朝、夏希からメールが来たけどどうしたらいいか分からず放課後になった今でも悩んでいた。
「え、もうこんな時間!?雅紀は…部活かあ。どうしようかな」
時間は6時前。4時すぎに学校終わったということは約2時間近く悩んでいたようだ。部活に入ってない私は雅紀が部活終わるまでどうしようか考える。見に行くのもいいけどあんまり付きまとってたら鬱陶しいって思われるし。
「そうだ、あず姉今日部活かな?行ってみようかな」
私は教室を出て陸上部のグランドへと向かった。グランドには誰よりも早くあず姉が目に映った。
あず姉がこちらに気づく。あず姉は部員になにか声を掛けるとこちらに走ってきた。
「沙綾?どうしたの?」
「雅紀が部活終わるまで待ってようかなって思って暇だったしあず姉のとこ来たんだよ」
「もう沙綾〜!可愛いよ本当にもう!まーくんと互角すぎるよ〜」
男子と互角の可愛さってそれはなんか傷つくんだけど。まああず姉だから仕方ないか。
「……沙綾、なにかあった?」
「へ?」
「いや顔に出てないつもりだろうけどなにかあった様な顔をしてたからさ。伊達に幼馴染のお姉ちゃんしてないよ!」
ああ、本当に萩野家には適わないなあ。私以上に私のこと知ってるんじゃないだろうか。
「……あず姉、部活何時頃に終わる?」
「んーあと30分くらい?なんで?」
「ちょっと相談したいことが……」
「…ちょっと待っててね!」
そういうとあず姉は部員たちの所に走っていって一言二言話してからお辞儀をしてまたこっちに戻ってきた。
「よし、じゃあ行こうか!」
「え、部活は?」
「深刻そうだったから先にあがらせてもらったよ。着替えてくるからちょっと待っててね!」
そう言ってあず姉は部室に入って行った。本当にあず姉はいい人すぎる。私のために自分の時間を削るなんてそんなのあず姉か雅紀くらいしかしないと思う。やっぱり姉弟だよね。
5分くらいしてからあず姉が制服に着替えて戻ってきた。
「行こっか。羽沢珈琲店でいい?」
「うん。ありがとう」
私たちは校門を出て目的地の羽沢珈琲店へと足を踏み出した。雅紀には後でメールをしておいた。
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「つぐみちゃ〜んホットコーヒー2つお願いね!」
「ありがとうございます!梓さん!」
商店街に入り、5分くらいしたところに個人経営の喫茶店がある。このお店は私の親友の宇田川巴の幼馴染である、羽沢つぐみの親が経営してるお店でもある。
ちなみに宇田川家と萩野家は親戚にあたり、巴、あこ、雅紀、あず姉は従兄妹になる。
あず姉はつぐみにコーヒーを注文して本題に入る。
「それでなにがあったの?」
「これを見て欲しいんだけど」
私は今朝夏希から来たメールをあず姉に見せた。あず姉はスマホを受け取り内容を見る。
「ええと、これがどうしたの?」
「………え?」
「いや、行けばいいんじゃないのかな?沙綾が何に悩んでいるか分からないんだけど」
あず姉は本当に分からないらしく、頭の上にはてなマークが見えるような顔をしている。
「あず姉は私がCHISPAを勝手な都合で辞めたの知ってるでしょう?」
「勝手な都合ってあれは仕方ないんじゃないかな〜」
「うん、でもメンバーに何も相談せずに辞めたの。裏切ったのと一緒なんだよ。それなのに私がノコノコと来ていいとかなって思って…」
ちょうどホットコーヒーが来てあず姉はコーヒーを1口、口に含む。そしてあず姉は話し出す。
「沙綾、沙綾はどうしたいの?そのライブに行きたいの?」
「…………」
「沙綾はどう思ってるの?ゆっくりで良いから言ってごらん?」
「……分からない。行きたいと思ってるし、行きたくない…はちょっと違うかな。行けないとも思ってるの。行ったら迷惑かけちゃうんじゃないかと思うと行くのが怖い…」
いつから私はこんなに弱くなってしまったのだろうか。自分が嫌になる。こんなんじゃ雅紀にどうこう言える立場じゃない。
「ふふふ、沙綾は最近まーくんに似てきたね」
「え、雅紀に似てる?そんなことないと思うけど」
「似てる似てる。超似てるよ?まーくんも沙綾みたいに小さい事もめちゃくちゃ真剣に考えて悩むからね〜昔まーくんになにそれってレベルの相談されたしさ」
「…………」
「沙綾、ちゃんとメール読んだ?」
「え?み、見たけど…」
「じゃあそこにはなんて書いてある?」
「なにってライブ見に来ないかって……あ」
「分かった?メンバーの子は恨んだり怒ったりはしてないよ?じゃなきゃライブなんて誘わないよ」
「…………」
「そして沙綾は行きたいと思ってるって言ったね?だったら行った方が絶対いいよ」
「いいのかな…私が行ってもいいのかな…裏切った私があの子たちに会いに行っていいのかな」
「それを決めるのは私じゃなくて沙綾だよ。行くも行かないも決めるのは沙綾自身だよ」
「………私、行ってみる。行かないで後悔するより行って後悔した方がいい!」
「そっか…じゃあ行っておいで!当日はまーくん貸してあげるから!」
雅紀は物じゃないんだけどね…なんてツッコミはしない。今はこの優しさに浸っていたい。甘えていたい。
「やっぱりあず姉はすごいね」
「すごい?なにが?」
「人の心を動かすのが上手だよ。あず姉に相談しなかったら私なにもしないでいたと思う」
「ん〜多分こういう事するのは沙綾くらいだと思うよ?あとまーくんくらい?」
「え?後輩に相談されたりしないの?」
「されるけどなんていうかここまで真剣に相談に乗ることはないかなあ。沙綾は妹みたいな感じだから」
「そっか…私、なんかちょっとだけ山吹沙綾で良かったって思ったよ」
「そんなことで良かったって思われてもな〜。沙綾は自分を下に見すぎじゃないかな〜」
「それもそうかもね!あず姉まだ時間ある?」
「うん、あるよ」
「もうちょっとお話しない?ガールズトークしようよ!」
「お!いいねえ!恋バナしますか!」
それから私とあず姉は日が沈みかけるまでガールズトークを繰り広げた。
家に着いたのは8時を少し過ぎていた。
「ただいま」
「おかえり〜晩ご飯食べちゃってね」
「はーい」
私は制服を脱ぎ普段着に着替える。携帯を取り出し、メール画面を開く。
『行かせてもらいます。楽しみにしてるね』
簡潔にまとめられた文。緑のアイコンのメールアプリを開いて雅紀にメールをする。
『来週の土曜日の夕方暇?』
『ああ、部活も昼で終わるって言ってたな』
『CHISPAのライブがあるんだけどどうかな?』
『俺はいいけど沙綾は大丈夫なのか?』
『うん、大丈夫。一緒に行こ?』
『分かった。時間はまた後で決めてくれ』
『了解!おやすみ』
『おやすみ』
私は携帯を机に置いて1階に降りる。最近続いていた心のモヤモヤがほんの少しだけど解消できた気がする。
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「姉ちゃん、来週の土曜沙綾とライブ行ってくるから」
まーくんが部屋から降りてきて私にそう伝えた。沙綾は大丈夫そうだね。
「へえ、沙綾から連絡あったの?」
「ああ。CHISPAのライブ行かないかって。そういえば今朝なんか調子おかしかったから気になったんだけどなんかあったんのかな」
「それは解決だよ!私のおかげでね!」
「は?なんかあったの?」
「それは内緒だよ。いや〜それにしても姉って大変だねえ」
沙綾のために可愛い妹のためなら苦じゃないけどね!
「急になんだよ。まあいいや飯食おっと」
「まーくん今日一緒にお風呂入るのと一緒に寝るのどっちがいい?」
「うん、どっちもパスで」
「もう!まーくん!」
私はまーくんの腕に抱きつく。まーくんは嫌そうな顔をするけど決して辞めさせようとはしない。私はそれがなにより嬉しい。
ニッと笑顔をまーくんに向ける。まーくんは「なんだよ」と言ってるけどその冷たさにも優しさがあるのを私は知ってるから私は「なんでも!」って言ってさらに抱きつく力を込める。今日はこの辺で勘弁してあげようか。
沙綾、沙綾はみんなには言わないけど私は沙綾が雅紀を好きなのは知ってるよ。私は沙綾を応援するけど知っての通り私を攻略するのは大変だよ?
勝手に宣戦布告をする私であった。
着々と進んでいますね。沙綾編はもう少しかかります。
次回もお楽しみにということで!