【完結】いちばん小さな大魔王!   作:コントラポストは全てを解決する

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ほら、みんな大好き反骨の赤メッシュだ。
しっかり味わえよ?(謎の上から目線)




第10奏 魔王城の赤薔薇蘭(棘は処理済み)

 幼少期…俺は身長が低く、容姿も女の子のようだった。

 泣き虫で力が弱く、ぬいぐるみやビーズと言った可愛い物が好きな、そんな女の子みたいな男の子。

 当然、同年代の同性は俺を弄ったし、友達にもなってくれなかった。

 女の子に庇われ、女の子と一緒に遊ぶ度に、身の回りの男達は俺に異物を見る様な視線を突き刺して来る。

 そんな状況に置かれたせいか、幼い頃は人が嫌いで嫌いで仕方なかった。

 だから、親に無理矢理連れて行かれた外出先でも誰とも接する事はしなかった。

 そんな女々しい幼少時代。

 きっと誰に話しても、少しの同情と共に嗤られて、ずっと弄りのネタにさせるだろう。

 それだけ惨めで滑稽な姿だったのだから。

 でも、そんな弱くて滑稽な俺だったからこそ…きっと蘭の一番最初の幼馴染になれたのだと思う。

 

「竜介、手…握って?」

「ああ」

 

 昔は引っ込み思案で、泣き虫で、人が苦手だった─正に俺の分身のような女の子の手を握る。

 よく冷たくて怖いと言われるが、本当は素直になれないだけ。

 その手も、笑顔も、全てが仲間想いで温かいことを俺は知っている。

 

「あたしさ…なんで竜介の前でしかずっと素直でいられないんだろうね…。今日もクラスの子に素っ気ない態度とっちゃったし…。可愛いくないよね…」

「蘭も俺も新しい環境には中々馴染めないからな…。俺もこないだ男友達作ろうと思って、クラスの人に話し掛けようとしたけど、キョドった挙句図書室に逃げちまった…。最高にかっこ悪いよな…」

「竜介はカッコイイよ。あたしが保証する」

「じゃあ、蘭が可愛いことは俺が保証するよ」

 

 お互いに「ありがと」と言いながら、俺と蘭は笑い合う。

 心を開いた相手になら、蘭はこれだけ可愛いく接する事が出来るのだ。

 

「…蘭が皆に素直になったら…きっとモテモテになっちゃうな。そしたら、俺は必要無くなるのか…寂しくなるな…」

「ここまで素直なのは竜介だからだよ。竜介はあたしの特別だから…皆とは違う…特別の特別」

「そっか」

「うん」

 

 思い返せば、小さい時はよく蘭と遊んでいた。

 砂場で山を作ってトンネルを掘り、手が繋げた時にはお互いはにかんだ。

 雨上がりの日に、泥んこまみれで追いかけっこをしたのは良い思い出。

 きっと、俺にとっても蘭は特別の特別なのだろう。

 誰にも代わりは務まらない、たった一人の最高で最強の相棒。

 

「俺達、いつまでもこうやって手を繋いでいられるよな?」

「当たり前じゃん。あたしと竜介の絆は、いつまでも繋がったままだよ」

「そっか…良かった」

 

 心の底から安堵する俺に、蘭はニコッと笑いかけて来た。

 

「ねえ…竜介」

「ん、どうした?」

「…昔さ、あたしが竜介のお嫁さんになるって約束したの…覚えてる?」

「そう言えば、そんな約束もしたな。はは、懐かしい」

 

 そう俺が思い出に耽っていると、蘭が服の裾を引っ張ってくる。

 蘭の方に振り向くと、顔を赤く染めながら体育座りをして、自分の膝に顔を埋めていた。

 そして、耳を澄ましてやっと聞こえる声で蘭は呟く…

 

「…もし、さ…その約束を叶えたいって言ったら…竜介はどうする?」

「…」

「…ごめん、変な事言った。あはは…」

 

 蘭は力なく笑い…そっと繋いでいた手を離した。

 その顔は、今にも泣きそうで…寂しそうで。

 気づけば俺は、蘭の手を握り返していた。

 驚いた様子で俺の顔を見つめている蘭。

 そんな彼女に、俺は優しく微笑みかける。

 

「…あたしで…良いの?」

「むしろ、蘭じゃなきゃ嫌だ」

「そ、そっか…」

 

 蘭は照れくさそうに笑い、俺の肩に寄りかかってくる。

 

「あたしじゃなきゃ…嫌なんだ」

「当たり前だろ、俺にはお前しかいないんだから…」

「そっか…あたししかいない、か……ふふ、そっかあ♪」

 

 機嫌良さそうに体を揺らしながら、鼻歌を歌い出す蘭。

 俺は恥ずかしくなり、部屋の窓から茜色の空を見る。

 ふと、視線を感じたので振り向くと、何かを期待した目で俺を見つめる蘭がいた。

 

「良いのか?」

「あたし達、今婚約したじゃん。それとも…嫌?」

「そんな訳あるか。ほら…」

「ん…」

 

 俺が促すと、蘭は瞼を閉じる。

 無防備な唇を俺へと向け、目を見ることは出来ないが、今もなお期待した様子が伺える。

 そんな蘭の頬を優しく片手で触れ、そっと蘭の唇に自分の唇を近付けた。

 

 

 _____

 

 

 

「カアット!!」

 

 ひまりの大声と共に、カチンコのパチッ!と鳴る音がつぐみの部屋に響く。

 その音を聞くや否や、蘭は俺から音の速度で離れていきベッドの上で毛布に包まり出した。

 何かブツブツと呟いていたが俺はスルーし、ひまりに呆れた視線を向ける。

 

「ひまり、満足したか?」

「大大大満足だった!はあ…好き…」

「そうか…」

「じゃ、次のシーン行こっか」

「…まだあるの?あたしもう無理…」

 

 ひまりの一言に、蘭はギブアップの姿勢を示す。

 そんな蘭に向かって、ひまりは必死に両手を合わせ演技続行のお願いをしていた。

 

「お願い!あと少しで見たかったシーンが全部揃うの!」

「漫画読み返せば良いじゃん…」

「動いてる所が見たいの!映画だとカットされてたんだもん!」

 

 ひまりが何をお願いし、俺と蘭が今まで何をしていたのか。

 事の発端は、お気に入りの少女漫画の実写映画を見てきたひまりが浮かない顔で羽沢珈琲店に訪れた事からだった。

 なんでも、CMだと原作ストーリーで実写化と謳っていたが、実際に見に行ったら映画オリジナルストーリーが混ぜられており見たかったシーンが幾つかカットされていたらしい。

 なので、見たいシーンを実写再現しようと俺達に頼み込んで来たので、仕方なく付き合っていた。

 

「らーんーおーねーがーいー!」

「他の人にしてよ…」

「蘭がメインヒロインに一番似てるんだもん!演技も上手いし…」

「結構ノリノリだったな。普段からあんな感じでいれば良いのに」

 

 俺がそう言うと、丸まった毛布から蘭の足だけ生え、俺の肩を容赦なく蹴る。

 意外と痛かった。

 

「…俺と二人きりの時はほとんどあんな感じ…と言うよりあれより酷いじゃん。何を今更恥ずかしがるのさ」

「皆の前では恥ずかしいの!」

「可愛い」

 

 また蘭の蹴りが飛んで来た。

 それ以降蘭は喋らなくなり、ひまりにも返事をしなくなった。

 演技が続けられなくなり、ひまりは少し困ったようにしていたが、すぐさまニヤッとした悪い笑顔を浮かべながら俺の方へと視線を向ける。

 

「あ〜あ〜残念だな~、じゃあ次のキスシーンは私がやっちゃお〜っと」

「…どうせ嘘でしょ?」

「バレたか」

「で、次のシーンはなんなんだ?」

「えっとね…竜介が蘭に膝枕して…」

 

 ひまりが言った瞬間、膝の上に重みを感じた。

 どうやら蘭が戻って来たようだ。

 さすが膝枕依存性患者。

 

「ひまり、続き始めるよ」

 

 蘭は無表情だが、その瞳だけは輝いていた。

 

「お前…こう言う時の行動は速いな…」

「別に…。てか、竜介があたしをこんな風にしたんじゃん」

「そう言えばそうだったな。で、皆いるけど何かするか?」

「じゃあ頭撫でて」

「あいさー」

 

 指示通り頭を撫でると、蘭は気持ち良さそうに笑みを零す。

 そんな蘭の様子を見て、ひまりはあわわと口元に手を当てていた。

 

「蘭がツンツンしてない!?」

「ひまり、うるさい…」

「やっぱりツンツンしてた!」

 

 相も変わらずひまりは騒がしい。

 そんなにデレた蘭が見たきゃ見せてやろう。

 ツンデレがデレを見せる時、だいたいその破壊力は核兵器並なのだ。

 

「竜介、手握って」

「おう」

「竜介、好き」

「俺も好きだぞ」

 

 ニマニマ笑いで蘭は好き好き言ってくる。

 

「蘭、そろそろやめないと止まらなくなるぞ?」

「別に良い」

 

 あっけらかんとした様子で蘭はそう言った。

 残念ながら手遅れだったらしい。

 

「竜介、キスして」

「それは無理」

「むう…」

 

 頬を膨らまし、子供の様に拗ねる蘭。

 膨らみほっぺを見ると空気を抜きたくなる俺は、何かの病気なのだろうか。

 

「えい」

「ぷふっ…竜介?」

 

 プスっと空気を抜くと、今度は何も言わずに頬を膨らます。

 そしてもう一度俺がプスると、顔を逸らしてしまった。

 

「はは、悪い悪い。蘭のほっぺが柔らかそうだったから、つい」

「竜介だから許す。ぎゅ〜」

 

 お腹に顔を埋め、強めに蘭は抱きついてきた。

 時折、『すう〜』と長く空気を吸う音が聞こえて来る。

 どうやら蘭が俺の匂いを嗅いでいるらしい。

 お腹がくすぐったかった。

 

「誰だよお前…」

 

 おそらくこの光景を見た人全員が言うであろうセリフを、ひまりが代弁してくれる。

 

「ひまり、キャラが崩れてるぞ」

「いや…だって、ねえ?ほんと、どうなってるのそれ?十年近く蘭といるけどこんなの見た事ないよ?」

「これな、幼児退行してるんだ」

「幼児退行…」

 

 何故蘭がこんな事になるのか。

 その原因は、俺と蘭の幼少期にある。

 蘭と初めて出会ったのは、年中時代の春。

 互いにクセのある者同士だったせいかすぐ意気投合し、遊ぶ時も食事の時も、時にはお風呂も一緒だった。

 そして、小さい頃から人のために何かをするのが好きだった俺と、昔から両親が厳しく素直に人に甘える事が出来なかった蘭が奇跡のコラボレーション。

 蘭が隣にいる時は必要以上に甘やかし、愛でて愛でて愛でまくったのだ。

 その結果がこれである。

 

「蘭の中にある『甘える』って言う本能が、俺に対してのみ強く働くようなった。で、本能に染み付いちゃったから、心が成長した今になっても少し甘やかせばこうなっちまう。正直俺もびっくりしてる」

「癖みたいなやつって事で良い?」

「まあ、その認識で大方合ってる。蘭も気付いたら膝枕されてたって言う時があるらしいし」

「うわぁ…」

 

 幼馴染の知らない一面を知って、ひまりは若干引いていた。

 

「可愛いだろ?」

「ちょっとギャップが激しくてついて行けない…」

 

 ギャップ萌えは行き過ぎると困惑の種になるらしい。

 なんて事を考えながら蘭の頭を撫でていると、腕の裾をくいくいっと引っ張られる。

 

「竜介竜介」

「ん、どうした?」

「結婚して?」

「ぐはっ!?」

 

 満点青空スマイルでの「結婚して?」が破壊力抜群だったのか、ひまりが吐血(の真似事)をしていた。

 初心者に対しては効果抜群だが、残念ながらこの幼蘭状態を何度も見てきた俺にとってはかすり傷にもならない。

 

「ひまり、頑張れよ」

「なんで竜介は平気なの…」

「見慣れてるからな。ひまりもあと五十回ぐらい見れば慣れると思うぞ?」

「私に死ねと?」

 

 なんて大袈裟なのだろう。

 俺の頬を両手でぺちぺち触る蘭をあやしながら、俺はそんな事を思った。

 

「りゅうすけ〜だ〜いすき〜♪」

「そっかー俺も大好きだよ」

 

 滑舌に拙さが出始める。

 俺の膝枕で寝ているのは蘭の姿をした幼女と言っても過言ではないレベルにまで達していた。

 

「りゅうすけ〜」

「今度はなんだ?」

「しあわせ〜」

「…そうか」

 

 うつらうつらとした目で微笑みながら、ろり蘭は俺に幸せを囁いた。

 今の言葉は少し俺にもクるものがある。

 

「ふふぁ〜…ねむ〜い…」

「ああ、おやすみ」

「うん…おや…すみ〜……」

 

 俺にそう告げると、蘭から規則正しい呼吸音が聞こえ始める。

 幼児退行した蘭は、寝付きが通常時の二倍良くなるのだ。

 

「竜介…終わったの?」

「ああ、あとは目覚めればいつも通りの蘭に戻ってるよ」

「そっか…良かった」

「まあ、面白いのはこれからだけどな」

 

 蘭の寝顔を見ながら、これから起こる事を想像する。

 ひまりが訝しげに首を傾げていたので、俺は吹き出しそうなのを堪えて教える事にした。

 

「竜介…凄く悪い顔してる…。それで、これから何が起きるの?」

「えっとな、実はこの幼児退行…脳の記憶能力の方はしっかり働いてるんだわ」

「……え?」

 

 当たり前と言えば当たり前だろう。

 無意識にやっているとは言え、それは一部分のみ。

 動かした体も、話した言葉も、脳がしっかり指示して出したものなのだ。

 つまり…

 

「…幼児退行した蘭が発した一挙一動、一言一句…正気の蘭は覚えてる」

「つらたにえん…」

 

 この後目覚めた蘭は、あまりにも酷過ぎる羞恥の事実に苦しめられるだろう。

 ひまりもそれを察したのか、蘭に向けて合掌していた。

 

「まあ、蘭は後で苦労するから良いとして、今は竜介が頑張ってね」

「なんで俺?」

「そこ、見て」

 

 ひまりは言いながら部屋の入口を指さす。

 そちらを見ると、物凄いニッコリとした威圧的な笑顔をしているつぐみに、ジト目で頬を膨らまし「むう〜…」と唸るあこがいた。

 

「竜介君、ちょ〜っとお話しようか?」

「えっと、つぐみ…さん?いつもの天使具合はどこへ?」

「りゅう兄のあほぽんたん!変態!」

「あこはいつも通りか」

 

 今日もあこはラブリーキュート。

 

「ま、頑張ってね竜介。私はコーヒー飲んでくる」

「ひまりの薄情者ー、胸デブー」

「…つぐ、やっておしまい」

「わかったよ!ひまりちゃん!」

「やっべ…」

 

 つぐみの殺る気にブーストがかかってしまった。

 

「うふふ…楽しくなりそ♪」

「やばたにえん…」

 

 つぐみのオニオコ説教の幕が切って落とされた。

 ていうか、二人は何故機嫌を損ねたのだろうか。

 それと、先程からあこがずっと腕に抱きついているのだが一体どうしたと言うのだろ─

 

 

「──りゅう兄はあこのだもん……誰にも…渡さないもん…」

 

 

 取り敢えず俺を殺そうとしているのは理解出来た。

 

 




プスるって造語が意外と便利なの。どんどん使って?
羞恥で悶える蘭ちゃんは皆の心の中にいるのよ!
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