艦隊これくしょん書き殴り短編集   作:このむらりく

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鈴谷さん、自殺点を決める(1勝185敗)

 緊迫した空気でないのに緊迫しているとはこれ如何に。

普段なら秘書艦は鹿島がやっているのだが、先日気絶したことも踏まえ、体調をしっかり戻すという意味で本日はお休みである。

それを告げた瞬間、この世の終わりみたいな顔をされたが、解せぬ。

鹿島に万が一の事があったら困る。鹿島にとっても、提督にとっても。

ということで、本日の秘書艦は榛名である。

そう、無自覚崇拝色々と重い系艦娘の榛名が、一日つきっきりなのだ。

正直、ヤバイ。仕事の頼り甲斐はあるし、気配りもできる。

ただ、重いのだ。その視線が、キラキラと輝いている双眸が、尊敬という二文字が――!

 

「なあ、榛名。頼みたいことがあるんだが、聞いてくれないか」

「はい、なんでしょう。夜伽ですか? 榛名は大丈夫ですよ!」

「全然違う。真っ先に浮かぶお願いがあまりにもひどすぎる。それで、誰に吹き込まれた?」

「瑞鶴さんです。提督さん、ああ見えて女好きなんだよって言ってました」

「うん、わかった。まずその認識は違うし、瑞鶴は後で呼び出ししておく」

 

 もうだめだ、胃も痛い。午前の仕事開幕から頭が痛くなった。

瑞鶴の今日の昼夜は七面鳥にしておくことを、提督は決め込んだ。

もっとも、最近は反省の色を全く見せなくなってきたので心配である。

 

「御手柔らかにお願いしますね。ただ提督にかまってもらいたいだけなんですよ、きっと」

「そういうものなのか。てっきり嫌われてるものかと」

「まさか。それに、提督を嫌うなんて恐れ多い。他の皆様が許しても、榛名が許しませんから」

 

 だから、その無償の尊敬はどこから湧き出てるんだ、と。

もう本当に怖いからやめてほしい。

提督という立場にいる以上、艦娘に気を使う仕事をしているようなものだ。

業務を円滑に遂行する為の行い――利己的な打算があるのだから、そこまで感激するのはやはり居心地が悪い。

 

「コミュニケーション、って言われても困る」

「といいますと?」

「鹿島や鈴谷みたいな秘書艦を結構やってる艦娘達は知ってるんだが、上司と部下という立場上、

 交流は控えめにしているんだ。無遠慮に付き合っていい間柄っていうのは違うしな」

「榛名は大丈夫ですよ? いつでも、夜伽、いけます!」

「ははは、冗談にしてはキツイぞ?」

「冗談ではありませんけど」

 

 怖い。真顔で夜伽とか言わないでほしい。

いざとなれば力で押し倒しかねない。一応、尊敬の二文字が常に顔に貼り付いている榛名だからないとは思うけれど。

もしも、刺激を与えて方向性が曲がってしまったら――。

貞操の危機、そのままケッコンカッコカリ。胃薬、胃薬が必要である。

 

「榛名が提督に総てを捧げるなど、当然ですので」

 

 尊敬ガンギマリのオリジナル笑顔、もう嫌だ、直視したくない。

普通ならでろでろに溶けるであろう笑顔も、提督からすると嘔吐確定である。

しかし、それを正直に口に出してしまうと榛名が轟沈しかねないので口にはしない。

地雷を設置して自分で踏むなんて誰がするものか。

 

「話は聞かせてもらいました、夜伽の話ですね!?」

「全然聞いていないかつ盗み聞きをする艦娘を呼んだ覚えはないな、榛名……仕事だ」

「はい、かしこまりました!」

「えっ、えっ! ちょっと待って下さい、ほんの出来心、おちゃめな冗談ですよ!」

 

 突然ドアを開けてドヤ顔で乱入してきた間宮を追い出して、提督は溜息をつく。

本当に何なんだ、この鎮守府。コミュを取りたがる艦娘が多くないか。

適切な距離を保て、ソーシャルディスタンスという単語を知らないのか。

 

「只今戻りました」

「ご苦労。暫く寄りつけないように榛名からは言ったと思うが」

「当然です。夜伽の役目は榛名ですのに」

「そんな役目はない。これまでも今後もない」

「提督がそう仰るなら……ご要望がある時はいつでも言ってくだされば、榛名がいたしますので」

「部下に夜伽を強いる上司になった覚えはない」

 

 一応、憲兵としての身分もあるのだ。規範になるべき自分が欲をコントロールできなくてどうするのか。

 

「さすが榛名の提督。誇り高き御心……!」

 

 もうやだ、何をしても褒めにかかる。

けなしてくれとは言わないが、フラットな態度を心がけてほしい。

 

「それ以前に、艦娘なら引く手数多なんだ。上司に媚びるより好きな奴に媚びた方がいい」

「榛名は提督が好きですよ?」

「うん、わかるわかる。わかったから、突然心臓に来る言葉を投げつけるのはやめような」

 

 怖い、本当に怖い。

裏表のない真っ直ぐキラキラ眼、本当に直視できない。

自分の浅ましさをこれでもかと映しているようで胃薬はいつもより多量だ。

そろそろ、薬の摂り過ぎで中毒になってもおかしくないのではないか。

 

「ともかく、安易に好きって言葉を投げかけるのはよくない。

 俺はともかく、他の奴等は勘違いするから注意するべきだ」

「鹿島さんとかですか?」

「鹿島は……うん、色々とあるよな」

 

 見目麗しい榛名が犬のようにしっぽを振って、好意を寄せているような言葉を出したら、大抵は勘違いする。

無垢で真っ直ぐな心にあてられたら、衝動的な行動を取られてしまう可能性だってある。

現に、鹿島は大変だった。歴戦の女王と称せられるであろう彼女を取り巻く混沌具合は入院したくなるぐらいに疲れる。

容姿や態度といったことが話題に上がりやすいが、その実、教導であったり、事務であったり、仕事面でも有能なのだ。

 

「提督も鹿島さんが好きなのですか?」

「好感を抱かない理由はないと思うが? 彼女は業務に対して真摯だからな」

 

 嘘は言ってない。

男慣れめっちゃしてるとか、裏で陰口叩かれてるんじゃないかとか。

提督が怯えに怯えまくってることを出してないだけで。

 

「なるほど。榛名も鹿島さんのように頑張らなければ……! 提督に相応しい艦娘になる為にも!」

「話は聞かせてもらったよ!!」

「……一応、俺は鈴谷達の上官だ。上官の部屋にはノックをしてから入るべきだと思わないか。

 もしも、大事な会合だったりしたらどうするんだ」

 

 うわ、出た。声にも表情にも出さないが、提督はニマニマ笑顔の鈴谷を前に、平静を保つ。

ここで相手に乗ったら終わりだ。百戦錬磨、男の扱いもお手の物であろう鈴谷に隙を見せるということは即敗北である。

 

「それは大丈夫だよー、瑞鶴が偵察機飛ばして確認した後だったから」

「瑞鶴、俺の生活脅かし過ぎじゃないか……?」

 

 迂闊な行動、言動をしているつもりはないが、今後はもっと注意深く行動した方がよさそうだ。

流石に鎮守府外では好き勝手できないが、内部ならやりたい放題だ。

 

「だって、提督がかまってくれないのが悪いし」

「仕事が忙しいからな」

「じゃあ、鈴谷も手伝う。手伝った時間分、かまってもらう」

「遠慮する。手広く手伝ってもらっても、仕事の効率が上がる訳でもなし。

 幸い、榛名は優秀で助かっているし」

「提督……!」

 

 榛名が真横で感涙のあまり目を押さえているが、見ないようにする。

突っ込んでもろくなことにならない。

 

「という訳だ、大人しく熊野にかまってもらえ」

「熊野はやだ」

「熊野が泣くぞ、そんな事言うと」

「だって、最近の提督は仕事ばっかりじゃん。コミュ、全くないじゃん」

「普通に多忙だからな。外回りもあるし」

 

 外回りもとい大和の呼び出しが何故か増えてしまったのである。

あの告白の一件から、普通に職権乱用ではと思っているが、所詮は提督も歯車、何も言えないのである。

 

「デート一回」

「瑞鶴にしてもらえ。あいつ、年中暇だろ」

「瑞鶴はアホだからやだ」

「だよなぁ」

「でしょー」

「お二人共、瑞鶴さんに聞かれたら怒られますよ」

「だってほんとのことだし」

「艦載機飛ばすわ、変な噂流すわ、ろくでもないし」

「否定はできませんけど……」

 

 それにしても困った。

毎度のことながら、鈴谷は拗ねるとめんどくさい。

ちょっとかまったら機嫌は治るから良いけれど、今回に限ってはまあまあ忙しい。

この後はまた大和に呼び出されているし、どうしたものか。

ぷっくりと頬を膨らませて拗ねかけている鈴谷だが、まだ挽回はできる。

なんだかんだでちょろい彼女は、こちらが譲歩するところころと表情を変えて機嫌が良くなるのだ。

そうすると提督が取るべき手法はもう限られていた。

 

 ――致し方ないか。

 

 あまり気は進まないが、彼女の機嫌が一時でも満たされてかつ自分に責がないように丸く収める冴えたやり方。

 

「じゃあ、外回りについてくるか?」

 

 あの大和との会合に連れて行く。

自分の正体だったり色々と隠すべき事はあるが、予め大和に連絡しておけばどうってことはない。

やりようは幾らでもある。

しかし、懸念点はどうしても拭いきれない。

ああ見えて、独占欲が強く、嫉妬深い彼女の前で鈴谷と至近距離でいたら――。

 

「…………はぁ」

 

 たぶん、鈴谷は死ぬ。

間違いなく、大和に潰される。




何だかんだで14話になってましたね、短編集とは一体……。
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