艦隊これくしょん書き殴り短編集   作:このむらりく

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間宮さん、完全に負ける(0勝120敗)

 間宮は怒っていた。

頬を膨らませて、いかにも私は不機嫌ですと言わんばかりにぷんすこと怒っていた。

そもそも、毎日間宮は怒っている。

食堂で不機嫌な表情でご飯を作っている間宮はもはや名物と言ってもいいだろう。

周りの艦娘達がいつものことだなと軽く受け流す程度には間宮の怒りは日常になりつつあるのだから。

最初は怖がっていた駆逐艦達も、今では間宮の怒りを尻目に和気藹々と会話できるくらいだ。

間宮を手伝う艦娘達も間宮の不機嫌な表情を見ても動揺しない。

その憤怒が料理にまで影響しないことは皆知っているから落ち着いたものだ。

とはいえ、ここまでぷんすこ期間が長いと、いい加減気の毒になってくるのが人情である。

 

「間宮さん、ちーっす……ってあちゃー、今日も怒ってるか」

「…………っ」

「いや無言で睨まないでってば。歯をギリギリ噛み締めるのもやめてね」

 

 昼食を食べに来た鈴谷が挨拶ついでに声をかけてくるが、間宮の表情は変わらず険しいものだ。

これには鈴谷も哀れみの目で見てしまう。

ここまで追い詰められちゃったか、と。

 

「鈴谷さん、今日は秘書艦でしたよね?」

「うん、そだけどー」

「提督は来ないんですか?」

「あー、その、ね……一応誘ったけど、行かないって」

 

 鈴谷、言いよどむ。

それでも、聞かれた以上は答えなくてはならない。

間宮の表情は一段階重いものとなるし、目のハイライトは消えてしまう。

傍から見ると、やはり怖い。

今の間宮ならば、素手で深海棲艦を倒してしまってもおかしくはない。

 

「どうしてですか」

「それを鈴谷に聞かれても困るなぁ」

「どうしてですか」

「提督も忙しいだろうしなぁ」

「どうしてですか」

「こっちが聞きたいくらいだよ」

「どうしてですか」

「壊れたロボットみたいな返答はもうやめてよぉ」

 

 間宮がこの鎮守府に着任し、食堂の仕事を受け持ってから提督は一回も来ない。

その事実は間宮の心を酷く傷つけていた。

本来、間宮は各鎮守府を回って効率的な提供を教授したり、新メニューの好感に勤しんだりと多忙である。

少なくとも、一つの鎮守府には長期的にとどまらない。

 

「提督は私の食事処に一度も来てくれません」

「あー、うん……」

「色々っ!!!! 新メニューを考案しているのにですよ!!?!?!??!

 ちゃんと掲示板にもチラシを貼っているんですよ!?!?!

 何ならメールでも宣伝していますよ、私!!!!」

「必死過ぎて逆に怖いんじゃ……」

 

 それが何故、この鎮守府では長期的に滞在しているのか。

その理由は偏に提督である。

提督が一度も間宮のご飯を食べてくれない。

晴れの日も曇りの日も雨の日も。

朝も昼も夜も深夜も。

提督は間宮のご飯を食べに来ないのだ。

 

「メールでも、チラシでも、提督専用でサービスしますって書いたのに!!」

「来なかったのかぁ」

「どうして、です……? 私の何が悪いんです?」

「なにか気づかない所で提督に対して失礼なことでもやったんじゃないの?」

「鈴谷さんじゃあるまいしやりませんよ!」

「ちょっとやめてよ! 鈴谷と提督は仲良しだし!!!!」

 

 間宮が提督の顔を見たのなんて最初の赴任時の顔合わせぐらいだ。

その時を振り返っても、対応に不手際はなかったはずである。

簡素な挨拶を交わし合って、それから――。

 

(何もない訳ですけど、ほんっっっっっとうに!!! なにも、ないんですけど!!!!)

 

 間宮が食堂を仕切ってから、待てども待てども提督は来ない。

しびれを切らした間宮は直接執務室へと配膳したこともある。

しかし、偶然が重なっているのか、提督は毎回不在なのだ。

 

「作りたての美味しさ満点間宮ランチを味わってほしいのに、毎回いないのはおかしくないですか!?」

「提督専用ご飯、美味しいもんねぇ。

 余らせているのはもったいないから、毎回秘書艦が食べているけど。

 たぶん、全員が美味しいって感想だと思うよ」

「その感想を提督から聞きたいんですよぉ……」

「まあ、提督にご飯を食べさせたいが為に、ここに残り続けているって頑固だよね」

「給糧艦としての意地ですよ、意地。

 それに個人的にここまで私のご飯を食べない人は初めてなので、興味も生まれましたね」

 

 本来であるならば、間宮はとっくに他の鎮守府に異動している。

しかし、本人の熱烈な要望により、まだこの鎮守府に残っているのだ。

全ては提督に美味しいご飯を食べてもらいたいが為。

提督の美味しいという一言がどうしてもほしい。

給糧艦として、間宮個人として。

絶対に譲れないプライドが、ここにある――!

 

(……とはいえ、どうしたらいいのか)

 

 苦笑いの鈴谷を見送った昼下がりの後。

繁忙が過ぎ、一時的に閉じた食堂で間宮は頭を悩ませていた。

提督が食堂に来る方法、急務。

チラシ、メール音沙汰なし。

そもそも、提督はちゃんと確認しているのかどうかさえわからない。

 

(やるしか、ありませんね)

 

 こうなってしまっては、間宮も覚悟を決めるしかなかった。

眉を顰め、口を一文字に閉じ、服を脱ぎ始める。

 

(背に腹は代えられません。絶対に来てもらいますよ、提督!)

 

 割烹着を脱ぎ、下着姿になる。

黒のレースという明らかに誘惑する気満々の下着である。

もしかしたら提督とのラブなコメディがあるかもしれないと色気づいて買ったものだ。

もちろん、この鎮守府ではそんな機会はないし、提督は一回しか顔合わせをしていない。

そして、間宮はその下着を勢いよく脱ぎ捨てる。

すっぽんぽん――生まれたての姿である。

よもや、この裸で提督を追い詰めに行くのかと思いきや、間宮はテーブルに置いておいた紙袋を手に取った。

この中には秘策がある。提督のことをよく知る練習巡洋艦から教えてもらった秘策だ。

これで、提督にご飯を食べてもらう。絶対にだ。

その焦りが後々の悲劇へと繋がることを間宮はまだ知らない。

 

 

 

 

 

 

「食堂に行かない理由? ちゃんとあるぞ」

「えっ、そうなの!」

 

 所変わって、執務室。

鈴谷は間宮との顛末を包み隠さず提督に話した。

間宮には口止めをされたが、ここで黙っていても関係が拗れるだけだ。

このまま間宮がプンスコ状態なのはよろしくないし、何より提督にも食堂に来てほしい。

そうしたら、一緒にご飯を食べれて、親密にもなる。

ゆくゆくはケッコンカッコカリ、いいやガチにするんだ。

一緒にご飯を食べる口実のこともちゃっかり考えている鈴谷の攻めの姿勢が光る。

 

「俺の認識では、食堂は艦娘達の憩いの場だ。

 そこに上司である俺が行くと萎縮してしまう艦娘も出てくるだろう」

「気にしすぎじゃない? 鈴谷はオッケーだよ?」

「誰もが鈴谷みたいな図太い艦娘ばかりではないからな。

 彼女達には戦場以外で疲弊を感じてほしくないんだ」

 

 実際は、艦娘と顔を合わせるのを避けているだけだ。

色々なしがらみを忘れたい、鎮守府外の新鮮な空気を吸いたい。

そもそも艦娘に囲まれて食事とかプレッシャー半端ないので勘弁してほしい。

当然、それは言葉に出しては言えない。

変に軋轢を生むのは良くないし、艦娘達とは穏当に距離を取りたい。

 

「色々と考えてるんだね、提督も」

「提督として当たり前だ。

 鈴谷達が憂いなく戦えるように、環境を整えるのが役目なんだから。

 まあ、間宮の提督専用サービスとやらは気になるが、まあ小鉢が一個追加とかそういった類のものだろう」

「じゃあ、間宮さんにはそう伝えておくね。

 ちょうど、昼休憩で間宮さん暇してるだろうし、鈴谷行ってくるよ」

「……いや、俺が直接報告しにいく。こういった事柄は対面で言うべきだ」

「りっちぎー。それじゃあ、一緒に」

「鈴谷は執務室で待機。そもそもお前に割り振った業務がまだ残っているだろう」

 

 鈴谷の不満げな顔を軽くスルーして、提督は執務室を出る。

大方、ついていくついでにサボる口実にするのだろうが、そうはいかない。

秘書艦に志望した以上、鹿島までとはいわないが、仕事をしてもらわなくてはならないのだ。

 

(それに鈴谷が付いてきたら、食堂を使うように誘導させられる可能性がある)

 

 最近はなくなりがちだが、昼食は提督にとって貴重な憩いの時間なのである。

気を使える優しい提督。その仮面を外せるひとときを潰す訳にはいかない。

あれこれと気を回している間宮には申し訳ないが、食堂で昼食は断固として遠慮する。

提督は自らの決意が揺らがぬよう固く誓い、食堂への扉を開けた。

 

 

 

 

 

 

「スク水間宮の特別サービスでーすぅ」

 

 

 

 

 

 

 見てはならないものを見てしまった。

まばたきをすることも忘れて、凝視である。

開いた口は数秒塞がらない。

視界に映る光景は一体何なのだろう。

間宮が小さめのスクール水着を着ている。

そして、長い髪を可愛らしいリボンでまとめてツインテール。

更には可愛らしい声を出してポージングしているのだ。

これは、やばい。色々な意味でやばい。自然と提督は後ずさりをしてしまう。

 

(あ、危ない――っ! 思わず悲鳴が出そうになった!

 というか、出してたら死んでるわ、これ! なんだ、あれ!?

 えっ、マジでなんだよ、あれ!! 訳がわからないし、怖いぞ!)

 

 これは知らず知らずの内に溜まっていた疲弊が見せている幻覚だと断じたかった。

だが、そんな現実逃避は視界に映るツインテスク水の間宮が許さない。

まさか、自分が食堂を利用しないことで彼女がここまで精神的に追い詰められていたとは。

思わずして遭遇した厄介事にきりきりと胃が痛む。

幸いなことに間宮は提督に背を向けてポージングしている。

ここは黙って去るべきだ。

 

(まさか、これが提督専用サービスか……そうか、こういうことか……)

 

 提督は踵を返して、見なかったことにした。

後々何か聞かれても知らぬ存ぜぬの態度を貫き通しておこう。

 

(まずいよなぁ、間宮がここまで発狂していたなんて)

 

 これから間宮とどう接したらいいだろう。

提督は沈痛な表情で間宮へのケアを考える。

やはり、食堂を利用するべきか。否、あの特別サービスはやばい。

一度利用してしまったらそのままずるずると沼に引きずり込まれることは確実だ。

 

「……心折れるなぁ」

 

 ひとまず、胃薬を取りに執務室に戻ろう。

提督は新たに降り掛かった問題を解決するべくしばらく頭を悩ませることになった。

 

 

 

 

 

 

 ちなみに、扉は開けっ放しだったので数分後、間宮は誰かに見られた事に気づいてしまう。

ツインテスク水で提督をにっこにこ大作戦はトップシークレットなのだ。

そもそもこんな恥ずかしい姿、いざやってみたはいいが、かなり恥ずかしい。

やはり封印しよう、そう決意した時、開いていた扉を見て間宮は気を失いそうになった。

この姿を誰かに見られた。

崩れ落ちる間宮はしばらく食堂で意気消沈してしまったので、誰も救われない結末である。

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