深海戦線猟綺譚 ~兵装実験艦夕張・パンドラの社~   作:八切武士

5 / 43
 

※ページを開いて下さり、ありがとうございます。
 遅筆と更新速度、文章の分量で、いつも投稿タイミングと形式については迷うのですが、新しい試みとして、書けた章から、投稿履歴をつけながら付け足し更新していってみる事に致しました。
 →と思ったのですが、同じページへの付け足しだと、更新情報が通知されないので、章ごとに別ページに小分けする形に修正しました。
----------------------------------------------

新しい朝、工房で寛いでいる夕張さんの所へ訪問者が現れます。

※戦闘、残虐行為はありません。



 【第二章 <承> ~ エイリアンハンド ~】
 【第二章 <承> エイリアンハンド 第一話】


【艦娘療養所・工房:朝】

 

 

「ん……?」

 

 ふと、指から何かぬるぬるとした感触がする事に気がついた。

 又やってしまった様だ。

 危険物破棄用のゴミ箱に、電解液まみれになった電池の残骸を棄てる。

 いい加減、フィンガーチョコの銀紙を剥く感覚で電池をバラす様な手癖は何とかした方が良さそうだ。

 工房の流しで念入りに手を洗ってから、机に戻り、便せんを見下ろした。

 三枚程度の便せんは大体埋まっている。

 今時、手書きの手紙と言うのはなんともローテクな気もするが、暇つぶしには丁度良い。

 とは言え、書き損じを量産するのも不毛なので、一旦PCのテキストで打ったものを清書していたのだが、今度は妙に単調な作業になってしまった。

 

(写経かしらね)

 

 しばらく前から、義父から来る手紙はプリンタ出力されたものに変わっている。

 ちょっと利き手を“やらかして”以来、無理矢理逆手で書いた様な文面が届いていたのだが、本人も流石に面倒くさくなったらしい。

 内容はいつも当たり障りのないものだ。

 最近の天気の話だとか、私も知ってる研究者の誰それが結婚したとか。

 仕事と技術関係の事を書かない様に縛った結果、年頃の娘と何を話したらいいのか分からない父親感が臭う文面になっていて、ちょっとおかしい。

 書く事に困って、結局最後はこちらへ最近の様子はどうだとか、こちらへの質問の方が多くなっていたりする。

 なので、一応、そこまで書く事は無いのだが、日々の生活について、ちょこちょこ返信を書いているのだ。

 まぁ、暇つぶしにはなるし。

 そんな事を考えていると、鼻をコーヒーの良い香りがくすぐった。

 この感じだと、発生源はもうだいぶ近くに居るようだ。

 

「夕張、コーヒー淹れたんだけど……又へんなの作ってるわね」

 

 工房の入り口からひょいと顔を出した発生源は、桃色の髪をしていた。

 私は、便せんを適当に折って封筒に入れながら、作業台の方に目をやった。

 作業台の上には、円筒形の物体をフレキシブルフレームで連結したものが置かれている。

 ぱっと見た目は、不格好なグレネードランチャー用の弾帯だろうか。

 まぁ、装填されているのは、艦娘仕様の対潜爆雷なのだが。

 

「そっかな、かっこいいと思うけど?」

「趣味に走りすぎじゃない」

 

 笑いながら差し出されたマグカップを慎重に受け取り、口をつける。

 芳香と苦み、程良い酸味。

 ちょっと砂糖を足してから飲む。

 

「ん、おいしい」

「この間のは結構いい感じだったじゃない、装備が沈まなくなるやつとか」

 

 不沈式回収支援装備。

 私達の手持ちの火砲は海に取り落としても取りあえず浮くし、自分の体の一部が何処にあるか位は直感的に分かる。

 だが、艤装ではない、刀や銃器類。

 妖精さん達を憑依させて造り出す補助装備はその限りではない。

 うっかり海中に取り落とせば、決して安価ではない特注装備を無くしてしまう事例は多いのだ。

 基本的な対策として、銃器はスリングで体に繋いでおくのだが、刀となると取り回しの点からそうもいかない。

 とりあえず、落としたとしても艤装と同様に浮きさえすれば後で回収できる可能性はある。

 GPSと簡単な発信装置の組み合わせの補助を加えれば更に回収は容易になるだろう。

 割と有りそうで無かった物だ。

 ま、有り物で何かを作るのは、結構得意な方だ。

 

「ん~、有り物で作ってるから、あれはもうちょっといいGPS仕込んで試したいかも、あと、視覚的にも分かり易い様に、持ち主から一定距離離れたらLEDで発光させる様にしても良いかな、んん~、それだと、今度は昼の場合が問題かぁ」

「ほんとそう言うの好きよねぇ」

 

 呆れた調子で首を振る由良の背後で、長い髪が揺れている。

 リボンで太めの房にまとめられた髪の毛はまるで尻尾の様だ。

 彼女の様に目立つ毛色をしている艦娘は、オフで出歩く場合、身元を隠すのに結構な苦労を強いられる。

 私も人の事は余り言えない髪色をしてはいるが、由良のは艦娘の中でもかなり目立つ方だと思う。

 

(ま、外出なんて出来ないんだけど……)

 

 この施設は、国立の基礎技術研究施設だ。

 少なくとも、表向きは。

 だが、その一部は、任務や日常生活に支障をきたす様な疾患や後遺症を抱えた艦娘の療養所となっている。

 “壊れた”艦娘を集めて療養させる施設があるなんて事を素直に公表すれば、周辺住民から反発が起きるのは必至だ。

 何かあった場合、アメリカの銃乱射事件の比じゃないレベルでの被害になるのは間違いない以上、住民だけじゃなくて、どこかの市民団体まで駆けつけるだろう。

 

(なんか、あの人達、私達の人権は守ってくれないのよねぇ……)

 

 “研究所”に艦娘の“勤務者”が存在するのは知られても、別段問題はない。

 しかし、実状がバレるのはよろしくない為、私達の外出は禁じられている。

 研究所職員との会話も禁止だ。

 外の空気が吸いに行けるのは、壁に囲まれた庭と、敷地に面した狭い入り江だけ。

 

「夕張、手」

 

 結構近くから声をかけられて私は我に返る。

 由良が身を乗り出して、顔をのぞき込んでいた。

 

「ぼーっとしてると、また、握りつぶしちゃうわ」

 

 私はそっと手から力を抜いて、マグを持ち上げた。

 最も厚い部分で1cm位あるこれは、冷間鍛造で自作したものだ。

 艦娘の艤装用の鋼板を使っている為、見た目以上の強度がある。

 マグの自重が中身のコーヒーよりも既に重い所が玉にきずだろうか。

 ついでだから由良の分も作ろうか聞いてみたら、丁重に固辞されてしまった。

 コーヒーに暖められ、仄かに暖まった金属の手触りがとても心地よい逸品なのだが。

 うっかり人の足の上に落とした時に、かなり痛い思いをさせてしまうのは、普通のマグだって変わらないとは思うのだけど。

 

(一定の層にはウケると思うんだけどなぁ……でも、商品化するにはちょっと高価よね)

 

 そんな馬鹿な事を考えていると、由良は自分の分のカップを机に置き、クリップボードを手に取った。

 

「ペットボトル5本、缶コーヒー3本、フォーク3本、スプーン2本、箸4膳、オフィスチェア1脚、ドアノブ2個、蛇口3つ、シャワー1本、クリップボード3枚、ki○dle1つ……夕張、破壊王でも目指してるの?」

 

 私は由良からつい、と目線をそらし、コーヒーの表面に浮かぶ細かい泡に熱心に見入っているふりをする。

 紅茶占いがあるなら、コーヒー占いがあっても良い筈ではないか。

 

 クリップボードから顔を上げた由良は、机の端に放り出されたki○dleの残骸を指さし、にっこりと私に笑いかける。

 見事なくの字に折れ曲がった本体は、一目で再起不能の現実を脳に叩きつけるに十分な存在感を放っていた。

 

「……取り敢えず、椅子とドアノブと、蛇口、シャワーは元より綺麗に直しておいたわ……ki○dleは無理だけど」

 

 私は由良と目を合わせない様、意味もなく周囲に目線をうろうろさせる。

 デスクトップ端末に接続されている金属製キーボードは、キーを一個一個削り出してからJIS配列に文字を刻み、仕上げに丁寧に墨入れした結構な労作だ。

 よくあるメンブレンじゃなくて、特製のメカニカルキーボードで、キーを押下すると、カチというより、バチン、と言う感じの重い音がする。

 指先のフィードバックだけじゃなくて、聴覚的に押し込んだ事を感じられる為、私的には壊しにくく仕上がったと思う。

 ちなみに、押下圧は計った事はないけど、流石に1kgは越えてない筈だ。

 キーボードが思ったよりうまく仕上がったのに気を良くしてマウスも金属で作ってみたのだが、こちらも結構苦労した。

 指先でひねり潰したボタンのスイッチが20個位、更に気が緩んだ拍子に握りつぶした本体5個を資源ゴミにして、ようやく普通のマウスじゃ無理そうだと見切りをつけて、ボタンを排除した指輪型のマウスをカスタムする形に落ち着いたのだ。

 これは、クリックとか、マウスジェスチャーは指輪についてるセンサーを遮って切り替える方式だから、つけたまま何か殴ったりでもしなければ壊れる事はない。

 唯一可動部の電源スイッチは指先の爪で引っ掛けて使う小さいものだ。

 目視して意識的に操作する必要があるので、幸いまだ壊した事はない。

 そう言えば、そもそもキーボードの方も投影式のバーチャルキーボードにすれば、最悪机に穴を開けるだけで済む様になる気がするが、それは今一つ気が乗らない。

 

(やっぱり、キーボードは“打ち応え”があった方が気持ちいいわよね)

 

 半ば私室と化しつつある工房は、私用に作った道具があちこちに散らばっている。

 

「やっぱり、発明王かも」

「かもね……まぁ、手を動かしてると落ち着くし」

 

 由良の穏やかな微笑を見ているのは落ち着く。

 彼女とは、この“施設”に入ってからのつき合いだが、私とは違って、彼女は“患者”ではない。

 この施設に勤める職員、役割は“看護士”と言った所か。

 極々小規模な施設なので、他に艦娘の職員としては重巡の摩耶さんが居る程度らしい。

 職員の数が最低限なのは、ここに入所している私達は“余り手の掛からない”患者だからと言う理由もある様だ。

 余り詳しく教えて貰える状況ではないが、“療養所”として機能しているのは私達が生活をしている一部施設で、別棟ではちゃんと艤装の基礎研究も実施しているらしい。

 その辺は看板に偽りはなしという事だ。

 多分、元々は本当に純粋な研究施設だった所に間借りする形で出来たのだろう。

 正直ちょっと気になるので、お隣も見学したいのだが、今の所、許可は貰えていない。

 

(君のお義父さんの所程、凄い事してる訳じゃないから面白くないよ……って、そう言う事じゃ無いのよねぇ)

 

 安全だが、いまいち変化のない療養生活をしていると、そういう所を覗けるだけでも、結構気分転換になる。

 

(て、言ったら……それで気晴らしになるのは、夕張か明石さん位よ、とか言われたのよねぇ)

 

 由良には笑われてしまったが、自分で工作機械類の設置まで全部やるなら、別棟の倉庫を工房にする許可を貰って来てくれたのだから、持つべきものは友人と言う所だ。

 埃っぽい倉庫を、最低限とは言え工房に改装するのは中々良い気分転換になった。

 ただ、改装中にノートPCからBGVとして流していた番組は由良のお気に召さなかったらしく。

 

『これと同じ事しないでよ?』

 

 と、念を押されてしまった。

 オーストラリアの会社が制作した某、爆破大好き科学検証バラエティ、あれ、かなり好きなのだが。

 ちなみに、指さされた画面では、実験上ではうまく吹き飛ぶ筈だったダミー人形にとどめを刺すべく、スタッフが念入りに高性能爆薬を仕掛けている所だった。

 

(由良が気に入ったら、ベストセレクション一緒に観ようと思ってたんだどなぁ)

 

「そうそう、今日の検診は午後15時だから」

 

 先程から、何か私が好き勝手してる事しか考えてない気がするが、ここも一応医療施設なので、定期的に“患者”は診察を受ける。

 経過と“症状”の改善具合を診て、治療計画を修正していく訳だ。

 私達の擬体と艤装に発症する異常の治療に関しては、まだまだ、初見になる症例がおおくて、施術は手探りになる。

 私達は戦闘艦だから多少の不調などつきものだ。

 それは皆受け入れている、と思う。

 けど、流石に見過ごしにできないものもあって、そのレベルの不調になると、臨床例をかき集める必要がある。

 

(握手しただけで、人の手の骨がそうめんみたいにぽりぽり崩れちゃったりとかするとね……)

 

「いつもの診察室ね」

「うん」

 

 入院の原因となった症状が治れば、めでたく退院できるけど、そう簡単に治るものなら療養所になんて押し込まれる事も無い訳で。

 少なくとも、私が入所してからは、“退院”した人の話は聞いた事がない。

 まぁ、私以外に何人の入所者が居るかと言われれば……

 

「あ、そうそう、五月雨ちゃんの部屋の洗面台が水漏れする様になっちゃったみたいなの」

「あ~、はいはい、午前中に見ておくわね」

 

 私とは違う症例で入所している五月雨ちゃん位の筈なので、退院者が出たら寂しくなるだろう。

 しかし、この建物は築何年だか知らないが、水回りや電気のインフラ設備がボロくてちょくちょく小さな故障を起こしている。

 暇だったので、分かる範囲で修理していたのだが、これもリハビリと有用な手先の軽作業になりそうだと判定されて、由良からしょっちゅうあちこちの修理を頼まれる事になってしまった。

 

(艦娘首になった時用に、ビル管理用の資格でも取っておこうかしら……電気と危険物ならもうあるけど)

 

 幸い、資格勉強する時間位幾らでもある。

 

「じゃ、手紙出しておくわね、はい鍵、預けておくわ、施錠忘れないでね」

「りょーかい、ちょっと待って……テープでいっか、と、これでよし」

 

 私は由良が差し出した鍵を受け取り、ポケットへ放り込み、手近にあった荷造り用の透明テープを手に取った。

 適当に切って封筒を封印し、由良に手渡す。

 郵便、宅配は昼までに用意しておけば、他の研究所の送付物と一緒に近くの郵便局まで持って行って貰えるらしい。

 

「それじゃ、後で」

「そうね、お昼にまた」

「あ、そう言えば、今日は肉じゃがと鳥胸肉のピカタだって言ってたっけ」

「へぇ」

 

 別棟には食堂が有るらしいが、私達の分の食事は摩耶さんが作っている。

 派手なメニューは出ないが、毎回失敗のない出来で家庭料理の域は超えていると思う。

 問題は、割とボリュームのある品目が多い事くらいだ。

 味もちょっと濃いめで、毎日現場を走りまわっている兵士なら、喜んでかき込むのは間違いない。

 もしかしたら、元は自衛隊かどこかの鎮守府で休養員をしていたのかも知れない。

 

 

 To Be Countinued……




少しでも楽しんで頂ければ幸いです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。