【完結】いちばん小さな大魔王!   作:コントラポストは全てを解決する

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唐突に七夕ネタがやりたくなったので書きました。悔いは無い。




間奏 織姫と彦星・魔王と王子

 七月七日、空は雲一つ無い快晴ぶり。

 一番星が出はじめ、それをつぐみが見つけ始める時間帯。

 えんやわんやと活気溢れるオヤジの声が木霊する。

 商店街には提灯と屋台が並び、浴衣の人々があっちへこっちへ屯していた。

 

 ─七夕祭り。

 

 本来この地域にこんな催しは存在しない。

 全ての元凶である無自覚たらし兄さんとハッピーラッキースマイルお嬢は、ハロハピ法被と共に威勢よく太鼓を叩く。

 天然たらし男の「祭りがしてぇ」の一言に、スーパー財力パワープレイ少女が家の力を全面サポートに回した末に行われたのがこの祭りだった。

 

「おーい竜介〜それと弦巻の嬢ちゃ~ん!交代だぜ〜!」

「あら?もう終わりなのね」

「意外と早かったな」

 

 二時間近く太鼓を叩いていた二人は、平然とした顔で持ち場を離れた。

 周囲の人々が二人の体力に驚いていたが、そんな事はつゆ知らず。二人はお互いの予定を確認する。

 

「こころはこの後はぐみ達と合流だっけ?」

「ええ!竜介も一緒にどうかしら?」

「悪い、先約入ってるわ」

「…そう。でもいいわ、竜介と回れるようにまたお祭りを作れば良いもの!」

 

 一緒に祭りを回れるよう工夫するのではなく、一緒に回れるまで祭りを作り続ける。相変わらずのパワープレイである。

 竜介は苦笑いをしながら、そんなぶっ飛んだ考えを持つこころをハロハピメンバーの下まで送り届けた。

 その後、竜介もアフグロのメンバーとあこに合流。

 メンバー全員が浴衣姿だったが、竜介があこだけべた褒めしたせいで巴とひまりを除いたアフグロの面子が嫉妬の説教を開始。竜介の精神と祭りを回る時間が減った状態でスタートした。

 

「あ、りんご飴だ!」

「食べるか?」

「うん!」

 

 りんご飴を購入しそれを美味しそうに頬張るあこを眺めながら、竜介は満ちたりた気分を味わっていた。

 あこがりんご飴を食べ終わるタイミングを見計らい、竜介は更に声をかける。

 

「あこ、チョコバナナ食べるか?」

「食べる!あっ、あとたこ焼きも食べたい!」

「たこ焼きなんかもあるのか。悪い、そっちの方はあこに任せていいか?」

「分かった!」

 

 あこにお金を渡し、走り去って行くのを見守った後、竜介はチョコバナナの屋台に向かう。

 じゃんけんに買ったら一本プレゼントと言う条件を難なくクリアし、竜介は皆の下に戻った。

 

「なあ、竜介。最初からそんな金使って大丈夫なのか?祭りって普通の物価よりちょい高いだろ」

「安心してくれ巴。食費ぐらいにしか金を使わない俺にとって、むしろちょうど良い散財の機会だ。それに、祭りテンションのおかげで可愛さがいつもの数倍増してるあこの笑顔が見れるからな。…ああ、りんご飴食べてた時のあこの笑顔…マジ尊かった…五回死ねる」

「相変わらず竜介は尽くすのが好きだねー。どう?ひまりちゃんにも何か奢ってくれて良いんだよ?」

「お前はそれ以上胸にカロリー貯めてどうする気だ?」

 

 竜介とひまりの鬼ごっこが始まった。

 だが、そんな二人を巴審判がゲンコツで止めに入る。

 これがこの三人のいつも通り。こんな有り触れた事も、竜介にとっては幸せだった。

 そんな幸福に浸かっていると、竜介にとっての最大の幸福が帰ってくる。

 

「りゅう兄、買って来た!あと、お釣りだよ」

「それはやるよ……って、なんかお釣り多くないか?」

「あこも半分出したからね。それとりゅう兄、少しだけ待ってて…」

「?」

 

 竹串でたこ焼きを割り、「ふぅ…ふぅ…」と冷ましたものをあこは竜介に向けた。

 

「りゅう兄、あーん…」

 

 竜介は鼻から溢れ出そうになった尊さを懸命に押さえ込んだ。

 ずるい…これはずるい、と竜介は心の中で発狂する。

 その後、竜介は平静を装いつつ何とか魔王の試練を乗り越えた。きっと、この暴力的なまでに幸せな時間は絶対忘れないだろう。

 

「うわー…あこちゃん大胆…。竜介、大丈夫?」

「鼻血出そう…。ひまり、ティッシュある?」

「はいはい。まったく、優しいひまりちゃんに感謝するんだぞー?」

「おう…サンキュな…」

 

 ティッシュを鼻に詰め、竜介は事なきを得た。

 しかし、そんな竜介の背後から『ゴゴゴゴゴッ!』と不穏な視線が三本刺さる。どうやら鼻血をせき止めても、別の所から出血する事になるようだ。

 

「竜介君、お話が必要かな?」

「つ、つぐみ?なんで鬼怒スマイルなの?」

「…竜介のばーか……頭撫でないと許してあげないから…」

「蘭は相変わらず可愛いな」

 

 背中に抱き着いてきたモカの重みに耐えながら、竜介はつぐみを宥め、蘭を撫でる。

 あっという間に美少女の包囲網に囚われた竜介を周囲の男達は嫉妬の目で見ていたが、当の本人は持ち前の鈍感により気づかなかった。

 そして、そんな包囲網を作った三人は巴にゲンコツを入れられる。

 

「ったく、折角の祭りなんだからこう言う時くらい恨みっこ無しにしようぜ?てか、羨ましいなら皆もやれば良いだろ?」

「「「うぐっ…」」」

 

 巴のド正論に、竜介に引っ付いていたアフグロ三人衆は離れていく。

 その心には巴の言葉が突き刺さっていた。

 

「私、ちょっとお父さんの所にかき氷買いに行ってくる!」

「…じゃあ、あたしはフランクフルト…」

「モカちゃんは〜沙綾のところの菓子パンかな〜」

 

 各々が目的のブツを求め、各所に散っていく。

 そんなタイミングを見計らったかのようにあこは竜介に近づき、そっと服の袖をバレない程度に引っ張った。

 

(りゅう兄は…渡さないもん…)

 

 無自覚の独占欲丸出しである。

 しかし、そんな様子のあこにはまったく気づかず竜介は歩き出し、あこもそのタイミングに合わせて竜介の服から手を離す。

 第三者視点から今の光景の一部始終を見ていたひまりと巴は、ただただ唖然としていた。

 

「巴、今の何?」

「…さあな。まあ、あこの心も着々と成長してるんだろう。早くあこも自覚してくれると良いんだが…。最近、あまりのあこの鈍さに竜介への同情が止まらねえんだよ…」

「ああ、なんか分かる。竜介も大概だけど、本人的にはあこちゃん一筋で頑張ってるもんね」

「早く告らねーかなー…」

「だね〜…」

 

 なんてボヤキながら、竜介の手を繋ぐか繋がないか迷っているあこを遠目に眺める。

 そして、意を決したように手を繋いだあこは、耳を赤くする竜介を見ながら嬉しそうにはにかんでいた。

 

「「ご馳走様です」」

 

 二人は両手を合わせそう言った後、あこと竜介の元まで向かった。

 

「ラブラブですな〜二人とも♪」

「ひまり、今割と余裕無いから茶化さないでくれ」

「おお、竜介のガチデレだ。あこちゃんは凄いねー…。で、竜介の手の感触はどう?」

「う〜とね…凄く温かくて…安心する、かな。なんて言うんだろ…一生繋いでいられそう…」

 

 あこによる竜介ガチ攻略だった。もちろん無自覚だが。

 そんなあこのたらし芸に巴とひまりはまた唖然とし、一番ダメージが大きいであろう竜介は、空いた手で自分の顔を隠し、燃えそうな程の顔の熱さを必死で抑えていた。

 

 ─このままだと竜介の精神が持たない。

 

 そう判断した巴とひまりは、先程散らばった三人などは気にも止めず、竜介とあこを神社の短冊コーナーの所まで引っ張って行った。

 

「お、神楽の旦那か。やっぱり嫁さんと一緒に祭り回ってたかい。本当に仲が良いねえ」

「すみませんおじさん…今は勘弁してください……」

「おん?いつもはもっと惚気けるのに…珍しい事もあるもんだな」

 

 短冊の配布当番をしている床屋のおじさんにからかわれ、竜介の精神ダメージは更に蓄積されていく。

 そんな竜介の事などおじさんは知るよしも無く、ベラベラと話しを続ける。

 

「それにしても聞いたぜ旦那?この祭り、旦那があの弦巻の嬢ちゃんに頼んでやって貰ったんだろ?わざわざ七夕を選ぶとは、乙な事するじゃねえかよ〜おい」

「?」

 

 何故かやたらとテンションの高いおじさんに、竜介は疑問も抱く。

 ひまりと巴とあこも、おじさんの言ってる事の意図が汲み取れないのか、揃って首を傾げていた。

 

「織姫と彦星、二人は天の川が掛かる今日だけ再会出来る。そんな二人に向かって毎日イチャラブする旦那夫妻を見せつけるためにこの祭りを開いたんだろ?かあ〜!とんだド畜生だぜぃ!がははは!」

「そ、そんなじゃ無いですからね!?どこのドSですか!」

「でも、商店街はその話で持ちきりだぜ?たらしの竜介が畜生にも目覚めたって」

「えー…」

 

 おじさんの逞しい妄想内での話かと思ったら、商店街共通の話だった事に竜介は酷く落胆する。

 そんな陰気臭さを吹き飛ばすように、おじさんは「がはは!」と大声で笑った。

 

「にしても、あこちゃんも良かったねえ。こんな良物件、中々無えぜ?」

「?…そうなの?」

「おう。炊事洗濯掃除…全部出来るうえに働き者。それに、神楽なんて言うめでてぇ響きのカッコイイ苗字、そうそう出会えねえ。神事にも通じそうな何かがあるし、結構イケてるぜ?」

「ほへぇ…そうなんだ。カッコイイんだ…りゅう兄の苗字…」

 

 純度百パーセントのキラキラ眼で話を聞くあこに、おじさんは自信満々に語り続けた。

 

「おじさん、もう良いですから短冊下さい。連れもそろそろ来る頃なので」

「ちぇっ、旦那も釣れねえな〜。で、願い事は何にするんだい?安産祈願か?」

「セクハラで訴えますよ?」

「ひょ〜怖いねぇ〜。んじゃほら、持ってけい!」

 

 おじさんが七枚短冊を渡してくる。

 それを受け取った後、七夕の笹のふもとにあるベンチで小休憩を取る事にした。

 この短時間で精神がすり減りまくった竜介には、正にオアシスである。巴とひまりも、竜介に労いの視線を送っていた。

 その後しばらく休憩をしていると、蘭とモカとつぐみに合流。

 それぞれがそれぞれの食べ物を持って、目的を果たそうとギラりと竜介に狙いをつける。

 

「あ、あの…御三方?そんな睨まれると怖いのですが…」

 

 獲物を狙う肉食獣のような視線に当てられた竜介は、ビクビクと震えた。

 マジで背筋が凍りそうだった、と竜介は語る。

 

「竜介、あたしのを一番に食べてくれるよね?」

「竜介君…信じてるからね?」

「これはモカちゃんも譲れな〜い」

 

 ジリ…ジリ…と、消耗状態でベンチに座る竜介に愛に飢えた猛獣が距離を詰める。

 

「お前ら、そこら辺でやめとけ」

 

 そんな時、『ゴツンッ!』と言う鈍い音が響いた。

 見ると、目の前には痛さに悶絶する美少女が三人。そして、別の方向には『プシュー』と言う焦げたような音を拳から出し、それを力強く握る姉貴が一人。

 この時、竜介は巴に一生着いて行く事を誓った。

 

「ったく、脅してやる事じゃねえだろ…」

「だって…あこちゃんばっかりずるい…」

「なんか文句あるのか?」

「ないです!」

 

 ギラりと光る巴の視線に、つぐみは一瞬で平伏した。

 シスコンとは、どんな状況でも妹の顔を立てるからシスコンなのだ。

 そして、当の妹様と言えば、何やら一生懸命に短冊へお願い事を書いていた。

 

「りゅう兄、見て見て!凄いカッコよく書けた!」

「そうか、それは良かっ…た……」

「竜介?あこちゃんの短冊見ながら何固まって…る……の」

 

 あこが手に持った短冊を見た竜介とひまりは、まるで石化したように固まった。

 

「俺さ、幸福度の過剰摂取が体に影響を及ぼすなんて知らなかったよ」

「私、家帰ってコーヒー飲みたい…」

「?」

 

 竜介とひまりが何かを悟っている中、あこはそれを疑問に思いながら短冊を笹に結ぶ。

 説教から解放されたアフグロ三人衆が巴と共に戻り、皆があこの短冊を見ようとするが、ひまりと竜介が全力でそれを阻止する。

 

「そ、そうだ!他にも短冊飾ってある場所あったし、どうせなら全部制覇しよう!ね、竜介!?」

「そうだな!取り敢えずここには俺とあこの短冊を吊るしておこう。あこ、俺の分も結んどいてくれ!」

「?…う、うん」

 

 慌てふためき、何がなんでもあこの短冊を見せようとしない竜介とひまり。

 そんな二人に折れたのか、他の面子は仕方ないと言った様子でその場を離れた。

 竜介とひまりは「良かった…」と胸を撫で下ろす。

 

「危なかった…あれを見たら皆発狂しちゃうよ…。竜介は大丈夫?」

「まあ、ギリギリってとこ…。なあ、あこ…あれってそう言う意味?」

「ふえ?そう言う意味って?」

 

 あこは何も理解していないように首を傾げた。

 竜介とひまりは、そんなあこにある種の恐怖を覚える。

 

「無自覚って怖えー…」

「竜介も割と人の事言えないけどね…」

 

 短冊が吊るされている笹を見ながら、二人は感慨深そうに語る。

 

「?」

 

 当のあこは、まったく理解出来ていなかった。

 

 

 ___

 

 

 

 夜風によって笹の葉が靡く。

 それに伴い、笹に吊るされた短冊達も一緒に揺れる。

 共に揺れる相手を見つけた喜びを表すかのように、笹はサラサラ、サラサラとその葉のように優しく穏やかに踊った。

 そんな笹を飾る短冊達の中に、紫色の紙に黒ペンで魔法陣を描いた『奇抜さを体現しました』とでも言いたげなモノが一枚。

 しかし、驚くのはそこでは無い。

 その短冊には、少女の憧れだけで綴った事により生まれてしまった無自覚の刃が込められていた。

 

 ─見た人全てを唖然とさせる…そんな凶器の攻撃。

 ─言葉だけで人の心に深い傷を刻み込む…正しく魔王の一撃。

 

 そんな魔王の願いは、何故かどの願いよりも輝いていた。

 

 

『神楽あこになれますように!──宇田川あこ』

 

 

 この日、商店街中に魔王の恐ろしさが知れ渡った。

 




僕が出せる最大出力を持って、あこの可愛さを引き出しました。
完全に自己満足回です。
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