【完結】いちばん小さな大魔王!   作:コントラポストは全てを解決する

12 / 95
感想があと一件でちょうど三十件になるの!でもどんどん超えて!




第11奏 儚さかおる、運命の王子様

 俺こと神楽竜介の朝は早い。

 朝の四時半に起床し、その日の自分とあこの分の弁当を作る。

 自分の弁当に入れる具材は昨晩の残り物や冷凍食品などだが、あこの分はその日に手作りするのが俺の拘り。好きな人にみっともない弁当は渡せない。

 正直に言えば、あこのために早起きしている節がある。これぞスパダリ力。

 午前七時半、髪の所々が寝癖で跳ねたあこが起床。そして、前開きのボタン式パジャマのボタンをずらした状態であこは二階から下りてくる。

 いの一番に俺への朝の挨拶を済ませた後、洗面所で軽く身だしなみを整えいざ朝食へ。

 両手を合わせ、お互いに食事の挨拶を交わしたのち、あこは自家製手作り食パン(山吹家直伝&イチゴジャム付き)を一口…

 

「…おいひい…♪」

 

 もうこれだけで死ねる。

 幸せそうな笑顔でパンを頬張るあこを見つめながら、俺はそんな事を思う。

 あこに悟られないよう平静を装いつつ、テレビの電源を入れた。

 

「あ、そうだあこ、今日は弁当忘れるなよ?」

「さ、さすがのあこも四日連続で忘れたりしないよ…多分…」

「そこは自信持って言って欲しいなー…」

 

 黙々と食パンを食べながら、あこは俺から目を逸らす。

 実はこの魔王様、三日連続で弁当を忘れているのだ。

 その度に俺は学校を遅刻して届けに行くが、「同棲相手が弁当忘れたので届けに行ってました」と説明すると、恋愛モノが大好物な事で有名な俺の担任が、発狂しながら遅刻を取り消してくれる。

 そして、有咲に遠目から睨まれた後、舌打ちさせるまでがワンセットなのだ。

 

「そう言えばさ、あこ」

「?」

 

 ふと思い返すと、ここにあこが来てからかなり日にちが過ぎた事を実感する。だが、そもそもあこがここに居座る原因となった問題はどうなったのか。

 俺はそれが気になり、首を傾げるあこに尋ねた。

 

「巴とはどうだ?仲直り出来そうか?」

「…昨日、電話で仲直りは出来た……と思う」

「……そうか」

 

 素っ気なく返したが、俺の心中は穏やかではない。

 仲直りしたと言う事は、ここにいる理由がなくなったと言う事。

 つまり、もうあこと暮らせないと言うわけで…。

 何気なく聞いた話題だったが、まさかそのせいで自滅する事になるとは。

 でも、お別れ会はケーキ作ろうかな、なんて考える自分もいてしまう。

 

「えっと、巴は戻ってこいとかは言ってたか?…って言ってもあこがそっちの方が良いに決まってるか。自分家の方が落ち着くよな…」

「え?……あ、う、うん…」

 

 気まずそうにあこは俯いた。

 

「あ、あのね…りゅう兄…」

「…おう、どうした」

 

 モジモジしながら何処か照れくさそうにして、あこは言ってくる。

 

「あこ…ここに居たい…」

「…え?」

「あ、あと一日だけでも良いから…りゅう兄のところに居たい……ダメ、かな?」

 

 瞳をうるうるさせながらあこは懇願してきた。

 俺としては別にいくらでも泊まってくれて良いのだけれど、なんと言えば良いのだろうか…。

 以前のあこなら、こう言ったお願いは元気よく頼み込み、拒否権なんて貫き壊す勢いで言って来たのだが…。

 俺がそんな疑問を持ちながらあこを見ていると、断られるとでも思ったのか、落ち込んだ様子であこは呟き出す。

 

「…あこもね、ワガママ言ってるのは分かってるの…。で、でもね…最近、変なんだ…」

「変?」

「うん…。あこ、今凄くりゅう兄の傍にいたくて仕方ないの…。だから…その…りゅう兄から離れたくない…」

「…」

 

 含羞を帯びた笑みで俺に告げるあこだが、俺が何も言わないのを見て、再び落ち込んでしまう。

 

「や、やっぱり迷惑だよね…。へ、変な事言ってごめんなさい…」

 

 あこは食べ終わった食器を重ね、しょぼんとしながら席を立った。

 …何故、俺が断った雰囲気で話が進んでいるのだろう。

 

「いいよ」

「…え?」

「あこの気が済むまで、ここに居ていいよ」

「!」

 

 俺がそう言うと、あこは表情が途端に明るいものになった。

 

「にひひ♪ありがと、りゅう兄」

「どういたしまして。ほら、そろそろ準備しないと遅れるぞ?」

「うん!」

 

 元気よく返事をしたあと、トテトテと階段を上っていく。

 あこがいなくなったのを確認し、俺はその場で「だあ〜…」と大きく息を吐いた。胸の辺りからはバックンバックンとやたらうるさい鼓動が聞こえ、急速に顔が熱くなる。

 先程のあこはなんと言うか、こう…やばいの一言でしか言い表せほどの魅力を持っていた。

 何さ、「りゅう兄から離れたくない…」って。リアルに惚れてまうやろ…いやもう惚れてるけどさ…。

 

「ほんと…強すぎないかあの魔王様…」

 

 この世にあこに勝てる存在が是非とも見てみたい。

 なんて事を考えていると、階段の方からまたドタドタと慌ただしい音がしたので、俺は再び気を引き締める。

 

「りゅう兄!行ってきます!」

「ああ、いってらっしゃい」

 

 玄関がガチャリと開き、あこは家を飛び出して行く。

 あこを見送った後、俺は自分の食器を重ねて台所に持っていった。

 

「…あ、弁当」

 

 ふと目に入ったのはカウンタに置かれた二つの弁当箱。

 どうやら今日も担任を発狂させる事になるようだ。

 

 

 ___

 

 

 

 なんて事が今朝にあったため、俺は羽丘学園高校に続く道を歩いている。

 アホみたいに長い回想で申し訳ないが、それだけ鮮明に覚えてしまう程、俺にとってはショッキングな出来事だったのだ。

 

「今日も遅刻確定だし、ゆっくり歩くか」

 

 通り過ぎる自動車。

 見慣れない方向から見る見慣れた建物達。

 遠目に見える羽丘学園高校。

 耳をすませば、背後から「パカラッ、パカラッ」と馬が駆ける音が聞こえる。

 

「…ん?馬?」

 

 あまりに自然な流れだったのでスルー仕掛けたが、その不自然さに気づき俺は振り返る。

 そこには、白馬に乗った王子様のような女子高生が、その艶やかな髪を馬の尻尾と一緒に靡かせながらこちらに向かって来ていた。

 

「おや?ロミオじゃないか。こんな所でどうしたんだい?」

「あーちょっと羽丘に用事がありまして。薫先輩は遅刻しそうなんですよね?シルバーに乗ってる所を見ると」

「ああ…ロミオ、私の事は気軽にジュリエットと呼んでくれと言っているじゃないか。まあ、君の問いに答えを出すならイエスだね」

「なら急いだ方が良くないですか?」

 

 首元にフンスフンスと鼻息を吹きかけてくるシルバーを宥めながら、俺は薫先輩に提案する。

 

「ふふ、ロミオの言う通りだね。そうだ、どうせなら乗って行くと良い。シルバーも久びさに君と会えて張り切っているようだしね」

「え、良いんですか?なら、お言葉に甘えさせていただきますね。それと薫先輩」

「ん、なんだい?」

「手綱借りますね」

 

 薫先輩より後ろに跨り、頭絡から伸びる手綱を握る。

 右手に手綱、左腕で薫先輩を背後から抱き抑え、操縦権を奪った。

 

「ロミオ?これだと私が何も出来ないのだが…」

「悪いですね薫先輩。俺は黙ってお姫様に運ばれるほど男が廃れていないので。だから大人しく俺に運ばれて下さい、ジュリエット」

「…悪い王子様だよ。君は」

「俺様系王子なんて、そこら辺探せばいくらでも出て来ますよ」

 

 むしろ大人しめの王子が出てくる話を見てみたい。

 俺はシルバーを操縦しながらそんな事を思った。

 

「シルバー…少し逞しくなりましたね」

「ああ、きっと鍛えて君に会いに行こうとしていたんだよ。シルバーが自らの意思で鍛え始めたのは、ロミオが花咲川に移ってすぐだったからね。主のために己を磨く白馬…ああ、なんて儚いんだ!」

「まあ、所有権は羽丘学園高校が持ってますけどね」

 

 ムードもへったくれも無い。

 でも、ここまで懐いてくれると感慨深いものがある。

 これが儚いと言うものなのだろうか。

 

「いつかまた、シルバーと薫先輩と俺の三人で演劇やりたいですね」

「ふふ、いつか出来る時が来るさ。何なら演劇部の助っ人と言う扱いで私が呼ぼうかい?」

「あー、それいいですね。じゃあその時は夢想少女どり~む☆かおるんの衣装も持って行きますね」

「…そっちは遠慮したいかな」

「ええ〜良いじゃないですか。せっかくシルバー用のユニコーン衣装も作ったのに…」

 

 夢想少女どり〜む☆かおるんの何がいけないのだろう。

 衣装の色もピンクが苦手と言っていたので紫と白にしたし、脚本も大人から子供まで楽しめるよう笑いあり涙ありのストーリー性抜群のモノに仕上げたのだが…。

 ちなみに、必殺技は武器形態に変身したユニコーン(シルバー)に全魔力を注いで放つ『一点突破マジカルスピアー』である。因果逆転のこの技は、必ず相手の心臓を貫き抉る、文字通り必ず殺す技なのだ。

 

「やっぱり必殺技に派手さがないから嫌ですかね?一応他にも、敵を体の内側から爆発四散させる『プラズマプロミネンス』とかもありますよ?内臓とかも飛び散ります」

「いや…私が言いたいのはもっと根本的な事なのだけれど…。というか、必殺技の設定に君の闇を感じるんだが…」

「そうですかね?」

 

 あこの喜ぶ顔を思い浮かべながら、設定を盛って盛って盛りまくった思い出の技達なのだが。

 まあ、薫先輩が気に召さないならしょうがないだろう。

 

「そもそも、そんな私を誰が見たがるんだい?」

「俺は結構見たいですよ?薫先輩可愛いですし」

「…突拍子もなくそう言う事言うのはやめてくれるかな」

「照れてます?」

「…」

 

 薫先輩は無言で俯いた。

 

「…そう言えば、ロミオは我が校に何しに行くんだい?」

「話題転換下手ですね」

「泣くよ?」

「すみません」

 

 羽丘学園高校第二学年に所属している瀬田薫先輩には二つ弱点がある。

 一つ目は高い所。

 二つ目は─

 

「薫先輩って弄りがいありますよね。そう言う所ポイント高いです。素直に可愛いって思います」

「ほ、本当にやめてくれないかい?」

 

 ─恐ろしいほどに押しに弱い所。

 

 褒めると顔を赤くして、絶対目を合わせてくれなくなるのだ。

 いつもはグイグイ女の子を口説くのに、その仮面を無理やり剥がせば可愛らしい乙女の顔が出てくる。

 こんな素晴らしい性格をしてるのに、弄らないで放っておくなんて薫先輩への冒涜だと俺は思う。

 きっと薫先輩は、俺に弄られるために生まれて来たのだろう。

 

「運命ってほんとにあるんですね」

「ロミオ…いや、竜…もう限界だから本当にやめて欲しい…。ほら、もうすぐ学校に着くよ?」

 

 片手で顔を隠し、マックス照れりんこしている薫先輩は俺にそう告げる。

 薫先輩の言う通り、羽丘学園高校の正門が見えて来ていた。まだ門は閉じてないので、時間の方は大丈夫そうだ。

 

「…久々の羽丘だし、どうせなら目立ちたいな。あ、そうだ、薫先輩」

「…何かな?今とても嫌な予感がしているんだが…」

「俺にお姫様抱っこされて下さい」

「…へ?」

 

 いつものカッコつけた表情は無く、そこに居たのは驚愕の色に顔を染める普通の女の子だった。

 正門をくぐった所でシルバーの歩度を詰め、薫先輩の体勢をお姫様抱っこの状態に抱き替える。

 それからすぐ、こちらの様子に気付いた生徒達が一瞬情報過多によるフリーズを起こすが、すぐさま黄色い声をあげ写真を撮り始めた。

 

「ほら、見て下さい薫先輩。皆が俺達を見てますよ!俺と薫先輩…二人っきりの演劇舞台です!」

「私にとってはただの処刑場だよ…」

 

 腕の中の薫先輩は、せめてもの抵抗としてなのか俺の胸に顔を埋めていた。

 耳の先から体の熱さまでの全ての機能が恥じらいの念へと利用され、薫先輩を乙女の姿へと染め上げる。

 

「…竜はスイッチが入ると、私以上の役者になるね…」

「薫先輩といる時限定ですけどね。お姫様がいて、初めて王子が引き立ちますから。きっと俺達、最強のコンビですよ。という訳で、今度どり〜む☆かおるんをやりましょう!」

「何が、と言う訳なんだい?私はやらないからね?」

「ワガママですねー。まあ、お姫様はワガママなぐらいがちょうど良いのかな?」

 

 ニコっと微笑みかけると、薫先輩は俺からふいっと目を逸らした。

 

「…君は最高の女たらしだよ……」

「薫先輩がそれ言います?」

 

 こんなに乙女可愛いのに、どうしてフリフリ魔法少女ドレスを来てくれないのか俺には全く理解出来ない。

 

「…どり〜む☆かおるんの衣装、一回クリーニングに出しとくか」

「だから着ないよ?」

 

 強い意思の灯った俺の心には、薫先輩の言葉は入らない。

 衣装を着た薫先輩の姿を想像しながら、俺はカメラのフラッシュという名のスポットライトで照らされた道を歩く。

 だが、昇降口まで辿り着いた所で、めっちゃ良い笑顔のつぐみにストップをかけられてしまった。

 

「…竜介君、何してるのかな?ここは羽丘だよ?」

「あ、いえ…野暮用で来ただけなんで…いやほんと遊んでたとかではなく、これは薫先輩と俺のサプライズ劇団的なあれで…」

「竜介君?」

「…はい」

 

 激おこ堕天使ツグミエルは、今日も説教の笑顔が咲う。

 

「お説教が必要みたいだね?」

 

 薫竜介劇場─これにて閉幕である。

 

 

 

 ___

 

 

 

 

「見て見て、今朝の竜介結構話題になってるよ」

「『羽丘のスパダリプリンス再来』…ひ〜ちゃん何これ〜?」

 

 竜介が羽丘に訪れた日の昼休み、Afterglowのメンバーにあこを加えて昼食をとっていた。

 ひまりが見せるスマホ画面には、今朝の竜介の様子が事細やかに書かれている。

 

「ほら、竜介ってこっちにいた頃は演劇部入ってたじゃん?しかも人気あったし」

「まあ、そうだけど…これって不法侵入…」

「ほら、竜介だから!」

 

 蘭の素朴な疑問にひまりは答えになってない答えを返した。

 各々がスマホの画面に反応を示しながら、自身の昼食を取り出す。

 

「いただきます……〜♪」

 

 だが、たった一人だけそんな話題には目もくれず、弁当を頬張る少女がいた。

 

「おいひい♪」

 

 宇田川あこである。

 竜介の料理の匂いを周囲に撒き散らしながら、そんなの気にせずパクパクと箸を進める。

 そして、そんな料理の匂いに気づき、またある一人の少女があこに近寄った。

 

「…ねえ、あこち〜ん」

 

 青葉モカである。

 

「ん?どうしたのモカちゃん?」

「随分気合いの入ったお弁当だけどさ〜もしかしてそれ作ったのって〜」

「りゅう兄だよ?」

「「!?」」

 

 あこの一言に、蘭とつぐみの肩が跳ねる。

 そして、その視線をあこから巴へと移し、一瞬でゼロ距離まで詰め寄った。

 

「巴ちゃん!なんであこちゃんが竜介君が作ったお弁当持ってるの!?あこちゃんとは仲直りしたんだよね!?あと私も欲しい!」

「あれ、言ってなかったか?今日からまたしばらく竜介の家に泊まる事になったんだよ」

「もうただの同棲じゃん!巴はそれで良いの!?あとあたしも竜介に弁当作って貰いたい!」

「落ち着け二人とも。それと願望漏れてる」

 

 蘭とつぐみの連携プレーにより、前後に揺さぶられる巴。

 ここ十年で巴は初めて幼馴染達に対し、面倒臭いと言う感情を持った。

 そんな二人にひまりレフェリーが静止をかけ、二人は渋々引き下がる。

 

「悪い、ひまり」

「いや…うん、別に大丈夫。まあ、私も結構驚いてるけど。その…良いの?あれだけあこちゃんと竜介を二人きりにしないように頑張ってたのに…」

「アタシもそろそろ腹括らなきゃなって思ってさ。元々裏でコソコソやる性格でもなかったし。それにさ…」

「?」

 

 そこまで言った後、巴はあこの方に視線を移した。

 

「あこち〜ん、お弁当一口貰って良い〜?」

「良いよ!はい、あーん…」

「あ〜ん」

 

 あことモカのやり取りを見ながら小さく微笑み、視線を戻す。

 少し遠目から羨望の眼差しを向けていた蘭とつぐみは見なかった事にした。

 

「あこが幸せそうだからな。それを壊すのは、姉としてやっちゃいけない事だと思う」

「巴…なんて良いお姉ちゃん…」

「でも竜介に渡すのは癪に障るけどな、本当に癪に障るけどな!」

「意外とそうでもなかった…」

 

 巴はひまりに呆れた視線を向けられた。だが、本人は気にしない。

 そんな巴に一通のメールが入る。差し出し人を見ると『神楽竜介』の四文字。内容を確認した後、巴はスマホをポケットにしまい、あこの下に向かった。

 

「あこ、ちょっと良いか?」

「どうしたのお姉ちゃん?」

「竜介から伝言だ。『次弁当忘れたら、毎食ピーマン食べて貰うからな』だってさ」

「うぐっ…ピーマンかー…」

 

 頭の中で思い浮かべたピーマンに厭悪の感情を抱くあこ。

 そんなあこに巴は溜息をつく。

 

「あこ、その弁当は竜介があこの事を想って作った物だ。忘れるなんて失礼だぞ?」

「ご、ごめんなさい…。で、でも素で忘れたのは今日だけなの!」

「…今日だけ?今まではわざとだったのか?」

「あっ…」

 

 しまった、とでも言いたげにあこは目を逸らし、弁当をパクつき始める。

 そんなあこの頭を巴は鷲掴みにし、アイアンクロー状態でその場に無理矢理立たせた。

 

「あこ?どう言う事だ?」

「ち、違うのお姉ちゃん!嫌がらせとかじゃないの!あこ、りゅう兄の事大好きだもん!」

「…じゃあ、なんでだ?」

「え、えっとね…」

 

 アイアンクローから解放されたあこは、両手の人差し指をツンツンさせながら恥ずかしそうに語り出す。

 

「あ、あこがお弁当忘れると…いつもりゅう兄が教室まで届けに来てくれるの」

「なるほど、それで?」

「りゅう兄からお弁当を受け取ってから、少しだけお話出来る」

「まあ、そうだな」

 

 あこが答える度、巴は相槌をうつ。

 その様子を見ていたひまりは何かを察したのか、即行で自販機からブラックコーヒーを五本買って戻ってきた。

 皆がひまりの行動に疑問を抱く中、あこは照れながらボソッと呟く…

 

「…あこね、その時間が好きなの…。ほんのちょっとの間だけど、学校でりゅう兄と会えるから…。こうすれば、りゅう兄と学校でも一緒に居られるから。だから、わざとお弁当忘れてきてた…」

 

 そう言い終えると、何処か後悔の念を感じさせる雰囲気を出しながら、唇を若干尖らせてあこは俯いた。

 

「ちょっとだけ…寂しかったんだ…」

「そうか…。でも、今日で最後にするんだぞ?」

「うん、もうりゅう兄に迷惑かけるのやめる。あこ、甘え過ぎてた」

「ちゃんと反省してるなら良い。今回は竜介には黙っておいてやる。次は無いからな」

「ありがと…お姉ちゃん」

 

 あこの心境を察せない巴でもないので、ポフっと優しくあこの頭を撫でた。

 

「帰ったら竜介にちゃんとお礼言うんだぞ?」

「うん、分かった…」

「ふう…」

 

 ちょっと窮屈な空気が流れたせいか、巴は場を和ませるように一つ溜息をつく。

 ふと、視線をずらすとひまりがブラック缶コーヒーをガブ飲みする光景が目に入り、皆もそちらに気を取られている事に気付いた。

 

「アタシの気遣い返せよ…」

 

 巴はジト目で幼馴染四人を見つめる。

 まあ、あこの身勝手さを自覚させる事が出来ただけ良いか、と内心無理やり納得した。

 もう一度あこの方を見ると、竜介から貰ったお弁当を大事そうに膝の上に乗せて、食事を再開している光景が目に入る。

 その顔は優しさや感謝と言ったモノで溢れかえっており、満ち足りた表情だった。

 

「にひひ…♪やっぱり美味しい…♪」

 

 きっと、あこにこんな幸せそうな表情をさせられるのは竜介だけだろう。

 巴はそう悟り、妹離れと言う言葉を頭の隅に入れておく。

 

「─ありがと、りゅう兄」

 

 ワガママの限りを尽くした今回のあこの姿は、正しく魔王だったと思う。けれど、そんな姿を晒しても関係が壊れない相手を見つけた辺り、もしかしたら本当に運命なんてものがあるのかもしれない。

 柄にもなくそんな事を考えた巴は、ひまりからコーヒーを一本受け取り、今し方思った事を流し込むようにそれを一気に飲みほした。

 

 

 




夢想少女どり〜む☆かおるんと羽丘のスパダリプリンスという言葉に一人ツボってましたごめんなさい。

あこ回に見せかけた薫回…に見せかけたあこ回。
薫君のデレが上手く思い浮かばなかった…。修行が足りない。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。