【完結】いちばん小さな大魔王!   作:コントラポストは全てを解決する

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第12奏 風邪を引いたらパン屋が来た件

 前略、風邪を引いた。

 

「喉痛え…」

「りゅう兄、大丈夫?」

「悪いな、心配かけて…」

「ううん、平気だよ。あこに出来る事があったらなんでも言ってね!」

 

 幸いなのは、今日が土曜日だった事だろう。

 あこが家に居られるおかげで、掃除や洗濯などの家事を全部やって貰う事が出来た。

 俺の負担は料理だけで済む。本当にありがたい。

 

「そうだ…夕飯の材料、切らしてたんだ…。あこ、頼めるか?」

「うん!任せて!」

「サンキュな…。一階のテーブルに、財布とか買い物バッグとか置いてあるから…よろしくな。あ、鍵は絞めなくていいから…」

「分かった!じゃあ、行ってきます!」

「おう…行ってらっしゃい…」

 

 トテトテと俺の部屋から出て行ったあと、しばらくしてから玄関の開く音が聞こえて来た。

 どうやら、無事に財布などは見つけられたようだ。

 

 ─おやつは千円までって伝え忘れたな…。

 

 なんて事を思いながら、俺はベッドから身体を起こし一階に下りる。

 リビングに入ると、何故か部屋がいつもよりキラキラしているように見えた。

 台所には、あこが朝食時に使ったであろう食器がきっちりと並べられ、洗濯物を見てみると、下着の周りをタオルで囲って干す主婦テクが活用されていた。

 あの魔王様、無邪気そうに見えて実は嫁力が高いのではないだろうか…。

 仮に、これが女の人の本能なのだとしたら、俺は一生女には勝てないだろう。

 

 ─ピンポーン。

 

 突然、そんな音が部屋に響く。

 あこは家の鍵が開いている事を知っているだろうし、こんな午前に来るとしたら通販とかだろうか。頼んだ記憶は全くないが。

 様々な考察をしながら、俺は玄関のドアを開けた。

 

「おはよう、竜介…って、寝てなきゃダメじゃん。風邪引いてるんでしょ?」

「沙綾…なんでここに…」

「さっきお使い途中のあこに会ったの。で、事情全部聞いた。取り敢えずお邪魔させて貰うね」

「え…ちょっ…」

 

 俺の了承無く、沙綾はズカズカと家に入ってくる。

 テーブルの上に荷物を乗せた後、台所やベランダなどを見て回っていた。

 

「…巴から聞いてたけど、本当にあこと一緒に暮らしてるんだね」

「おう、めっちゃ幸せだぞ」

「……変な事してないよね?」

「しねーよ…」

 

 真面目な顔でなんて事を聞いてくるのだろうか。この幼馴染は。

 

「もう、諦めるしか無いのかなー…」

「何を諦めるんだ?」

「ううん、こっちの話。というか、竜介は寝てなくて良いの?」

「少し家の中うろちょろしてたら回復してきた。まあ、元々大した風邪じゃなかったし」

 

 熱も微熱だったし、このまま安静にしていれば夕飯までには回復するだろう。

 

「それにしてもさ」

「ん、なんだ?」

「竜介が風邪引いたのって、もしかして過労…」

「…じゃないからな?俺が風邪引いた原因は、ちゃんとしたウイルスによるものだ」

 

 俺が言うと、沙綾は「ちぇっ」と残念そうな顔をした。

 沙綾に散々休め休め言っておいて、自分が過労で倒れる…なんて醜態を晒さないよう日々の過ごし方には気をつけている。

 

「で、結局沙綾は何しに来たんだ?」

「…お見舞い、かな?一応、パン持ってきたよ」

「風邪引いた時にパンって大丈夫なのか?」

「さあ?でも、今の竜介なら大丈夫でしょ」

 

 バッグの中から、パンが入っているであろう紙袋を取り出し、沙綾は俺に渡してくる。

 紙袋の中には、カレーパンとチョココロネが二個ずつ入っていた。

 

「これ、山吹ベーカリーの人気メニューじゃん。良いのか?」

「あー、うん…。ぶっちゃけ、ポイント稼ぎ的な面もあるから。まあ、もうただの悪あがきだけど…」

「ポイント稼ぎ…悪あがき…?」

「竜介には分かんないよね〜…」

 

 沙綾は、深くため息をつきながら呆れていた。

 ポイント…得点?

 何かの勝負でもしているのだろうか。だとしたら悪あがきと言う言葉にも納得がいく。

 

「…諦めたらそこで試合終了だぞ?」

「残念だけど、諦める前から試合は終了してるよ」

「出来レースは悪い文明って文明破壊お姉さんが言ってたぞ?」

「何その物騒な女の人…。てか、竜介は女の人なら誰でも手をだすんだね…」

 

 沙綾がなにか可愛い誤解をしていたので、頭を撫でて置くことにした。

 いつも通りお顔真っ赤である。

 

「…竜介は、本当に女の子の扱いが得意だね…」

 

 沙綾にまでその情報が言っていたのか。紗夜先輩め、なんて罪深い。

 今度、人参丸ごと一本食いの刑に処そう。いや、さすがに可哀想だから茹でてすり潰すぐらいはしといた方がいいか。

 

「急に考え込んでどうしたの?」

「紗夜先輩にどうやって人参食べさせようか考えてた」

「なんで今?」

 

 今だからこそである。

 

「紗夜先輩…なんで俺が女の子の扱いが上手とか言うデマ情報流すかなぁ…。俺なにか嫌われる事したっけ…」

「…流すも何も、それ以前からもう皆に知れ渡ってるよ?」

「は?嘘だろ?十年弱あこ一筋でいるのに?……いや、無いだろ、そんな不埒な事してたらあこに愛想尽かされちまう」

「いや…うん…普通はそうなんだけどさ。いや、なんでだろうね…おかしいなぁ…変だなぁ…」

 

 沙綾が突然稲川淳二のモノマネを始めた。

 

「まあ、何?竜介の女たらし度はかなりヤバいよ。だから有名になってるし。知ってる?商店街で神楽竜介って名前出すと、皆口を揃えて女たらしって言うんだよ」

「それはヤバいな…」

 

 まさかそんな広範囲にまで広まっているとは。

 だとしたら、八百屋のおじちゃんも、魚屋のじっちゃんも、はぐみママも、そう言う目で俺を見ていたという事になるのか。なんて悲しい。

 

「そうか…俺はいつの間にかクズ男になっていたのか…。一体いつから…」

「多分…生まれた時から」

「マジかよ…」

「ほら、年中の時にはもう蘭を誑かしてたんでしょ?」

「言い方、言い方気をつけて…。俺はただ甘やかしてただけだから」

 

 もう俺がただのプレイボーイみたいになっていた。

 別にそんな女の子に好かれたいわけじゃないのだけれど…。

 

「もしかしたら竜介が初めて話した言葉、『女の子大好きー』とかかもね?」

「え、やだ…なんで知っているの?」

「…」

「冗談だから。冗談だから笑顔で後ずさるのやめて…」

 

 心にピキピキとヒビが入る音が聞こえる。

 

「あはは!私も冗談だよ、竜介」

「くそっ…沙綾に弄られるなんて…」

「くふふ…いつも竜介にはしてやられてるからね♪」

 

 沙綾の口元が、リサ姉のような猫口になっていた。

 まさか沙綾に責められる日が来ようとは…。

 

「だが甘いわ!こちとら沙綾のプ〇キュアコスプレ写真があるんだからな!いざとなったら純と紗南に見せつけてやる!」

「なっ!?なんでそんなの持ってるの!?」

「千紘さんから貰った」

「お母さん…なんて事を…」

 

 沙綾(幼少時)のコスプレ写真を眺めながら、その場に崩れ落ちた沙綾の頭を撫でた。

 

「それにしても、沙綾って結構フリフリ衣装似合うな。今も…うん、割といける」

「やめて…恥ずかしくて死んじゃう…」

「これはあれだね、薫先輩と沙綾で魔法少女モノやらなきゃ。夢想少女どり〜む☆かおるんvsブレッドキャプターさあや的な」

「だからやめ……ドリームかおるんって何?」

 

 どうやら沙綾はどり〜む☆かおるんに興味があるらしい。

 さすが沙綾だ。分かってる。

 

「薫先輩向けに考えた魔法少女モノの演劇なんだけどな?薫先輩が渋ってやってくれないんだよ。折角衣装と台本も作ったのに」

「そう言うタイプの人じゃないからね。と言うか、それこそあこにやってあげなよ。喜びそうじゃん?」

「あー…うん。俺も一回そう思ってさ、日常ファンタジー路線で作ろうとしたんだよ。でも、ダメだった」

「そうなの?ちなみに題名は?」

 

 魔法道具で困ってる人を助ける系の作品にしようと思ったのだけれど、著作権という名の鎖が俺を縛って離さなかった。

 その作品の題名こそ…

 

「秘密のアコちゃん」

「そりゃダメだ…」

 

 脚本を書き、魔法のコンパクトを作り始めたところで『あ、これ怒られるわ』と悟り、そっとボツ案にした。

 

「結構良い案だったんだけどなー…。題名が題名だから仕方ないか」

「あはは…そうだね。まあ、竜介なら他の面白いやつ書けるでしょ。あこが主役なら、やっぱり魔王関連?」

「まあ、そうだな。でも、魔王が主役って結構難しいんだよ…」

 

 一応、最高最善の魔王になろうと奮闘する作品があるが、あれは主人公が男だ。

 はてさて、どうすればあこにピッタリの作品が出来るだろうか。

 なんて事を考えていると、玄関の方からドアの開く音が聞こえて来た。どうやら魔王様のお帰りらしい。

 

「噂をすれば何とやら、だね」

「だな」

 

 ドタドタと元気な足音が響き、バーン!と言う音と共にリビングのドアが勢いよく開けられる。

 

「りゅう兄!お使い終わったよ!」

 

 買い物バッグを携えたあこが、元気よく部屋に入って来た。

 

「おお、ありがとな。荷物は台所に置いといてくれ」

「うん!…あ、そうだりゅう兄。さっきね、商店街の福引でこれ当たったんだ」

「ん?」

 

 そう言ってあこが取り出したのは、隣街に新しく出来た水族館の無料招待券だった。

 

「三枚もくれたのか」

「うん。だからねりゅう兄…」

「おう、友達と楽しんで来いよ」

「嘘でしょ竜介…」

 

 俺の事は気にせず楽しんで来い、と言う意味を込めて言ったのだが、沙綾が有り得ないものを見たような表情で俺を見ていた。

 

「竜介、少しは人の気持ちを察せるようになりなよ…」

「?」

「あこは、竜介と行きたいんじゃないかな?」

「えっ……あ、あこ…そうなのか?」

「うん」

 

 あこが力強く首を縦に振る。

 もしかして、これってデート…ではないか、チケットはもう一枚あるわけだし。

 

「じゃあ、これで二人分か。沙綾も来る?」

「竜介、一回車に轢かれてきな」

「え、酷くない?」

 

 最早何の感情も伺えない顔の沙綾に、死んでこい発言をされた。

 

「こういうのは二人きりの方が良いでしょ。ねえ、あこ?」

「?…あこはりゅう兄がいればそれで良いよ?」

「…あ、あれ?」

 

 沙綾も気持ちを察せてないじゃん、と内心笑いながら、怪訝そうな顔をしている沙綾を見つめる。

 そんな沙綾は、何か一人でブツブツと呟いていた。

 

「…まさか…あこはまだ自覚してないの…?いや、そんなまさか…。それに…もう同棲だってしてるのに…。もしかして、これが正妻の余裕ってやつなの…?」

 

 自覚とか同棲とか制裁とか、一体何の話をしているのだろう。

 もしかすると、あこに手を出したらぶっ飛ばすからな、的な感じなのかもしれない。

 俺とあこが困惑した視線を向ける中、沙綾は一人自分の世界に入っていった。

 

「沙綾ー?戻ってこーい」

「っ!…あ、ご、ごめん。ちょっと考え事してた。それとごめん、私は多分店があるから行けない」

「そっか…それは残念だ」

「ありがとね。今度なんか埋め合わせするよ。あと、ちょっと一人で考えたい事が出来たから私帰るね」

「え?…お、おう。またな」

 

 俺が言ったあと沙綾も「またね」と返し、急ぎ足で家から出て行ってしまった。

 新しい商品の案でも思いついたのだろうか。

 少し気になるが、今は水族館に誰を誘うか決めなければ…

 

「にへへ〜♪りゅう兄と水族館か〜♪」

 

 …別に二人きりでも良いか。

 この後、何やかんやで花音先輩を誘う事になった。

 

 

 

 

 

 

 

 




圧倒的ネタ回

秘密のアコちゃんとか言う伏字が必要そうで必要ないギリギリワード。
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