艦隊は前進、“由良”に火力を集中しろ』

 

 高さ数メートルの水しぶきを曳きながら飛来した、“支援砲火”に敵艦の陣形が崩れたのを見て、第一艦隊を緒戦で半壊させられていた支援艦隊は再編成に入る。

 

『提督、見た?』

『ああ』

『ぱっ、と弾けて、首と手がさ……』

『おい、イメージ送るな……深雪は駄目か、浦風、あと2人担いでくれ、白露と球磨は戻したい』

『ええよ、2人でも3人でも心配いらん、うちに任しとき!』

『……46センチ砲の直撃でも、あれは無理ね』

『そもそも、私達の砲はあんな低伸しないわ、そうねぇ、まぁ、“大八洲”のレールガン位じゃないとね……全くちょこまかと!弾幕よ!弾幕をもっと張って!』

『おまえら、私語多過ぎか……発射場所が近すぎる、大体、レーダーに“船団”の一隻も映ってないだろ、“大八洲”級の巨艦が居れば見えない筈がない』

『不可思議じゃのう……して、我々はどうするのじゃ?あの“ゆうれい”ども、弾が当たらぬぞ?』

『三課の話だと、“由良”が出元らしい……実体がある筈だが、しかし、普通に当たらんな』

『まるで、着弾点を先読みされている様な……』

『無いとは言えんが、やるしかないぞ……兎に角、体勢を立て直す』

 

 

【外洋・戦闘海域:夕張】

 

 

 危うく総崩れになりかけていた支援艦隊は、なんとか仕切り直しにかかれた様だ。

 由良の“影”を撃破しても、一時的に引っ込ませるだけだとは思うが、時間稼ぎにはなる。

 

(超々遠射蒸気加速砲、発射モード解除……)

 

 追加の固定錨の鎖がリリースされ、ずっしりとのし掛かっていた大砲がきらめきになって消えて行く。

 由良と、支援艦隊の動きが一時的に緩んでいる今がチャンスだ。

 速度を上げ、一直線に由良と五月雨に向かって走る。

 

「……」

 

 排気が咳き込む。

 艤装が不規則に振動している。

 息を荒げて額の汗を拭うと、顎まで伝っていた汗が海面にぼたぼたと滴っていく。

 もう顎がでている。

 擬体の体温が大分上がっているのを感じた。

 由良の真似事をするのは、結構負担が大きい。

 無駄な力が入っている。

 まるで使っていない筋肉を酷使する様な感覚。

 しかし、完熟訓練などしている暇はない。

 五月雨が率いている深海棲艦の数が減っている。

 どれくらい保つかは分からない。

 しかし、夕張が介入した事で、支援艦隊はまだ戦闘能力を喪失していない。

 立て直してくれれば、最悪、この後、夕張が失敗しても、後始末はしてくれる筈だ。

 少なくとも、憲兵隊が“義父”を連れて撤退する位の時間はある。

 

「止めるからね……由良」

 

 

 




ここまで読んで頂き、ありがとうございました。

久しぶりの更新でございます。

夕張さんがとうとう、チートに手を染めてしまった模様ですが、吉と出ますか、凶とでます事やら。

しばらく投稿しない内に、少しだけ書きためたので次は早めに上がる予定です。

しかし、秋イベントが始まりましたね。
大規模で7隻の新艦が追加と言う事で……掘りが大変そう。
とりあえず、情報出揃ってからチャレンジしようと思ってます。
いつも通り、クリア&新艦娘の確保優先です。
これくしょんですからねぇ。

そう言えば、タイトルの深海戦線と同じ名前の台湾ソシャゲがリリースされたみたいで、ツイッターの宣伝用の固定ツイートの閲覧数だけは妙に増えてます。
その内、こっちの方が検索妨害扱いされるかも……

次回もお付き合い頂ければ幸いです。
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