蜉蝣物語   作:推奨納言

12 / 16
着々と進んでおります。あともう少しで体育祭編も終わりを迎えます。

一応ながら、私の考えている通りに話は進んでいるので、問題なければ、あと2話程で終えられそうです。




12. Sinfonia Tapkaara/薊・馬酔木の証言

A組に限らず、余っているやつなら誰でも良かった。

 

こんな事を思ったり言ったりするから、敵っぽい個性が際立つのだろうか。でも、本当に誰でも良かった。正直なところ、A組の奴らの内の誰かなら、尚のこと良かった。この前あれだけ煽ったわけだから、屈辱的だろうと思ったし、そもそも自分があれだけの煽りをしておいて、予選落ちなんてしたら目も当てられない。

 

だから、A組の奴らから引っ張って来たかったけど、もう余ってそうな奴は見当たらなかった。けれど、一人だけ見知らぬヒーロー科在籍であろう通過者がいた。この前、A組の前に行った時に、あんなヤツがいただろうか。

 

モニターには高順位で第一種目を通過した…なんと読むんだろうか、「アサガスミ」と読めばいいのか?いや、そんなことないだろう。ひょっとすると「アサカ」と読めばよかろうか。名前呼びは『洗脳』への引っ掛かりやすさに繋がるから、結構重要だった。

 

さっきの第一種目で走った汗がまだ止まらなかった。体操服の袖や胸元を引き上げて顔や首元の汗を拭った。

 

声を掛けようと後ろから少しづつ近付いて行った。時々足が覚束無くて、靴が地面とこすれて、少し苦手な音がした。あまり音を立てすぎると、気付かれてしまうから、気を付けなくては。

 

――ここまで来れば、声が届くだろう。

 

選手宣誓でも言われていたように、内心では「精々、俺の為の跳ねのいい踏み台になってくれ」と思いながら、声をかけようとした。すると、靴と地面が擦れる音も、衣擦れの音も、コイツの傍では全然立てていないのに、声を掛けようすれば、向こうも丁度振り返ろうとした。

 

先に反応されては困ると、焦りながらも「なあ」と声を掛ければ、ちゃんと声を返してくれた。そのままソイツは俺の個性に引っかかった。あとは作戦通りに、最後のギリギリで他が焦っている時に、良いとこ取りで勝ち抜けようと、あまり目立たずに騎馬戦を開始した。

 

開始直前で、赤と白の二色の髪をした奴を支えている、黒髪のポニーテールの女と目が合った。女の視線は、髪紐で髪を結っている男女(おとこおんな)に向いているようだった。それは心配そうにしている目線だった。

 

 

 

***

 

 

 

この男女は、順位も鑑みれば相当に身体能力も高いのだろうと思われたし、上背もそこそこあったから、前衛に置いた。唯一不安だったのは、その華奢な体型だった。しかしながら、雄英高校のヒーロー科なのだからひ弱なはずもないと、掛ける情けもない、そのまま前衛に採用した。

 

でも、実際は第二種目が終えられるまでヒヤヒヤしたものだった。というのも、この男女がまともに動けないからだった。やたらと躓くし、進行方向がまるで見えていないかのように動くのだ!

 

おそらくは立夏の頃も過ぎただろうに、嫌に冷えた汗が右の米神から輪郭線をなぞって顎から一滴落ちた。もしかしたら、予選落ちするかもしれないと、頭の中で何度となく過ぎり頭が痛くなるくらいの半鐘が鳴った。

 

このままでは上手く行かないと思い、こっそりと前衛と後衛を入れ替えようと思ったが、男女の分のポイントを奪いに来ようとする奴らがいたから、それは達成できなかった。

 

心臓が耳の横でなっているのではないかと錯覚を見るほど、耳に拍動が鳴り響いた。

 

 

 

***

 

 

 

朝霞くんは多分そんなに強い子では無いと思うワ。

 

告別式では泣かなかったけれど、身辺整理にあたって、彼の手伝いで私、朝霞くんとこの実家まで付いて行くことになっていたの。

 

そしたら、彼、夜毎ずっと起きてるの。安置されている部屋に行っては布団に潜り、また浅き夢見て起きればまたそこへ行きを繰り返していたわ。

 

あれを見て同情できない人がいるのかしら。あんまりにも不憫で可哀想だったし、少しも睡眠がとれていなかったから、私の個性で無理にでも寝かせようと思ったけれど、本人が毎度のこと、棺の前でさめざめ泣いていたりするのを見ていると、「今生の別れだもの、好きにさせてあげた方がいいかしら…」と思われて、実行出来なかった。

 

彼は立派に喪主を務めて恙無く式を終えると、今度は彼の実家の整理や、とても大きな蔵の片付けをすることになっていた。

 

確かに、あの蔵を見れば誰だって助けも欲しくなるわよ。本当におっきいんだもの。ビックリしたわ。その中でも、持ち帰りたい物だけを探して選んで、残りは不動産屋さんが取り持ってくれる上に、諸々を売り払ってくれると言っていた。

 

アレを二人で片付けるにしても、いささか無理もあったし、何よりも彼にそんな気力が残っているとは思えなかった。

 

彼はまた、夜中に何度も目覚めているようだった。どこに行くのかと思えば、おじいさんもいらっしゃる仏間へ行くの。そこには、彼のおばあさんの骨壷もある。彼は、朝霞くんは、夜毎骨壷を抱きかかえて声もなく、ひっそりと泣いていた。

 

その健気さに私も泣きそうになった。

 

あんなに心優しく清らかな子が、素晴らしいヒーローに一体全体なれないものなのだろうか。いや、ない。彼は必ずや、人の心に寄り添える素晴らしいヒーローになると確信した。そして、親の居なくなってしまった彼に、出来る限り目を掛けてやらなくてはと決めた。

 

彼は実家を発つ迄に何度もそれを繰り返した。―――

 

 

 

蔵の中で片付けをやっている最中に、彼、朝霞くんに纏わる、ある不思議なことがあった。

 

それは蔵の奥の木箱やら棚やらを彼が漁っている時のこと。

 

私は壁にそってズラーッと並ぶ棚の中に、アルバムやら猟の記録やらを見つけた。朝霞くんは、それを全部残して置きたいと言っていたから、取り出してダンボールに詰めようと、私はそれに手を伸ばした。

 

彼は振り向かずに「そのアルバムはもう一つ別のダンボールに入れて置いて下さい。向こうで棚に戻す時に整理しやすいように、先に分類しときたいので。」と言ったの!

 

驚いたけれども「え、ええ。分かったわ。」と声が裏返りそうになりながら返事をした。

 

不可解なのが、私が手に取ろうとしたアルバムがどれかなのかを、一体何故彼は振り向かずとも分かったのか。これに尽きた。

 

それから、何だか変にそれが気にかかってしまって、彼の言動全てに目を凝らしてしまった。

 

お台所で彼がご飯を作っている時に、彼は窓から目線の先の蔦這う塀に目を向けながら、包丁で食材を切っていた。私はギョッとして、「余所見したら危ないわよ」と声を掛けると、「え、ああ。すみません。癖で。」と言った。そんなに危ない癖を彼のおばあさんが指摘しない筈がないと私は怪しく思い始めた。

 

彼には何か隠していることがあるって。―――

 

 

 

***

 

 

 

そして今、その不可解が何となく氷解しつつあった。

 

もしかしたら、彼は個性がもう一つあるのではないだろうか。こう結論付けたの。多分、ほぼ間違いない。

 

朝霞くんと彼の実家から帰って来て、その直ぐ翌日に、あまり褒められたようなことではないけれど、学校へ提出されている彼の書類に目を通した。だけれど、彼が申告していた個性は『強い力で物を投げる』とだけだった。

 

それでは、明らかにあの言動やらの説明がつかない。だから体育祭の間もずっと彼の様子を窺っていたわ。第一種目はお情け程度に全体を見ながら、何かヒントになるものはないかとモニターを睨んだ。

 

 

 

***

 

 

 

洗脳が解けるのは、かけられている相手に強い衝撃が与えられたときだ。だから、騎馬戦での使用はあまり褒められるような使い方ではない、と思われる。

 

個性使用が可能とはいえ、騎馬同士がぶつかるなんて分かり切ったことだ。ぶつかれば洗脳が解けるかもしれない。洗脳が解ければ、今現在騎馬をしている奴等の対処は厄介極まりない。

 

だから、最後のギリギリでどんでん返しと決め込んだが、そもそもある程度は点を取っていなければ、いくら美味しい所だけをとしても、上手くいくとは思えない。

 

そうなれば、少しは自分の持ち点やらは出来る限り残したまま、最後に気の緩んだ所を一気に攻めるしかない。それも目立たずに、大きい点を一括か、下の細々した分を沢山取っていくか、それが問題だ。

 

そんな問題以上に、この「アサカ」だか「アサガスミ」だかのお荷物具合といったら!

 

ヒーロー科のヤツらは本戦へと勝ち進みたいがために、目先の高得点にしか意識を向けていないから、隙だらけだった。我先にとらんと一斉に飛び掛るけれど、取れないなら取れないで焦りが募るばかり、この騎馬戦は最初から心理戦だったのに。

 

「バクゴウ」も「トドロキ」も他の奴らも、1000万を取るのに必死だった。傍から見ている分には滑稽だった。ヒーロー科に在籍しているのは、更にも言うまでもないが、ヒーローになるため。けれど、ヒーローになろうと言う者らが、あそこまで冷静になれていないのにも、何故一体誰もおかしいと思わないのか。

 

ボチボチと様子見しながら、迫り来る時間を見計らった。自分の想定よりも、もっと柔軟にならなくてはいけなかった。それもコイツ、「アサカ」のせいだ。ヒーロー科のクセに、動きは鈍いし、まともに動けもしない。

 

何でこんな奴がヒーロー科で自分は普通科なのか。深みに嵌れば思考はグルグルと回る。

 

 

「残り時間、あと僅かよ!」

 

 

さあ、そろそろ行こうか。―――

 

 

 

***

 

 

 

第一種目のあいだ、朝霞くんの動きに不自然な所はないかずっと見ていた。けれど、何もなかった。

 

いや、無かったと言ったら間違いになるわね。最終関門では、スナイプ先生のように、埋まっている地雷を撃ち抜いて行った。埋まっているのがどこにあるかは知らないはずなのに。―――

 

地雷を壊せばそのまま他選手の妨害にもなったし、自身の歩く道が整うという利点も無いわけではなかった。地雷原を歩く姿は悠然として、妨害行為を直接被っている飯田くんは流石に文句を言わざるを得ない様子だった。

 

最後はゴールまで身軽に駆け抜けて行った。惜しい所までいったのだけれど、飯田くんはギリギリまで朝霞くんを追い越すことは出来ないままに、第一種目を終えた。

 

さて、第二種目の騎馬戦では何か分かるかしら?台上から高みの見物と決め込もうじゃない。

 

 

 

朝霞くんは、A組の子とB組の子、それからヒーロー科では見かけたことの無い子と、多分普通科の子じゃないのかしら、その子らと組んでいた。

 

他の三人は何だか目が虚ろだった反面、騎手を務めている普通科の子、心操くんと言うのね、その子だけは特に何も問題ない所から、おそらく「洗脳系」の類の個性で、操っているのが何となく分かった。

 

別に試合のルールに反するわけでもないから、何も言わなかったけれど、朝霞くんの様子がどこかおかしかった。

 

振り向くこと無く、私がどのアルバムを手に取ろうとしたのか分かったり、余所見をしながら精確に包丁や料理が出来ていたのを考えれば、何も無い平坦なところでコケそうになったり、まるで目隠しされている人の様に歩いたりは普通しないもの。

 

心操くんは不安定さの原因が朝霞くんにあると分かっていた。だから、時々舌打ちなんてしていた。それでどうにかなるのなら、世の中全部どうにかなっているわ。

 

それにしても、朝霞くんの動きが何故あそこまで、極端なまでにおかしくなったのかしら。

 

心操くんの個性が「洗脳系」だとすれば、朝霞くんの隠している個性は、本人の意識がないならば、発動できないということになるのかしら。

 

だとすれば、意識のある間は常に意志を持って発動させていることになるわ。すると、隠している個性は増強系の類いかしら?

 

けれど、仮に増強系だとしたら、喪に服していたあの時の、あの不可解な言動の理由になるのかしら?

 

増強系の個性で、見えないところにも目が届くようになるなんてことあるのかしら。―――

 

 

 

***

 

 

 

――本当にギリギリだった。

 

気分はまるで、言葉通りジョッキーのようだった。慣れるまでの辛抱だと初めから分かれば苦労しなかったのに。

 

何とか手綱を引いて、どうにかこうにか良いとこ取りで、第二種目も勝ち抜けた。

 

やっとだ、やっと自分にもチャンスが来る……!

 

興奮で口元がダラしなくならないように、キッと真一文字に結んだ。洗脳に陥っていた奴らを解放してやった。解放して近くにいると火の粉が飛んできそうだったから、早々とその場から立ち去った。

 

解いてからは大きな尾っぽを持つ奴が一番早くに現状を把握していたようだったが、置かれている立場には全く理解が出来ていない様子だった。

 

戸惑いながらも辺りを見回せば、俺と目が合った。アイツは鋭く睨んで来た。おそらく、アイツは俺の個性に気が付いたのかもしれなかった。

 

もう一人の、おそらくB組の奴も何となくではあったが、辺りの様子からどういう状況かを察したように見えた。

 

それから「アサカ」って奴に、尾っぽの個性のヤツが意識があるか確認していた。洗脳を解いてから、幾分か時間も経っていたし、そんなに長く混濁しているわけもないのに、一向に歩きだそうとしない。

 

 

「おい、朝霞。大丈夫か?」

 

 

肩を優しく揺すって、軽い意識の混濁から覚めさせようとしていた。

 

 

「あれ…?その声だと…、尾白?ごめん、何処にいる?」

 

「どこって…朝霞、目の前にいるじゃん…。」

 

 

朝霞は戸惑っていた。けれど、俺はそれ以上に朝霞と言う奴の言動に戸惑っていた。何故目の前のオジロに気が付いていないのだろうか。

 

まるで目が見えていないような。―――

 

――いや、もしかしたら、あんなに躓きそうになったり、進行方向がおかしかったりしたのは、本当は目が見えていなかったからじゃないのか?

 

――そんなわけないか。

 

天下のヒーロー科の奴にまさかそんな奴がいるはずがない。そもそも、本当の本当に目が見えていないのならば、ここに在籍するのは厳しいだろう。

 

第一種目の綱だって渡れないし、ましてや地雷原を歩くのだって無理な話だ。

 

相変わらず、耳の傍で心臓がなっている様に拍動していたのは収まらなかった。きっと、本戦までに行けたからだ。

 

汗ばんで少し湿っていた体操着も、十分に乾いた。これから休憩だから、制汗剤を塗っておかなくてはと、あの二人の会話が気になってはいたが、正直関係ない話なのでさっさとお暇させてもらった。

 

 

「えっ……?いつ糸を切って……?」

 

 

だけれども、最後に「朝霞」の声が妙に残った。ミッドナイト先生もあの二人をじっと見ているように見えた。

 

 

 

 




今回の話はとても書きやすかったです。

色々な話を並行して書いておりますが、一つ前の話よりも実は筆が進んでおり、前話を投稿する時には既に7/10ぐらいは出来ていました。

これも私の構想の結果というのもありますが、果たしてうまく伝わっているかのか不安なところ。

読者の皆様方には、いつも感想で応援のお言葉を頂き、感謝の念に絶えません。これからも一層励んで参ります。更なる応援宜しくお願い致します。

また、差し支えなければ、評価・感想も宜しくお願い致します。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。