【完結】いちばん小さな大魔王!   作:コントラポストは全てを解決する

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評価がうなぎのぼり〜


第17奏 今日の明日香、明日の明日香

「あこー?おーい…」

「…」

 

 現在、あこが拗ねている。

 燐子の部屋にて俺と燐子の様子を見てから、あこの機嫌がすこぶる悪い。あこが燐子に説教をし、そのまま俺を引っ張って帰路についたのだが、全く口を聞いてくれないのだ。

 もちろん事情は話してある。俺が燐子に襲われそうになったと何回も説明したし、何なら燐子の腕の重りを外す所までしっかりと見ていた。

 俺は被害者だ。なのに何故あこは俺に対して不機嫌な態度を取るのか。

 

「りゅう兄。あこ、お姉ちゃんの所行ってからりゅう兄の所戻るね」

「お、おう。車に気をつけてな」

「うん」

 

 言って、あこは自分の家に帰って行く。

 俺は一人、ポツンとその場に立っていた。

 何となくだが、置いて行かれた感覚がある。一気に見える景色の色が落ちていく感じは何なのだろうか。

 

「先輩?何してるんですか?」

「ん?明日香か…」

「はい。先輩の可愛い後輩の明日香ちゃんですよ〜」

 

 気が付けば明日香に声を掛けられていた。

 

「相変わらずその挨拶似合わないな。で、何してんだ?こんな所で」

「ちょっと先輩に用事があって。先輩は何してるんですか?」

「うーん…心の迷子?」

「ちょっとよく分からないです」

 

 ちょっと気を抜けば、あこが居ない寂しさで発狂してしまいそうだ。

 最近あこがずっと傍にいたから依存してしまっただろうか。

 

「そう言えば、今日はあこちゃんがいませんね。いつも一緒にいるのに」

「……今あこの話題を出さないで下さいお願いします」

 

 つい早口になってしまった。しかしこれも、あこが居ない故の仕方ない症状である。

 

「……もしかして喧嘩ですか?でも、あこちゃんって今先輩の家に居候してるんですよね?あ、家出ですか?探すの手伝いますよ?」

「そこまで大袈裟な事じゃないよ……。喧嘩……とはまたちょっと違うかな」

「先輩、今度は何したんですか?」

「俺が何かした前提なの?」

 

 信頼度低すぎ無いだろうか。

 明日香の疑いの目を受けながら、俺はそう思った。

 

「俺は何もしてないよ。むしろ被害者だし」

「……一応聞きますけど、何されたんですか?」

「今日の昼な、俺と同じあこ好きの女の先輩の家で『あこ好きライバル会合』ってのをやってたんだけど、実はその先輩は俺の事も好きな両刀タイプでさっきその人に告白されて襲われかけたんだよ。で、その時にちょうど良くあこ来て……」

「待ってください先輩。情報量が多すぎて処理仕切れません……」

 

 明日香が右手で静止の合図を出して来る。

 俺も自分で言ってて訳が分からない。だが、俺はこれでも実際に起こった事を話してるだけなのだ。

 

「えっと、整理しますけど……あこちゃんが好きなレズの先輩の家に遊びに行ったら、告白されて襲われかけて、その場面にあこちゃんが遭遇したと……これで良いですか?」

「大方その通り」

「嘘ですよね?」

「ほんとなんだよなぁ…」

 

 嘘だと思いたいが本当の事である。

 

「で、その後あこちゃんは?」

「燐……先輩を叱った後、俺をここまで引っ張って来たと思ったら、急に実家に帰って行った」

「実家……」

「うん、実家」

 

 あながち間違いではないだろう。あこはもう俺の家の一員だと思っている。一員と言っても、家には思春期高校生男子一人と猫一匹しかいないが。

 

「そう言う訳で、俺は今一人だ。これからすぐ帰って夕飯の買い物に行くけど」

「あ、それなら私も連れてってくれませんか?今日、先輩の家に泊まりたいんですよ」

「……え?」

 

 この娘、今なんと言っただろうか。

 中学三年生が、男の家に、一人で、宿泊?

 

「男の家に一泊なんて、女の子がそう言う事しちゃいけません」

「だから先輩に頼んでるんですよ。信頼できる男の人なんて先輩しかいませんし」

「……それもそうか。てか、なんで俺の家?喧嘩でもしたの?」

 

 あの脳内キラキラスター姉ちゃんが怒るとは到底思えないのだが。

 

「あ、いえ。今日お姉ちゃんバンドメンバー全員でのお泊まり会に行ってるので。お母さんもお父さんも結婚記念日で今日から一泊の夫婦旅行ですし」

「結果一人になったから家に泊まりに来たと」

「そうです。寂しいじゃないですか、一人って。こういう時に限って友達は皆予定ありますし……」

「なるほど」

 

 明日香の様なしっかりした子でも、家で一人だと寂しく感じるのか。

 

「意外と可愛いとこあるな」

「そうですか?なら、先輩の彼女になってあげますよ?」

「残念だけど俺にはあこがいるんだなぁ」

「先輩にフラれました……。今度有咲さんにチクります」

「やめて」

 

 そんな事されたら次の日の学校でゴミを見るような目を向けられてしまう。有咲のガンは怖いので勘弁して欲しい。

 

「あ、それと先輩。今日の夕飯はグラタンが良いです。もちろん手作りで」

「え、急に?」

「前に好きな物作ってくれるって約束したじゃないですか」

「……そう言えばそんな約束もしたな」

 

 以前有咲の家に香澄と行った時にこの約束を取り付けられた覚えがある。

 今度香澄が明日香から今日の話を聞いて家にご飯食べに来るんだ。そしたらその話が香澄から明日香に……無限ループの幕開けだ。

 

「そう言う訳なので、今日はお願いします。あ、何ならこのまま買い物行きますか?」

「そうするか。おやつは五百円までな」

「先輩の手作りが良いです」

「ワガママだな……」

 

 ___

 

 

 明日香の手を引き、商店街にやって来た。

 

「明日香はグラタンに入れるマカロニは筒状の方?それともちょうちょリボン?」

「先輩にお任せします」

「なら、ちょうちょの方だな」

 

 確かあこの家では、マカロニはちょうちょマカロニだと言っていた気がする。

 あこの笑顔が脳裏に浮かぶ。

 

「先輩、今あこちゃんの事考えてますね?」

「え、分かるの?」

「はい。先輩、あこちゃんの事を考えてる時はすごく優しい顔してますから」

「そ、そうなのか」

 

 優しい顔とはどんな顔だろうか。

 変な顔をしていると言われるよりはマシだが、照れくさくなってしまう。

 

「先輩って、あこちゃんをずっと想い続けて来たんですよね?だから色んな人からの告白をフッて……」

「な、なんだよ急に」

「いえ、単純にかっこいいなぁ~と」

「そ、そうか……」

 

 何だか今日の明日香は小悪魔属性が強い気がする。

 いつもはこんなに弄ったりしないのに……

 

「私、そんな先輩の事が好きですよ?」

「ん?そうか、ありがとな」

「……好きです、先輩」

「?……おう、サンキュな」

 

 明日香って、こんな直球に好き好き言う子だったっけ。

 いつもイタズラで思わせぶりな態度をとる事は多かったが……

 

「先輩、すき……」

「明日香、そう言う告白ごっこみたいな事はやめろ。いつか後悔するぞ」

「……私、先輩の事嫌いです」

「それで明日香がちゃんと幸せの道を辿れるなら、俺はお前に嫌われたって良い」

 

 俺が少し叱ると、明日香は耳を赤くしてそっぽを向いてしまった。怒らせてしまっただろうか。

 

(なんでそう言う事を)(平気な顔で言うかな)……」

「明日香?どうした?」

「何でも無いです。それと、私は『先輩』として先輩が好きなだけですからね」

「そう言う事かよ……あんまり驚かさないでくれ。こちとら傷持ちなんだから」

 

 燐子にリサ姉、そこに明日香まで加わったら俺の心は崩れさるだろう。

 

「先輩、あと二つか三つほど傷が増えますよ。私の推測ですけど」

「え、嘘。もうこれ以上傷増やしたくない……」

「だったら、早くあこちゃんと付き合ってください。そうすればその人達も諦めがつきますから」

「中々難しいな……」

 

 あこへの告白なんて、高三になっても出来る気がしないのに。

 

「本当にお願いしますよ?本当に……」

「?……取り敢えず善処する」

「それやらない人のセリフです」

「お、俺はやる時はやる男だし?」

 

 若干声が裏返ってみっとも無かった。先輩の尊厳ズタボロである。

 

「……一つ、先輩に良いことを教えてあげます」

「なんだ? あと十分でここのタイムセールが始まるのは知ってるぞ?」

「そんな事どうでも良いです」

 

 この娘、主婦(夫)の味方であるタイムセールをそんな事と言いおった。罰として嫌いな食べ物追加してやる。

 そんな事を考えてる間に、明日香は咳払いを一つし、俺に先程言っていた『良いこと』を説き始める。

 

「良いですか先輩。女の子って言うのは、嫌いな異性の家には泊まりに行ったりはしませんからね?」

 

 との事らしい。

 つまり、俺の家に寝泊まりしているあこは、俺の事を嫌ってはいないと。

 

「なるほど」

「分かってくれましたか?」

「おう。あこには嫌われてない事を理解したぞ」

「そういう事です。……それでですね……」

 

 俺が内心で舞い上がっていると、明日香が若干モジモジしながら期待に満ちた目でこちらを見て来た。

 

「どうした?」

「いえ……その……わ、私も先輩の家に泊まる訳ですから……その、なんと言うか……つまり」

「つまり?」

「……わかりませんか?」

「うん」

 

 明日香が泊まる事は承知したので、もうどうと言う事はないが。

 

「先輩……私の事何だと思ってるんですか」

「大事な大事な可愛い後輩。あ、彼氏出来たら言えよ?俺より弱いやつにゃ明日香は渡せん」

「貴方は私の親ですか……」

「有咲も同じ事言ってた」

 

 娘の様に大切なのは事実だ。

 

「……つまり、明日香も俺の娘?」

「違います。というか『も』って……有咲さんは娘なんですか?」

「うん。有咲は俺の娘だよ」

「……ふーん」

 

 何故か明日香はつまんなそうな顔をしていた。別段おかしな事を言った覚えはないが……。

 

「先輩……今、あこちゃんの事考えてる時と同じような顔してました。実は有咲さんにも気があるんじゃないですか?」

「え、ないよ?」

「そんなバッサリ……」

「まあ、あこと同じくらい大切って言う事は認めよう」

 

 蘭と沙綾と有咲には、意識しなくても自然と肩入れしてまうのだ。

 俺が言うと、明日香は先程よりも更に詰まらなそうな顔をしていた。

 

「付き合う前から浮気とは……先が思いやられますよ……」

「俺がいつ何処で浮気したのさ。俺はあこ一筋だ」

「今ここでしてますよ。先輩って凄いですね。才能の塊ですよ」

 

 明日香はジト目でそう言った。

 全く身に覚えのない罪をふっかけられているこの現状。俺は冤罪を学んだ。

 それと、どうやら俺は才能があるらしい。何の才能かは分からないが、ただ一つわかった事は……

 

「なんか褒められてる気がしないな」

「褒めてませんからね。あと、この事は沙綾さんに言っときますね」

「やめて」

 

 そんな事されたらガールズバンド連絡L〇NEで拡散されて有咲と紗夜先輩あたりから責められる。もう冷凍フライドポテトで殴られたくない。

 頭の中で鬼教官の事を思い浮かべながら、俺はカートに椎茸を入れた。

 

「……先輩、グラタンに椎茸は合わないと思いますよ?」

「いや、副菜用だよ。何ならぶっ込んでも良いけど」

「……私が椎茸苦手なの知ってて言ってますよね?」

「おう」

 

 俺が笑って返すと、明日香は脛をげしげしと蹴ってきた。地味に痛いのでやめて貰いたい。

 

「料理担当だからって調子に乗ってると痛い目いつか見ますよ。あ、私の焦げた卵焼き、毎朝食べさせてあげましょうか?」

「おう、どんとこいだ。受けて立とう」

「え、良いんですか?」

「ん、良いけど?何、もしかして怖気付いた?」

 

 少し煽ったら明日香がより強く脛を蹴ってきた。

 

「先輩……明日の朝覚えといて下さいよ」

「おうおう覚えといてやるよ」

「……やっぱり先輩なんて大嫌いです」

「ういやつういやつ」

 

 明日香の蹴りは止まらなかった。

 

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