理解し難い箇所であったりや、それに準ずる何かが御座いましたら、感想欄にて随時お諮り、お答え致します。
差し支えなければ、感想・評価等をどうぞ宜しくお願い致します。
昨日コップが割れた。今日は燃えないゴミの日、捨てようかと思ったが、金継ぎでも試してみるのも悪くは無いかと、破片を新聞紙にまとめてくるんでいたけれど、忍びなくなって、玄関先から流しの所へ移し、新聞紙に包んだままに放置した。
祖母からの返信が遅いことにめずらしく思いながら、もうそろそろ向こうで桜が咲き始めても良い頃だと、気にかかるのは故郷の山々だった。この前の手紙は、鶯の絵に桜の香を焚き染めて送られた。
次は蒔いて芽吹いたばかりの衝羽根朝顔のことを書こう。
次はどんな趣向を凝らそうか、向こうでは恙無い暮らしぶりを送れているだろうか、一人寂しくないかと思いながら、臣は登校の坂を登って行く。
考え事をしながら坂道を登るにつれて、校門前あたりが騒がしいことに気付き、あの人集りはと、触覚糸を伸ばしてみたところ、何やらあれはマスコミの様であった。
道行く生徒がしつこく質問されており、いささか迷惑そうにしていたところを、自身も行かねばならぬのかと辟易したが、前を行く緑谷にマスコミは目をつけ、大挙して取り囲もうとするを好機と、校門まで駆け抜けた。
「悪いな、緑谷!」
「えっ!?あ、朝霞くん!?」
緑谷、南無!
***
朝のホームルームでは、昨日のヒーロー基礎学について、相澤先生からのお小言を頂く者もあれば、あまり褒められたようなことでもないけれど、諌められる者もいた。
「お前らには、ヒーローは必ず敵と戦うイメージがあるのかもしれんが、ああいう場面じゃあ会敵しないのが合理的だった。俺としては、朝霞と八百万の組が全体の中でもMVPだったよ。」
臣は糸を伸ばしてグラウンドの方を眺めていた。褒められる八百万と共に、近くの席の者から持て囃されていたが、これも何に姦しくなっているか理解出来ていなかった。
「それと、朝霞。お前、あれだろ…。」
先生は珍しく二の次をお出しになれなかった。他の生徒も何を言わんとするか疑問を抱けども、先生は言葉を濁らせられた。
「――昨日の映像を見て、朝霞に今日何か言おうとしたが、コスチュームはもっと考えろ…じゃなくて、スマン、ド忘れした。」
「はあ…。」
臣は何かお叱りを受けるのかと身構えていたが、先生が何を仰るかお忘れになったことに拍子抜けした。
「へー、先生もド忘れなんてするもんなンっすね。」
切島がそんなことを言うものだから、前の席の上鳴がすかさず「そりゃあ、切島。先生はアレでも人間だから、忘れるくらいはするだろ。」と言った。
上鳴と切島がそんなことを口走ると、先生は目を光らせて、「お前ら…今日は居残るか?」と巫山戯て言っているのか、本気なのか判断のつきかねる発言をなさったので、後ろを向いてた上鳴は直ちに前を向き、切島も居住まいを正した。
今朝のマスコミの対応やら今後の方針を仰せになれば、朝のホームルームは学級委員長決めへと移った。
臣は、先生の思し召しに、何か心当たりの有る様な無い様な気がしてならなかったが、どうでも良かったので、これ以上は考えるのをやめた。
委員長決めの間も、ずっと学校の周りに糸を伸ばして、白昼夢に耽っていた。加えて、昨日のヒーロー基礎学で八百万への尋ね損ねにかかづらっていた。
休み時間の合間に轟や爆豪からの視線を頂いたり、上鳴や峰田から八百万との関係を毎時間疑われたりと、午前は心労が絶えなかった。
昼食時になってからは間が空いた分、熱りはもうおさまりきったと言っても差し支えなく、やっと静かに過ごせると思い、学食で一人食事を摂っていた。衣装のことも再び考えたかった所でもあったので、少し静かであればと思っていた矢先の功名だった。
奴らは今日は購買でパンを買ってみるつもりらしい、来るまで待つのも癪だったので、早々と日替わりの物を頼んで一人箸を進める。
何だか来るのが遅いと不思議で、触覚糸を飛ばして様子を見ようと目を閉じた。掌に一息吹きかけた。
飛ばし始めたその時、けたたましく警報が鳴り響いた。音も拾うつもりで伸ばした触覚糸だったが、耳を劈く音が学校全体にけたたましく響き渡った。
不意の警報音に少し変な声を出してしまった。しかも伸ばした糸が夫々音を拾うために頭が痛くなったけれど、彼らの無事を確認するついでに、何が原因か四方八方に糸を飛ばす。
不可視の糸は学校中に伸ばされ、その内の一つが捉えたは、明らかに自壊した様には見えない校門と、校舎へ押し寄せるマスコミだった。
「あぁ…何だ。緊急事態ではない…か?」
臣は別段避難をしなくても良かろうと、みなが出入口へ我先に進んでいる中、一人昼食を悠々摂っていた。
往く人は臣のお気楽さに怪訝そうに見遣ったが、とりもなおさず避難が先決と一瞥をくれるだけで、避難を促す様な者は居なかった。それでも英雄を目指さんとする者たちなるや。
臣が警報音に気付いているはずなのに、一向に逃げない様子を緑谷は出入口へ向かう途中で目の端に映った。少しも逃げる素振りをとらないのに訝しんだ。
人波は絶えず波打っているところ、1-Aの女子らが臣の横を通り過ぎようとした。
「朝霞!あんた、警報の音聞こえなかったの?早く避難しなきゃ!」
耳郎が臣の腕を掴んで立たせようとした。
「いや、大丈夫だって。アレで死ぬことなんてないから。」
「ご飯より避難の方が大事だよ!」
あまりのお気楽ぶりに、葉隠は避難の重要性を説いたが、臣には微塵も響いていなかった。臣は食事を遮られて不満だったし、アレはマスコミの殺到なだけで、避難行動をとる必要も無いはずなのだが、それを知らぬは致し方なし。それでも、臣は行動をとる必要を見い出せなかった。
「――みなさん、席に戻って良さそうですわ。」
八百万は朝霞を連れて行かんとする手を遮った。
「ヤオモモも、そんな悠長なこと言ってちゃダメよ?」
蛙吹は八百万を諌めたが、少しも耳を傾けなかった。
「朝霞さん、外では何が起きたんですか?」
八百万はあくまでも冷静に尋ねた。
「――今朝の校門前のマスコミが侵入したみたい。」
臣はゆっくり咀嚼して飲み込んだ後に、一言そう伝えた。
「そうですのね。それなら先生方がどうにかなさるでしょう。それに、今のあの状況では外に出られませんわ。逃げるにせよ、あれが落ち着くまでは待ってませんと。」
「ええ…だけどヤオモモ、本当に大丈夫なの?」
芦戸を宥めて、八百万はA組女子らが避難を続けようとするのをやめさせると、臣に一言お礼を告げて、お昼を食べていた席へ戻って行った。それでも、その他のA組女子らは納得があまり出来ぬままに席へと戻った。
A組女子らが戻っている頃に、出入口の付近で飯田が声を張り上げ、避難の不必要性を滔々と説いた。何故、あのような非常口のマークをしながら言うのだろうかと不思議に思った。
学食の生徒らみなは、一瞬の非日常から日時へと戻って行けば、上鳴や切島らがやって来たが、その時には、臣はお昼を食べ終わっていた。
午後の委員会決めやらの開始前に、緑谷は委員長に選出されていたが、その職を飯田に委譲すると宣言し、飯田は戸惑いつつもどこか嬉しそうだった。
臣は下校のために、荷物を鞄の中に詰めていると、緑谷が不安げな顔で傍へやって来た。臣はそれに気づくと「何か?」と、一見すれば突き放すような物言いで尋ねた。そんな気は毛頭無いのだが。
「いや、あのね、別に大した事で無いんだけども、差し支えなければ教えて欲しいんだけれど、もし嫌だったら別に答えてくれなくても良いんだ。」
答えて欲しいのか、答えなくても良いのかイマイチ掴み兼ねたが、話を聞くだけなら減るものでもないと、「別に良いけど、どうしたの?」と了承の質問を返した。
緑谷は聞きづらそうに「今日のお昼に、みんなが避難してる中で、避難しようともしなかったでしょ?」と尋ねた。
「ああ、あの時に緑谷もあそこにいたの?」
「そうなんだ。でも、何で逃げようとしなかったの?もしかして、マスコミだったって気付いてたの?」
「うん?まあ、確かに気付いてたよ。」
緑谷は途端に一人の世界に入り込んで、ブツブツと呟き始めると、近くの上鳴、切島、蛙吹、芦戸らは少し引き気味でその様子を見ていた。
緑谷の独り言を断ち切るかの如く、校内放送が相澤先生の声で、校内に居るならば至急職員室に来るようにと放送された。
「ごめん、緑谷。呼ばれたから行かなきゃ。」
緑谷もやっと我に返れば「またね!」と別れの挨拶、近くの上鳴たちとも別れを告げて、職員室へと向かった。
それから臣は2週間ほど、学校を休んだ。
お気に召す方が増えるのを見ると、文筆の動機になるものですね。
この話はかなり私個人の思い付きで書いているので、一応の目処がその思い付き尽きるときです。したがって、実は次くらいで私の体感では、一旦話が閉じる形になる、のかな?
あともう少々お付き合い下さい。
ちなみに、今回のタイトルは、私の慕ってやまないBjorkの歌より引っ張って来ました。
ちょっと皮肉を込めてます。