それは俺の所属するクラブチームのリーグである、シニアリーグの全国予選決勝での出来事だった。
「雅紀、頼むピッチャー交代してくれねえか…」
「は?何言ってんだ?最終回で下手したらサヨナラ負けのこのピンチを抑えれるピッチャーうちのメンツでいるかよ!だいたいお前のパスボールでこんな事なってんだぞ!?」
「…だからだよ…」
「…は?」
「お前のボールが捕れねえんだよ。これ以上お前が投げてたらパスボールで俺の責任になるんだよ…だから頼む、代わってくれ…」
「……なんだよ…それ……」
「どうした?なにかあったのか?」
「……なんでもないです監督。ちょっと爪が割れかけてるんでピッチャー交代してもらっていいですか」
「あ、ああ。ベンチで休んでなさい。真中!ピッチャー交代だ!」
俺は交代選手の真中にボールを預け何も考えられなくなり、とぼとぼとマウンドを降りた。
「……すまない」
謝るくらいなら最初から交代なんかするなよ。俺は謝罪になにも反応を起こさず、そのままベンチ裏へと入っていった。
ベンチ裏で悔しい思いを壁にぶつけるように殴った。利き腕である左の拳からは血が垂れ、指は腫れがっていた。
「アドレナリン効いてんのかな…全然痛くねえ」
そのままタオルを顔にかぶせ、目の前をただ呆然と眺めてた。
カキーーン!!
直後、高音と歓声で溢れかえった球場内に気づきベンチに戻るとそこには右腕を上げ、ガッツポーズをしながらダイヤモンドを優雅に回る相手チームの4番バッターが目に焼き付けられた。
1-2のサヨナラ負け、俺が立っているはずのマウンドには膝から崩れ落ち、泣いてる控えピッチャー。
『……すまない』
なにがすまないだよ、結局負けてんじゃねえかよ。整列を済ませゲーム終了の合図と共に泣き出すチームメイトたち、俺はそいつらを置いて1人ダクトを出た。
途中知らないおっさんが俺の所にきた。おっさんは俺に挨拶をすると名刺を1枚出てきた。
「私は神奈川県横浜第3高校のスカウトをやっている者です。どうですか?君さえ良ければ私たちと一緒に野球をやりませんか?」
「はあ、でも何故自分なんですか?僕は今日試合に負けたんですよ?だったら自分じゃなくて勝った方に言えばいいじゃないですか」
「いえいえ、君に来てもらうことに意味があるんです。」
「は?」
「君は今や日本中で有名なスポーツ選手だ。その君がうちに来てくれたら全国の強豪の選手がうちに来てくれる。そして学校自体経営が良くなりうちの学校は有名な学校になるんです!」
こいつ何言ってんだ?こんなやつがスカウトやってんのか。終わってんな。
「もちろん君にはすぐにエースナンバーをあげますよ?1年の春からエースで甲子園デビュー。どうですか?悪い話じゃないでしょう?」
「帰れ……」
「はい?」
「聞こえねえのか、帰れって言ってんだよ!有名だ?そんなんいらねえんだよ!てめえは選手はなんだとおもってやがる!ビジネスの材料か?俺はお前らのおもちゃじゃねえんだよ!!」
叫んだせいか周りにいた人たちが近づいてきた。
「な!後悔するぞ!せっかくの好条件を無駄にする気か!」
「いらねえよそんなもん!こっちはイライラしてんだ。さっさと消えてくれ!」
「ちっ!ガキの分際で偉そうに!後悔することになるからな!」
「勝手に決めつけんじゃねえよ。ほら行った行った」
スカウトのおっさんは舌打ちをして反対方向へと歩いていった。
なんかもう嫌だな……こんな才能いらねえよ……
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試合後の最後のミーティングも頭に一切入ってこなかった。早く帰りたいとしか思えなかった。涙が出るくらい悔しいはずなのに俺の目には涙の欠けらも無かった。
バスが出発する前に俺はトイレを済ませバスに戻る途中前の方にチームメイト3人が会話しながら歩いていた。俺はそいつらの会話を聞いてしまった。
「いや〜しかしあいつの王様感どうにかならないもんかね」
「ずっと捕ってきたお前はどうよ?」
「まあ正直めんどくさかったよな、でもそれも今日で終わりだな!」
は?王様?俺の事か?確かにマウンド上の王様なんて相手チームやマスコミには言われてたけど。なによりずっと相棒だと思っていたキャッチャーのあいつにそんな事を言われたことが1番ショックだった。
「そういえば雅紀いろんな強豪校から推薦来てたよな」
「行ったとしてもあの王様じゃ先輩たちから嫌われて野球どころじゃないんじゃね?」
「はは!言えてる!3年間応援席守ってるよ!」
「……なあ…」
俺は3人のところまで近づいて出したことの無いくらい低い声を放った。
「ま、雅紀!き、聞いてたのか?」
「ほ、本心じゃないからな!冗談にきまってんじゃん……」
「本人がいないところで言うセリフが冗談なわけないだろ?」
「…くっ……」
「悲しいなあ、まさかお前たちがそんなこと思ってたなんてな」
「………すまない」
「すまない?さっきも言ってたよな?すまないって何回謝んだ?思ってもねえこと軽々しく口にすんじゃねえよ気持ち悪い」
「俺はもうどうでもいい、悪口だろうがなんだろうが好きにしてくれ。もう絡むこともねえんだしな」
「ま、雅紀!」
「あ〜あと一つ、俺もう野球やんねえから」
「…は?」
「まあお前らに言うのも意味わかんねえ話だけどな。一応チームメイトだったお前たちには言っておこうって思ってな」
「ま、待てよ!強豪校から沢山推薦来てたじゃねえか!甲子園だって狙えるすげえとこに!そんな簡単に辞めていいのかよ!」
「あ〜なんかもうどうでも良くなってきた。お前らは俺に気にせず好きにやってくれよ、じゃあな」
その後あいつらと一緒のバスに乗りたくなかった俺は監督に体調が悪いから両親と帰ることを伝え、荷物を車に乗せ家族で家に帰った。
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沙綾と話した後俺は両親にも話した。テーブルに座ってもらい、横には沙綾が大丈夫と手を握ってくれている。
「父さん、母さん。悪い、俺もう高校では野球やんねえわ」
「ど、どうしたんだ雅紀?ちょっと前までは7校も推薦が来たって騒いでたじゃないか」
「まあ色々とねとにかくもうやりたくねえんだ…野球」
「……そう、母さんは反対しないわよ。あなたが幸せに生きていけるならそれでいいわ。ね?あなた?」
「そうだな、もったいない気もするが俺と母さんはお前の幸せが一番だ。だから俺も反対しない」
「父さん…母さん…」
溢れ出てきそうな涙を堪え、俺はありがとうと伝えた。
「その代わりちゃんと高校は行きなさいよ?今から勉強はかなり大変だけどまあ雅紀の頭なら問題ないとおもうのだけど」
「おじ様、おば様!そこで私に提案があるのですけどいいですか?」
「ん?なんだい?沙綾ちゃん」
「雅紀を私と同じ花咲川に行かせてもらえないですか?」
「花咲川ねえ、まあ学力は問題ないけど雅紀はどうなんだ?」
「まあ行けるならどこでもいいって感じかな」
「沙綾ちゃん高校でもこいつのめんどう見てくれるかな?」
「め、めんどうってガキかよ俺は」
「全然ガキでしょ!はい!任せてください!」
そうして半年間しっかり勉強して、俺と沙綾は無事合格し、花咲川学園に入学することになった。
設定
萩野雅紀
身長171cm、体重62キロ、左利き、中学までピッチャーをしてきた。球速147km、キレのある変化球と伸びのあるストレートで注目されていた。小さい頃からの趣味&沙綾の練習に付き合ったりするのでギターとベースはぶっちゃけプロ並みに弾ける。母がピアノをやっていて、昔からピアノをしている。コンクール金賞とったこともある。
花咲川女子高校はこの話では共学となっております!
ぶっちゃけ中3で147とか馬鹿じゃねえの?って話ですけどあくまで物語ですので……
次回もちゃんと出します!今後ともよろしくお願いします!