ブルックの昔話+   作:あいうえおあおあお

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pixivに投稿していた「ブルックの昔話(https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=9213685」ってシリーズです。その後日談に当たる「茶会前(https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=9432556」も一緒に投稿するつもりです。
処女作なので生暖かい目で見て貰えると幸いです。


今回は過去をねつ造しています。


昔話その②

  昔、私には王がいました。

 

 名君として名を馳せたわけでも英雄譚があったわけでもありません。かといって民の財を私用のために搾取する暴君でも国政を顧みない暗君でもありません。

 

 良くも悪くも普通の一国の王。そして私にとっては良い王でした。

 

 

 私は入隊当時、王国の奇襲部隊に配属されました。そこの飯は不味く、常に命がけの闘いを強いられていましたが、特別不幸だったとは思いません。私には気の合う仲間がいましたし、音楽を生み出す時間も余裕もあった。私の『鼻唄三丁矢筈切り』という技名は当時の仲間につけてもらったものです。

 しかし、当時の私に名を上げたいという欲求や認められたという欲求が無かったと言えば嘘になります。

 

 

 そんな私の剣の腕と音楽の才能を見出してくれたのがその王です。あの方は私を信頼し、王家専属の護衛戦団に入れてくださりました。そこでの修練で私の剣の腕は磨かれ、ついにはその剣伎で隊長の任に着くことになりました。そして、音楽の才能の方も護衛戦団に入ることで宮廷音楽家達の演奏を聴く機会や彼らと会う時間に恵まれ、みるみる上達していきました。

 あの頃がなければ、今の私もないでしょう。今でも彼らへの感謝の念は絶えません。ですが、当時の私は何もかも未熟でした。

 

 

 奇襲部隊で常に命がけの闘いを強いられていたとは、もう語ったと思います。私の国では長年戦争が続いていました。長く続いていたその戦争ですが、相手の資源不足から終盤では我々は優位に立っていました。これで勝てる、これで戦争は終わる、国の者は誰もがそう思いそう願っていました。しかし、現実は違っていたのです。

 

 

 

 

*********

 

 

 

 

 ズズズズズズズ

  

 ブルックが牛乳をすする音で現実に戻ってきた。初めて語られる彼の過去はちょっと驚きだった。ブルックのいた国で戦争があったことも、その最前線に立っていたことも、部隊の仲間や王様からの信用を得ていたこともなにも知らなかった。

 ただ意外ではなかったと思う。突拍子も無い言動をよくする彼だが、船員への気配りを忘れたことは無い。今回の件だって、サンジ君のために着いてきた彼の気持ちはよく分かっている。

 

 ズズズズズズズ

 

 冷めないうちに飲みきってしまおうとしているのか、まだ飲み続けている。ブルックの音を立てる飲み方で思い出す。そういえばサンジ君は、いつもブルックの食事作法の悪さを嘆いていたっけ。よくよく考えてみれば、ちょっとおかしいんじゃないか。

 

 「なんでアンタ、そんなに食事作法が身についてないわけ? 護衛戦団の隊長ってんだから王様と食事を共にする機会も少しはあったでしょ」

 

 「ええ、ええ。ありましたとも。王が食べている食事は奇襲部隊のものとは違い、とても美味しかったです。ですが、奇襲部隊での食事は早い者勝ち。おかわり自由。仲間とはいえども容赦するわけにはいかない。いくら不味いとはいっても腹に入れば同じこと。」

 「そういうわけで、奇襲部隊での生活の中で食事の時は思い切りという習慣が身についてしまったのです。外交の席で食事を共にしたときは、危うくクビになるところでした。ヨホホホホ!!」

 

 

 どっちの意味のクビなのかは分からないが、呆れてものも言えない。サンジ君がいくら言っても食事作法が良くならないわけだ。こうなると、王様から信用を得ていたって部分は怪しくなってくる。

 

 「ヨホホホ。さて一息入れたところで、話題を戻しましょうか。」

 

 

 

 

*******

 

 

 

 

 戦争の大詰め、敵国の首都での最終決戦。私は副官に護衛戦団を任せ、敵国へ侵攻する部隊の隊長の一人に志願しました。もう敵国に防衛以外に割ける余剰戦力はない、出来るだけ軽微な損壊で戦争を終わらせたい、私には実績がある。いくつもの理由を挙げていましたが、一番の理由は名を挙げ、認められたいという若さ故の軽率でした。

 

 

 その闘いは意外なくらい長引きました。刻一刻と時が過ぎるたび、私の中で焦りが生まれました。もう敵国に食糧はないはず、もう敵兵に気力はないはず。そういう試算から始めたこの最終決戦がこれほどまでに長引くとは私たちの誰も予想していないことでした。 しかしそれでも、私たちは少しずつですが確実に、敵の喉元まで進んでいる。ならば、ここで退く道理はない。そう思ったのが、私たちの誤りでした。私の国、その本拠地であり、多くの仲間と多くの時間を共にした城が謎の勢力により落とされていたのです。

 

 

 私はそのことを知るや否や、迅速に故郷に戻るのに最低限必要な少数の仲間だけ引き連れて、小船で自国に戻りました。大きな船だとその謎の勢力に見つかり撃破される恐れがあると思ったからです。その私の予感は当たりました。私達が自国に戻る航海の際、巨大な艦影と旗を右方に目撃しました。敵国に向かっていたのでしょう。ちょうどすれ違いの形になりました。

 

 あちらから私達の船を確認したかどうかは分かりません。しかし、確認していたとしてもわざわざ私たちの小船を撃破することはなかったと思います。それほどまでに強大な戦力だったのです。あの旗を私は決して忘れたことはありません。そこには66と記されていました。

 

 

 

 

*******

 

 

 

 

 もう一時間ぐらいは経っただろうか。それとも二時間か。海には特に異変はない。気候にも特に異変はない。敵影も見えない。変わったのはこの空間の空気だけ。

 

 「そして…。故郷に戻って何があったの?」

 

 ブルックは斜め上の何もない空間を見て呟く。いや、ひょっとするとそこに過去の風景を投影していたのかも知れない。

 

 「何もありませんでした。いつでも人が賑わい、なかなか前に進めない城下町も。その前に立つたび、いつも見上げていた巨大な城門も。常に手入れが欠くことなく、新品同然であった城壁も。」

 「そして、誰もいませんでした。信を置いていた副官も。合うたびに、私の演奏をせがんできた姫も。私の食事作法を気に入らなかった王妃も。私を信頼してくれていた王も。」

 

 私は何も言わない。何も言えない。

 

 「そこを離れ、引き連れてきた少数の部下達と共にある国にたどり着いた時、私は私の王国の住民や敵国に侵攻していた兵達が良ければ奴隷、悪ければ死亡という憂き目にあったことを知りました。そこで初めて私は、王国の住民の生き残りを探すことも、敵国に戻り少しでも多くの仲間を救おうとすることもしなかった自分に気がづいたのです。」

 

 「私は自分の身勝手な気持ちから大切な者達を失いました。故郷から遠く離れた見知らぬ地で彼らを思って奏でるレクイエムに、自分への慰め以外にどんな意味があるでしょう。それでも私はレクイエムを奏で続けました。ただ自分を慰めるためだけに。」

 

 ヨホホホ。ブルックの笑い声が響き渡る。こんな風に彼が笑うのを聞くのは初めてかも知れない。自分を馬鹿にして笑っているようだった。

 

 「そして後は知っての通り。泣く子も笑うルンバー海賊団に入り、ラブーンとの再会の約束を交わしました。今度こそ私は、信頼に応えなければなりません。あの時のように、もう死に別れるつもりはありません。お互い生きたまま再会を果たすまで、決して死ぬつもりはありません。って私もう一度死んでるんですけど!」

 

 そう言ってブルックは笑った。ヨホホホホ。ただその笑いにはいつものものともさっきのものとも違い、彼の真剣な気持ちの残滓があった。初めて会った時、ラブーンの無事や、未だにルンバー海賊団の者との再会を待ち望んでいるラブーンの気持ちを知らなかったブルック。なのに、どうしてあそこまで“約束”や“信頼”を守ることに熱心であったのか、ブルックの過去を知った今ならよく分かる。

 そして、彼がヴィンスモークにゾッとすると言った意味も今なら分かる。彼にとってジェルマ66、そして、そこの国の王族であるヴィンスモーク家は【故国の仇】であったのだ。

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