処女作なので生暖かい目で見て貰えると幸いです。
「大丈夫?」
最初に出たのはそんな言葉だった。自分でも芸のない言葉だと思う。ブルックにとっては辛い過去。そんな過去を無理矢理振り返らせて、平気でいられるはずはないだろうに。だけど、ブルックから帰ってきたのは予想もしない言葉。しかし、彼らしいものだった。
「ええ。もう昔のことです。当時のことを振り返っても後悔しない。なんてことはありませんが、その後悔も幾分か薄れ、もうどこかその後悔が懐かしくも感じるのです。」
「恨みは?」
これもまた酷い質問だ。ないわけがない。だけど、今度は彼の返答がなんとなく分かっていた。
「勿論あります。私たちの国を滅ぼしたあの勢力に。国を守りきれなかった護衛戦団の者に。そして、なにより守ろうともしなかった私自身に。」
じゃあ…。今回のサンジ君奪還をどう思っているのか。どう動くのか。何を今度こそは守りたいのか。どう言葉を切り出そうか迷っているうちに、ブルックの方からその心境を打ち明けてくれた。
「ヴィンスモーク…。その名は確かにゾッとする名前です。ジェルマは私にとっての恐怖の象徴であることにも代わりはありません。しかし、私が知るジェルマはもはや過去の軍隊。当時の恨みを彼らにぶつけるのは馬鹿馬鹿しいことです。そして何よりサンジさんは言いました。「もう二度とオレの目の前に現れないハズの過去」だと。ヴィンスモークを捨てたであろうサンジさんを取り返すのに私になんのためらいがあるでしょうか!」
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その時、私はスリラーバークでのあの一幕を思い出していた。ナミさんは知らない一幕。語る必要もない一幕。バーソロミュー・くまとの取引の話だ。サンジさんとゾロさんは自分の命を投げ出し、船長のルフィさんのために命を賭けていた。
その瞬間を見た時、私の胸には感嘆だけでなく、憧れの気持ちも宿った。王から離れ、王を守ることをしなかった当時の自分と比べて、彼らはとても眩しく映った。あの光景を見ている間中ずっと思っていた。この死に体を動かして、彼らの身代わりになれたらと。死に花を咲かせられたらと。ラブーンとの約束のことも忘れてそう思わされてしまった。しかし、幸か不幸かそうできるほど私の体に、力は残っていなかった。
これで終わりたくない。その時、確かにそう思った。私のために影を取り返してくれた彼らのために着いていきたい!私が出来なかったことをした彼らに着いていきたい!そして偉大なる航路を制覇してもう一度正面からラブーンに会いたい!彼らが信望するルフィさんの部下として!!麦わらの一味の音楽家として!!
そうだ、あの時のサンジさんの決意がまがい物であるはずがない!!
ルフィさんのために命を賭けたサンジさんが私達の敵であるはずもない!!!
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「ちょっと!ちょっとブルック聞いてる!? 何よ!! アンタこそ話を聞いてないじゃない!!」
ハッと気を取り直す。そうだった、今はナミさんとの昔話の最中であった。昔を思い出すことが多かったせいで、話しをしている相手方につい気が回っていなかった。
「これは失礼。私、耳がないもんで。ヨホホホホ。」
おどけてごまかしてみるが、失敗。ナミさんに再び拳骨で殴られる。そういえば、どうして私の体にたんこぶが出来るのだろう。
「はぁ…。もういいや、もうアンタの事情は分かったし悩みも消えた。ホールケーキアイランドでは私のしもべとしてビシバシこき使わせてもらうわよ!!」
呆れながら、ナミさんがつぶやく。また忘れていた。どうやら本当に私の記憶力は悪いらしい。まだナミさんに自分の意思を告げていなかった。
「そのことなのですが、ナミさん。ホールケーキアイランドでは、私をペドロさんと行動を共にさせてもらいたいのです。私達の城内侵入は少なからず敵に動揺を与えるでしょうし、ここで『ロード歴史の本文』を手に入れる意義は大きい。ビッグ・マム海賊団がサンジさんの結婚式の準備に忙殺されているであろう今、潜入できるのは類い希なるチャンスなのかもしれません。」
そして最悪の結果のために。そう思ったが、それは口に出さなかった。それは、わざわざ言うことではない。
ナミさんは少し考えた末、私の提案を認めてくれた。
「確かにビック・マムと正面から闘うわけにはいかない以上、すばしっこいアンタに囮になってもらった方がいいか。よし、ブルック。ロード歴史の本文を手に入れたら、思い切り暴れ回って思い切り敵を引きつけて思い切り逃げて思い切り敵を攪乱しなさい! ビッグ・マムの主力、いや大幹部、いえビッグ・マム本人を引きつけなさい!!」
「ヨホホホ。それは手厳しィーーー!!!」
さすがにそれはごめん極まる。四皇相手じゃ命がいくつあっても足りない。ずいぶんときつい冗談だ。
「では、残り少ない牛乳とコーヒーで乾杯といきましょうか。今回の作戦の成功と未来の偉大なる海の王のために。」
そう言って私たちは、すっかり冷めてしまったコップをぶつけて音を鳴らす。それと同時に男部屋の扉が開く音がする。いつの間にか交代の時間が来ていたようだ。彼が自分の意思で、時間通りに目を覚ますのは珍しい。
未来の偉大なる海の王は寝ぼけ眼でゆっくりとこちらに近づいてくる。ラブーンと会うまで、死ぬつもりはない。だが、彼のためになら喜んで自分の命を賭けよう。サンジさんがそうしたように。
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ずいぶんときつい冗談だ。まさか現実に起こるとは思ってもいなかった。扉の先にいるのはビッグ・マム海賊団の大幹部である将星スムージー。その彼女から逃げ切るだけでも至難の業であろうに、よりにもよって今、私の目の前には大幹部どころか船長であるビッグ・マムがいる。
しかし、ここで諦めるわけにはいかない。このまま倒れているわけにはいかない。もう、ロード歴史の本文の写しは手に入れたのだ。後は無事に仲間の元へ帰るだけなのだ。死ぬつもりはない、無駄な死に花を咲かせるつもりはもっとない。
「なぜ立つんだ!! “ソウルキング”!! お前はサンジじゃなくそんなに“石”の写しが欲しいのかい!?」
馬鹿め。既に石の写しは手に入れてある。もう、後は帰るだけなのだ。石の写しが必要な仲間達の為に。しかし、そのことを感づかせたりはしない。
「ええ…!! サンジさんはね…… 優しいんです」「ーだから私 彼はもう帰って来ないと思った。」「ーお前達がどんな罠を仕掛けたのか知らないが!!」「彼は度を超えて優しいから!!」「誰かの為に犠牲になると決めたらもう動かない!!」
スリラーバークでのあの時のように。
「片や我が船長は!! 自分の思いを信じ抜き突き進む男!!」
私をサニー号に誘ってくれたあの時のように。
「その決着は若者達が決める事!!」
そう、彼ら二人が決めること。
「ハ~ハハハハそうかい じゃお前やる事なくて“石”を?」
そんなわけがないだろう。これは私たちの航海に必要な物だ。そして最悪の結果の為にも。
「いいえ…!! 最悪の結果サンジさんが戻らないと決断した時 彼が自分を責めないように!!」「ー私たちはこの旅で大きな物を得たと言える様に!!!」「いただきます!! “ロード歴史の本文”!!」
「ママママ! ーお前の最悪はずいぶん程度が低いね!!」「サンジが戻らない!? それが最悪!? 誰一人死なねェのかい!?」「みんな死ぬかもしれない!」
それこそ馬鹿な問いかけだ、ビッグ・マム。こんなところで死ぬつもりはない。
「死ぬことを計画に入れるバカがどこにいますか お嬢さん」
そうだ、私はこんなところで死ぬつもりはない。ラブーンに会うまでは死ぬつもりはない。ただ、この石の写しを持ち帰るためなら私は喜んで私の命を賭けよう。未来の偉大なる海の王のために。自分を犠牲にする優しいコックのために。