【完結】いちばん小さな大魔王!   作:コントラポストは全てを解決する

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すしざん、〇い!





第14奏 イヴとつぐみと黒マグロ

 りみと久方ぶりに会話をしたその日の放課後。

 夕焼けをバックに子連れカラスが空で鳴き、河川に掛かる鉄橋からはサラリーマンを詰め込んだ電車が走り去る光景が見える。

 そんな時間帯に、俺は羽沢珈琲店にてハロハピ法被─通称ハロ法被を着てイヴと共に接客をしていた。

 店内にはミニ提灯が飾られ、外には『寿司day!』の文字が書かれた旗が四枚程並ぶ。

 最早喫茶店要素はなくなり、ちょっと店内が洒落てる寿司屋と化した羽沢珈琲店で、俺とアルバイターのハーフ少女は威勢よく声を上げていた。

 

「「へいらっしぇーい!何にぎりやしょーかー!!」」

 

 

 一応言っておこう。ここは喫茶店だ。

 店内にいる客は寿司を食べ、特設回転寿司レールが流れるその奥にてつぐみパパが死にものぐるいで寿司を握っているが、ここは喫茶店だ。

 広告用にとあるチェーン寿司屋の『マグロ一巻百円!』をパロったチラシを、外でつぐみを除いたアフグロの面子とあこがハロ法被を来ながら配ってくれているが、ここは喫茶店だ。

 元凶の半分である俺は黒マグロの解体準備に取り掛かり、もう半分の財力お嬢は回転寿司レールを眺めながらワクワクした様子でお寿司を頬張っていた。

 何度でも言おう。ここは喫茶店だ。

 事の発端は、イヴが「リュウスケさん、お寿司握れますか?ワタシお寿司屋さんがやりたいです!」いう質問に、「簡単なのならできる」と俺が答えてしまったからだった。本来、ここまでなら単なる情報交換で済んのだが、俺はある罪を犯してしまった。

 それは、隣にこころがいる状態で言ってしまった事だ。

 所要時間は十分。それがここを準備するのに掛かった時間。

 最後に言っておこう、ここは…喫茶店だ。

 

「竜介!お寿司が回っているわ!」

「喜んでるようで何よりだ。でも、回転寿司を見てて楽しいのか?」

「ええ!いつもは握るところを見ているだけだったもの!」

「…そうか」

 

 やはりこころは回らない寿司屋でいつも食べていたか。

 ただ、俺個人としては弦巻家は洋食のイメージが強かったので、まず寿司屋に行っている事が意外だった。

 なんて事を思いながら、俺は抱きつくこころを撫でつつ、店の隅で悔し涙を流す少女に目を向ける。

 

「うち喫茶店なのに…喫茶店なのに…!」

 

 大胆過ぎる店のメタモルフォーゼに、ここの一人娘さんもこの嘆きっぷりである。

 先程から客の注文(寿司)を受けては、こうして店の隅っこで涙を流していた。

 そんなつぐみにそっとイヴは近寄り、不安そうにしながら声を掛ける。

 

「あの…ツグミさん…ワタシのせいでごめんなさい…」

「ふえ?…あ、えっと…気にしなくて良いよ!イヴちゃんの夢だったんでしょ?お寿司屋さんで働くの」

「はい…ですが…」

「わ、私の事は気にしなく大丈夫だよ!ちょっと店の変化に頭が追いついてないだけだから!」

 

 つぐみはそう言いながら、必死にイヴを元気づけようとしていた。

 最近説教ばかりされていたので忘れていたが、元々つぐみは天使のように清く良い子なのだ。

 あの天使ぶりを一割でも良いから俺に向けてくれないだろうか。

 

「ほら、イヴちゃん!一緒に頑張ろ。えいえい、おー!だよ!」

「ツグミさん…。ありがとうございます」

 

 イヴはつぐみに一度お辞儀をした。

 二人の友情が深まった気がする。なんて清い空間なのだろうか。

 

「さて、俺もそろそろ準備を…」

「神楽様、少々よろしいでしょうか」

「…黒服さんですか。一体どういう…ってもしかして?」

「はい。例の物が準備出来ました」

 

 突如背後に現れた黒服さんがそう言って取り出したのは、一本の日本刀。

 

「弦巻家専属の刀の匠により、一から作ったものでございます。使用許可も国から頂戴済みですので、お好きなようにお使い下さい」

 

 弦巻家専属の刀の匠ってなんだろう。とても気になってしまう。

 そんな気持ちは一度しまっておき、黒服さんから日本刀を受け取る。

 俺に刀を渡した黒服さんは、少し目を話した隙に消えてしまった。相変わらずの仕事ぶりだ。

 

「うん、これなら…。イヴー!ちょっと良いかー!」

「はい!なんでしょうかリュウスケさん!」

 

 つぐみと何か雑談をしていたイヴを呼び出す。

 俺の元に近づくに連れて刀の存在に気づいていき、それに合わせて目を輝かせるイヴの姿は何とも愛らしかった。

 

「リュ、リュウスケさん…それって…」

「ああ、日本刀だ。真剣のな」

 

 真剣と聞いた瞬間、イヴの目の輝きがこれまでに無い程増していた。

 そんなイヴに日本刀を託し、店の隅で待機してくれていた吊るし黒マグロを用意する。

 

「イヴ、お前にはこれからこの黒マグロの頭を落として貰う。もちろん、その刀を使ってだ」

「マグロの解体を…カタナで…!い、良いでしょうか…そんな贅沢を…」

「今日の目玉イベントだ。まあ、ライブに比べればギャラリーは少ないけど」

 

 現役アイドルが行う解体ショーなんて、テレビのネタには持ってこいだろう。

 ただ、今回はこの寿司屋自体が即興のモノなので、宣伝をしてる暇が無かった。なので、今回のイベントギャラリーは羽沢寿司店にいるお客さんだけ。

 

「イヴ、頼めるか?」

「お任せ下さい!パスパレのブシドー担当として、しっかり務めさせていただきます!」

「よし。じゃあ任せた」

「はい!」

 

 イヴの了承も取れたので、早速イベントを開始する。

 マイクとスピーカーで客の目線を集め、イベント概要を説明した。まあ、イヴがマグロの頭を落とすというだけのシンプルな説明だが。

 その後、周囲の安全に最大の配慮をしながらイヴに合図を出す。

 刀を構えるイヴに、周囲の人達がスマホで撮影を始める。普段ドデカいテレビカメラにリアクションを向けてるイヴにとって、この程度何ともないだろう。

 そして、意を決したイヴは鬼気迫るオーラを出しながら、

 

「ブッシドーーー!」

 

 そんな威勢の良い掛け声と共に刀を横に振るった。

 空を切るかのように刀の動きは滑らかだったが、その数秒後に時間差でマグロの胴と頭が別々になる。

 弦巻家の作った刀、切れ味が頭おかしい…。

 

「リュウスケさん!やりました!」

「おお、殺ったな」

「はい!」

 

 お客さんの拍手に囲まれながら、イヴは眩しく笑っていた。

 

「よし、あとは体を開いて部位事に寿司を作るだけだな。イヴもやるか?やり方教えるぞ?」

「え…そこまでやらせて貰えるんですか!?ワ、ワタシやりたいです!」

「よし来た。じゃあ、マグロの体開くから身を削ぐの手伝ってくれ」

「は、はい!」

 

 今日のイヴの笑顔は一段と眩しい。

 お寿司や刀は日本文化の顔とも言うし、そのせいだろう。

 マグロの体を開き、身をある程度削いだあと一緒に寿司を作りを始めた。

 キラキラと、そしてワクワクとした顔のイヴは、俺の隣にピッタリくっつきニコニコと嬉しそうにしている。

 

「い、意外と難しいですね…お寿司作り」

「まあ、何年も修行して初めてちゃんと握れるようになるって言うしな」

「…でも、リュウスケさんのは凄く綺麗ですよね…」

「形だけに拘ったからな。シャリとネタのバランスとかは俺も分かんない」

「そ、そうですか」

 

 形だけは綺麗な俺の寿司と、不格好だが一生懸命さが伝わってくるアイドルが握った寿司。

 もしかしたらバランスは同じなのかもしれない。けど、どちらの方が価値があるかと聞かれれば、皆迷わずイヴの方を選ぶだろう。俺だってそうすると思う。

 プロでも無い野郎が作った寿司など需要があるのだろうか…

 

「りゅ、竜介君…。その、それ一つ貰っていい?」

 

 どうやらあったようだ。

 俺が作った方を指差しながら、「それが欲しい」と言ってくれるつぐみ。

 天使はここにいた。

 

「つぐみ、堕天したとか言ってごめんな」

「だ、だてん…?」

「悪い。今のは忘れてくれ」

「そ、そう?わかった…」

 

 疑問を抱いた顔を残すつぐみに、俺はマグロをひと皿差し出す。

 それを受け取ったつぐみはじっとマグロと見つめ合い、何かと葛藤しているようだった。

 

「あ、あのね…竜介君」

「おう、どうした」

「えっと…その、ね?」

 

 モジモジと煮え切らない態度を取るつぐみ。

 一体、何をお願いしようとしているのか…

 

「た、食べさせて欲しいな?…なんて……あぅ…」

 

 お顔真っ赤っかに、そんな事を言って来た。

 久しぶりに天使ツグミエルを見た気がする。

 

「つぐみ、一応今勤務中だからな?」

「あ…そ、そうだったね…ごめん…」

 

 ショボン…と、分かりやすく落ち込んでいた。

 そんなつぐみに、俺は更なる追い討ちをかける。

 

「勤務中だから、手短に済ませるぞ」

「…え?」

「ほら、あーん」

 

 不意打ちが効いたのか、つぐみは一瞬頬を膨らませた後、「あーん…」と俺が向けたマグロを口に入れた。

 

「美味しいか?」

「う、うん!」

「そりゃ良かった」

 

 満足した顔のつぐみが「えへへ…」と微笑んでいた。

 ただ、ご満悦して頂いてるところ大変申し訳ないが、店の外から蘭とモカが窓に張り付いてこちらを見ているのでそろそろ俺から離れた方が良いと思う。何故だか分からないが、俺の第六感が危険信号を出している。

 

「つぐみ、頑張れよ」

「な、何を?」

 

 俺の突然の態度の変化に、つぐみの顔が一気に不安の色へと染まった。

 

「……それにしても、イヴもかなり寿司を握るの上手くなったな」

「はい!頑張りました!」

「待って竜介君!今の間は何!?それと分かりやすく話逸らしたよね!?」

 

 強く生きろよ、つぐみ。

 そう想いを込めて、俺はつぐみの頭を撫でた。

 つぐみは、顔を未だに不安の色に染めながら言う…

 

「私、どうなるの?」

「まあ、死にはしないだろう。にしてもあれだな、俺、明日あこと花音先輩で水族館行くんだよ…。なんかマグロに呪われそう」

「そう言えば、水族館の魚は長期間飼育した後、お店に出されるって言う話がありますよね?」

「イヴ、俺に追い討ちかけるのやめような?」

「ねえ竜介君?私ほんとにどうなっちゃうの?死にはしないって、何されるの?」

 

 つぐみの質問には答えず、頭を撫でながら俺は明日の予定を練る。

 早速だが、何だかお腹が痛くなってきた。マグロの呪いが発動したのかもしれない。

 ちなみにこの後、つぐみは蘭とモカに説教されていた。理由は分からなかったが、取り敢えずご愁傷様です。

 





ハロ法被←これ好き。
今羽沢珈琲店行けばお寿司が食えるよ!(必死で考えたエイプリルフールネタ)
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