夢を追うあなたのそばで   作:夜助

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だんだん夜は涼しくなってきましたねえ


沙綾の過去

 

5月上旬。高校生になって1ヶ月がすぎた。そして今日は約束の土曜日。CHISPAのライブに行く日だ。雅紀は急遽午前中まで練習になったらしく、午後からうちに来ることになってる。そして出来ることならCHISPAの彼女たちと話したい。私の気持ちをぶつけたい。

 

自分の勝手な都合で裏切った私には罪悪感でいっぱいだ。謝って済むことではない。でも彼女たちは許してくれると思う。あの子たちは優しいから。それが私は苦しい。思いっきり怒って欲しい。ふざけるなって。裏切り者って。

 

朝からネガティブ思考全開の中、夕方のライブのじゅんびをする。そういえば今日は香澄も来るんだっけ。彼女にも悪い事をした。今日、私の話を聞いて香澄はどう思うだろうか。幻滅しちゃうかな。それでも私は伝えなきゃいけない。私が1歩前に進むために。

 

私の本音はまたバンドをやりたい。ドラムを叩きたい。リズム隊としてまだ誰かは分からないメンバーを引っ張っていきたい。あそこは私が私でいれる場所だから。

 

少し、昔話。私は中学1年生のとき、小学校からの同級生の海野夏希たちと初心者バンドCHISPAを組んだ。楽器は当時何も知らない私たちはそれはもう必死で練習した。家族そっちのけでバンドに時間を費やしていた。その成果が現れたのか結成から2ヶ月後のCHISPAの初ライブで私たちは実力を発揮できた。観客席からはアンコールが止まらなかった。初ライブは大成功したのだ。味をしめた私はもっとバンドに力を入れた。雅紀も私たちのライブはいつも来てくれていた。

 

『俺は沙綾のドラム好きだな。めちゃくちゃかっこいいし、なんか気を引かれるんだよな。私を見ろって感じが伝わってきてさ』

 

昔、雅紀に言われたこの言葉。私はそれがすごく嬉しくてもっとドラムが好きになった。もっと上手くなりたいって思った。

 

バンド結成から1年近くたったある日、練習が終わり家に帰るとそこには誰もいなかった。商店街の集まりか何かかと思った私は特に何も気にせず、電源が切れていたスマホを充電器にさして自分の時間を過ごした。

 

お風呂からあがった私は、部屋に戻り電源が入ったスマホを目にすると画面にはたくさんの不在着信が入っていた。お父さんからだった。私はお父さんのスマホにコールをした数秒後、お父さんがでた。

 

「お父さん?どうしたの?たくさん、着信があったけど」

 

「沙綾、落ち着いて聞いてくれ……」

 

「な、なに?」

 

「……母さんが倒れた」

 

私は言葉を失った。お父さんが何を言っているのか理解が出来なかった。倒れた?なんで?商店街の集まりで家にいないんじゃないの?そういえば純と沙南はどこに行ったんだろう。ああ、だめだ。頭の中がごちゃごちゃで考えられない。

 

「……みんなはどこにいるの?」

 

「病院にいる。純と沙南も一緒だ。沙綾もこれるなら来い」

 

お父さんが言ってることも最後まで聞かず私は急いで家を出た。なんで?なんでお母さんが…私のせいなの?私が家の手伝いもしないで自分の事ばかりしてたから身体の弱いお母さんに負担がかかってたの?

 

鍵をしめて急いで私は病院へと向かった。タクシーを待ってる時間なんてない。私の出せる全速力で走った。道中はどこを通ったかほとんど記憶にない。

 

病院に着いた夜の9時を過ぎていた。看護師さんにお母さんが入院してる部屋へと案内してもらい部屋を開けた。

 

病室にはお父さんとお母さんのベットで寝ている純と沙南。そしてそのベットで静かな息をたてて寝ているお母さんがいた。

 

「…お、お母さんは?」

 

「今日、夕方頃に仕事中いきなり倒れたんだ。医者は仕事のしすぎで疲労が溜まってたんだろうって。とりあえず1ヶ月は入院みたいだ」

 

「……私のせいだ…私が家の手伝いもしないで自分のことだけしてたから……」

 

「沙綾それはちが…」

 

「違うわけない!私が自分の好きなことだけやってたから!お母さんのことなんてほとんど考えてなかった!…お母さん絶対私のこと恨んでる…それだけのことしたんだもん」

 

「沙綾、お母さんは沙綾が楽しそうで嬉しいって言ってたんだぞ?沙綾がバンドのメンバーの話をしているときも本当に楽しそうに、嬉しそうに聞いてた。そんな母さんが沙綾を恨むはずないだろう?大丈夫、お父さんを信じなさい」

 

「……それでも私の自分勝手なせいでお母さんに苦労かけさせたのは事実だよ…」

 

「沙綾、あまり重く捉えるな。沙綾はなにも悪くない。だから絶対自分を恨むんじゃない」

 

「……………」

 

「とりあえず純と沙南はここに泊まると口を聞かないからお父さんも一緒に今日だけここに泊まるけど沙綾はどうする?」

 

「…今日は帰る…学校の課題終わらせないといけないし」

 

「そうか、一応、明日は店は閉めるから。しっかり戸締りして寝るんだぞ?」

 

「うん…おやすみなさい」

 

「おやすみ」

 

優しく挨拶をしてくれたお父さんに背中を向けて私は来た道を戻っていった。

 

帰りはお父さんから貰ったお金でタクシーを拾って家へと帰った。今は何も考えられない。課題をするとは言ったけどとてもやる気なんておきない。幸い今日は金曜日で明日は学校はない。

 

自分の部屋に入って電気を付ける。雅紀の部屋を見るとカーテンは閉まっておらず、ベットに座って本を読んでいた。私の視線に気づいたのか雅紀は本を閉じてこっちに来て窓を開けた。

 

「どうした?そういえば今日沙綾んとこ誰もいないのな?沙綾?……なんかあったのか?」

 

私の状態に異変を感じたのか雅紀はいつになく真面目な顔で聞いてきた。

 

「雅紀……お母さんが倒れた……」

 

「っ!……とりあえずうちに来い。話はそっからだ」

 

私は首を縦に頷き、下へ降りて萩野家のインターホンを鳴らした。

 

『入っていいぞ』

 

インターホン越しから聞こえた雅紀の了承を得て、私は玄関のドアを開けた。

 

「お邪魔します……」

 

「俺の部屋行こう。話はそこで聞く」

 

私はおじ様とおば様とあず姉に挨拶をして雅紀の部屋に行った。

 

「とりあえず夜遅いからコーヒーだと寝れなくなるからホットココアな」

 

と言ってホットココアを出してくれた。私はそれを手に取りゆっくりと口に含んだ。

 

「んで、おばさんが倒れたって本当か?」

 

「うん、仕事やりすぎ…疲れが溜まっていって倒れちゃったみたい。元々お母さん身体の弱いから。私が最近バンドばっかりでお母さんに任せっきりだった」

 

「あーなるほどな。つまりおばさんが倒れたのは自分のせいだって思ってんのか?」

 

「うん…実際すごい迷惑かけたと思う。自分のやりたい事だけやって家の手伝いもほとんど出来てなかった」

 

「まあ最近の沙綾はバンドで忙しそうだったしな」

 

「お母さんきっと恨んでる。お父さんはそんなことないって言ってたけど恨んでるとしか思えない。だってそれほどの事したんだもん…」

 

今更になって自分がやってきたことの愚かさを痛感した。もっと早く気づいていたら、お母さんが倒れることもなかったはずなのに。タラレバな話だけど確率的にそうに違いない。

 

「沙綾、俺もおばさんが沙綾を恨んでるとは思えない。家族大好きなあのおばさんがそう簡単に恨むかよ。大丈夫、俺を信じろ」

 

似たような事をお父さんにも言われたのを思い出した。基本私は雅紀を信用している。もちろんお父さんも。たけど私はその日だけは……

 

 

 

雅紀を信じる事は出来なかった。

 

 

 

そして私はしばらくバンドを休んだ。お母さんの看病をするために。ある日お母さんに言われた。「バンドはどうしたの?」と。

 

私は「大丈夫だよ」と言ったがそんな事はない。夏希たちには何も言わずしばらく休むとしか伝えてない。最初は理由も聞かれたけどお母さんの事を言うのは出来なかった。

 

それから1ヶ月後お母さんが退院した時に…………

 

私はCHISPAを脱退した。

 

当然、夏希たちには反対された。いくらなんでも急すぎると。喧嘩ににもなった。それでも私の決意は揺るがなかった。理由を言ったら納得してくれるだろう。それでも私言わなかった。彼女たちに心配をかけたくなかったから。最終的に無理矢理納得してもらってCHISPAを辞めた。

 

そして私は我儘になるのを辞めた。家族のために私の時間を費やす。そう決めた。

 

 

 

 

 

 

これが私の過去。時計を見るともうすぐ家を出る時間だ。するとインターホンが鳴った。おそらく雅紀だろう。

 

「はーい」

 

『俺だよ』

 

「入っていいよー」

 

半分オレオレ詐欺のような言い方をする雅紀。普通誰かと聞くだろうけど昔からずっと聞いてる声を私が聞き間違えるはずがない。

 

玄関のドアが開かれ、リビングへと向かう足音。数秒後ドアを開けたのは当然雅紀だ。

 

「おっす、遅れた」

 

「大丈夫だよ。部活お疲れ様」

 

「まあ午前中で終わったし疲れるってことはないんだけどな。姉ちゃんの相手してたら遅れた」

 

部活よりもあず姉に疲れたのか、大変だったろうなあ。

 

 

それからしばらくしてから私たちは家を出た。香澄との待ち合わせの近くの公園に行くともう既に香澄はいた。こちらに気づいたのようで手を大きく振ってこっちへと走ってきた。

 

「やっほー2人とも!」

 

「おう、そんじゃあ行くか」

 

「そうだね。行こっか」

 

ライブハウスであるSPACEはここからあるいて10分くらいのところだ。私たちは軽く雑談しながら目的地へと向かった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「うわ〜多いね!」

 

「まあ、ライブをするのはCHISPAだけじゃないしなRoseliaとかも出るんだっけ?」

 

「Roselia?」

 

「私たちと同じ女子高生と女子中学生のバンドだよ。雅紀の従妹もいるんだよ」

 

「へえ!楽しみ!」

 

会場に着いてチケットを店員に見せる。小さなライブハウスだけど観客はたくさんいる。それだけ今回のバンドは人気があるんだろう。CHISPAも有名になったんだなあ。

 

それから数分後、開演のブザーが鳴り、遂にライブが始まった。ブログラムを見るとCHISPAは最後から2番目、Roseliaは背後のようだ。

 

始まった。私の運命が決まるかもしれないライブが。この時はそんなな事を考えていた。

 

そしてその運命は悪い方向へと進んでいることをこの時私はまだ知る由もなかった。

 

 




バンドリがローソンとコラボしてますね!

沙綾のクリアファイルと全部のポスターゲットしました。
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