私たちがいるライブハウスは小さなところだけど、それ以上に観客が多い。何処も彼処も人だかりで身動きとるのが大変だ。今回のバンド数は6組、CHISPAは5番目だ。
「戸山のバンドはライブしないのか?」
雅紀が香澄にそう聞いた。香澄は回答に少し間が空き、ゆっくりと答えた。
「……私たちのバンドはドラムが足りないの。ドラムがいないバンドでもいいと思うけど…私は知ってるだよ。ドラムが引っ張っていくバンドはとってもキラキラしてて、とってもかっこいいの。だからね、私は妥協したくない。最高にキラキラして最高にかっこいいバンドで挑みたいの…だからね?私は沙綾を絶対に諦めないよ!」
香澄はえへへと笑顔を作りそう言った。香澄のその言葉に私はとてと心を動かされた。香澄の気持ちを知った私は思ってしまった。
『やっぱり香澄たちとバンドを組みたい。香澄たちを支えたい』
ふと雅紀を見る。雅紀は私の視線と気持ちに気づいたようで優しい口調で言ってくれた。
「沙綾のやりたいようにやりなよ。俺はどっちに進んでも応援するさ」
その暖かい言葉に包まれて私は意志を固めた。ちゃんとCHISPAと話し合って和解する。そして……香澄のバンドに入ろう。
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4組のバンドが終わり次は私のメインであるCHISPAの番になった。
「いよいよだな」
「うん……」
やっぱり少し緊張する。どんなライブをするんだろう。私が抜けた後のCHISPAを私は知らない。ライブに行くこともなかったから。
数分後CHISPAがステージにあがった。夏希がスタンドマイクに近づいた。
『みなさんこんばんは!CHISPAです!私たちの音楽でもっもっと盛り上がってください!』
始まった曲は私もよく知ってる『Be shine,shining!』私たちの原点、デビュー作だ。
ドラムはいないけど昔以上の演奏だ。夏希たちあれから頑張ってたんだなあ。それから3曲歌って次が最後の曲になった。
『みなさん!次が最後の曲になります!……その前に少しいいですか?』
夏希はスタンドマイクからマイクを取り外し手に持って言葉を続ける。
『実は今日、このライブに私たちCHISPAにとって、とっても…とっても大切な友だちが来てるんです。2年前までCHISPAのドラムとして私たちを支えてくれていた大切な友だちです。2年前、中学生の時私たちは喧嘩をしてしまいました。その子がCHISPAを辞めると言ったんです。もちろん反対しました。その子の意思も聞かないで揉め合いになって、そこから2年間一言も喋ることがありませんでした。高校も同じになったのに顔を合わすこともありませんでした。』
夏希は私たちの過去を語りだした。それは私が犯した過ち。許されることの無い過去。
『ある時私はその友だちの幼馴染みに聞きました。その子が辞めた理由を。その幼馴染みは教えてくれました。理由はここでは言えません、プライバシーに関わるから。その理由を聞いて私は心の底から自分を憎みました、悔やみました。なんて事をしてしまったんだろうって』
夏希たちが悔やむ必要なんてないじゃない。悪いのは私なのに。裏切った私が悪いのに。そんな顔しないでよ……
『ねえ、沙綾?あの時あそこで紗綾の話聞いてたらこんなことにはならなかったのかな?あの時間違えてなかったら今でも一緒にバンド出来たのかな』
夏希は半分涙を浮かべながらそう問いかける。私は何も言えない。口に出すことが出来ない。出るのは両目から流れ落ちる涙だけだった。
『最後の曲はその大切な友だちに向けて作った新曲です。聴いてくだい』
『ごめんね』
始まった曲はCHISPA特有の楽しい曲ではなく。ゆっくりと流れる静かな曲だった。
『今でも思い出すよ君と出会ったあの時
君と過ごした今までが大切な思い出だった
どうしてかな?思い出すと涙が止まらないよ』
その曲を聴くとみんなと出会ったあの頃を思い出した。楽しかった思い出。練習で意見の食い違いでの喧嘩。あの頃の思い出が走馬灯のように巡ってくる。
『ねえあなたは今なにを思ってるの?
ねえあなたはどうして涙を見せてくれないの?
私ってそんなに頼りないかな?
私はあなたに伝えたい事がある
本当に本当に
ごめんね』
もう涙が止まらない。周りを気にせず私は泣き崩れてしまった。香澄は私を心配している。
「……海野は俺が沙綾について話したときこう言ってた。『紗綾には悪いことしちゃった。私たちのこと憎んでるよね。本当にごめんなさい』てな。あいつめちゃくちゃ泣きながら自分を憎んでたよ。やっぱりあいつらは沙綾の事が大好きなんだな。この曲からそれがものすごく伝わってくる」
「うん……うん……」
まともに喋ること事が出来ず私は頷くことしかできない。
『CHISPAでした。ありがとうございました!』
夏希は最後まで歌いきりCHISPAのみんなは涙を流したがら舞台を降りた。観客も所々で涙を流してる人もいた。
夏希たちは自分たちの思いを打ち明けてくれた。次は私の番だ。
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最後のバンドのRoseliaのライブを見た後、私たちはCHISPAの楽屋へと向かった。
「あ、雅兄!来てたんだ!」
楽屋に向かう途中、Roseliaのメンバーと会った。雅紀の従妹のあこは雅紀を見つけると思いっきり抱きついた。
「おう、あこ。今日のライブもかっこよかったぞ」
「えへへ、そうでしょう!」
「雅紀、今日のライブについての感想を聞きたいのだけど今からファミレスに行かないかしら?」
「あーごめんなさい湊先輩。今日はちょっと無理です。また今度でいいですか?その時は奢りますんで」
「べ、別に奢らなくてもいいのだけれど…無理なら仕方ないわね。また日を改めましょう」
「とりあえず今言えることはやっぱりRoseliaは最高にかっこいいっすね!益々ファンになっちゃいました」
「そ、そう。それなら良かったわ」
「あれ〜?友希那なんか顔赤いよ?」ニヤニヤ
「り、リサ!」
「ごめんね雅紀?友希那が迷惑かけちゃって」
「いや?別に迷惑なんておもってないですけど?」
「ならよかった!沙綾も久しぶりだね?…あれ?目が赤いけど…ああ、そういう事かあ。確かにあれは涙出ちゃうよね」
リサさんどうやらすぐに察したようだ。
「あの後観客をこちらに振り向かせるの大変だったわ」
「あはは〜身内がご迷惑かけたみたいで」
「でもとてもいいライブだったわ。これから行くのでしょ?伝えておいてくれないかしから?」
「はい!」
「あれ?そっちにいる子は?」
リサさんは香澄の方を見てそう聞いた。
「わ、私、Poppin’Partyってバンドでギターボーカルしてます。戸山香澄っていいます!よろしくお願いします!」
「戸山さんね。こちらこそよろしく。あなたたちのライブがあったら教えてちょうだい。見に行かせて貰うわ」
「ありがとうございます!」
「じゃあ私たちはこれで」
「ええ、しっかり話し合ってちょうだい」
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コンコン
「はーい」
「…私、沙綾だけど」
「!!……入っていいよ」
楽屋の扉を開けるとCHISPAのメンバーが帰りの支度をしていた。4人とも目が赤い。さっきまで泣いていたのだろう。
「久しぶりみんな。ライブすごくよかった」
「ありがとうね!……沙綾あの時は本当にごめ…」
「ごめんなさい!」
「え?」
「夏希たちは何も悪くない!あの時相談もしないで勝手に辞めちゃってみんなに迷惑かけた私が悪いの!」
これは本当に思っていること気持ちはとても嬉しい。こんな私に謝ってくれるんだから。だけど違う。悪いのは私なのだ。
「そんなことない!」
「え?」
「沙綾は当たり前の事をしたの!萩野君から聞いた。私たちに心配かけたくなかったんでしょ?紗綾は何も悪くない!悪いのは理由も聞かないで勝手に怒った私たちだよ」
「夏希……」
「本当にごめんなさい!」
「…………」
「沙綾、沙綾は2年間苦しんだ。でもそれは沙綾だけじゃない。海野たちも2年間苦しんだんだ。そしてこいつらは沙綾の苦しみを解放しようとしている。まあこれで沙綾の苦しみを解放出来るのかは分からないけどな。今度は沙綾がこいつらの苦しみを解放してやる番じゃないのか?」
雅紀の話を聞いて分かった。私が苦しんでたと同等に夏希たちも苦しんでたんだ。だとしたら私がすることはただ一つ。
「うん、許す。私もごめんね」
それを言うや否や私たちは思いっきり抱き合った。思いっきり涙を流しながら。
「ごめんね、ごめんね、ごめんね沙綾」
「私もごめんね、本当にごめんね」
「はあ、やっと解決したか。長かったな」
5人で抱き合って泣いた。2年間分の涙を。我慢してた2年分を流しあった。
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「それで沙綾はまた私たちのバンドに入ってくれるの?」
「その事なんだけど……」
私は香澄の方を向いた。香澄は心配そうにこちらを向く。そんな心配そうな顔しないでよ。裏切らないよ。ずっと私に声をかけてくれたんだから。
「私、ここにいる香澄のバンドに入ろうと思うんだ。だからCHISPAには戻れない。ごめんね、また我儘言って」
「そっか、沙綾には新しい居場所が出来たんだね、よかった。香澄ちゃん沙綾をよろしくね?」
「っ!うん!」
「よし!じゃあ仲直りもした事だし帰るか!」
「そうだね!」
その時私のスマホが鳴った。
「もしもし?お父さん?」
それはあまりにも残酷な
「え?……お母さんが……倒れた……?」
悪夢の電話だった。
書いてて涙流してました。アホですよね。
沙綾編もあと少しです!