【完結】いちばん小さな大魔王! 作:コントラポストは全てを解決する
──嗚呼……どうしてこうなった。
そう心の中で叫びながら、俺は頭の中で現況を作り出した元凶を思い浮かべる。
確かに布団の数が無いとは言った。我が家の飼い猫が脱糞&爪とぎしてくれたおけげで足りなくなったのは間違いなき事実。
だが、一つだけ愚痴を言わせて頂きたい。
「“あこと同じ布団”で寝かせるのはないだろ……」
フラれた恨み?フラれた恨みなの?と、本人のいない所で煽ってみるが虚しきかな。せいぜい隣にあこがいると言う緊張がミジンコ一匹程度の差で緩んだぐらいだ。
昨日の夜、告白云々が収まり、本来の議題である『明日香の寝床をどうするか』に戻った。当初の予定では俺がソファー、明日香が俺の布団と言う形で収めようとしたが、やはり明日香は納得してくれない。そうして布団の使用権の押し付けをしていた所で、俺が失言した──
「『あこと一緒に寝れば』なんて提案しなければ良かったかなぁ」
全ては俺の自爆である。
この発言から、幼馴染同士の俺とあこが寝れば良いと明日香に言い押されてしまったのだ。あこも満更でもなかったのが後押しになっていた。
そうして現在に至る。俺の腕の中で寝る少女を見ながら一度溜息をついた。
「よく何も起こさなかったよな、俺」
頑張った。本当に俺は頑張った。
物凄くドギマギしながら深夜中ずっとあこの吐息を感じ、小さな身体の体温を感じ、ぴくりとも動かず一晩耐え抜いたのだ。
神楽竜介よく頑張ったと自画自賛しながら、もうすぐ起床時間である午前五時半を迎えようとしている。
「さて、どうやってあこを動かそうか……」
腕枕の中にいるあこの頭を起こさず枕に移動しなければならない今回のミッション。難易度高すぎやしないだろうか。
一体全体どう言う事だってばよと今日何度目か分からない愚痴を吐きながら、あこをそっと動かす。
「……よし、成功」
あこを枕に寝かした後、ゆっくり身体を起こして俺は布団から離れ──
「……ん?」
──ようとしたところで、あこにパジャマの裾を引っ張られた。
薄ら瞼を開け、寝ぼけた様子のあこが、まるで幼稚園児の様な言葉遣いで言ってきた。
「いっちゃ……やー……」
「やーって……朝ごはんの支度があるんだけど……」
「やー……」
おもちゃを親にねだる子供みたいに、あこは俺を離さなかった。
「はぁ……後三分だけだぞ?」
「……もっと……」
「いや、だから朝ご飯……」
中々融通を利かせてくれないあこに呆れつつ頑張って涙目のあこの手を解こうと優しく触れるが、そこであこがボソっと呟いた。
「やー……りゅうすけは……あこといっしょ……」
より強く、ギュッと俺の服を掴むあこに、俺は驚愕の目を向ける。
あこに名前で呼ばれたのは小学生の時以来だ……と胸を突かれていると、寝ぼけてるとは思えない力であこに布団の中へと戻されてしまった。
トクン、トクンとあこの心音を感じ、俺の顔がうるさいくらいに赤くなる。
ギュッと抱きしめられた温もりは、一夜漬けによる睡魔を引っ張り出してきた。
「……あと十分ぐらいなら良いか……」
そう呟いた後、あこの寝息を子守唄がわりにしながら俺は二度寝した。
___
「──と言う事があり寝坊しましたすみません明日香様」
「しょうがない人ですねぇ、先輩は……」
花咲川学園中等部の明日香の教室にて、俺は机に頭を擦り付けて謝罪していた。
「こっちは朝ごはん抜きで大変でしたよ?」
「ほんとすいません」
俺は続けて机に頭を擦り付ける。
そろそろ前頭葉が禿げるかもしれない。そんな危機感を俺は抱いていた。
「一応聞ききますけど、言い訳とかは?」
「強いて言うなら可愛すぎるあこが悪い──」
「女の子のせいにするなんて最低ですね」
「仰る通りでございます」
朝ご飯の恨みが言葉に乗って俺を上から押し潰しに掛かってくる。
食に対する恨みつらみへの恐怖を身体で感じていると、俺はいつの間にか明日香用に作って来た弁当を手渡していた。
もう条件反射にまで刻み込まれた明日香への恐怖は、一生消えぬだろう。
ただ、可愛い後輩のパシリならなっても良いかなと思う俺がいる。
そんなアホの子みたいな事を考えている中、ふと明日香の顔を見ると訝しげな顔をしているのが目に写った。
「どうした明日香?」
「いえ……朝ご飯なしだった事には不服申し上げましたけど、先輩のお昼を奪おうとは思ってなくてですね……」
「ん?これ明日香の分だぞ?」
俺が言うと、明日香が「えっ」と小さく声をあげた。
「わざわざ作って来たんですか?」
「冷凍食品と昨日の副菜の詰め合わせだけどな」
「わ、わざわざすいません……」
さっきまで堂々と俺に説教をしていたのに、何故急に縮こまってしまったのか。
俺は頭の中で理由を考えてみたが、これと言う答えは出て来なかった。
「……先輩、一つ良いですか?」
不意に、明日香が小声で声を掛けてくる。
「なんだ?」
「先輩、周りの視線とか気にならないんですか?」
そう問われ、なんとなしに周囲を見回してると──ギラりと輝く視線がそこら中の女子生徒から放たれていた。
俺は一気に怖くなり明日香に理由を聞くと、
「先輩、演劇部の頃から結構人気ありましたからね。そんな先輩が休み時間に後輩用の手作り弁当持って来たんです。そりゃ狙われますよ。もこ○ちが料理作ってくれるのと同じ様なものですから」
そんな信じ難い返事が来た。
芸能人気はパスパレか薫先輩だけにしてくれと内心でボヤきながら、俺は自分の弁当を取り出す。
「あ、先輩もここで食べるんですね」
「今戻ると逆に面倒くさそうだからな」
「女子ファンの視線を面倒くさいと仰いますか。頑張ればワンチャンあるかもしれませんよ?」
「女子中学生だしなぁ──」
と言ったところで、俺の好きな人も女子中学生だった事を思い出した。明日香もジト目になる訳だ。
「……明日香とあこ意外興味なしと言う事で」
「やばい事言いますね。と言うか、私は含めちゃダメだと思うのですが」
「明日香はほら、純度百パーセントの後輩だし?」
「純度百パーセントの後輩ってなんですか……」
恋愛感情を抱いていない後輩という意味だったが明日香には伝わらなかったようだ。
「てかさ、明日香は俺と一緒にいて大丈夫なのか?嫉妬でいびられたりしない?」
「私は水泳部のエースでそこそこ有名なので大丈夫です」
「朝練で自己ベ出たんだな、おめでと」
「なんで知ってるんですか」
明日香が自画自賛する時はだいたい良いことがある時だが、本人は気づいてない様子だった。
面白いからこれからも言わないでおこうと思う。
「なあ、明日香。唐突だけど良いか?」
「はい、なんでしょう」
「どうやって教室まで戻ろう」
朝が遅く量を少なめに作ってきたために、ものの数分で空になった弁当箱をカバンにしまった所までは良かったが、周囲の女子生徒がジリジリと近づいて来ているのだ。
「さっき言ったじゃないですか。もこ○ち状態だって」
「いやーこれは想定外ですわ……」
もうちょっと女子としての気品を優先するかと思っていたが、まさかそれを捨てて獣になるとは。
イケメン俳優に群がる女子の原理が分かった気がする。
「これはあれだね、こころを呼ぶしか──」
と言いかけたところで、教室の後ろドアが『バーン!』と勢いよく空いた。
「竜介!呼んだかしら!」
「おう。と言うかこれから呼ぼうとしていた所だ。よく分かったな」
「ふふっ。竜介の事なら何でも分かるわ!──そう、何でもね」
「さすがこころだ」
黒服さんを使っているのか、はたまた自家用人工衛星で監視でもされてるのかは分からないが、こころはいつも俺の居場所を突き止める。おかげで小さい頃のかくれんぼでは一回も勝てなかった。
なんて言う話は今は置いておく。こころのおかげで周りの女子が少しだけ怯んだからだ。
「それで、あたしは何をすればいいのかしら?あ、ここにいる人達を全員シベリア送りにすれば良いのね!」
「うーん全然違うかな〜。こころは俺と手を繋いでくれれば良いよ」
「分かったわ!」
瞳をキラキラさせて、こころは俺と手を繋ぐ。しかも恋人繋ぎ。
そう言えば初めて恋人繋ぎをしたのもこころだった気がする。
「竜介の初めては全部あたしのものよ」
なんてちょっと貞操の危機を感じる発言だが、こころは俺のチェリーなど頭の片隅にもないだろう。
俺のチェリーとか言うどうでも良いことは捨てておき、こころの手をしっかり繋いだ後明日香に別れの挨拶をする。
「んじゃ、俺教室に戻るわ」
「はあ……お気を付けて」
「おう」
何処か怯えた様子の明日香を背に、俺達は中等部の校舎三階から飛び降りた。
アンケートの有咲票とリサ姉票が接戦してて面白い。
娘と悲恋姉貴、どっちが勝つか。