蜉蝣物語   作:推奨納言

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春休みも終わって学校が始まってしまいました。午前四時に寝て午後二時に起きるナマケモノ生活に、ケジメをつけて、ちゃんと朝起きなければならない日々が始まってしまいました。

遠き春よ(白目)

私個人としては、早く体育祭編も終わらせて、解題を提示したいところですが、話よりも先に解題の方が進んでいる不可解で御座います。




11. La Mer/雪割草の証言

――この五月晴れはもう麗らかな春とは程遠く、夏の匂いを醸し出し、偶に吹く風に煽られ服から柔軟剤の香り漂い、これが夏の匂いかそれとも――人の気も知らないで――無くした故郷の匂いか、二週間前のことがまた思い出されて、山の斜陽と燃やした手紙、枯らした衝羽根朝顔が無性に眼裏(まなうら)でチラつく。

 

始まってからというものの、どうしても色んなところに目がいってしまうのもあってか、レースの間はずっと集中出来なかった。やはり、今朝見た夢が気には掛かるが、思い出せる訳でもなし、かといって忘れてしまえるほどにどうでもいい内容だったかと言えば、そうでも無いような気がする。

 

「いや、考えるのはもうよそう。―――」と頭を振り、第二種目のチーム決めをせねばならない。誰と組むかは個人の采配だが、上鳴、切島、瀬呂に八百万も既にとられていると、また一人あぶれてしまった。

 

かつてのことを思い起こさせるが、物思いに耽るは今は良くないと、組んでくれる親切な者を探す。

 

余っている人を糸を伸ばして探しおれば、見かけたことの無い者が近付いて来る様子があり、もしかしてと振り向こうとすると、丁度声を掛けられた。

 

思考の海を揺蕩うが如く、浮遊感に遊べば、第二種目を三位で越えていた。―――

 

 

 

***

 

 

 

朝霞のことは、正直イマイチわかんねえ。けど、朝霞からは何か常にジロジロ見られてるみてぇな気分にさせられる。

 

別に本人がこっちをジロジロ見ているわけじゃねぇけど、何か言葉には上手く出来ない変な視線を感じる。

 

 

嫌に奇妙な感じがすると最初に思ったのは、ヒーロー基礎学で八百万と朝霞のチームと対戦したときだった。

 

相澤先生にも次の日に注意を受けたが、障子の忠告を聞いておくべきだったと、今更ながら思う。

 

あの時は、確か。―――

 

 

 

 

 

「こっち…じゃないのか。」

 

 

始まってからずっと気配を感じるから、感じる気配を辿ってみても、出会すどころか、その気配も定かではないのかもしれないと思えて、「クソ…」と呟いてみても、事態が変わるわけでもなかった。

 

隣りのビルの窓が陽の光を反射して眩しい。コンクリート造りのビルを歩くと、コツコツと音が鳴る。自分が歩いているだけで、カツカツと音がするぐらいだから、アイツらも歩けば音のするはず。

 

けれども、会敵する以前に何も分からなかった。

 

上から一階づつ虱潰しに回ったってちっともいやしないから、もっと下を回るしかない。そう思って、下へ向かい始めて階段を降りきる頃、インカムから障子の連絡が届いた。

 

言い切る前にインカムからの連絡は絶え、俺が朝霞と八百万に出会う前に、障子は戦闘をやむ無く始めることとなったようだった。

 

ここから向かった所で間に合うかは分からないけれど、一縷の希望にかけて、来た道を急いだ。少し階段を踏み外しそうになりながらも、「間に合ってくれ」と思いつつ、正直間に合わないだろうと高を括る自分もいた。

 

結局、この対戦では一戦目とは違って、何も出来ずに終わった。

 

 

MVPは八百万だと、オールマイトは底抜けに明るく、高らかに述べたけど、八百万は嫌に認めようとはせず、「朝霞さんのおかげですわ」と一向に譲らなかった。八百万ってあんな奴なのかと、少し認識が変わった。

 

あんまりにも認めたがらない様子に、オールマイトの方が折れて、済し崩し的だったが、MVPは朝霞になった。

 

でも、朝霞はあまり嬉しそうではなかった。―――

 

 

朝霞はMVPに推されたけれど、一体朝霞のどこにそういう要素があったのか、不思議でたまらなかった。だって、アイツは「強い力で物を投げる個性」で、八百万が推すほどの能力とは思えねえ。

 

不可解から抜け出せなくて、少しイラついたけど、とりあえず朝霞を観察してみようと思った。

 

更衣室で服を着替える時に、チラッとアイツの上半身が見えたけど、俺より比にならないくらい、相当な鍛練をしたであろう傷跡が身体の至る所にあった。

 

朝霞もウチのクソ親父みたいに、厳しい修行をさせられてたんじゃねぇかって思ったら、確かに八百万が推してもおかしくはないのかもしれない。

 

ひょっとすると、仲良くなれんじゃねえかって一瞬過ぎったけど、連むために来たんじゃねえからと、少しも汗ばんでないコスチュームを脱ぎ捨てた。

 

 

 

委員長決めの時に、朝霞は終始呆っとしてて、微塵も興味を示してないようだった。でも、一つだけ分かったことがある。朝霞は茫やりしている時は、どこか焦点が合っていないみたいだった。

 

そりゃあ、普通に呆っとしてたら、焦点は合わないだろうけど、朝霞の場合はちょっとちげえ。大抵はどこか一点に集中してもおかしくはないんだが、アイツは本当に、文字通り目が泳いでる。

 

それが授業中にも度々あった。特に英語の授業の時なんかは。―――

 

 

 

USJ事件の二日くらい前から、朝霞はずっと学校を休んでいた。誰がどんな理由で休もうが、別に何も変なことじゃねえし。もしかしたら、インフルエンザとかだって有り得る。それから、二週間くらいが経ったけどまだ来なかった。

 

梅雨もそろそろ始まる春の暮れに、朝霞は漸くやって来た。梅雨の黒い雲は来そうにもなかったが、朝霞は目の下に、空五倍子色の隈を携えて帰って来た。黒い髪と相俟って目についた。

 

その後の授業にも問題なく付いてきているみたいだった。ヒーロー基礎学の授業は、絶好の観察のチャンスだったから、何故あの八百万が認めるのか探した。

 

それでも、何が凄いのかは分からないまま、体育祭が始まった。―――

 

 

 

***

 

 

 

「おまえには勝つぞ」

 

 

緑谷に宣戦布告をした。切島が宥めようとしたが、そんなの構いやしなかった。ただ、これは自分へのケジメだったし、純粋に緑谷には負けたくないと心から思ったからであって、そもそも仲良しごっこの遊びなんかで此処にいる訳では無い。

 

緑谷も俺の布告にモタモタしながら、シドロモドロに応えた。

 

何となく朝霞のことが気に掛かって、チラとそっちの方を見たら、また朝霞は呆っとしていて、話を聞いていたようではなかった。緑谷だけならず、全体への宣戦布告という心持ちでいたから、それに欠片も見向きもしない朝霞は少しだけ鼻についた。

 

普段なら上鳴がからかっているけれど、今だけは珍しく朝霞の方が上鳴のことをからかっていた。

 

 

最初は200人弱の人間が同時に団子状態で動くわけだから、手っ取り早く足元を凍らせてしまえば良いと、安直ながらにそう思った。

 

スタートダッシュでは、足元を凍らせてしまえばどうにかなるだろうと思っていた反面、やはりその程度でA組の連中がどうにかなるような奴等でもないとは分かっていた。夏はまだ来てもいないが、この天気ならすぐにでも溶けるはず、少し汗ばみ始めたから、身体の温度を調節した。

 

最初の足止めを食らったのは、A組連中以外のほぼ全員だった。といっても、粗方は足止めを受けているわけだがら、なんの問題もない。正直なところ、上手くいったと見て間違いなかった。

 

緑谷には負けねえと、威勢よく啖呵を切ったけど、まさか朝霞が迫って来るとは思ってなかった。

 

第一関門の「ロボインフェルノ」と実況が言っていたが、一番に行けばさして問題ではない。むしろ、却って好都合だった。入試の時のお邪魔ロボだったらしいものを、倒れやすいように凍らせた。

 

もちろん、後続に大きな被害が出ることは百も承知だったし、主審のミッドナイト先生も、何でもありと言ってたから、それに則ったまで。

 

あれに引っ掛かるようでは、トップ争いは出来ないだろうと踏んだ。錻の銀は陽を反射し、同じく照り返す自分の氷が乱反射して眩しかった。前進しつつも、様子を窺って振り向けば、たまにプリズムが見えて綺麗だった。

 

走りながら、誰が来ているか確かめている時に、眩しいながらに後方の朝霞と目が合って「みんな、轟がああするって読めてたよ」と言ってるような顔付きをしていた。

そんな気がした。

 

朝霞は何の苦もなく普通に走っている。俺が倒れやすいように凍らせたロボも、スタートダッシュ防止の足止めも、何をやっても分かってたよと見透かしていそうだった。

 

後続はどうなっているのか何回か振り向いたうち、朝霞はそこら辺で拾った石のようなものだったり、撃墜されたロボの破片だったりを投げて、仮想敵を適当に往なしていた。

 

ただでさえ、緑谷だったり爆豪にだったりと、気になるヤツがいるのに、ここに来て迫られるのは厄介極まりない。クソ親父の件もあるしで、頭の中で糸が絡まっている。考えるよりも、まずは走らなくては。

 

迫って来ているのが、別に朝霞だけじゃない。飯田だってこういうのに一番向いてるだろうから侮れないし、八百万だってまた前みたいにバイク出しかねないし。いや、でも、全国放送されてるし、無免許のまま運転はできないか。

 

ウダウダ考えている内に、もう綱渡りの所にまで来ていた。実況の声が頭にやけに響いてうるさい。首筋に汗が伝って、ようやく自分が温度調節を上手くしていなかったことに気がついた。爆豪はもうそこまで近付いていた。

 

爆豪が起こす爆発音と、自分の早くなった呼吸と、そして綱のしなる音しか聞こえるものはなかった。

 

 

それから、俺は啖呵を切った相手の、緑谷に最後の最後で追い抜かれてしまった。それで第一種目は二位で終わった。早々とゴールを決めたものだから、モニターで競技の様子を見ていた。

 

最終関門で朝霞は足を踏み入れる前に、目を瞑って立ち止まっていた。

 

目を開けた。口元は少し緩んで何か悪いことを思い付いたような表情だった。イタズラばかりする子の顔とは、あんな顔なのかと納得がいった。

 

覚悟を決めたのだろうか、ようやく歩を進めようとするところで、朝霞は辺りにある何かの破片であったり、石を集め始めた。流石に実況解説も朝霞の行動に疑問を投げ掛けた。

 

観客もざわつき始めたし、緑谷も「朝霞くん、一体何をしているんだろう…?」と顎に手を当てて考えていた。解説の相澤先生は口を開くこともなかった。実況さえも首を傾げて「彼は一体何をやっているだ、早く走らないと越されるぞ」と音高らかに叫んでいた。

 

いくつか集めたあと、地雷原には足を踏み入れないまま、朝霞はどこに地雷が設置されているのか、まるで初めから知っていたかのように、石や破片を投げて爆破させていった。

 

百発百中とはきっとこう言うことを言うんじゃないかと思わせた。

 

爆破の影響で前を走る生徒らに影響が出ていた。特に、飯田何かは「朝霞くん、卑怯だぞ!」と叫んでいたが、問答無用で爆発させて行った。着実に歩を進めながらも、爆破による地雷の破片を使って地雷原を難無く進み行く。

 

――自信に満ち溢れる様は、恰も歴戦の戦士を思わせた。

 

そう思わせるのも、前に更衣室で朝霞の傷跡を垣間見たからなのだろうか。

 

最終関門を抜けるまで、後ろを振り向くことも無く、拾った破片やらが尽きるまで放っていた。ただでさへ、前方にも害が及んでいたのに、前を向いたまま後ろの地雷を爆発させる芸当に、実況も見ていたプロも感心していた。

 

前を進んでいた飯田は、朝霞の妨害のせいもあってか、最終関門で朝霞に越されてしまっていた。ついぞ飯田は朝霞を追い抜くことは出来なかった。

 

あとからゴールした飯田は、先に着いていた朝霞に説教をたれていた。朝霞は苦笑いをしつつも何処吹く風で話を流していた。けれども、朝霞は「ミッドナイト先生も、なにやったって構わないと仰っていたから、それに従ったまでだよ。そんなに鯢立てないでよ。」と悪びれることもなかった。

 

少し暑そうに手で自身の顔をパタパタと仰ぎながら、遊ばせていた片手で服の胸元を掴み、バサバサと顔へ風を起こしていた。

 

 

「ここって、ウチよりも暑いから、ヤんなっちゃうね。」

 

「僕は君の実家がどこかは知らないから、同情の余地もないぞ。」

 

「えぇ…、向こうの今頃は普段だったら、もっと涼しいんだけどなあ。ここは人も多いし、暑いしであんまり好きじゃないなぁ…。」

 

 

どこか悲しそうな懐かしそうに、八雲立つ空を遠くに眺めていた。

やっぱり、朝霞のことはよく分からなかった。―――

 

 

 

***

 

 

 

第二種目の騎馬戦は、人員の早い者勝ちだったから、俺が思う勝てる奴らを集めた。上鳴も八百万も集めた。二人とも朝霞のことを心配していた。

 

それから、飯田に声を掛けておいたが、返事はその場で貰えなかった。何か緑谷と話し込んでいる様子に見えたが、飯田は俺の誘いを受けて、緑谷の申し出を断ったようだった。

 

飯田が決まらない間に、上鳴たちは「朝霞を誘おうぜ」と提案して来たが、俺は飯田に取って代わるほどの役目を担い得るとも、その役目を果たせるとも思えなかったから、適当に答えを濁した。

 

ここでも、八百万はずっと朝霞の心配をしていた。それでも、やはり、何がそこまでに朝霞が凄いのかはイマイチ分からないまま、第二種目の騎馬戦が始まった。

 

朝霞は尾白とB組の奴、そしてこのあいだクラスの前に人集りが出来た時に、A組全体を煽ってきた普通科の奴と組んでいた。

 

朝霞の目は何時になくぼんやりしていたし、足取りも覚束無いようだった。あれがお世辞にも役に立ちそうには見えなかった。時々、乗っている普通科のヤツが、やたらと躓いたりフラフラする朝霞に舌打ちをしていた。

 

梅雨っぽい湿った匂いの風が一陣だけ通り抜けた。

 

 




評価やお気に入りの増減に一喜一憂してはならぬとはいへ、やはり評価やお気に入りというものは気になるもので、文字を打てば不安がよぎる。過ぎる不安は筆の迷走へ。

今回のお題が、と言うよりも今回の章のテーマがテーマだからこそ、筆の纏まりが悪くなるのですが、立てた操は崩し難く、それを貫かで一体に何になろうかと思う次第で御座います。

筆の迷走が文に見て取れるならば、私の能力不足で御座います。本当に申し訳ない次第です。別にスランプとかでは御座いませんので、問題ありません。

差し支えなければ、評価・感想をどうぞ宜しくお願い致します。
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