かれこれ半年近く音沙汰も無いままでしたが、アクセス解析だけは日頃見ていましたので、毎日どなたかがお出でになっていたのは存じ上げております。
待ち遠しく思って頂けたら本当に幸いです。
初戦がクソ陰キャの男女如きに俺が負けるわけがねえ。それに、あいつはどうせ強個性でもねえ。入学試験の時に散々邪魔してきやがったから、お礼してやんなきゃなあ、だろ?
「千里眼程度の奴が俺の相手なんざ、話になんねえ。」
髪をまとめつつ少し煩わしそうに見えた。長い髪が煩わしいのか、それとも俺を相手にするのがそうなのか。それが余計に腹立たしい。まるで眼中にないみてぇだからだ。
晴天の下、青っちろい朝霞は固く閉ざしていた口を開いた。
「…ねえ、爆豪。『
「おい、言っていい事と悪い事も分かってねえンか。」
「何言ってんの?本人が自分のことをそう言って何の問題があるの?」
一瞬どころか、何を意味して「本人が」と言っているつもりなのか、全く分からなかった。益々苛立ちが募る。
「それに、爆豪は頭が良いみたいだから少し勘違いしているみたいだけど、世界が何でも意味で満ちているというのは錯覚だよ。」
「何言ってんだ?」
「…そのまんまだよ。意味もなく目が見えなくなったりすることだってあるし、耳が聞けないなんてこともあるし、もしかしたら明日これまでの記憶を全部忘れるかもしれないし。」
「意味の分かんねえ御託は良い。俺の方がお前より強えっつーことを見せつけてやるよ。」
体育祭が始まってから朝霞の眉間は、ずっと顰められている。それも騒がしいのが苦手だからなのかと思われたが、そんなことは今は関係ないと頭から振り払った。ほぼ裸の女教師が試合開始の号令をかけようとしている。ついに戦いの火蓋が切られた。
***
『強い力でモノを投げる個性』の朝霞は聴衆や朋からは圧倒的に不利のように見える、それは間違いないし、実際爆豪の攻撃を避けるばかりで積極的な交戦を行っているわけではなかった。
爆豪は更に苛立たされる。
―――チッ!コイツ、戦う気あんのかよ!!
体もそろそろ温まり、攻撃をしない朝霞には益々不利になっていくことが誰にも予想された。
八十八夜も過ぎ切って夏も近付く今日この頃、大目に見ても日射しはとても厳しく、運動量の多さで体が温まるというよりも、気温の高さのせいの方が強い。
そんな中でも朝霞は涼し気に見えた。自分の攻撃が軽い運動にさへなっていないのかと思われると、苛立ちが天井を突き破りそうである。
「男女!!おめぇ、何で攻撃してこねぇ!舐めてんのか!?」
朝霞は胸元辺りを摘みパタパタとシャツで扇いで顔に風を送っている。衆人環視からもヤル気の無さが分かった。
「ヤル気がないんじゃなくって、俺ってほら、『強い力でモノを投げる個性』だから、投げるモノがないなら攻撃のしようがないんだよね。」
短気の権化、爆豪には暑さと苛立ちで只只煽られているようにしか思われない。聴衆は爆豪の頭の血管が切れた音を聞いた気がした。
これまでの猛攻が一層の激しさを増し、フィールドのコンクリが抉れる事態にまでなった。爆豪は朝霞が戦えるような状況をこれ見よがしに誂えているようだ。尚も朝霞は攻撃を避けるばかりだった。
それもそのはず。臣は『強い力でモノを投げる個性』を人に使用したことがなかった。これまで相手取って来たのは獣ばかりで、殺してしまうのが仕事だったこともあり、何の気なしに使えたが、ここはヒーローアカデミア。ヒーロー養成所で人殺しなんて出来るわけがないし、ましてや人を殺してしまうような過剰な力を発揮するなど言語道断だ。
しかし、以前までは殺しても構わなかった獣だが、今はどれくらいの力で投げて良いか分からず、無闇にやたらに投げて殺してしまうようなことがあれば、どうなるのかくらいは火を見るより明らかだ。正直、臣は力の加減が分からなくて攻撃が出来ていなかったのだ。
一方で爆豪は一つ解せぬことがあった。爆撃をあてるため、どんなに正確に狙っても一つも朝霞に当たらぬことだった。脳筋に見えて頭脳派の爆豪のことだ、内心ではずっとその不可解を考えていた。
爆豪は知っている、入試での朝霞の行動を。つまり、奴は千里眼の持ち主。紅白野郎みてえに複合型だ、と。
しかしながらそれでも説明がつかないのは、なぜあんなに躱されるのかだった。爆豪は朝霞の個性を千里眼と見ていたが、少しその考えを改める必要があった。
攻撃してこねぇならこっちからやってやると言わんばかりに、爆豪はあらん限りの爆発を御見舞した。無論避けられたが爆風は避け難く、その勢いで朝霞はフィールドを少し転げた。反撃しないことを分かっていたので、すかさず朝霞へ迫ると、体勢を立て直さんと振り返った朝霞は戸惑ったような予想外のような表情をしていた。
ここまでしても反撃して来ない朝霞にはもう飽きてしまったとばかりに、追い討ちをかけるように爆発を起こそうとしたが、爆豪は朝霞の目の前に手を開いた状態のまま、体が動かせなかった。
「―――お前、隠してる個性、千里眼じゃねえな。」
***
A組の応援席側も朝霞の反撃のしなさ、攻撃の意志のなさに疑問を抱いていた。
「もう!何で何回もチャンスがあっても攻撃しないの」と葉隠が見えないながらにプンスカしていたのが分かる。傍に居た耳郎が宥めつつ、
「確かにさっきから何度も反撃できそうな時があったのに、そうしないんだろうね。」
「あっ!見て!爆豪、攻撃できそうなのに全く動かなくなっちゃったよ!?」
と、二人の近くの芦戸が声を上げた。その謎も爆豪の「隠してる個性、千里眼じゃねえな」という声で更に深まった。
「『千里眼』って何?」
「『千里眼』とは、一口に言ってしまえば『遠くまで見ることができる』と捉えてください。」とすかさず八百万が芦戸へ言葉を加えた。八百万は爆豪が気付く前から当然知っていた。
「爆豪さんは大きな勘違いをなさってますわ。朝霞さんの個性は『千里眼』程度のものではありません。」
***
うーん…そもそも『千里眼』だなんて言ってないんだけどなぁ…。
じゃあ、どうやって今俺の動きを止めてんだよ、ああん?
そりゃあ、自分の個性でどうにかしてるわけだけど…
さっさと自白した方が楽になるぞ。
そんな怖い顔して言われても、言えるものも言えなくなっちゃうって。
ここまでしておいて、何も言わねえってこたぁねぇよな?もうここまで来たら言わざるを得ねぇ。
やっぱ、頭脳派だよね。脳筋な言動の割りに。
臣は渋々といった然で、殊この個性に関してだけは貝のように固く閉じて押し籠め、話さないように努めていたが、ここで上手く隠せるような策を講じようとも、良い案が浮かばなかった。
爆豪はしたり顔だった。試合にも勝負にも勝ったと確信している。
八百万は少し躊躇った。人の個人情報をここで許可なく話すべきか。だが、爆豪が答えに至ったと見て臣の隠し個性について説明してしまった。臣のことを配慮して、「その個性が無ければ盲目」ということだけは敢えて話さなかった。臣も爆豪には全く同じように告げた。
やはり疑問が残るのは、この捕縛である。臣は立ち上がって説明しつつ服をはたいて距離をとった。動きこそ止めてはいるが、別に爆発を起こそうと思えば爆発は可能だからだ。
「最近気付いたんだけどね、この『触覚糸』って最初は視覚と聴覚だけを補ってくれるものだと思ってたけど、前にヒーロー基礎学で戦いの様子を傍聴してる時に、伸ばしすぎて轟のつんのめさせちゃったことがあってね。その時に思ったのが、実は触覚器の要素も備えてるんじゃないかって思えて、自分の番の時に障子を縛ってみたら成功しちゃって。」
この時の臣の自白で轟と障子は十分心当たりがあった。そして臣と八百万の二人組が、交戦を試みていた轟と一向に会敵しなかったことにもA組全員が納得した。
「ヤオモモは朝霞の隠してた個性を知ってたの?」と耳郎が聞き返すが、八百万は押し黙った。臣が隠している事を隠していたというのは、ある意味で周りの友人を騙す行為に等しいと思われて、少し後ろめたい。
端で聞いていた峰田は「じゃあ、朝霞って覗き見し放題じゃん。――はっ!まさか、それでヤオモモの住所や更衣を…?」と言いつつ、上鳴と目を合わせて、音を立てて生唾を飲んだ。案の定、女子らは二人を蔑んだ目で眺めていた。
臣が隠していた事をバラすと、解説席の相澤先生は中々思い出せないことを漸く御思い出しになって、「ああ、思い出した。朝霞、お前それ個性届に書いてなかっただろ。終わったあとにちゃんと訂正して、個性届の再提出しとけよ」と仰せられたが、一同は意見が一致した。
え?このタイミングで業務連絡?と。―――
***
ここまでの自白を聞いても、受け入れ難いのは爆豪の攻撃を尽く読んでいたことだった。『触覚糸』と次なる行動の予測は連関がないからと思われて不思議だった。ここまでしておいて今更隠し立てもするまいと、聞けば何でも「人間に試すのは初めてだけど、猟のときに獣がどっちへ向かうか分かると便利だなって思って糸を付けてみたら、筋肉の動きでどっちに行くか何となく分かるようになった」と信じられないことを口に出した。
人間技じゃない。
流石の爆豪も面食らったし、予備動作が読めるとなれば何をやっても避けられるということだから、客席のプロヒーローらも末恐ろしく感じられた。それが行えるまでの技術と鍛錬、そしてその能力の有用さに。
不可解は瓦解したが、爆豪は臣の証言を聞いて既に気付いていた事もある。動きを止められる前のこと、爆発後に迫ったところ、これまで自分の動作を読んでいた朝霞が少し戸惑った。それがきっかけで分かったのは、朝霞の『触覚糸』は強風に弱いということにである。しかもその読みが全く正しいというのは腹立たしい。
臣は頭のいい爆豪のことだから強風に煽られると糸を伸ばせないことに気付いているとあたりをつけた。誰もが勝負はこれから面白くなると期待したが、田舎もんはそんな期待など露ほども気にしなかった。
朝霞は俺から距離をとりながらそのまま場外まで進んで行く。観客がざわつき始めた。みんなこれから朝霞がどんな行動をとるか分かったからである。
爆豪がどんなに罵声を上げて引き留めようとしても、聞く耳など持っていないかのごとく、臣は白線を越えた。審判のミッドナイト先生も戸惑っていらっしゃったが、一応確認のために尋ねても、臣の意志は変わらなかった。負けても楽しそうな人には、ずっと勝てないものなのだ。
朝霞臣 対 爆豪勝己 の試合は、臣の棄権によって爆豪の勝ちと決まった。
控え室では二人の間でまた一悶着あったが、上鳴、切島、八百万らの取り成しで何とか事なきを得たのだった。
***
警備担当のプロヒーローの中では専らの話題が臣のことだった。
「何が便利って私たちが周辺見廻らなくてもいいってことよね。そしたら、こんなやって控え室ではのんべんだらりんとやってられるのに。あーあ、あの子早くプロヒーローになってくれないかなぁ。」
控え室では臣と爆豪の試合を偶々観戦していたプロヒーローらは強く同意していた。彼が早くプロヒーローになってしまえば、彼を一人連れてくるばかりで見廻りが済んでしまうし、学校行事にプロヒーローが呼び出されて雑務をさせられることも無くなるからだ。
誰もあの発言を諌める者などいやしなかった。
何だったらあの個性で街中の警備もある程度行える分、現場にすぐ駆け付けやすくもなる。これまでのヒーローの活動形態が大きく変わるのを誰もが予感している。あの子はこれからのヒーロー活動を大きく変え、そして後方支援担当として、素晴らしいサイドキックとしてその役を担うと。
これは何も控え室のプロヒーローに限って起きた話でもない。雄英高校の教師の間でも俎上に上った。そしてある意味で「あんな個性があっていいのか」と問題にさへなった。
相澤先生は個性届に記載されていなかったこと、つまり書類の不備について後に叱ろうと心に決められていた。そしてミッドナイト先生はこれまでの違和感が遂に拭われて、スッキリした御心持ちになられた。
そして、その能力を耳にしたオールマイトはふと心に懸かった。
―――かつてあの個性のことを私はどこかで聞いたことがあるのでは…?しかし、どこで…?
オールマイトは何か不吉を予感した。
***
―――これだ!ついに見つけた!!もうずっとその行方が分からなくなっていたあの個性が遂に見つかった!
―――おい、黒霧。前に行った時あんなヤツいたか?
画面の向こうで何かの勝利を確信し狂喜乱舞する男、そして見たことの無い者に訝しむ男。
朝霞と名が変わっても、やはり「遠野」の家系からは逃れられそうもなかった。―――
えっ、こんな終わり方するの?
と思われたかも知れませんが、これにて体育祭編は幕引きとなります。ご声援ありがとうございました。
最後は書きたいところだけ書きました。しかし、長く間を空けていたこともあって、書き方を忘れてしまったので、思うように書けず悶々としておりましたが、皆様が楽しく読まれたなら嬉しい限りです。
インターン先も決まってますが、皆様は「こんな展開になるんかい」と思われるような感じになりそうです。また、これから忙しくなるので、更新出来るか些か微妙ですが、皆様の声援を励みに頑張って参りますので、これからも応援のほどどうぞよろしくお願い申し上げます。
差し支えなければ、感想や評価等をよろしくお願い致します。
※解題も活動報告にてしておりますので、興味のある方は読まれてください。