退院してから1週間ちょい。ずっと俺は悩んでいた。
沙綾と約束して野球とちゃんと向き合うと決めた。だけどそう簡単にいくわけが無い。まあ結局は俺の気持ち次第なんだけどな。
なかなか寝付けず気づいたら外ではスズメが朝の挨拶をするようにあっちこっちで鳴いている。
「野球とちゃんと向き合う……か。沙綾にはそう言ったけど実際出来たら苦労しねえんだよなあ。あ、そういえば勝負はどうなったんだ?」
勝負は俺のホームランで勝ちだろうけど向こうの性格からしてそんな簡単に引き下がんのか?まだ会って1日しか経ってねえけどめんどくさい性格だと言うことははっきりと分かった。
「……5時半か…寝よ!」
ただでさえ寝てないんだ。少しでも睡眠を取らねえと授業初日から寝るなんて悪目立ちだけはごめんだからな。
「沙綾は7時に来るしまだ余裕だな……」
ガチャ
「………母さん?」
「あれ?起きてたの?残念でした、私だよ〜」
「さ、沙綾!?なんでこんな早い時間から。ていうか店の仕事はどうした?」
「いや〜それがお店はいいから旦那さんの様子見て来いってお父さんがねえ。家はおば様に入れてもらったよ」
「……旦那さんはねえだろ、おじさん…」
いくら幼馴染でも沙綾に手出せねえよ。ていうか父親なら娘もっと大事にしろよ!
「あはは…それより体調大丈夫?」
「ああ、普通に学校は行けるよ」
「よかったあ。それにしてもなんでこんな早い時間に起きてるの?」
「ん?ああ、寝てねえからな…だけど今更眠くなってきた」
「はあ!?寝なよ!なにしてんの?」
「なかなか寝付けなかったんだよ。だから少し寝る。いつもの時間に起こして」
「はいはい。おやすみ」
そう言って沙綾は俺に毛布を掛ける。いや子どもじゃないんだから自分出来るよ。ツッコむのもめんどくせえから言わねえけど。
「……沙綾」
「うん?」
「寝るまで手握っててくんね?なんかそんな気分」
「どういう気分よ…まあいいけどさ、はいどうぞ」
「ありがとう…暖かいな沙綾の……手…」
沙綾の手の中で俺は眠りについた。
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「寝ちゃった…」
雅紀は私の手を握ったまま、すやすやと寝てる。
「ふふ、寝顔は昔から変わんなくて可愛いね」
誰に言ってるわけでもない独り言を呟き雅紀の手を触る。昔から手のひらにあったバットで出来た硬い豆はいつの間にか無くなって綺麗な手になっていた。
「大きくなったな〜雅紀の手…昔はほとんど一緒だったのに」
身長もいつの間にか私より大きくなって見上げる状態になってしまった。なんか悔しい。
「雅紀…雅紀は私が守るからね…」
そう言いながら私は雅紀の寝顔を堪能していた。
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「雅紀、体調は大丈夫か?」
今は朝のHR前の時間。学校に着くや否や快斗から容態を聞かれた。
「ああ、1週間もあれば大丈夫だ。心配かけたな」
「いや、大丈夫だ。それより昼休み時間あるか?」
「昼?まあ、あるけど。どうした?」
「いや、ちょっと確認したい事があってな……」
「?今じゃだめなのか?」
「もうすぐHRだしな。ゆっくりした時間に取りたくて」
「まあいいけど」
「悪いな。じゃあまた後で」
快斗はそう言って自分の席に戻って行った。
「あ、弁当忘れた」
「はい、これ。おば様に渡されたよ」
「んあ?おお!サンキューな!」
「全くそういうとこ抜けてるよね、雅紀って」
「悪かったな。間抜けで!」
あははと笑って沙綾も自分の席に戻った。その時の笑顔が可愛いかったのはあいつにはぜってえ言わねえ。
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時刻は12時。お楽しみ昼食タイムだ。え?授業はどうだったのかだって?正直睡魔との戦いでそれどころではありませんでした。
「んで?話ってなんだよ?」
今は屋上で春風に当たりながら弁当を食べてる。教室でも、よかったんだけど快斗が深刻そうな顔してたから人の少ないところにした。
「……吉田さんから聞いたんだけどな、お前ってあの萩野雅紀なのか?」
「……は?どの萩野雅紀だよ」
「神に選ばれし男だよ」
「…………」
まさかここであの名が出るとは思わず俺はつい無言になってしまった。
「無言は肯定ととるぞ」
「なんで吉田さんはその名を知ってんだ?」
「さあ?でも神に選ばれし男は有名だから。野球してなくても耳にしたことくらいはあるだろうよ」
「はあ。バレたかあ。そうだよ。本当に遺憾だけど俺がその萩野雅紀だよ」
「……なあ?2つ聞いていいか?」
「なに?」
「なんで野球辞めちまったんだ?そしてなんでこの高校に来たんだ?」
ここまで来たら誤魔化すのも無理だろう。俺はあったことを正直に話した。そのときの快斗の表情は悔しそうだったり悲しそうな顔をしていた。
「とまあこんな感じかな」
「…悪いな。辛いこと話させちまって」
「いいよ、このくらい。それで昨日倒れたのは野球に対する思いが身体に出たって感じだ」
「なあ、この話聞いといて今言うことでは絶対ないだろうと思うんだけど言っていいか?」
「まあ内容によるけど……」
「雅紀、お前うちの野球部入れよ」
「うん、話きいてたか?野球が出来る身体じゃねえんだよ」
「元チームメイトのやつらにそんな事言われて悔しくないのか?」
「悔しいさ。けどなんだろうな。ああそうですかって思う自分もいるんだよ」
信頼してた仲間からの本音の言葉。しかも自分の悪口になにも思わないわけがない。
「まだ出会って日も浅いけどこれだけは確実に言えるぞ?昔のお前は逃げてんだよ」
「はあ?」
「結局楽な方に逃げてんだろお前。立ち向かおうって勇気がないんだろ?」
「…………」
「でも今は違う。向き合おうって気持ちになれたんだろ?じゃあうちの野球部入った方が早いんじゃねえか?」
「でもな?俺の話にも出たとおり俺の球を捕れるやつなんて…「俺が捕る!」…は?」
「だから!俺が捕るって言ったんだよ。それで解決じゃねえか」
「お前簡単に言うなよ?自慢じゃねえけど俺の球捕れる捕手なんて甲子園出場常連高の奴かプロ注のやつくらいなんだよ!」
「毎日お前のボールを捕ればいいじゃねえか。いいか?どんなにバッティングが良くてリード構成が上手い捕手でもキャッチングが下手くそなら使い物にならないんだよ。捕手ってのは投手に気持ち良く投げてもらうのが1番大事なことだからな。まあ大事なことは他にもあるけどよ」
「それとこれとは話が違う」
「いや、違うことはない。日本No.1の投手そしてそれを支える捕手これが揃えば正直怖いものなくないか?お前がダメになったのもあんまり言いたくはないがその時のバッテリーが原因の1つだろ?」
「…………」
「だったら話が早い。俺が捕れるようになればいいだけだ。過去のこと?そんなの今更気にすんなよ。メディア?そんなの虫だと思えよ!」
「は、はあ!?」
「正直言うぞ?俺はお前とバッテリーが組みたい!お前と一緒に甲子園の舞台に行きたい!そして…お前と一緒に日本一の景色が見たい!」
「!!!!!!」
「俺が…いや俺たちチームメイトが!お前の心の曇りを!めちゃくちゃ綺麗な青空にきてやる」
「はは!なに臭いこと言ってんだよ!」
「う、うるせえ!」
こいつは今までのやつとは違う。そんな気がしてきた。だけどそれではい分かりましたと言えるほど単純ではない。
「………1週間……」
「は?」
「1週間だけ待ってくれないか?答えはその時出させてくれ」
「いつでも待ってやるよ。お前がその気になってくれるならいつまでも待ってやる!」
西島快斗という男はお人好しすぎる。いつか詐欺にあうんじゃねえかってくらいにはお人好しすぎる。でもそんなこいつに救われた気もする。
だからこそ、俺も本気で考えなくてはならない。この選択が俺の運命を大きく変える。
俺は弁当箱を片付け背を快斗に見せる。そして「じゃあな」と言い屋上を後にする。とりあえず1週間ちゃんと考えてみるか。
「雅紀、俺は絶対お前を1人にしない。絶対にだ」
快斗が後ろで呟いていたが俺にはその言葉はきこえなかった。
なんか友情もんの作品になってしまった。
え?バッテリー?って書きながらひとりツッコミしてました。