深海戦線猟綺譚 ~兵装実験艦夕張・パンドラの社~   作:八切武士

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 夕張から得た架空兵器の詳細なイメージを取り込み、“世界観”への浸食を強めた由良。
 彼女が放った、強力なマイクロウェーブ照射により支援艦隊の主力は壊滅、憲兵隊の隊長古泉は、とうとう、海域への夜間攻撃機による爆撃を要請するのであった。
 空爆が迫る中、夕張と五月雨はとうとう由良と対峙する。
 二人は、由良の狂気を押しとどめる事が出来るのであろうか?


 【第四章 <結> パンドラの社 第二十二話】

 

 

【外洋・戦闘海域:決戦】

 

 

 敢えてなのか、由良は腕の単装砲を夕張に向ける事もなく、泰然とした構えでたたずんでいた。

 勢いのまま五月雨に先んじて夕張が仕掛ける。

 延びる手に応えて、由良の単装砲を纏った前腕が上がり、間合いに侵入した夕張の左掌底を弾く。

 間髪入れずに揺り戻った逆手の単装砲が、跳ね上げられた夕張の右舷艤装に激突し、腹に響く金属音を立てる。

 稼働域限界まで引っ張られたダンパーが異音を立てて戻るのに任せ、夕張は右手を前へ放った。

 二股に分かれた二指。

 えぐり出すつもりで放ったそれは、由良の左頬を掠り、紅い筋を残す。

 素早く胸前に戻った両手を押し出す体勢に移った瞬間、咄嗟に退いた眼前に、左の手刀が落ちてきた。

 鋼鉄の塊がついた手刀は、辺り所を間違えれば艦娘の頭蓋といえども、文字通り粉砕する鉄槌となる。

 艤装展開した状態で格闘すれば、擬体の骨肉等、簡単に粉砕されてしまうのだ。

 間合いを取り直した夕張の横を、潮臭い蒸気をまき散らしながら五月雨が間合いへ切り込む。

 至近距離で放たれた25粍機銃弾の爆発が制服を揺らし、破片が擬体飛び散る中、由良は眉一つ動かさず、その構えは不動だ。

 

 なんとは無しの違和感。

 

 それが既視感である事に思い至ったのは、“制空権”へ踏み込み、振るわれた、五月雨の義手を一瞬でいなしてねじり込む動きを目にした時。

 気がつけば、極めに移る由良の腕を払い、カットに入っている。

 決まれば、手首、肘、肩関節が破砕される極め技。

 人間相手に本気で使われるのは見たことは無い。

 目にしたのは、義父、久田章五郎がマネキンの腕を試技でねじ切った時だ。

 目の前で居住まいを正した由良の構え。

 それは、あの時の義父の立ち姿だった。

 容易に攻め入れない事を悟った五月雨が、距離をとってじわり、じわりと周囲を巡りながら隙を伺う。

 そんな五月雨の動向を目で追うわけでもなく、夕張をじっと見つめていた由良が、ふと破顔する。

 

「ふふっ……私、あなたの事、何でも分かる様になってきちゃったわ、来て……夕張」

 

 言葉に誘われる様に、夕張は由良の間合いに踏み込む。

 左手で放った四本貫手はあっさりと捌かれた。

 しかし、捌かれた筈の抜き手はぐにゃりと形を崩して由良の腕を巻き取り、肘、肩の関節を極める。

 同時に打ち込まれていた右肘の猿臀(えんぴ)が由良のあばら骨を砕きながら、ぼくり、とめり込む。

 堪らず倒れる、逃れるのなら、絡めた腕で肩の関節を貰う。

 倒れねば、直下からの右掌底、或いは頭突きが突き上がる。

 はたして、身を一瞬屈めた夕張の上体が思い切り前へ引かれ、頭頂部に直上からの重爆が炸裂した。

 頭骨が陥没し、脊椎が粉砕された様な衝撃に揺れる脳に意識をかき集めながら体を引き離そうとするが、逆を取られた左腕は外れず、目の前で微笑む由良の顔が縦ブレした次の瞬間、脳が又、揺れた。

 激しい衝撃に、極められた関節肘と肩が軋み、額が砕けそうに痛む。

 焦げた臭いが鼻腔を満たし、暖かく唇へ流れ落ちる。

 金気臭い塩気が口に広がった。

 

(あちらは、162.15×14.25……こちらは138.99×12.04、そして、5,170と2,890)

 

 視界がどろどろに溶け崩れ、極彩色のマーブル模様に歪む中、それでも醒めた意識の一部が思考を紡ぐ。

 船体の大きさ、重量の違いは、かつての大戦で沈んだ船としての違い。

 全てではないが、今の自分たちの艤装にもその差は反映されている。

 僅かに優位に立てる要素だった、義父の格技も、手の内が割れる所か、逆に利用されてしまっては、最早、弱点とすら言える。

 

(由良は私より、ずっと強い……)

 

 生半可な小細工は通じない。

 由良の右舷側から跳び上がった五月雨が、前転しながら義手を打ち下ろし、由良の頭部を狙う。

 それは身を屈めてかわされたが、五月雨は由良の艤装を踏み台にして左舷に降り立ち、すぐに体を回転させた裏拳を放つ。

 体を傾斜させた由良の艤装に義手が激しく激突し、夕張にも、腕を通して振動が伝わる。

 ふと、腕が緩んだ隙に、夕張は間合いを離して、だらりと垂れた左腕の感覚を確かめる。

 痺れた指先がぴくりと動く。

 口の中に溜まっていた何かを吐くと、海面に粘性のある黒いものが広がり、消えた。

 

(腱は無事……)

 

 関節は外れているが、骨は粉砕されずに済んだ様だ。

 立てた膝に左掌を当て、一気に押し込む。

 一瞬の激痛の後、関節があるべき場所に戻る感覚がした。

 まだ歪みのとれない視界の中で、五月雨が由良の回りを摺り足で探る様に回っている。

 夕張の“内線”経由で発せられた警告を受けたのもあるが、先ほどの攻防と、構えの自然さからにじみ出る自然さから、安易に重たい一撃を放つ事への忌避が働いているらしい。

 そんな五月雨の様子にちら、と目線をやり、由良は、すっ、と前進した。

 体を揺らさず間を詰める、相手からすればスムーズに視界が拡大された様に見える踏み込み。

 道場で、次の瞬間、天地が逆転するか、膝を地に屈した記憶が脳裏をよぎる。

 夕張が、自分の手が届く“制空権”を意識した瞬間、由良の手が伸び、そして、遠ざかった。

 夕張が声にならない警告を五月雨に発した瞬間、

由良は全力で後ろへ跳んでいた。

 由良の背後から、サイドステップで左舷側に回り込もうとしていた五月雨の胸部へ、艤装の後尾がまるで破城槌の様に打ち込まれ、瞬間、凄まじく金属的な衝突音が轟き、細い体が吹き飛んだ。

 水柱を立てて転がる体を追い、由良が更に跳ぶ。

 月明かりに、その体が艤装ごと、独楽の様に回った。

 全身を振動させながら身を起こした五月雨の横っ面に、たっぷりと回転力がのせられた由良の右前腕が、斜め上から叩きつけられる。

 骨肉がへしゃげる嫌な音。

 しかし五月雨は無表情のまま、半ば左斜め前にお辞儀する様に上体を思い切り捻っていた。

 破壊された左腕が由良の腕と頭の間から引き抜かれ、振り子のように背面に回る。

 振り下ろされた巨大な義手が、由良の右前腕に叩きおろされ、単装砲を粉砕。

 勢いのままに、その下の骨までへし折った。

 その一撃に弾かれた様に、二艦の距離が離れる。

 距離を離した由良は、もう一度構えなおすでもなく、真っ直ぐに立って折れた腕を掲げた。

 

「あら……折れちゃった?」

 

 困った様な表情で、軽くせき込む。

 白い腕に飛び散った血が、転々と黒い点となってスプレーされる。

 

(損傷は蓄積してる……でも、攻め続けないと)

 

 五月雨の加熱状態は少し収まってきているが、もう、左腕は完全に動かないだろう。

 夜明けまで、そこまで時間はない。

 支援艦隊が全滅した今、夜が明ければ、航空戦力が投入される。

 流石に頭上を取られれば、為す術はない。

 だが、由良は捕らえられることを良しとはしないだろう。

 夕張には、もう、それが分かっていた。

 ここで止めるしかないのだ。

 どの様な決着であろうとも。

 

「二人も相手にしてるから、ちょっと疲れちゃったかも……ね?」

 

 夕張は海面を歩いて、由良との間をじわり、と詰める。

 この近距離なら、素早く位置移動をすれば、脅威

になるのは由良の左腕に残った単装砲の一撃。

 凌ぎきれば、又、格闘の間合いになる。

 片腕が使えなければ、さっきよりはマシなやりとりができる筈だ。

 五月雨が素早い踏み込みで先を取った。

 折れて砕けた腕が交差し、脚が義手を弾き、泳いだ五月雨の上体を掌底が圧す。

 掌底を放ち、死に体となった体勢の復帰は間に合わない。

 必中距離に割り込んだ夕張の双掌打

 互いの体温を感じる程の至近距離で、一旦離した海面を掴み直しながら、脚を踏み下ろす。

 全身を水に変え、伝わる力を全てふたつの手のひらに流し込む。

 掌が、由良に触れた。

 

To Be Countinued...




いよいよ、最終決戦です。

次回、決着予定となります。

しかし、2019年の秋イベ中々キツいです。
甲乙乙乙乙と来て、E6も乙でチャレンジ中ですが、まだ輸送ゲージを削っています。

なんだか、頭痛と寒気もおさまりませんが……ちょっとずつでも書きためますです。
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