艦隊これくしょん書き殴り短編集   作:このむらりく

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あきつ丸さん、普通に負ける(0勝256敗)

「陸と海は仲が悪い、と。

 市井の噂話ではよく言われるものだが、実際の所はそこまで険悪ではない。

 ある程度の派閥争い――小競り合いは頻繁だが、軍を揺るがす程の大きさとなると数える程だ。

 深海棲艦という共通の敵がいる以上、身内で争っていては、こちらが滅ぼされる。

 今の戦況こそ落ち着いているが、酷い時は地獄と形容するしかないものであった。

 戦争というより、虐殺と蹂躙だ。

 誰もが生き延びるのに必死で、命がゴミのように消えていく。

 鎮守府近海にまで深海棲艦が進出し、港にて迎撃したことは思い出したくない。

 

 

 

 ――とまあ、提督殿の内面を赤裸々に話している訳でありますが」

「人の内面を勝手に推測してぺら回すな。

 お前のよく回る口は人を不快にすることに特化しているのか?」

 

 昼時、鎮守府外。

提督の少ない憩いの時間が、眼前の艦娘に台無しにされている。

鎮守府を出て、適当に落ち着ける食事処を探していた時のことであった。

提督に向けてひらひらと手をふる軍服の少女が視界に入ってくる。

目を細め、口元を三日月のように釣り上がらせて、ごきげんな表情であった。

瞬間、提督は即座に踵を返し、見なかったことにしようと思ったが、もう遅い。

 

 ――大声で名前を呼んでくれやがって、クソッタレ。

 

 提督限定で嫌がらせスキルが高水準であろうあきつ丸に捕まり、昼食を共に取ることになった。

 

「それで、本題をさっさと言え」

「はて、本題とは?」

「惚けるなよ。まさか、俺をからかう為だけにこっちに来たのか?」

「そうでありますが、なにか?

 せつなくて、恋しくて、提督殿に会いに来たいじらしい艦娘でありますよ」

「冗談でもやめてくれ、気持ち悪い。

 それに嫌がらせだったとしてもだ、お前ならもっとえげつない手段を取る。

 少なくとも、鎮守府にまで来て、艦娘達にみせびらかすようにやるはずだ。

 あいつらの前では猫を被ってる俺を面白がってよ」

「本音でありますのに。提督殿は自分のことを鬼か悪魔だと思っているのですか……」

「今までの振る舞いを顧みろ」

 

 蕎麦を啜りながら、提督は顰めた表情を隠さずに言葉を返す。

たいてい、あきつ丸と一緒にいるときにろくなことが起こった試しがない。

砲声轟く戦場では絶対に肩を並べたくない奴上位である。

 

「悲しいであります。自分はただ提督が陸に転属しないか誘いに来ているだけでこの仕打。

 もっと愛を与えても罰は当たらないのでは?」

「罰ならこの時代に生まれた時点でとっくに受けてるよ。

 それに、陸に俺を誘うって時点で胡散臭いな。

 お前さ、粘ついた笑み、隠し切れてねえぞ。

 馬車馬のようにこき使われる未来しか見えない以上、誘いに乗るかよ」

 

 陸に転属ということは間違いなく彼女が教育係になるだろう。

あきつ丸が教育係だなんて命が何個会っても足りない。

そもそも精神的な意味でも使い潰されるのがオチだ。

 

「俺に執着する理由なんざ軽いもんだろ、どうせ。

 さっさと他を探すことが賢明だぞ」

「自分は、有象無象の提督が欲しい訳ではありませんので。

 貴方が欲しい。それは一片の不純なき真でありますよ。

 ねぇ、艦娘嫌いの提督殿。誠なる対応を希望するであります」

「……その前に、訂正しろ。

 俺は艦娘が嫌いじゃねぇんだよ、ただ怖いだけだ。

 いざという時に束になってクーデター起こされたら、終わりだ。

 こっちに勝ち目なんざ皆無に近いんだぜ?」

「そんな状況、ないと思いますが」

「お前の言葉が保証になったら苦労しないんだがな。生憎と俺は不信拗らせてるんだよ。

 深海棲艦との戦争が終わった後、砲口を向けられるのが俺達かもしれない。

 ああ全く、口にしているだけで怖気がはしるな」

 

 自分はまだ平穏な立ち位置でいたい。

激戦区に飛ばされて遠回りな殺人を食らうのはごめんだ。

そういった意味であきつ丸は最高で最悪の厄ネタである。

 

「羨ましいよ、艦娘は。艤装さえ身につければ、妖精の加護で死ににくくなる。

 か弱い人間様は耐久力が紙装甲だから、戦場じゃ常に綱渡りだ」

「過去に戦場に出ていた提督殿が言うと説得力がありますなぁ」

 

 また、思い出したくない過去を掘り出してくれる。

選択肢が戦場に出る以外なかったから出ていただけなのだ。

血反吐を撒き散らしながら必死に戦うなんて二度とごめんである。

 

「もう絶対出ねぇよ、絶対だ。俺はそれなりに安全な指揮官ポジションが一番なんだよ。

 そもそも提督ってのは前線で戦う兵士じゃねぇんだぞ?

「確かに、提督もとい人間が前線で戦うなんて海上では無茶無謀でありますねぇ。

 昔ならともかく、今は尚更。自分の横で必死になっていた顔、好きだったのに」

「はっ倒すぞ、この野郎。何、相棒面してるんだよ。

 そもそも、すぐ死ぬ紙装甲の兵士なんて盾にすらならねぇぞ」

「それは確かに。本当に提督殿は取り柄がありませんなあ。

 カリスマとか軍略とかコミュ力とか。

 そういった資質と艦娘の力を引き出せる才能。

 前者はともかくとして後者は非常に重視されるのに。

 何故艦娘が苦手な提督殿がその試験をクリアできたか疑問であります」

「カリスマは皆無。軍略は所詮付け焼き刃。コミュ力はツギハギで何とか保ってるだけ。

 資質については俺に聞くな。

 辛うじて戦えるってだけかよ、秀でてるの」

 

 提督の資質――艦娘の力を引き出せる人材は希少だ。

実際、資質ありきの立場である為、年齢も性別も関係なく、老若男女がこの立場に就いている。

 

「それもまた、才覚でありましょう。

 艦娘に襲撃されてもどうにかやり過ごせるように、常日頃鍛えている提督殿。

 そんな奇特な人間、自分の知る限りでは提督殿だけでありますよ?」

「意思持ち兵器に全部委ねられる図太さが、俺も欲しかったよ。

 ったく、艦娘は害意を抱いたら砲口の向く先が変わるっていうのに。

 その可能性を考慮したら自然とこういったスタンスになるさ」

 

 もしも突然カリスマ溢れる提督がやってきて、その才覚に惚れた艦娘達を根こそぎ引き抜いていったら?

もしも、待遇の改善を要求し、艦娘全員が一致団結してストライキをしたら?

もしも、深海棲艦側に正義と理があり、艦娘達が人間に愛想を尽かして裏切ったら?

 

「意思がある以上、あいつらは護国の女神にはなり得ない。ただの一兵器だ。

 俺達を……俺を絶対に信頼してくれる保証はないんだから」

 

 他の提督達のように、自分は艦娘を信用できない。

人間とは違い、もたらされた加護により海上で戦える彼女達を怖いと感じてしまう。

瑣末事でさえ、胸に突っかかる凡人故に、いつだって胃痛とお友達だ。

 

「それで、そんな生存欲求だけは最高値を振り切っているピーキーな提督様を陸に誘うのか?」

「当然。だからこそ、無償の信頼なんて持ち合わせていない提督だからこそ誘うんですよ。

 いやあ、牙が抜け落ちてないようでなにより。

 自分が大好きでたまらない、心底惚れ込んだ人でありますよ」

「その言葉も胡散臭いな」

「接吻の一つでもしないと信用できません?」

「やめてくれ。お前は目的の為なら嫌でもやりそうだ」

「……嫌じゃないのに、捻くれてますなぁ」

 

 そして、それを知った上で誘いをかけてくる奇特な艦娘がいるのもまた、腹立たしい。

あくまでも自分は自衛の為に力をつけているのであって、戦場に立つべく鍛えているのではない。

 

「提督殿には後ろより横にいてほしいんですよ、自分は。

 海のように後方でぬるま湯に浸からせているなんてもったいない」

「お断りだ。俺は後方でぬくぬくしていたいんだ」

「市井に下らないのに何を言うのやら」

「程々がいいんだよ。鉄火場にも出ないし、命の危機もない。

 かといって市井という敵に蹂躙されるだけの弱い立場でもない」

 

 何事もアベレージが一番いい。

変に目立つのもあまりにも目立たないというのもめんどくさい。

その聖域をこの腐れ縁の艦娘は全部ぶち壊しにしようと企んでいる。

 

「分かち合えないでありますなあ。

 自分が好感を抱いている人間にはもっと活躍してもらいたい。

 他者から正当な評価を貰ってほしいんですよ」

「結構だ。んな評価、溝に捨ててしまえ」

 

 好感を抱いている人間というのはオブラートに包んだ言葉だ。

その実、あきつ丸が自分に対して抱いている感情など、ちょっと面白い玩具程度だろう。

心中で吐き捨てた暴言を噛み砕きつつ、提督は席を立つ。

 

「おや、お早いお戻りで」

「お前が絡んでくるからだよ」

「では、自分も。元々、鎮守府には用があったので」

 

 最悪だ。帰り道もあきつ丸のしつこい勧誘を受けなければならないのか。

実際、帰り道にはしつこい勧誘はあったし、鎮守府に帰ってもべたべたとひっついてきた。

おかげで、艦娘達から冷たい視線を受けたので、本当にろくでもない。

距離感が付き合いたてのカップルみたいで、大変辛かった。




短編集ではなく普通の連載になっているのでは、と最近気づきました。
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