処女作なので生暖かい目で見て貰えると幸いです。
【ファイアタンク海賊団アジト】
またすれ違った。これで何人目か。このアジトで今、動いている人員だけでもかなりの人数がいるだろうに、『彼の中』にもそうとうの兵力が存在しているというから恐ろしい。それでいてアジト内は指示が行きわたっているのか、止まっている者が見当たらない。さすがの統率力だ。
かって超新星と呼ばれ、今は最悪の世代と評されるベッジ。二年で大事な茶会の護衛の全権を任されるほどビッグ・マムに近づいたその実力は本物だ。彼と正面から渡り合ったら手強い敵になっていただろう。同盟を結べて幸いだった。
こうしてビッグ・マムを恐れることなく安心してサンジさんと移動することも出来るのもその同盟のおかげだ。
「ブルックちょっといいか」
そう言って彼が私を呼び掛けてから二分は歩いただろうか。ようやく人目のつかない場所を見つけ、彼は立ち止まった。一体全体どうしたのだろう。いつもならたった二分とも言えようが、今はあの地獄のお茶会開始まであと二時間半に迫った火急の時だ。「『新郎』だから部屋に戻らなければならない」。これは彼自身の言葉だというのに。
「茶会での作戦大丈夫か?」
ただ単に傷の具合を気にしているだけなのだろうか。しかし、どうも違和感がある。確かに私はビッグ・マムと戦い、そして敗れた。しかし、彼女の珍獣コレクターという趣味のおかげで命に別状はない。多少傷は残っているが、睡眠や牛乳で回復の余裕があったおかげかもう痛みもほとんどない。
今も普段通りに動いているし、彼が心配するような所など見せてはないはずなのだが。
「ええ、大丈夫です。チョッパーさんからお墨付きももらえました。45度もいつも通りに出来ますよ、ヨホホ」
そう言って体を傾けようとした時、思いがけぬ返答がやってきた。。
「体のことじゃねェ。心の方だ」
なんのことだろう。
「ベッジを待っている間にナミさんからお前の過去を聞いた。すまねェ。事情を知らなかったとはいえ、おれはお前に仇を助けるなんてことをやらせちまうことになる。」
そこでようやく合点がいく。聞いたのか、あの話を。確かに私はジェルマとはある因縁がある。事情がサンジさん奪還からお茶会での暗殺計画とサンジさんを含むヴィンスモーク家の面子の救出に変わった以上、サンジさんに私の過去を話し計画に多少の変更を加えるかの相談をするのも不思議ではないかもしれない。そう、私を茶会での戦闘から外すとか。だが。
「心配はいりません。恨みが消えたといえば嘘になりますが、何十年の月日のうちに大分薄れていきました。それに私が知るジェルマは過去の軍隊。その怒りを彼らにぶつけるのはー」
馬鹿馬鹿しいことです。そう続けようとした言葉が、サンジさんの言葉で遮られたる。それはとても荒々しかった。叫びとまで言えるほどに。向かい合っていたはずのサンジさんの目線が下を向く。自分に言い聞かせるように。
「違う!!! あいつらはお前の国を滅ぼしたころから何も変わっちゃいねェ。自分たちのために戦争に介入し傭兵となり兵器を売る最低最悪の人種だ。いや、今では人の心すら失ってやがる。なのに俺はお前らを危険にさらしてまでそんな奴らを助けたいと考えている!!」
「それでいいんです」
ゆっくりとサンジさんの視線が上がる。互いの視線がぶつかり合う。
「冷酷非情の悪の軍隊。それが私にとってのジェルマ。そしてそこの王族がヴィンスモーク家でした。ですが、その王国にある時生まれた優しい王子。それがあなたです、ミスタープリンス。あなたがジェルマの一員であったと知った時、私の知るジェルマが過去の軍隊となったのです」
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「それにねサンジさん。私は仲間の思いに応える行動をためらうつもりはありませんよ」
ブルックらしい発言だと思う。一歩引いた立場から冷静に状況を見極めてると思えば、仲間のことを考え思い切り動く。きっと長い間、自問自答していたのだろう。仲間の屍が乗る船で、自分の失敗や責任を。
ふと本番の茶会でそんな風に冷静さと大胆さを併せ持った行動をする様をふと思い浮かべた。案外、彼がこの作戦のキーマンになるのかもしれない。
心配なのは逆に慰められている自分の方だ。
「ならいいんだ。変に蒸し返しちまってすまねェ。だったら茶会でもこれまでと同様に頼りにさせてもらうぜ」
ブルックは口を思い切り開けて、
「ええ、骨身を惜しまず頑張ります。ヨホホホホ」
そう言って笑った。
そのブルックの笑い声が呼び声になったのか、様々な人種が入り混じってるアジトの外でならともかく、このアジトの中では特徴的で目立つ二人がやってきた。
「おお、やっぱりこっちだったわい」
「よかったー。さっきの雨やシャワーのせいで匂いをたどるのが大変だったよ~!」
ブルックは振り返り、間髪入れずに質問をぶつける。
「どうしました、お二人とも。まだベッジさんの体内に入る時間ではないはずですが」
医者としての面子からか予定を忘れていたことへの怒りからかその言葉にチョッパーが憤る。手を上げ、目をとんがらせているその姿は可愛らしくはあったが。
「このアジトの設備を使わせてもらって最後に軽く身体検査を行うって言ったじゃないか。あとはブルックだけだ。」
「私、注射が怖いんですけど大丈夫でしょうか?」
「骨じゃ硬くて刺さらねェよ!!」
そんな風に二人は掛け合いをしながら去っていった。一瞬、ブルックとさっきまで真面目な話をしていたことを忘れてしまう。状況に応じてすぐに自分を切り変える。その場に応じた適切な態度をとれる。さすがこの二年間、世界を沸かせ続けたソウルキングだ。
突如、場に残っていたジンベエに話しかけられる。
「ブルックは良い奴じゃな」
いきなりの発言に面食らう。首を傾けて横を見ると、その顔はすましていた
「今までの会話、聞いていたのか」
「サメは耳が良くての。ブルックは親族ですらおいそれとは入れない宝物の間に入り『ロード歴史の本文』を手に入れた程の男じゃ。きっと大きな戦力になってくれるじゃろう」
好機なのかもしれない。そうサンジは思う。
ジンベエの言葉を受けて体を壁に置く。この数日間で散々味わったお菓子のように柔らかい壁じゃない。堅いごつごつした壁だ。その壁の固さに体を委ね、心を落ち着かせるために煙草を吸い始める。次の言葉をしっかりと言えるように。わだかまりを解消する好機を逃さないために。
「大きな戦力ってんならお前もそうなんじゃねェか」
ジンベエの眉が下がった。目も丸くなる。予期せぬ相手からの予期せぬ言葉に驚いているのが分かる。
「お前さんにそう言ってもらえるとは意外じゃのう」
その言葉で思い出す。ナミさんに対するジンベエの謝罪を。ナミさんからの処罰を受けようとしたジンベエを。ナミさんの許しを受けた後の後のジンベエの涙を。
そして俺のジンベエへの態度を。
まだ俺ははっきりとはあの時のことを謝罪しちゃいない。口に出すとするなら今がその時だ。
「無理もねェな。一味の中でお前を一番責めたのはおれだろう」
ため込んでいた言葉とともに煙を吐く。
「魚人島ではお前の事情も気持ちも考えず言い過ぎちまって悪かった」
ジンベエが笑う。さも愉快そうに。豪勢と言う他ないその声は狭い通路でよく響き渡る。
「ナミのことを思うがゆえの行動じゃろう。むしろわしはあの一件でお前を信用したよ。未来の海賊王のコックなら仲間への思いがあれぐらい強くなくてはならん。これからは頼りにさせてもらうぞ」
どうやら本当に聞かれていたらしい。その言い方や顔つきから、ジンベエが意図して、おれがついさきほどブルックに言ったセリフを真似て返したことがわかった。その抜け目なさにこちらまで愉快になってくる。思わず口角が上がる。
「このクソ一味は手を焼くぜ。筋肉馬鹿に長っ鼻、トナカイにロボに骨までいやがる。それを率いるうちの船長は考えなしの無鉄砲。荒波に逆行するようなことはしょっちゅうだ」
ジンベエが笑う。さらに大きく、さらに愉快そうに。
インペルダウンや頂上戦争への参入、しらほし様の誘拐、そして今は仲間一人を助けるために海の支配者である四皇に喧嘩を売っている。確かに正気の沙汰ではない。だが、そんな彼が率いる何の隔てもない一味だからこそ魚人や人魚への偏見の歴史を変えることが出来る。ジンベエはそう信じている。そんな船長についていきたいと思っている。
どうせ、無茶をしなければ世界を変えられないのだ。それなら、とびきり無茶な船長について行こう。とびきり無茶なことをして見せよう。
笑いが収まった時、彼の目には確かな覚悟が宿っていた。
「乗りこなして見せるわい」
これにてこのシリーズは完結です。
ありがとうございました。