バンドリ!彼奴のいないこの世界で   作:アルファデル

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op.2 夕焼けと仮面

op.2

 

文化祭が終わって放課後、俺はCiRCLEというバンドスタジオに来ていた。理由は単純俺がここでバイトをしているからだ

 

親と離れ今は一人暮らしをしており生活費の足しになればとここでのバイトを夏休みから始めた

 

「おっ来たね〜青少年!今日は文化祭だったでしょ。どうだった?」

 

自動ドアを通って中に入ると入るとスタッフであり先輩の月島 まりなさんがいた。俺が来たのに気づくと気さくに話しかけてくる

 

「どうだったも何も特にいつもと変わりませんよまりなさん」

 

「む、華の高校生がそんな事言ってちゃダメだぞ〜もっと青春したまえ!」

 

「華の高校生って…言い方が古いですよ、それじゃバイトの準備してきます」

 

年増扱いしない〜!という声を聞き流しながらスタッフ専用ルームに向かい中へと入る。部屋にある俺用のロッカーを開けて中に入っているバイト用の制服に着替えながら初めて会った時から変わらないまりなさんの心について考えていた

 

まりなさんは他人を安心させる和やかな心を持ち人と接する時は警戒心や疑心感を抱いてないニュートラルの状態になる

 

人は何かやましい事や良くない事を考えている時心に影がさしたり文字通り闇に包まれる。その逆だとどうなのかというといつもと変わらない普段通り(ニュートラル)の心になる

 

まりなさんは初対面の相手に対してもその心で接する事ができる、これは当たり前のようで誰にでもできる事じゃない

 

相手がどんな人間かわからない以上それは当然と言えば当然だ、相手との関わりが長ければ話は別だが初対面だとそれは難しい。だがまりなさんは初対面の俺に対して疑心や警戒の心を向けてはこなかった

 

そしてバイトを始めてから今までその心が変化したことはない

 

人の心は良くも悪くも変わり続けるもの。どう変化するのかは人や環境によって様々、そんな中変わらない心を持っている人というのは極めて希少だ

 

着替えを済ませスタッフルームを後にして受付カウンターまで移動しカウンターにいたまりなさんに今日の予定について質問する

 

「まりなさん着替え終わりました。今日はどのバンドが予約入ってましたか?」

 

「ん〜今日はAfterglowが予約入ってたよ。その他の予約は今のところ入ってないね、私機材のチェックしてくるから受付お願いしてもいいかな?私そのまま少し休憩に入るからさ」

 

Afterglow、幼馴染で結成されたバンドで音楽経験者もいるおかげか全体的なレベルも高く俺が最初に出会ったバンドリ!の登場人物でもある

 

「分かりました」

 

それじゃ行ってくるね〜と言ってスタジオに向かうまりなさんを見届けてからカウンターの椅子に座り機材に関するマニュアル書を見ながら時間を潰す

 

バイトを始めてから日が浅くまだ機材の調整のやり方が分かっていない、それを覚えたらできる仕事の幅が広がる

 

と思いマニュアル書に目を通していたがこうして暇になると俺は決まってその日のうちに起きたことについて考える。それは今日も変わらず俺は思い返していた

 

今日はいつもより多くの人の心を見たせいか余計な行動をしたな、日菜の事がそうだいつもの俺なら喋らずに屋上を後にするのに相手の心を見てそれを指摘までした

 

あの場ではあれが最善だと思っていたが今考えると無言で立ち去った方が良かった気さえしてくる

 

変わることのない、いや変える事が出来ないのは分かっている筈なのに

 

「こんにちわー!!」

 

自分の行ったことに対しての矛盾に自己嫌悪や後悔をしていると入口のドアが開き外から挨拶をしたピンク髪の子、上原ひまりを先頭に五人の女子が入店してくる。それは今日予約を入れていたAfterglowの五人だった

 

時計を見るとまりなさんがスタジオに行ってから30分も経っていた。仕事の為ネガティブな思考をしていた意識を切り替え置いてあったマニュアル書を片付ける

 

「いらっしゃいませ、今日ご予約されていたAfterglowの皆様ですね?」

 

手早く片付けお客に対する挨拶をするとボーカルでありギターも担当している美竹蘭が少し不愉快そうな顔をしながら

 

「神峰先輩、毎回思ってたんだけどそれ似合ってない」

 

とぶっきらぼうに言ってきた

 

「…お客様に対しての対応をしてるだけなんだがまぁいい次からはこうする。まりなさんが機材の調整を終わらせてるからすぐに練習できる。これがスタジオの鍵だ時間は6時までな」

 

美竹に言われ早々に取り繕うのをやめた俺は手短に要件を伝えスタジオへと促す。客に対してこの対応はどうかとも思うがAfterglowのメンバーに対してはこちらの方が適切らしい

 

「神峰先輩は相変わらず無愛想ですね〜そんなだとモテませんよ〜?」

 

そんな俺の態度に間延びした声で俺にそう言ってきたのは青葉モカ、同じくギター担当

 

「ちょっとモカちゃん、神峰先輩に失礼だよ。すみません神峰先輩」

 

青葉にそう注意をするのはキーボード担当羽沢つぐみ

 

その様子を後ろから少し楽しげに見守っているのはドラム担当宇田川 巴

 

「いや気にしなくていい、それよりバンドの練習だろ?時間も限られてるし早く行った方がいい」

 

俺が羽沢から少し目をそらしながらそう言うと「は〜い」という上原の声を合図に五人共スタジオへ向かっていった。去り際に羽沢がもう一度「すみません」と言ったので「気にしなくていい」と言っておいた

 

彼女らが終わる時間まで他に予約も入ってないし本格的に暇になった俺はマニュアル書に再び目を向けながらまだここでのバイトを始めていない時にであった彼女達Afterglowとの時を思い出していた

 

 

 

数ヶ月前

 

「すまんが神峰、これを音楽室の教卓に置いといてくれないか鍵は開けてあるから」

 

「分かりました」

 

羽丘学園に通い始め学園生活にもなれ始めた6月、放課後俺は担任の教師から教室でそんな頼み事をされた。部活もやっておらず別に断る理由もない俺は書類を受け取り音楽室へと向かった

 

廊下は部活に向かう者や委員会の仕事をしている生徒が歩いており葛藤や期待、やる気や苦悩などの人の波…正確には心の波に少し酔いながら音楽室までたどり着く

 

この学園には吹奏楽部がない(俺がここに通う事を決めた理由の一つでもある)なので今は教室には誰もおらず俺は預かっていた鍵を使い中へと入り教卓に行き持っていた書類を置いた

 

後は職員室に行き担任に報告するだけなのだがそこで俺は音楽室に置かれているピアノに目が止まった

 

俺がまだSOUL CATCHER(S)の世界だと信じていた頃原作で先輩に神峰(主人公)が教えてもらっていたピアノを学ぶ為にピアノ教室に小学校から中学へ上がるまで通っていた。それ以外にもとある楽器も個人的趣味で練習していた(こっちは前世からやっている楽器だ)

 

だがSOUL CATCHER(S)の世界じゃないと分かった時深い絶望感に襲われた俺は続ける意味もなくしてピアノ教室をやめ、その日から触ってすらいなかった。もう一つは元々の趣味であったため続けているがそれも前と比べると格段にやる機会は少なくなった

 

そんな遠ざけていたとも言っていいくらいなのにこの時の俺は何かに引き寄せられるようにピアノに近づき椅子に座り鍵盤へ向かって指を動かしていた

 

一瞬躊躇う様に手が止まったが鍵盤に再度手が向う

 

音楽の先生や誰か来るかもしれないという考えは何故か浮かんで来ず俺は伴奏を始めた

 

奏でるのは【春よ、来い】前世で俺がよく聞いていた曲でありSOUL CATCHER(S)においても演奏された曲だ。歌詞や楽譜も当然覚えている

 

メロディーを奏でながら俺は歌う。歌詞がない伴奏だけなどもあるがこの曲はやはり歌詞があってこそだと俺は思うから

 

そう思いながらもなんで弾きたくなったのか、歌いたくなったのかは今になっても分からない。その時はそんな自分のちぐはぐさにも気づかず夢中になっていた。だからだろういつのまにか音楽室のドアが開いていた事に気づくことなく俺は弾き、歌い続けた

 

そして歌が終わり続いて伴奏も終わる、久しぶりに弾いたせいか少し疲れたな。俺はそんなことを思いながらさっさと職員室に行って帰ろうと思い席を立つと視線上を何かが通り過ぎた

 

左斜め上から右斜め下に向かって落ちていったものを追って視線を上げる。そこには本来無機質な天井しかない…その筈なのに…なんで

 

桜が見えているんだ…?

 

天井には数は少ないものの桜が舞っていた。見えたのは数秒ですぐに見えなくなってしまったがそれは確かに桜だった

 

桜の音それはSOUL CATCHER(S)で奏でられた反響、残響、奏でる演奏者の心、そしてそれを聞く人全員の心が一つの空間に集約される事で作られる音だ。関わる人が多ければ多いほど奏でるのは難しいがその分より多くの桜が舞い美しさが際立つ、そう一人では決して奏でる事のできない音だ(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

衝撃が大きく思わずそう呟いた俺は直後に響いた拍手の音に身体が一瞬震えるのを感じそこから恐る恐る後ろを振り向くとそこにはいつからいたのか五人の女子達がいた。うち一人が俺の渡された資料と似たようなものを持っており恐らく教師に頼まれてここまで持って来たのだろうと考えていると

 

「凄い伴奏と歌声でした!」

 

音楽室のドアから少し先にあるピアノに…つまり俺に近づき、そして俺の手を握り茶色のショートカットの髪型をした女子がそう言ってきた。興奮しているためか顔が赤くなっていて残りの四人はその様子を見て俺と同じく呆然としていた。その心は尊敬や憧れが出ている影で自身でも気付いていないだろう嫉妬や劣等感、そして何かに縋るように視えていた。いや、これは………!?

 

「ちょ、ちょっと落ち着けつぐみこの人きょとんとしてるぞ」

 

俺が彼女の心に驚愕していると赤紫色の長髪の女子がいち早く立ち直り茶髪の子を落ち着かせようと近づいて言う。普段はこんな事しないのだろう、冷静になったのか慌てて手を離し顔を別の意味で赤らめ俯いた女子

 

「すみませんうちのつぐが…ってこれいつもならつぐの役だよね。少し新鮮」

 

「ひーちゃんが止める方なのも珍しいねー」

 

少しくすんだピンク髪をした女子が近づきながら謝り、それに対し銀髪ショートカットの子が何か言った声を聞き俺は

 

「突然の事で驚いただけだから気にしなくていい」

 

と言う、自分でも無愛想だと思うが俺はこの時それどころではなかった。そこから少しの沈黙があり先程俺の手を握って来た女子が俺に話しかけようと「あ、あの!」と言って来たがそれは「聞きたいことがあるんだけど」と言った黒髪ショートに赤メッシュが入っている女子に遮られた

 

「蘭ちゃん?」

 

「ごめんつぐみ、どうしても聞きたい事があるの」

 

と俺の方を向き、一呼吸おいてからその女子は言った

 

「あんたのピアノと歌声言葉じゃ言い表せないものを感じた。特に歌は、歌詞に付けられた思いを汲み取って歌ってるように聞こえたけどそれだけじゃあんな歌い方はできない。どんな風に歌えばあんな風に聞こえるのかを知りたい」

 

理由を聞くまではここを通さないという決意と真剣さを込めた心で俺を見ながらそう言ってきた。だから俺もすぐにでもこの場を離れたかったがその心を視て真剣にそして言葉を選びながら答えた

 

「特別な事は何もしていない、ただ歌詞と楽譜を見てそのイメージをなぞっているだけだ」

 

言葉を選んだ結果がこれだ。だが嘘は言っていない、ピアノの習って音楽の基礎が出来始めた頃楽譜や歌詞を見るだけで曲のイメージが視える様になった。共感覚(シナスタジア)の影響であろうそれは神峰(主人公)が通った道でもあり不思議には思わずむしろその時は少し近づいたんだと嬉しさすらあった

 

けどここで俺の共感覚について話したところで理解はされないだろうし俺もそこまで話すつもりはなかった

 

俺の質問への答えに納得4割腑に落ちない6割といった心で俺を見てくる女子

 

「腑に落ちていないようだがこれが全てだ。他に何もないようなら鍵を閉めて職員室に行かせてもらうが」

 

「あ、待ってください!お名前を教えてくれませんか?」

 

さっき俺に聞きたかった事なのだろう、そう言ってきた女子に俺は名乗る。その間にピンク髪の子がプリントを教卓に置いていた

 

「神峰 翔太ここの高等部1年だ、君達は?」

 

もう関わることはないだろうが顔を見た時からある違和感を解消するために彼女達にそう聞いた

 

「神峰先輩ですね、私は羽沢 つぐみです!」

 

「つぐ、なんかつぐってる?私は上原 ひまりです!」

 

「制服から想像できてたけどやっぱ先輩だったのか、宇田川 巴だ」

 

「モカちゃんはねー青葉 モカって言うんだーよろしくお願いしまねー」

 

「…美竹 蘭」

 

あぁ、名前でやっと分かった。なんの違和感ってバンドリ!内で登場するバンドの一つだったのか

 

各々の自己紹介を聞いた俺は「分かった羽沢さんに上原さん、宇田川さんに青葉さんと最後に美竹さんだな、見たところ用事は済んだようだし鍵を閉めてもいいか?」と言うと上原さんが返事をして残り四人も音楽室から出た

 

そこから俺は「用事があるから先に職員室に行かせてもらうじゃあまた」と会う気もないのにそう言って彼女達と今度こそ別れ、いや逃げた

 

後ろから何か聞こえた気がしたがそれに構わず職員室へ向かい教師に報告して俺は職員室を後にした

 

帰り際に教師から「神峰、顔色が悪いようだが大丈夫か?」と聞かれたらが「大丈夫です」と言って急いで帰宅準備をし、家へと帰った。

 

家へと帰えると部屋にあるベットに横になり丸くなる

 

俺はたまにこうして悲惨な心を見るとベットにこもっていた、今回そうなったのは彼女達の一人羽沢 つぐみと名乗った少女だった

 

彼女の心を視ていられなかった。表面上は何ともないように取り繕っていたが本人でも気づかぬ内に仮面を被っていた

 

仮面を被る、それは表と裏の顔を持ち他人と接する時は表の顔で身近な人物といる時や一人の時には裏、つまり本当の自分を曝け出すと言うのが俺が今まで見てきたものだ

 

だが彼女は違う必死に他人へもっと言えば他のAfterglowの四人へ見せないように仮面をしていた

 

裏で彼女は音楽、委員会での仕事、その他にも様々な事をやっていた。自身がボロボロになっている事に気付かずに独りで

 

そこにあるのは卑屈なまでの劣等感、「もっと頑張らないと」「私はみんなより上手じゃないんだ」「もっと上手にならなくちゃ」そんな焦りからくるものだった

 

俺には心が何と言っているかは分からない、だがこれまでの経験から何を思っているかは分かる

 

そんなこと、分かったところでどうしようもないけどな

 

忘れよう同じ学校だから会う事もあるだろうがそれ以外で関わることはない筈だ

 

だがそんな俺の考えとは裏腹に俺と彼女達は再会する俺がバイトを始めたCiRCLEで

 

 

 

 

現在

 

もう一度ここであった時にさん付けはいらないといわれそこからAfterglowの全員を呼び捨てで呼んでいる。何度か会う中で少し話をするくらいになったが肝心の羽沢の心は初対面の時から変わっていなかった

 

心が悪い意味で変化していない、四人もそれに気づいはいるが羽沢本人が隠して相談しないために力にもなれないようだった。心配をかけまいと思いそうしている羽沢はそれが逆効果であることに気づかない

 

「ーーーー先輩、神峰先輩」

 

不意にそう呼ばれ思考を一旦中止して顔を正面に向くとそこにいたのは美竹だった

 

「どうかしたのか?まだ時間はあるし機材トラブルでも起きたのか?」

 

「私達の演奏を聴いてアドバイスして欲しいんだけど」

 

そう頼まれた、しかし俺は少し間を開けると

 

「悪いが断る、今はカウンターで客が来ないか見てないといけない」

 

と断る、それは俺が関わる事で彼女達の音が変化するのを恐れたためだ。それはバンドリ!の世界にもともといる筈のない俺だからこそ思う事なんだろう

 

「話は聞かせてもらったよ!」

 

とそこでカウンター近くにあるスタッフルームからまりなさんが出てきた

 

「今日は他にお客さんも来ないし私がカウンター やっておくから聞いてきていいよ神峰君、何より彼女達は神峰君に聞いてもらいたいみたいだしね」

 

俺が言おうとしてた「まりなさんの方がここでの経験もあるし俺より適切だ」という手も防がれてしまった。怖くはある、たかだか俺のアドバイス程度で大きな変化があるとも思えないがそれでもだ

 

けど俺に問いてきたあの時と同じ目と心で俺を見てくる美竹に結局は俺が折れて

 

「分かった」

 

と了承する。Afterglowの演奏を聴いて俺にどんな変化があるかこの時の俺には知る由もなかった




お久しぶりのアルファディルです
リアルで就職準備やらが重なって遅くなりましたm(__)m
1話で評価☆6をつけてくださったぼるてるさんありがとうございます!
そしてお気に入り登録してくださった
アーペさん、メタナイトさん、クロぱんださん、フユニャンさん、ごみさん、ソイヤ!お茶さん、エンプティさん、春閣下さんも重ね重ねありがとうございます!
ではまた次回で!Σ(゚д゚lll)

この作品に度々出てくるSOUL CATCHER(S)を

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