蜉蝣物語   作:推奨納言

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皆様よりの身に余る賛辞を頂き、戸惑いが隠せません。



第二章 The Rite of Spring
8. 積木遊び


長く間を空けていたため、授業について行けるか不安でしか無かったが、教室で八百万に出会した折、ノートの写しを貰いに彼女の好意で、臣は八百万家に招待された。

 

 

一杯お茶を頂きて、去らんとする頃には、季節は晩春に向かい、初夏が近いにも関わらずもう空は暗く、晩御飯を作る気力もないままに帰る面倒臭さと思っていたところ、運良く、八百万家にて晩御飯をご相伴に預かった。

 

テーブルマナーに不安を覚えながらも、見様見真似で難を乗り越えた。下男下女から、裏で二人の関係性を勘繰られていたとは露知らず。

 

――露も知らないと言えば、今年の梅雨は空梅雨らしく、体育祭のある五、六月の天気模様が良好であるらしい。

 

空梅雨で体育祭の時は天気に恵まれそうだと、晩御飯の際に体育祭が話題に上がった。八百万は臣にある程度の説明をしながら、お互いの健闘を祈り合った。それでも臣は見たことがない故に、あまりピンと来てはいなかったが。

 

 

「体育祭は全国放送されるのが恒例なんですの。」

 

「それって…、生徒の個人情報的には大丈夫なのか?」

 

「…言われてみればそうですわ。まあ、そこには配慮なさるでしょう。…多分。」

 

 

八百万と臣は体育祭に対して、少し違う不安を覚えた。がしかし、お互いが思った以上に楽天的であったので、特に深く考えることは無かった。

 

 

本題のノートに関しては、八百万の部屋にあるため、晩餐後にそこまで案内された。こともあろうかと、予めコピーは毎回取っておいたそうなのだ。有難いと思いつつ、廊下を歩めば壁に掛けたる鹿の頭を目にしたり、八百万の部屋に入れば熊の毛皮の絨毯があったりと、何か見覚えのあるような品々に気が付いた。

 

 

祖父母と共に作った物が、実際に人に使われているのを見ると、少しむず痒いものだな。

 

 

臣は嬉しい反面、気恥しさが同居していた。

 

八百万のノートは得も言われぬほどの流麗さ、上鳴に頼まなくて良かったと臣は心から思った。それから、臣は八百万家のリムジンに乗って家まで送って貰った。

 

臣が車を降りると、八百万は窓を開けた。

 

 

「明日から登校なさるんですか?」

 

「いや、荷物が明日中に届くらしいから、多分明後日かな。」

 

「そうですか。上鳴さんや峰田さん、切島さんにそう伝えておきますわ。」

 

「悪いな、八百万。ノートの写しを貰うに留まらず、晩御飯まで頂いてしまって。」

 

「そんな、お気になさらなくとも構いませんわ。お安い御用です。私が作る訳でもありませんし。」

 

「…尚更済まないな。何から何まで。じゃあ、また。」

 

「ええ、御機嫌よう。」

 

 

黒塗りの車は街頭で艶やかに照らされながら、街の夜闇を割いて行く。臣は車が見えなくなるまで見送った。

 

物憂い春の長い2週間がようやく暮れ、木の間からの朧月夜を見ることが出来るのも、そろそろ終わりの頃にあった。深く息を吸い込めば、色こそは見えないけれど、闇の中でも咲き残る桜が見える気がした。

 

 

二日後に、臣は再び登校し始めた。

 

 

 

***

 

 

 

登校を再開してからというもの、2週間の置いてけぼりには些か困りものでもあったが、流石学業でも他の追随を許さぬ雄英高校の学生である、貰った写しで忽ち追い付いた。八百万のノートのお陰であることなど、更にも言うまい。

 

登校再開の初日には、教室のドアくぐると、一斉に皆の注目をかき集め、上鳴や峰田には勢い良く飛び付かれながらも、後ろに倒れそうになりつつ何とか耐え切り、臣は彼らを宥めるのに苦労した。

 

何でも、居ない間に敵の襲撃を許したり、「脳無」なる人造人間を相手取った時の生きた心地のしなさであったり、これからの体育祭のことについてであったり、何処で何をしていたのかだったりと矢継ぎ早に質問攻めに遭った。

 

 

「臣、お前、前よりも痩せたか?」

 

「んー…、そうか?自分では分からんからなあ。」

 

「それに、目の下に隈もうっすらあるし。」

 

 

「モテたい」を旨とする上鳴も、日頃からこれくらいの気付きや、気の利き方を見せればモテない筈が無いのに、モテないのはやはり違う要素にあると見た次第、耳郎も言っていたが「残念なヤツ」なのだなあと、臣は遠い目をした。

 

 

「――おめェら、朝っぱらから野郎同士が扉の前でイチャついてンじゃねえ…。とっとと退けや、ブっ殺すぞ。」

 

「ンなこと言ったってよー、爆豪!臣が2週間ぶりに帰ってきたんだぞ!」

 

 

上鳴が何時の間にか名前呼びをしている事に、臣はどこか違和感を覚えてしまったが、名字呼びが名前呼びになった所で何が変わろうか。臣は何も言わずに受け入れた。

 

その爆豪はと言うと、「引き籠もりになんざ興味ねェんだよ。さっさと退けっつったろ。」と吐き捨てて、峰田・上鳴・臣の三人の横を過ぎて行った。亜麻色の髪から甘めの整髪料の匂いが微かに漂った。

 

そのままの流れで三人は臣の席に集まった。やはり、聞かれるのは長い休みのことだったが、あまり大っぴろげに話すよな内容ではないため、適当にお茶を濁した。こういう、察しの悪い所がモテない理由なんじゃないのかと、臣は薄々勘づいた。

 

 

扉の前で聞いた「脳無」なるの話を深く尋ねれば、頭が剥き出しの巨体で、色々な個体があって、黒い靄みたいなヤツと、顔や体に手を付けた瓶覗のようなる髪の敵と、それから。―――

 

上鳴と峰田の説明に、近くの切島が交ざると、説明はより一層混迷を極めた。夫々から夫々の意見と視点と体験を語るために、話が錯綜してまとまっていないので、臣は途中から聞くのをやめて、適当に相槌を打っていた。

 

ただ、「脳無」という名であるのに「脳が剥き出し」とはこれ如何にとだけ、頭に薄茫やりと過ぎった。

 

 

「――みんな、ホームルームの時間になるぞ!席につけ!」

 

「いや、だから席に着いてねーの、オメーだけだよ。」

 

 

言うまでもない予定調和であった。

 

「話はまだ終わってねーからな!昼メシんときに続き話すからな!」などと上鳴と切島からの最後通牒を聞いて、彼らが脳無に遭遇したとき以上に臣は戦慄した。

 

何となしに斜め後方を見ると、八百万と目が合った。互いに軽く会釈をすると、峰田から嫌な視線を頂いた。

 

 

 

***

 

 

 

「あれ、朝霞はー?」

 

 

上鳴は切島や爆豪を連れて、臣と帰ろうとしていたが、その臣がいつの間にやら居なくなっていたを不思議として、周りに尋ねたけれど、誰も知らなかった。相澤先生に呼び出されているではなかろうかという説が有力だった。

 

切島に爆豪を引き留めるように取り付け、上鳴は臣を探して職員室まで。

 

 

 

「…もう大丈夫そうか?」

 

「はい。もう泣いたり惑ったりしません。後にはもう退けませんから。」

 

「そうか…。気張れよ。」

 

「――はい。」

 

 

臣は相澤先生からのお呼び出しを頂き、職員室でこれまでの経過やらを話した。

 

 

「それと、悩んだり手続きで困ることがあれば、俺か、――そうだなミッドナイト先生辺りにでも相談しろ。」

 

「――ああ、それ、ミッドナイト先生からも聞きました。『イレイザーヘッドは意外と世話焼き』だって言ってましたよ。」

 

 

相澤先生は臣からそのことを聞いて「余計なことまで言いやがって…」と恨み節を仰って、帰りの駅でのミッドナイト先生同様に米神あたりをお押さえになった。

 

「問題なさそうなら良い。あれば直ぐに話せよ。」と念押しで仰せられた後に、臣は職員室を出た。

 

出ようとした時のことだった。全く同じタイミングで扉を上鳴も開けた。突然のことにビックリして、互いの変な声を聞いてしまったのと、全く同じタイミングで扉を開けたことに、二人とも大笑いしてしまった。

 

 

「お前ら…、何やってんだ…。」

 

 

一部始終を相澤先生はご覧になっていた故に、お飽きれになられていた。

 

笑いも収まった頃に、ミッドナイト先生がおいでになった。臣は姿を見て、すぐさま駆け寄り、この間のお礼を述べた。

 

 

「この間は本当にお世話になりました。」

 

「あら、殊勝な心掛けね。でも、そんな重ね重ね言わなくてもいいわよ。」

 

 

ミッドナイト先生は臣の振る舞いに感心なさったが、上鳴は二人の仲がやたら良いように見えて、不可解であった。

 

 

「臣、お前にはヤオモモという存在がいながら、ついには先生にまで手を出すのか…。くっー!モテる男はひと味違うなー!」

 

「上鳴、お前…。余計なこと言うなよ。」

 

「あら、朝霞くん、八百万さんとイイ感じなの?いいワねぇ…頑張んなさいよ!」

 

「いや、だから違いますって…。」

 

 

良い情報を得たりと、ミッドナイト先生は口を隠されながら、ニヤニヤと笑われた。

 

臣は咳払い一つして、話を無理やり変えに行こうとした。

 

 

「――ところで、先生、この間のお礼と言っては何ですが、ウチに実家から持ち帰った牡丹肉の燻製が余ってるんですが、いりますか?」

 

「あら!もらってもいいのかしら?」

 

「ぜひ。」

 

「それなら、頂いちゃおうかしら。良いかしら?」

 

「ええ、もちろん。結構な量があるので郵送しようと思うんですが、先生の事務所で良いですか?」

 

「そっちの方が都合がいいワ。」

 

「じゃあ、そうします。」

 

 

臣とミッドナイト先生の会話で「牡丹肉」と出たので、上鳴は頭に疑問符が浮かんだ。

 

 

「牡丹って何の肉だっけ?」

 

「生きてる間はイノシシ、死んだら戒名が『牡丹』」

 

「あら、あなたえらく古い漫才の句を知ってるのね。」

 

「じいさんが良く言ってましたけど、これ漫才の一部分だったんですね。」

 

 

上鳴がやはり「残念なヤツ」だと言われる所以はここにあった。

 

 

「ん?ということは、その古い漫才を知ってるミッドナイト先生の年って…?」

 

「――痛いのはお好きかしら?」

 

 

先生はどこからともなく鞭を出して、廊下にパシンと一打ちさせた。

 

 

「じゃあ、先生!お疲れ様でーす!」

 

 

上鳴は臣の腕を掴んで一足に逃げた。

 

 

 

 




本当にしょうもない日常回でした。

ここからだともっと長くなりそうだったので、一旦ここで話を区切りました。

端書きにも載せましたが、何かよく分からん力が働いたんでしょうか、日刊には載るし、お気に入りの作品の著者から評価を頂いた上にお気に入り登録もして頂きましたし…(錯乱)(二の句が継げない)

色々辿れば、辛口批評家の方もお気に入り登録なさっているご様子ですし、本当に身に余る光栄です。

これからも応援宜しくお願い致します。


差し出がましいですが、評価・感想のほどどうぞ宜しくお願い致します。

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