蜉蝣物語   作:推奨納言

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日刊に載るだけで、こんなにも見る人の量が変わるものなんですね。多くの人に見られると、自分が書いているので、何だか自身の裸や心の内を、除き見られているような気もしないではないです。

こんなもん書いておきながらそれどうなんだ?って感じですが。

第二章の章名ですが、もしかしたら変えることがあるかもしれません。確率としては50:50です。




9. Human Behaviour

――久方の都会の空は息苦しやと、臣は窮屈で堪らず、自身への遊びを無くしてしまったことだから、故郷失くして帰る場所も無く、唯一の楽しみと言えば、上鳴らが属する「爆豪会」(その名を持つ者が反社会的勢力の如くはあるが、かかる組合にはあらず)、すなはち、「爆豪派閥」で駄弁ったり、お悩み相談であったりをすることだ。

 

上鳴や切島らと連めば自づから「爆豪派閥」に組み込まれるようなものである。上鳴が連れて来たとき、爆豪の形相は、まさに人外の域に達していたと言っても可笑しくは無い。

 

しかし、爆豪自身は臣の事を認めていない訳でも無いが、ヒーローに対する志の低さには腹を立てていた。臣が迷走していたことに端から気付いていたわけだ。顔を合わせない2週間、臣の心境の変化が顔に出ていたのだろうか、敵対心そのものが減じるのではないけれど、自分のできないことができるのを十分に評価する程度には認めていた。

 

しかし、一つ大きな疑問があった。先日のヒーロー基礎学に於いて、轟を避け続けられたことだった。こればかりは、どうにも不可解であった。加えて、入試での実技試験のことも気に懸かる。それをば暴かんと体育祭を終えるまでの要観察を内に決めたら、それからが早かった。

 

「センスの塊」と言われるだけはある、爆豪は臣の個性を「千里眼」と断定した。「千里眼」程度なら敵にもなるまい、歯牙にもかけず、分かってからは臣の個性のことなど、頭の隅にも置くまでもないと、その一切を考えることは無かった。

 

本当は三割程しか合ってないのだが。―――

 

 

 

 

「昨日はマジでヤバかったんだって!爆豪がB組だったり普通科だったりを煽るだけ煽って、俺らにヘイトが溜まってんだよ!」

 

「ふーん…。」

 

 

上鳴や切島らに強く説かれようとも、臣はそもその場に居なかった上に、爆豪ならやりかねんと想像に易く、さほど驚きもしなかったが、居ない間に自身も害を蒙っているのには喜ばしくない。がしかし、居なかった者にはどうしようもないもので、只々受け入れるばかりだった。

 

ファストフード店のドリンクを飲み切り、吸引力の弱い掃除機のような音が響く。

 

 

「…あっ、もしかして、相澤先生の包帯だらけだったのって、その…『敵連合?』みたいなヤツに襲われたから?」

 

「急に話変えやがって…。臣、さてはオメーさっきの話には興味がなかったんだな?」

 

「いや、だって…、爆豪には一理あるし、興味本位で襲われた人を見に来るのもちょっと不思議だなあ、ぐらいにしか思えなくて。」

 

「まあ、そうなんだけどよ…。」

 

 

せっかくの力説を臣が耳から耳へ聞いていたのを、上鳴は「コイツ…」と思ったが、切島が述べたように何も間違っていないのが困り物である。もっと困ったことは爆豪の言葉遣いにあったが。

 

 

「それに、被害に会った人達見たいって結構良い根性してない?殺人事件で親族亡くした人に群がるマスコミみたいだよね。何か、そういうの見聞きすると、人間は愚かだって思うよね。」

 

「いや、どういう目線だよ。」

 

「んー…、山目線?」

 

「目の付け所がシャープだな。」

 

 

瀬呂は手で目が見開くような動作をした。手を目許に臣も真似した。切島は二人を交互に見ながら、意外に思っていた。というのも、臣がああいう風に巫山戯たり、こういう動作をするものなのかと、今までに目にした事の無い様子だったからだ。

 

 

「朝霞って、意外と巫山戯たりするんだな。」

 

「何で逆に、その完全に人間的な遊びがない奴だと思ってたの?」

 

「あんまり喋るような奴じゃないじゃん、朝霞って。」

 

 

「いや、そうじゃない」と言わんと口を開こうとしたが、一足遅かった。

 

 

「そりゃあ、切島、臣はコミュ障だぜ?田舎っぺのコミュ障だぜ?」

 

「二度も言わんでいい。」

 

 

臣は上鳴のチキンナゲットを、しかも最後の一つを盗って食べてやった。「あ゛ー!俺の最後の一個がー!」と叫び立てれば、上鳴は臣へ恨み言をずっと言っていた。

 

 

「食い物の恨みは怖いんだからな…。」

 

「へえ…。伴侶を狩られた熊の怖さほど、恐ろしいもんもあるのかねえ。」

 

 

違う意味で、やはり経験値が違った。瀬呂は「うわぁ…」と声が漏れ、上鳴・切島らは口許が引き攣っていた。

 

これまで、沈黙を貫いていた爆豪が重い貝のような口を開いた。

 

 

「おまえ、実家で熊とか猪とか狩ってたんか。」

 

「あれ?言ってなかったっけ?俺の実家はマタギやってたんだよ。それで、よく手伝いに駆り出されてて。山の中を駆けずり回ってよ。」

 

 

爆豪は「ふん…」と興味の冷めたようで、それ以上は聞かなかった。切島も「聞いたのにその反応はどうかと思うぞ、爆豪」と諌めたが、「うるせえ、クソ髪。」と一蹴されてしまったものの、それにめげないのが切島の良いところだった。

 

臣が轟を避け続けられたのは本当に「野生の勘」かと、爆豪は一瞬認めそうになったが、「そんな非科学的な理由があってたまるか」と直ちに冷静になり、打ち消した。

 

 

「おっ、珍しいな。爆豪が臣に興味持つなんて。」

 

「うるせえ、アホ面。ブっ殺すぞ。」

 

「ひでぇ。」

 

 

上鳴に対して率直な意見への返答ではないのに、流石に言われた当の本人も「ひでえ」と言わざるを得なかった。

 

爆豪は探っていた、臣の隠していることを。直接本人に聞けば良いものを、それを言動の中から見出そうとする辺りに、彼の矜恃があるのだろう、何気無い所にもヒントがある筈とずっと観察していた。結局、これまでの経験からでしか判断できず、結果として「千里眼」だろうと当たりを付けた。

 

 

「体育祭終わって、夏休みくらいに引っ越そうと思ってるんだけど、手伝ってもイイよって人いる?」

 

「あの部屋も十分広かったし、立地も良いのに引っ越すのか?」

 

「荷物が増えて手狭になっちゃって…。食事代ぐらいは出すけど。」

 

「やります。」

 

 

切島も上鳴も瀬呂も、まるで委員長決めの時の飯田の如く、手を真っ直ぐ伸ばした。

 

 

 

***

 

 

 

今宵は十三夜、翌日の体育祭を控えている中、臣の内心は不安で、バルコニーの柵に肘をつきながら、季節外れの朧月を眺めていた。

 

あれから、あまり寝付きが良くないために、外を眺めたり、遠くへ糸を伸ばして野良猫を揶揄ったりして、夜を過ごす。

 

相澤先生に「泣いたり惑ったりしません。」と啖呵をきったからには、本腰入れて取り組まねばならぬわけで、しかもその後のヒーローになるのに大きな影響があると見れば、魅せるところは魅せるといふ風に、一気呵成に自分自身をアピールしなければならない。

 

「どうしたものか」と明日の思索に耽れば、夜もこめて、月に叢雲の様相、花も散り切ってしまい、灰色の多い街並みにあって欲しい色もなくなり、春雨の降りそうなので、これ以上は月さへも眺め続けられないならと、静かに部屋に戻った。

 

上鳴からメッセージが来ていた。「早く寝て、隈を治せよ」と言われても、その言葉を貰ってから優に2時間は過ぎている。

 

明日は体育祭の本番だったけれど、この雨のやむことばかりが気にかかって、中々寝付けなかった。

 

 

 

 

夢の中で「これは夢の中だ」と認知することはよくあるものだ。例えば、度を抜いて奇天烈なことが起きたり、視点は子供の自分だがそれを客観的に今の自分が見ていたり、一部分は鮮明かつ美しく描かれているにも関わらず、その背景が奥行きのある乳白色だったりする。

 

臣は今見ているものが、あまりにも感覚的に鮮明すぎて、夢か夢では無いのか分からなかった。どこかで、夢と現実の区別がつかなくなる故事があったような気がしたが、今そのことはどうでも良かった。

 

前方にはクラスメイトらが歩いており、その後ろを自分は着いて行くが、一向に距離が縮まらない。走ってみても無駄であった。

 

いくら追い掛けても追いつかないから、臣は「ああ、これはよく夢で描かれる情景だ」と独り言ち、これ以上追い掛けても無駄だと見切りをつけて、追うのをやめた。

 

追うのをやめたら、今度はみんなが立ち止まって向こうで見ていた。見ているだけで、何を言わず何もしない。ただ先で見ているだけ。

 

爆豪が親指を下に向けるとスーッと消えていった。それから一人、二人と徐々に消えて行き、最後に残ったのは上鳴と八百万だった。何か言っているけれど、何も聞こえない。こちらにも伝えたいことがあるのに声が出ない。

 

必死に声を出そうとして、やっとの事で声が出たとき、そこにはもう誰も居なかった。

 

 

 

昨晩の雨は晩春の通り雨、夜も明かぬうちに止み切ってしまい、水溜りどころか、黒い染みすら見当たらない。

 

朝日がカーテンの隙間より漏れ出れば、ゆるゆると意識も起きてくる。夢を見ていたはずだったが、何を見ていたのかはさっぱり思い出せなかった。

 

寝惚け眼で時計を見ると忽ち目が覚めた。

 

 

 

***

 

 

 

なるほど、ヒーローと言う職が確立してから、その人気や志は仰ぎ見ても高いものである。

 

――高いと言えば、「雄英高校の体育祭」が人気の高さはそれまでの五輪をも凌ぎ、つひに追い抜いてしまったとも言われているこの日本では、ヒーローのための地均し、登竜門と呼ばれるに違わぬほど、目を見張るものがある。

 

目覚しい活躍を見せれば、その後の活動が有利になることは勿論、そのまま卒業後の成功にも、認知度などの問題で大いに関わってくる。ひいては、体育祭での活躍そのものが、今後のヒーロー人生を左右すると言っても過言ではない―――のかもしれない。

 

人気が無くては廃業をも辞さない覚悟で務まざらば、国家公務員とはいへども、明日食う金も無くなってしまう。さるとも、今やヒーロー飽和時代に突入し、初期の萌芽や権勢はかつてより目も当てられぬ。

 

それを知ってか知らぬかは存ぜぬとも、その後の職場体験やインターンに直接響く故、努々ダラける勿れ。

 

とはいへ、体育祭での活躍は噂の下風に乗りて後身の手本となるらむ。―――

 

 

 

 

曰く、敵連合の襲撃からだろう、臣はクラスでの結束感に馴染めなかった。それは致し方なく、事情のある由、誰も悪くは無いのだが、何か一人馴染めぬ所がどうしてもあった。

 

爆豪派閥の縁とは違う、言い知れぬ何かが――そう、疎外感のような、梯子を外されて一人登れないままに下から見上げているような。

 

何か似た感覚を覚えている気がしたが、何だったか心当たりがありそうでも、見当たらなかった。

 

轟は緑谷だけにならず、よく聞けばクラス全体に大見得を切ったようなもので、下手ながらも全体への発破をかけた。臣は何故轟が、まるで爆豪のように、緑谷に拘泥しているのか些か疑問であったが、これもきっと敵連合の襲撃中に何かあったのだろう、輪に交ざれないのにはもうコリゴリだったけれど、知らないことには何も出来なかった。牛の角を蜂が刺すようなことだ。

 

定刻となり、プレゼントマイク先生は激しくお煽りなさり、その中でヒーロー科1年A組は入場した。何万という瞳が自分たちを見詰めている。USJ事件なるものが記憶に新しく、被害者たるA組の行進とあらば、否が応でも注目を浴びる。

 

少し前に蒔いて芽吹いた衝羽根朝顔を枯らしてしまったのだが、どうしてかそれが頭にチラついた。

 

 

 

 

臣は蛙吹とはあまり話したことがない。それでも、後ろからずっと見られ続けると、自身の個性の関係もあるが、視線が気になってしまった。

 

 

「えっと、どうかした?」

 

 

蛙水は急に話しかけられたのと、じっと見詰めていた事に気付かれて驚いたが、彼女の性格上、気になった事を答えずにはいられなかった。

 

 

「朝霞ちゃん、後ろ、寝癖ができてるわよ。」

 

「ん?ああ…、これね、ありがとう。」

 

「イイのよ。前にヒーロー基礎学で髪を結いでいたから、寝癖を隠すのに結んでみたらどうかしら。」

 

 

蛙吹はそう言って髪ゴムを渡そうとしたが、「いや、持ってるから大丈夫。」と臣はポケットから自身の朱の髪紐を取り出して結いだ。

 

 

「へえー!朝霞くんって、ゴムじゃなくて髪紐使うんだー!」

 

 

すぐ後ろの芦戸が声を上げた。蛙吹も「確かに今どき珍しいわ」と呟いた。

 

 

「でもさ、男で髪が長いと見てて鬱陶しくなってこない?」

 

「そうでもないよ!似合ってればいいんじゃない?」

 

「ケロ…、そうよ。それだったら、相澤先生も男性だけど髪が長いわ。」

 

「それはちょっと違う事情な気がするけど…。」

 

 

行進中だったが女も男も、盛り上がれば姦しくなるわけで、朝霞の髪が綺麗でどうだ、トリートメントは何だ、ケアの仕方は他に何をやってるだの花が咲いた。

 

髪のケアの話やら、何やら話している内に、全体の行進がもう終わろうとしていた。

 

号令台には、最近何かと懇意にしているミッドナイト先生があらせられ、衆人環視に晒されてもあの格好でいられる胆力はどこから来るのだろうか――いや、むしろ、なぜ誰もあの格好に動じなくなってしまったのか。デビューしたての頃は、もちろん批判の声が出ただろうが、それにしても、人の慣れとは怖いものであるとしみじみ感じた。

 

葬列の際には、キチンと喪服をお召しになられていたあたり、常識外れではないことは重々承知の上であるが。

 

ミッドナイト先生の「選手宣誓」の大号令で、選手代表が名を呼ばれた。生徒の多くは、爆豪が一位入学している事に気付かされた。口を開けば災いしかないような奴だが、如何せん実力が伴う分、誰も何も言えた口ではない。

 

 

「俺が一位になる。」

 

 

やはり、開いた口からは災いの元を出す。周りがブーイングしているさなか、臣はあれをやりきる爆豪に感心していた。あれはあれで、ミッドナイト先生の服装よろしく、同様の胆力があると見た。

 

長い話は嫌いそうなミッドナイト先生は、案の定、宣誓後に第一種目が始めようとしていた。むしろ、臣としては明らかに諸々の行程を面倒臭がって省いたようにしか見えなかった。

 

 

「さーて、それじゃあ早速第一種目、行きましょう!いわゆる予選よ!毎年ここで多くの者が涙を飲むわ!!さて、運命の第一種目!!今年は……コレ!!!」

 

 

戦いの火蓋は切られた。―――

 

 




端書きでも述べましたが、多分章名は変えると思います。思い付いた構想と少し合わない気がするからです。

ついでに、これから話のネタを考えるので、当分は更新しないと思われます。「おくがき」でも申し上げましたが、気長に待って頂けると幸いです。しないと言うよりも、かなり遅くなるようなものだと思ってください。

更新できるのも、一重に皆様からの応援あっての事です。これからも、どうぞ宜しくお願い致します。

感想については、出来る限り返信したいと思っています。また、誤字報告等をなさってくれた方にも、直接メッセージを送ったりすることもございます。

突然のメッセージに「うわっ!コイツ、きっしょ」とならないでください(白目)


差し支えなければ、感想・評価等を宜しくお願い致します。
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