蜉蝣物語   作:推奨納言

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某TOEICのために対策してたら、こんなに間が空いてしまいました。やっと終えられての解放感から、夜更かしに拍車がかかってます。私の部屋はイギリス時間を採用していますから()

とりあえず、ヒーロー基礎学の後半になります。ようやく本題に入る()

差し支え無ければ、感想・評価等をどうぞ宜しく御願い申し上げます。



5. 密偵物語

ヒーロー基礎学の初回は、まさに英雄好みの展開であった。日本という状況下では、いささか有り得ない設定なのであるが、何事も経験が大事であり、ありとある状況に接していなければならぬのだろう。指導内容に疑問は思うとも、文句の言える者などいるわけもない。

 

籤の結果に従って二人一組に分かれたい所だが、このA組は一人余分に多く、必然的にどこかの組が三人四脚もしくは二対一を余儀なくされており、運が良いのか悪いのか、朝霞臣は一人あぶれてしまった。

 

オールマイトは、「余裕がありそうな組と対戦するか、入れてもらうかしよう。パートナーは、同じように余力のある人に、掛け合って組んでもらえるようにしなさい。」とだけ言った。

 

観戦しながら戦法や方向性が決められ、後出しジャンケンの様相を呈している分、他の組みよりも有利であるが、かえって他とはハードルが随分と上がってしまった。緻密な作戦を練るのを余儀なくされている。

 

定石というものがあるのだろうが、ヒーロー活動の定石が如何なるものかは知らない。それでもやれるだけやらなくては、どんな拍子に除籍処分をくらうか分かったもんじゃなかった。

 

大トリを迎えるまでの間、参考になりそうな試合を基に、自身の対戦での立ち振る舞いを考えようと、モニターを注視した。

 

 

 

***

 

 

 

一組目の爆豪&飯田 vs. 緑谷&麗日の試合は、ハッキリ言って参考にはならなかった。

 

爆豪が緑谷に激昂して何やら罵っているような様であった。これが気になって、悪戯心に「触覚糸」を伸ばして盗み聞いた。

 

幼馴染同士にはよくあることなのだろうか、二人の間には解き得ぬ蟠りが、脚に、目に、心に、振るう腕に絡み付いて離れないまま、今に至っていた。出歯亀なんて趣味が悪いと思いつつ、液晶越しでは音声が無いものだから、つい二人の諍いに耳を傾けていた。

 

その折、八百万がそっと臣へと近付いて声は密かに「もしかして、お二人のご様子が分かりますか?」と尋ねた。

 

 

「確かに聞いてるけど、幼馴染同士の喧嘩?みたいな感じだよ。」

 

「はあ…。ただの私情による喧嘩なのですね。」

 

 

八百万はそれだけ言うと静かにモニターの方へと目を向けた。臣は八百万が何やら考え込んでいる姿を見て、先程の答えの一体何がそこまで八百万を思案させるのかなんて皆目見当もつかかず、不思議で仕方が無かった。

 

建物が突然大きく崩れ落ちるものだから、糸を爆豪たちへと伸ばし、拾った音に驚いたことで不意に肩が上がった。

 

臣は近くの上鳴に気付かれなくて少し胸をなでおろした。―――

 

 

 

一組目の4人は市街地から戻り次第、彼らの講評が始められた。オールマイトが講評を述べる前に、意見がある生徒を優先させた。八百万が手を挙げるだけで、誰も手を挙げなかったので、必然的に八百万が指名を受けた。

 

その他3人の行動から鑑みて、飯田はMVPに成る可くしてして成ったのだと、飽くまでも、客観的な事実を意見した。何よりも、「爆豪さんの独断専行は頂けません。私情を挟むなんて言語道断ですわ」のように激しく非難したのは、日頃の様子からは伺い知れないような一面を垣間見た、そんな気がした。

 

ヒーローになる、その為に下学上達なんて当たり前だと念押しすれば、誰も彼もが八百万の意見の正しさに押し黙るしか無かった。

 

八百万の意気込みを知る程に、臣はその身の上を惨めさに苛まされた。何もない自分なんて空蝉でしかなく、何故ここに来られる権利を与えられたのか胸の中がグルグルと渦巻いて、目の前で講評を受ける四人や観戦していた皆から遥かに遠ざかって行き、手を伸ばしても届かない大きな隔たりがあるようだった。オールマイトが次の組が準備するように指名しても、その声が聞こえることなく、その組の試合が終わるまで少し意識が離れた。

 

 

 

呆っとしている内に、轟&障子 vs. 尾白&葉隠の模擬訓練が始まった。引っ込めていた糸を伸ばそうと、右手の指を手の平側に折り曲げ、少し爪を眺めて弄ったりした後に、溜息のような体で息を吹きかけた。

 

触覚糸は忽ち彼らのいる建屋まで伸びて行った。

 

轟が障子の意見を聞くことなく、自身の個性ゴリ押しで、建物全体を氷漬けにしてしまったことで、尾白たちは惨敗を喫した。

 

この折のこと、間違いなく轟チームと勝負をする事になると分かったので、最後まで情報を得ようと糸を伸ばし続けた。

 

 

――話を聞くのにかまけて、糸を伸ばし過ぎた!

 

 

そう思った時にはもう遅く、伸びた糸は轟の右肩に触れてしまった。轟は少しつんのめると、不思議そうに足下を見ても、辺りは凍っているだけで、躓くようなものなんてなく、後をつける障子に、「おまえ、もしかして今さっき肩を押したか?」と問うた。

 

障子は肩を押せるほどの距離にはいなかったので、無論押すなんてできるはずもない、こちらも奇妙に思ったが、無実かつ疑問も兼ねて「いいや?」とだけいった。

 

揃って首を傾げ、互いの頭上には疑問符が浮かんでいた。

 

 

――あぶなかった…。あの糸は、触れたら感触があるのか…もしかして……

 

 

臣は何か掴んだ風で、少しだけ考え込んだ後に、自身の番が回ってきた時に試そうと決めた。

 

 

 

***

 

 

 

基礎学の演習も恙無く進み、やっと臣にお鉢が回ってきた。思った通り、もはや予定調和の如く、対戦相手は疲弊の少ない轟の組と対戦することが決まった。

 

誰か新たに組んでくれるような心優しい者もなく―――単純にみんな疲れている上に、先程の轟の戦法を見て名乗りを上げる奇特な者がいないだけ。

 

オールマイトが「誰か朝霞少年と組んでも良いって子はいるかな?」と投げかけるが、臣は一人で行うのも致し方なしと思った矢先、八百万がその手を挙げた。

 

オールマイトが八百万に参加の再確認を行えば、「構いませんわ。これも経験のためです。」と涼し気に応えた。心強いと思う反面、轟相手にどう立ち回るか考え耽っていると、臣は何か複数の視線を感じて、その方を見れば、上鳴や芦戸らが何やら心得顔でこちらを見ていた。

 

またお前らか、とガックリ肩を落とせば八百万に「移動しましょう。」と声を掛けられて、何か言い返す事なく、二人並んで演習を行う建屋に向かった。その間に、互いの能力の確認をして、どう対処するか案を話し合った。

 

作戦はこうだ。―――

 

 

 

今回は轟らが先程の逆で敵側を担い、臣たちがヒーロー側となって行う段取り、まず臣は八百万に足音が出ない靴を二足創って貰った。そして声を出すと障子の個性で把握されかねないと考え、最小限――それも殆ど会話はしないで作戦を進めることとなった。そして、互いに障子との接近戦を避ける為に、閃光弾も八百万に創ってもらった。

 

二人は靴を履き替えながら、これからの作戦の確認を行った。

 

 

「出来る限り会敵したくない。糸を伸ばして相手の動向を探るから、それでどうにか出会すのを避けよう。今回、轟は建物全体を凍らすのを禁じられたし、障子はどうせ索敵に回って、轟が攻めに来るだろう。」

 

「そのための消音性の高い履物なんですのね。戦闘になるにしても、障子さんだけだといいのですが…。」

 

「障子が正面切って戦闘に交ざるのも考えにくいし、一向に俺らが姿を現さないと、それもそれで焦れて轟が単騎進軍するだろうし、その折に遠回りしながらだけど、核を配置している所に向かおう。そして、最初の一回で決めなきゃな。」

 

「ええ、そうですね。ところで、場所は?」

 

「ズルだけど、もう把握済み。」

 

「――では、残りは上手く焦れた轟さんが一人やってくるのを期待しましょう。それから念のために、轟さんが直ぐに戻って来られないように、障子さんと核のある場所の出入口は塞いでしまいましょう。」

 

「頼むよ。あとは上手くことが運ぶことを祈るだけか…。」

 

 

臣はここでふとある疑問が心に芽生えた。

 

 

「――そういや、八百万は何で俺と組んでくれたの?」

 

「ああ、それはですね。―――」

 

 

八百万が答える間もなく、オールマイトによる開始の声が響いた。二人は作戦通り、一切の会話を止めた。

 

それから、二人は背後を一応警戒しつつ建物の中へと足を踏み入れた。

 

 

 

***

 

 

 

「轟、ここから出るのはまだ早計だ。」

 

「何でだ?さっさとこっちから倒しに行った方が楽だろ?」

 

「さっきから耳を増やしてどこにいるか探っているが、少しも音を拾えてない。」

 

「向こうも俺らが何処にいるか分かってねぇんだから、構いやしないだろ。何かあったら、インカムで連絡くれ。」

 

「――あっ、おい!轟!!」

 

 

案の定、轟はヒーロー側がいつまで経っても来ないことに痺れを切らして、単騎遠征を敢行した、また障子の話をろくに聞かずに。

 

 

 

***

 

 

 

「何かヤオモモたち、さっきからグルグル回ってるけど、ああも上手い具合に轟くんを避けられるもんやろか…。」

 

 

遂に麗日はみなが疑問に思っていたことを口に出した。それから、あの二人の行動は偶然性によるものなどではないと、確信に到りつつあるが、その蓋然性にはみな口を閉ざした。

 

どちらともに個性を使用している様子も見えず、そもそも八百万の個性は『創造』で臣の個性は『強い力で物を投げる』であるが故に、ここまで明らかに轟の接近を避けられるような個性では、両者ともにない。

 

 

「そういや、上鳴は朝霞とそこそこ付き合い長いんだろ?何か知らねえのか?」

 

 

切島はそう上鳴に尋ねるも、上鳴が知っているはずもなく、あそこまで轟を避けられる理由はいつまで経っても解決しなかった。この場に緑谷なんかが居れば違ったかもしれないが。

 

 

「長いっつっても、お前らにちょっと毛が生えた程度だぞ?でも、実家でマタギの仕事手伝わされてたっつってたし、山ン中を駆けずり回ってたから、野生の勘でもあんじゃね?」

 

 

上鳴は思い付きを意見したが、結論にまでは至らずとも、最有力の見解となった。ここに臣が居れば何とも言えない気分にさせられたはずであろう。

 

しかし、オールマイトは少しだけ見当がつき始めていた。というのも、入試の際に臣は見晴らしの良さそうなビルの屋上から、小さな瓦礫の類いを投擲していたというのを観たからだ。

 

それも、かなり距離のから正確無比に投げられる所を見る限りで、何か個性のようなものを使用しているはずと睨んでいた。

 

それでもやはり、何故こうにも上手く避けられるのかは分からなかった。

 

 

――敵から逃げてばかりでは、どうにもできないぞ。少年少女ら。

 

 

「残り時間、5分を切ったぞ!―――」

 

 

オールマイトは口の端が上がった。

 

 

 

***

 

 

 

インカムからオールマイトの制限時間を告げる声が届いたが、二人はそれにさえ返事を返さなかった。無論、障子対策のためであったため仕方が無いのだ。

 

 

――さて、どうする。轟が障子のところから、あともう少しだけ離れてくれれば…。

 

 

臣は障子だけならば二対一で制圧できると踏んでいた。何がなんでも彼を相手取るために、轟との会敵だけは避けたかった。障子と核の近くには既に居るが、時間も残っていなかったし、轟が駆けつけようと思えば直ぐにでも来られる距離にいる。

 

 

――あともう少しだけ轟が遠ざかってくれさえすれば。

 

 

しかし、戦いの神がどちらに与するかは、突然である。何たる偶然だろうか、戦いの神は臣たちに手を貸したのだ。

 

轟はそのまま階下へ行くではないか!

 

臣はこの好機を逃さなかった。後方の八百万へ振り向き、軽く頷くと、出入口の傍で待機していた二人は、臣の合図のもと、一気に攻め入った。

 

障子は突然の会敵に驚天動地、すぐにでも轟へ連絡を取ろうとした。

 

 

「――っ、轟!朝霞たちが…」

 

 

しかし、臣による眼前の閃光弾でこれ以上はままならなかった。

 

八百万は臣の指示にあった通り、瞬く間に出入口をバリケードで何重にも塞いだ上に、更なる妨害工作として、そのバリケードをコンクリートのようなもので厚く塗り固めた。

 

一方で、投げた閃光弾と同時に、臣はこれまでに感じていた触覚糸の捕縛性を試す為にも、障子が増やした腕やら耳やらを触覚糸で縛り上げてみた。思った通り上手く行った!臣はそのあと予め配布されていた捕縛用の縄で障子を捕らえた。

 

この間、閃光弾が光を落とすまでの10秒足らずだった。一瞬の出来事に障子は為す術もなく、されるがままに捕えられ、臣が核に触れたことで、この訓練はオールマイトの「終了!!」の声で終わりを迎える。

 

 

「――くそっ…」

 

 

轟は自陣のあと数歩手前で終わりの知らせを聞いた。

 

この組のMVPは八百万だったが、頑なに認めようとはしなかった。それは臣の個性のなすところにあるからで、自分は臣の適切な指示に只只従っただけだとして、その申し出を断った。

 

オールマイトは困惑しながらも、その申し出を是として、形式上、臣がMVPとあいなった。それでも、八百万がMVPをやけに断る理由を誰も分かりはしなかった。

 

更衣室ではモニター越しで観戦していた上鳴や切島、峰田らから何故あそこまで轟と遭遇しなかったかを尋ねられた。

 

 

「やっぱ、朝霞は野生の勘で轟を避けたんだろ!」

 

「ええ…。野生の勘って…。またどうして。」

 

「上鳴が野生の勘に違いないって言ってたぞ!」

 

「じゃなきゃ、答えが出ねぇじゃねえか!」

 

 

切島と上鳴は答えが出ないことで臣に噛み付いていたが、臣は相手にするのが面倒になって、適当に話を流した。その結果、あれは野生の勘ということになってしまったのは、ややも不本意ではあったが。

 

峰田はというと、ずっとブツブツ何か言っていた。

 

 

「モテは野性味にあるのか……。」

 

 

 

***

 

 

 

放課後、今日の反省会をしようと残れる者は残って反省点を洗い出そうと、意識もようよう高くあったが、臣は如何せんそこまでの意欲もない上に、「今日は近所のスーパーの特売日だから、悪いな」と一声かけて残ることなく、一人今晩のオカズを何にするか冷蔵庫の中を思い出しながら、スーパーへ向かった。

 

 

 

「にしても、朝霞のやつ、何であんなに上手く轟を避け続けられたんだろうな。」

 

 

上鳴がボソリと漏らせば、芦戸や蛙吹、切島も同様に疑問の声をあげた。

 

 

「流石に野生の勘ってだけであそこまで上手くいかないよねー。」

 

「ケロ…野生の勘って本当にあるなら私も身に付けたいわ。」

 

「野生の勘って、響きが格好いいな!俺も身につけたいぜ!」

 

 

三者三様に意見を述べたが、本人の口から「野生の勘」といえお墨付きを貰ったゆえに、羨ましがったが臣は一言も認めた覚えはない。

 

そのあと、放課後残って反省会を行った者らは、時間が迫りくれば、茜さす帰路を辿った。

 

 

 

 

その日の晩のことだった。

 

臣は晩御飯を終えて洗い物をしている折、コップは買って間もなかったのに、パキッと音を立てて割れてしまった。手を切った。

 

不思議に思いながら絆創膏を貼ると、丈の少し足りていないカーテンが、少し開いていたので、きっちり閉めようと傍まで行けば、都会では珍しい星空、ビル山高くて故郷見えぬが憎らしいとは思っていたが、こんな都会の夜空でも郷里の星々を思い起こさせた。

 

しかしながら、嫌に据わりが悪く落ち着かなかった、こんな時は夜が明けるまでずっと心許無い。

そんな夜に、星が一つ墜ちた。―――

 

 

 




タイトルは基本的に好きな曲から、個人的かつ勝手な印象でクッソ適当に引っ張って来てます。

今月中にあと二、三話はあげたいですねえ…(あげるとは言ってない)
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