「沙綾!軽く投げるからグローブもってキャッチャー着いてくんね?」
「い、いいけど。流石に本気は捕れないからね?」
俺は今日自分の運命を切り開くために快斗に3打席勝負を申し込んだ。この勝負で全てが決まる。お互い全力で。本気を出し合う。
「分かってるって。じゃあいくぞー!」
パシッ!!!
うん、大丈夫だ。動悸も無い。神様、あんたが俺を選んでくれたならこの勝負だけは何も起こさせないでくれ。す
「あと5球な!」そ
パシッ!!!
「沙綾ちゃん、キャッチング上手いね。昔からあいつの球捕ってたの?」
「そうだよ。雅紀が野球を始めた頃からずっとね。おかけであの時は手が腫れちゃってね。それでも雅紀に心配かけたくなかったから言わないで我慢して捕り続けたこともあったよ。流石に今の雅紀に本気で投げられたら捕れないけどね」
「へえ、幼馴染って苦労すんのな!」
「ふふ、私より西島君が1番苦労するよ?」
「へ?なんで?」
「だって西島君、雅紀とバッテリー組んでくれるんでしょ?雅紀の本気のボールは生半可な努力じゃ絶対捕れないから」
「……その言い方だと沙綾ちゃん雅紀が戻ってくれると思ってるんだね?」
「思ってるっていうか確信だよ。だからそのためにも西島君、絶対雅紀に勝ってね!…雅紀のために本気でぶつかってあげて」
「……沙綾ちゃん、俺だって男だ。喧嘩売られたら買ってかつ勝たなきゃならねえんだよ」
「あいつのためにも俺は負けない!」
「……ありがとう」
「よし準備できた。沙綾、サンキューな。戻っていいぞー!」
「はーい。西島君!頑張って!」
「おう!」
俺は目を閉じ顔を空に向けマウンドで大きく空気を吸い、息を吐く。高ぶる気持ちを落ち着かせる。昔からやってるルーティンってやつだ。
「よし、いくぞ快斗!今から投げるボールはアップとは訳が違うからな……」
「来い!雅紀!」
俺は両腕を大きく振りかぶり流れに沿うように右足を大きく挙げる。初球はど真ん中に全力ストレート。
ゴゴゴゴとうねりをあげるボールは快斗の横を突っ切った。快斗はそのボールに手を出すことは出来なかった。
「こ、こいつ…やっぱバケモンだな」
「バケモンとはなんだ。それよりワンストライクだぞ」
「分かってるよ。来いよ!」
2球目はインコースにスライダー。キレのある俺の得意球だ。快斗はえぐい角度で曲がるボールに身体を仰け反らした。
「ストライクツー!」
バックネット裏で沙綾がジャッジをする。
「だそうだ。大丈夫か?次で三振しちゃうぞ?」
「……誰が3球で終わらすかよバカ!」
「生意気言いやがって!見てろ!」
3球目は決め球のチェンジアップ。この3球の配球は俺が1番自信を持って投げることが出来るボールだ。ほかにも色々球種はあるがこの3つは最強になるために研究しまくった俺の絶対勝利のボールだ。
さっきの2球とは訳が違い、速度がかなり落ちる。腕の振り方はストレートと全く一緒でシンカーのように沈みながら100キロに満たないボール150キロ近いボールを待っていてこのボールを投げられたら対応はほぼ皆無だ。
「ぬうお!!」
「これで、さんし…「カキン」じゃない?!」
「へへ、3球で終わらせねえって言ったろ?ほら次投げろよ」
「くそ!」
まさか当てるとは思わなかった。手を抜いた訳じゃない。それなのに対応してきやがった。やべえ鳥肌が収まらねえ!
次はストレートを投げ快斗は三振。最初の勝負は俺に軍配が挙がった。
「くそ!これが神に選ばれし男のピッチングかよ。雅紀!いいボール投げるじゃねえか!」
「はは!負けてるやつがなんでそんな上からなんだよ!」
「う、うるせえ!さっさと投げろよ!」
俺は快斗のため、そして俺自身のために次のボールも全力で投げる。
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雅紀が……笑ってる。あんなに辛くて苦しくて野球中に笑顔を見せることがなくなった雅紀が笑ってる?
戻ってるの?あの頃の…純粋に野球を楽しんでた雅紀に戻ってきてるの?
2打席目、西島君は3球三振。でもただの三振じゃない。3球とも全力でバットを振って3球空を切っての三振。西島君、約束通り全力でやってくれてるんだ。
「くそっ!!当たんねえ!」
「西島君!頑張って!振れるってことはボールは見えてる証拠だよ!」
「沙綾ちゃん…」
「こら沙綾!なんで快斗の応援はして俺の応援はしないんだよ!」
「西島君頑張れ!」
「おい!」
普段は雅紀の応援をしてる。でも今日は
お願い西島君、雅紀にしがみついてる鎖を解いてあげて…まとわりついてる呪縛から解放してあげて!
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「いくぞ快斗!最後の打席だ!!」
次の打席で全てが決まる。俺は更にギアを上げていく。
「……なあ、雅紀。お前今楽しいか?」
「は?」
「俺は楽しいぞ。負けてるけどな、こんな熱い勝負今までしたことが無い!7球中1球しかバットに当たってねえけどさ最高に楽しいんだよ!お前はどうだ!」
「……ああ、楽しいよ。こんなに楽しいって思ったのは久しぶりだ!次も三振だ!後悔すんなよ!」
「は!笑わせんな!ウサギとカメって言葉知ってるか?あんまり舐めてっと痛い目あうぜ!」
言いやがったなこいつ。その減らず口を叩いてやるよ!
俺は2球続けてストレートを投げる、2球とも快斗はバットに当てることが出来ない。次のボールで勝負が決まる。
「次で決める!」
「終わらせねえよ!」
俺は今日一のストレートをホームベースの真上目掛けて投げる。これで決まりだ。
カキン
「…3球連続でストレートは流石に当てれるぜ?」
俺の魂神のボールを当てやがった。舐めてた訳じゃない。ねじ伏せるつもりで投げた。それを当てられた。悔しくて堪らない。
「俺は諦めちゃいねえぞ!!お前を絶対に!!野球部に入れさせる!そして甲子園に行くんだ!」
「!!!!」
ははは!やっぱこいつ最高に面白いやつだ!その後3球連続でファールチップを打たれ快斗は粘り続けた。
「はあ、はあ。次で…終わりだ!」
「はあ、はあ。次で完璧に捉えてやる!」
ふとバックネット裏を見ると沙綾が涙を流しながら見届けていた。そういえば沙綾には今まで苦労かけさせちまったな。こんな俺によく着いてきてくれたよ。
ありがとうな、快斗。俺に本気でぶつかってくれて…そして沙綾、今までごめんな。辛い思い苦しい思いさせちまって…そしてありがとうな。こんなどうしようもない俺に優しくそして厳しく接してくれて。
俺の頭の中であるビジョンが流れた。夏の甲子園、マウンドにはエース番号1を背負う俺。そしてキャッチャーは快斗。2人して抱き合って勝利を喜び合うシーン。
「ああそういう事か。俺はもう腹は括ったってか?そうかよ!」
俺は大きく振りかぶり右足を大きく挙げる。そして的に目掛けて指からボールを離す。この1球に感謝をそして決心した気持ちを全部込めて。
カキーン!!ボールは高く上がる。俺は後ろを振り返らない。今まで俺の投げるボールを打たれてこんな打球は見たことがないがこれだけはハッキリわかった。
「俺の負けだな…」
ボールは内野を超え、外野を超え、風に乗ってフェンスの上を通過していった。
「ホームラン……」
「や、やった……やったぞ!見たか雅紀!!」
「ああ、見てたよ。お前の勝ちだ」
「……雅紀、野球部に入ってくれるか?そして一緒に日本一のバッテリーになってくれるか?」
「ああ!よろしくな相棒!一緒に拝もうぜ!日本一の景色を!」
俺と快斗は力強く握手をする。俺はこいつを信じる。そして、最高のバッテリーを目指すんだ!
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「じゃあ俺は帰るわ。入部届けは月曜日だすんだろ?」
「ああ、そうするよ」
「そっか。ああ、後な。うちの野球部坊主にしなくていいらしいから髪は切らなくていいぞ!俺は元々このスタイル好きだから坊主だけどな」
「へえ、ぶっちゃけ髪切るのめんどくさかったしありがたいな」
「……じゃあまた月曜日な」
「ああ、また。ありがとうな快斗」
快斗はこっちは振り向かず手だけを振る。カッコつけやがってよ。
「私たちも帰ろっか」
「そうだな」
俺と沙綾はダウンがてら軽くキャッチボールをし荷物を片付けをして帰路につく。
「………なかなか面白いピッチャーだったな。今年の東京は激戦区になりそうだ」
彼は何者なのか、それはいつか解き明かされるだろう。
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帰りの途中、俺は沙綾に伝えなきゃいけないことがあると言い、家の目の前の公演のベンチ座った。
「ほい、ミルクティ」
「ありがとう。はいお金」
「いらねえよ、奢りだ」
「そう?じゃあありがとう」
そう言って沙綾はお金を財布に入れミルクティに口をつける。
「沙綾、今までごめんな?辛い思い苦しい思いいっぱいさせてきちまって」
「…確かに辛かったり苦しかったりしたけど雅紀に比べたら全然だよ?それに雅紀のためだと思ったらへっちゃらだよ」
「それでも沙綾には迷惑をかけた。ごめん。そしてありがとう。沙綾のおかげで今の俺がある。沙綾がいなかったら今頃俺は歩く屍みたいになってたよ」
「そ、そんなマジマジと言われたらなんか照れるな……急にどうしたの?」
「いや、沙綾には感謝してもしきれない分支えられたなって思うと口に出さずにはいられなくてな」
「へえ、雅紀もそんな事考えられるんだねえ」
「当たり前だろ!感情ねえ訳じゃねえんだからな!」
俺のことロボットかなにかと思ってねえか?ちゃんとした人間だっつうの!
「あはは!冗談だよ。…雅紀、よく頑張ったね。1度閉じた扉をまたこじ開けて出てきてくれた。やっと昔の雅紀に戻ってくれた。私はそれがすごく嬉しい」
「ああ、って泣くことないだろ」
「だって……」
「はあ、沙綾。次泣く時は俺のためじゃなくて自分ために泣いてくれよ?俺の事で泣くのは甲子園で優勝する時だけだ。…いや優勝したら笑って欲しいかな?」
「ふふ、かっこつかないな〜雅紀は」
「う、うるせえ」
「ねえ雅紀…」
「うん?」
「私を絶対甲子園に連れてってね!」
「……ああ!」
俺たち2人は約束をし指切りをする。見届け人はあの夕日って事で。
「なあ沙綾、明日暇か?」
「明日?まあ、仕込みとか色々したら暇だけど」
「新しいスパイク欲しいからさ付き合ってくんね?」
「……うん!いいよ!あ、その代わりお昼奢るのとその後デパートで買い物も付き合ってもらうからね!」
「はあ?まあいいっか。じゃあ時間はまた後で伝えるわ」
「うん、分かった」
「あ、そういえば」
「な、なんだよ?」
沙綾が何かを思い出したかのようにこっちを向いた。
「ねえ雅紀?最後の1球さ…ちょっと手抜いたでしょ」
「……さあ、どうだかな?」
土曜日の誰もいない夕方。夕焼けが俺たち2人を優しく包み込む。そんな感じがした。
家の玄関を開けると姉ちゃんが飛び込んで抱き着いてきたのは言うまでもない。
はい!ということでここまで来ました!これからの発展に注目ですよ!!
たくさんの感想ありがとうございます!皆さんの声で僕のポテンシャルもあがります!
これからもよろしくお願いします。