【完結】いちばん小さな大魔王!   作:コントラポストは全てを解決する

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第23奏 心の闇

 黒服さんの運転する車に揺られてやって来たのは弦巻邸。

 もう何度も見たせいで違和感を覚えなくなったドデカい門を潜り、普通の家では見かけない両開きの扉から家の中へお邪魔する。

 業務中のメイドや執事に挨拶をしつつ、階段を上って突き当たりを右に進み、少し歩いた場所にある部屋のドアを二回ほどノック。

 ガチャりとドアが開き、恐る恐ると言った様子でこころが顔を覗かせた。

 

「やっぱり……竜介だったのね」

「おう。少しいいか?話したい事があってな」

「……あたしもよ」

 

 部屋の中へと招かれ、こころが部屋の鍵をカチャリと閉める。

 ベッドに座ると、こころが隣に座って来た。

 

「先にこれ、返しておく」

 

 ポケットの中の盗聴器を返した。

 こころは何も喋らない。

 

「……でさ、こころ。なんでこんな事したんだ?」

 

 俺はそう尋ねるが、こころは口を割ろうとしない。

 

「なあ、こころ──」

「……よ」

「え?」

 

 俯いたこころが何かを呟いた。

 

 

「竜介の全部を知りたかったからよ……」

 

 

 俺を見るこころは笑っていない。

 顔を上げ、見えたその目には薄ら涙が溜まっていた。

 

「俺の、全て?」

「そうよ。朝から夜、学校にいる時から寝ている時まで……その全部を知りたかったから……」

 

 俺の眼前まで迫り、苦痛に満ちた様に訴えかけてくるこころ。

 

「ずっとあなたを見てた……。初めて会ったあの時からずっと──あたしに笑顔を教えてくれた時からずっと──」

 

 ──俺がこころに……笑顔を教えた?

 

 訳が分からなかった。

 俺とこころが出会ったのは小学生の時だ。その前にたくさん笑顔を知る機会があったはず……。

 

「あたしはね……学校に入る前はずっと一人だったの。あたしはおかしいからって、皆あたしを避けた……。でも竜介、あなただけは違ったわ……」

「……俺が、こころの初めての友達だったって事か?」

「そうよ」

 

 胸が痛くなる思いだった。

 あの時こころに声をかけて良かったとも思うが、今のこころもあって悲喜交々としている。

 

「竜介は、あたしの初めての友達。初めてあたしと話してくれた人。初めて一緒にいてくれた人……だから、だからね、全部を知りたかったの」

 

 この時、こころが初めて笑った。けれど、とても昏い。

 

「ねえ、竜介……」

 

 何か黒いモノが渦巻いてるように感じる瞳が、俺を覗いてくる。

 

「あたしと、ずーっと一緒にいて?」

「こころ……」

 

 こころの昏い笑顔なんて、俺は見たく無かった。させたく無かった。

 きっと、俺がこころをここまで追い詰めてしまったのだろう。

 俺が中途半端にこころに近寄り、心の拠り所になってしまった。そのせいでこころは今、精神が不安定になっている。

 

「好き。竜介が好き……他の全部を捨ててでも、あなたが欲しいわ……」

 

 俺の手を、その笑顔の原動力()に当てて、全てを捨てる覚悟をした目で(わら)った。

 

「……ごめん」

「……やっぱり断るのね。理由は何?だめな所があったら頑張って直すわ!欲しい物も、どんな事も、竜介のお願いなら叶えて──」

「違うんだ、こころ」

 

 そう言った時、こころの表情が歪んだ。まるで痛みを我慢してる時みたいに。

 

「じゃあ……なんであたしじゃダメなの?」

「こころがダメな訳じゃない。ただ、俺には好きな人がいて──」

「……あこね」

「ああ、そうだ」

 

 俺の返事に、こころが歯をくいしばる。

 目に見えて分かる敵意がそこにはあった。

 

「そう。あの子なのね……竜介が好きなのは……」

「ああ。だから……」

 

 俺の事は諦めてくれと、そう言いかけた時、こころが俺をベッドに押し倒した。

 

 そして、こころの様子が急変した。

 

 

「──嫌」

 

 

 振り絞った声が、耳に届いた。

 

 

「竜介があたし以外と恋をするなんて嫌」

 

 

 それは、大切なモノが壊された時の子供の様な、

 

 

「竜介に捨てられるのは嫌……」

 

 

 どうしようもない憎さと悲しさと、

 

 

「嫌……嫌ッ!!!」

 

 

 行き場のない怒りを持った、

 

 

「嫌よ……もう、一人は嫌……。寂しいのは嫌……苦しいのは嫌……。お願い……傍にいて。一緒にいてよ……りゅうすけ……」

 

 こころの──“心”の最後の叫びだった。

 

 ベッドに仰向けで寝そべる俺の胸の上で、こころは声を出さず静かに泣いていた。

 身体は小刻みに震えており、心の中はズタズタだ。

 俺はかける言葉が見つからず、ただこころの頭を撫でる事しか出来なかった。

 

「りゅうすけ……どうしてあなたは、あたしに声をかけたの」

 

 震えた声をしたこころがそう尋ねてくる。

 こころに声をかけた理由──ただ、こころが泣いていたから気になったから声をかけた。

 

「こころが、あの公園で一人ぼっちだったからかな……」

「そう……なのね……。竜介は、あたしのこと……き、嫌い?」

「いんや、嫌いじゃないよ。大切な幼馴染だからな」

「大切な……幼馴染……なのね」

 

 切なそうな表情のこころ。

 その顔を見ていると、胸がはち切れそうになる。

 いつものこころの笑顔が見れないと、どうしようもなく不安になってしまう。

 

「あたしは、竜介の一番にはなれ、ない……」

 

 自分に言い聞かせるようにこころが呟く。

 その瞬間、こころの呼吸が酷く荒いだ。

 酸素を吸って二酸化炭素を吐く、その単純な動作を体が忘れているように。

 

「大丈夫……大丈夫だから。俺はちゃんとここにいるからな……」

 

 背中を擦りながら、諭すように俺は言った。次第にこころの息が落ち着いていく。

 

「けほっ……けほっ……。ねえ、りゅうすけ……」

「なんだ?」

 

 過呼吸で少し汗ばんだこころが、最後の願望だと言わんばかりに頼んできた。

 

「今日だけ……今日だけで良いから……あなたの温もりを感じさせて……お願い……」

「……分かった」

 

 俺が承諾したその直後、こころはゆっくりと眠りについてしまった。

 先程までのこころに笑顔は無い。それは何故か。

 ──全ては俺のせい。

 中途半端に彼女に近づき、彼女の心を掻き乱した。そのせいでこころは苦しんでいたし、今もきっと苦しんでいる。

 

 こころは大切な幼馴染だ。

 初めて会った時から、こころの事を守っているつもりでいた。大事な娘を扱う様に。

 けれど、こころを一番傷つけていたのは俺自身だった。

 こころの気持ちをないがしろにしたせいで、こんなにも不安定になってしまっている。

 どうしてもっと早く気付かなかったのかと、過去を自分を殴ってやりたい。

 

「小さな親切、大きなお世話ってやつか……」

 

 もし俺が声をかけなかったら、こころはもっと強くなっていたのかもしれない。

 しかし、仮にそれが正解だとしても俺はこころと友達になっているだろう。

 

「どうしたら良かったのかなぁ……」

 

 こう言った時は何でも知ってる黒服さんの出番──と言うわけにもいかないだろう。

 これは俺とこころが解決しなきゃいけない。

 

「ごめんな。こころ……」

 

 腕枕で寝かせたこころの頬をそっと撫でる。

 こころの寝顔はとても苦しそうだった。

 ふと天井を見上げれば、俺とこころが写った写真がいくつも貼ってあるのが見える。それだけ俺が必要だったのだろう。

 

「バカだなぁ……俺って……」

 

 自虐の笑みが顔面を支配したのが分かる。

 だが、自分を責めてもこころが良くなる訳ではない。無駄な事をしている暇があったら、こころを安心させる事に力を尽くすべきだろう。

 

「俺がいるからな……」

 

 そう囁いてみるが、こころの表情が晴れることはない。

 

 こころの太陽(えがお)は隠れてしまった。

 心の闇は、拭えない。

 

 




ああ〜シリアスが身体に染み渡るぅ〜……。
この救いようのない感じ好きやわ〜(恍惚)

笑顔の人ほど泣かせたい。泣いてる人ほど笑わせたい(格言)
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