【完結】いちばん小さな大魔王! 作:コントラポストは全てを解決する
黒服さんの運転する車に揺られてやって来たのは弦巻邸。
もう何度も見たせいで違和感を覚えなくなったドデカい門を潜り、普通の家では見かけない両開きの扉から家の中へお邪魔する。
業務中のメイドや執事に挨拶をしつつ、階段を上って突き当たりを右に進み、少し歩いた場所にある部屋のドアを二回ほどノック。
ガチャりとドアが開き、恐る恐ると言った様子でこころが顔を覗かせた。
「やっぱり……竜介だったのね」
「おう。少しいいか?話したい事があってな」
「……あたしもよ」
部屋の中へと招かれ、こころが部屋の鍵をカチャリと閉める。
ベッドに座ると、こころが隣に座って来た。
「先にこれ、返しておく」
ポケットの中の盗聴器を返した。
こころは何も喋らない。
「……でさ、こころ。なんでこんな事したんだ?」
俺はそう尋ねるが、こころは口を割ろうとしない。
「なあ、こころ──」
「……よ」
「え?」
俯いたこころが何かを呟いた。
「竜介の全部を知りたかったからよ……」
俺を見るこころは笑っていない。
顔を上げ、見えたその目には薄ら涙が溜まっていた。
「俺の、全て?」
「そうよ。朝から夜、学校にいる時から寝ている時まで……その全部を知りたかったから……」
俺の眼前まで迫り、苦痛に満ちた様に訴えかけてくるこころ。
「ずっとあなたを見てた……。初めて会ったあの時からずっと──あたしに笑顔を教えてくれた時からずっと──」
──俺がこころに……笑顔を教えた?
訳が分からなかった。
俺とこころが出会ったのは小学生の時だ。その前にたくさん笑顔を知る機会があったはず……。
「あたしはね……学校に入る前はずっと一人だったの。あたしはおかしいからって、皆あたしを避けた……。でも竜介、あなただけは違ったわ……」
「……俺が、こころの初めての友達だったって事か?」
「そうよ」
胸が痛くなる思いだった。
あの時こころに声をかけて良かったとも思うが、今のこころもあって悲喜交々としている。
「竜介は、あたしの初めての友達。初めてあたしと話してくれた人。初めて一緒にいてくれた人……だから、だからね、全部を知りたかったの」
この時、こころが初めて笑った。けれど、とても昏い。
「ねえ、竜介……」
何か黒いモノが渦巻いてるように感じる瞳が、俺を覗いてくる。
「あたしと、ずーっと一緒にいて?」
「こころ……」
こころの昏い笑顔なんて、俺は見たく無かった。させたく無かった。
きっと、俺がこころをここまで追い詰めてしまったのだろう。
俺が中途半端にこころに近寄り、心の拠り所になってしまった。そのせいでこころは今、精神が不安定になっている。
「好き。竜介が好き……他の全部を捨ててでも、あなたが欲しいわ……」
俺の手を、その
「……ごめん」
「……やっぱり断るのね。理由は何?だめな所があったら頑張って直すわ!欲しい物も、どんな事も、竜介のお願いなら叶えて──」
「違うんだ、こころ」
そう言った時、こころの表情が歪んだ。まるで痛みを我慢してる時みたいに。
「じゃあ……なんであたしじゃダメなの?」
「こころがダメな訳じゃない。ただ、俺には好きな人がいて──」
「……あこね」
「ああ、そうだ」
俺の返事に、こころが歯をくいしばる。
目に見えて分かる敵意がそこにはあった。
「そう。あの子なのね……竜介が好きなのは……」
「ああ。だから……」
俺の事は諦めてくれと、そう言いかけた時、こころが俺をベッドに押し倒した。
そして、こころの様子が急変した。
「──嫌」
振り絞った声が、耳に届いた。
「竜介があたし以外と恋をするなんて嫌」
それは、大切なモノが壊された時の子供の様な、
「竜介に捨てられるのは嫌……」
どうしようもない憎さと悲しさと、
「嫌……嫌ッ!!!」
行き場のない怒りを持った、
「嫌よ……もう、一人は嫌……。寂しいのは嫌……苦しいのは嫌……。お願い……傍にいて。一緒にいてよ……りゅうすけ……」
こころの──“心”の最後の叫びだった。
ベッドに仰向けで寝そべる俺の胸の上で、こころは声を出さず静かに泣いていた。
身体は小刻みに震えており、心の中はズタズタだ。
俺はかける言葉が見つからず、ただこころの頭を撫でる事しか出来なかった。
「りゅうすけ……どうしてあなたは、あたしに声をかけたの」
震えた声をしたこころがそう尋ねてくる。
こころに声をかけた理由──ただ、こころが泣いていたから気になったから声をかけた。
「こころが、あの公園で一人ぼっちだったからかな……」
「そう……なのね……。竜介は、あたしのこと……き、嫌い?」
「いんや、嫌いじゃないよ。大切な幼馴染だからな」
「大切な……幼馴染……なのね」
切なそうな表情のこころ。
その顔を見ていると、胸がはち切れそうになる。
いつものこころの笑顔が見れないと、どうしようもなく不安になってしまう。
「あたしは、竜介の一番にはなれ、ない……」
自分に言い聞かせるようにこころが呟く。
その瞬間、こころの呼吸が酷く荒いだ。
酸素を吸って二酸化炭素を吐く、その単純な動作を体が忘れているように。
「大丈夫……大丈夫だから。俺はちゃんとここにいるからな……」
背中を擦りながら、諭すように俺は言った。次第にこころの息が落ち着いていく。
「けほっ……けほっ……。ねえ、りゅうすけ……」
「なんだ?」
過呼吸で少し汗ばんだこころが、最後の願望だと言わんばかりに頼んできた。
「今日だけ……今日だけで良いから……あなたの温もりを感じさせて……お願い……」
「……分かった」
俺が承諾したその直後、こころはゆっくりと眠りについてしまった。
先程までのこころに笑顔は無い。それは何故か。
──全ては俺のせい。
中途半端に彼女に近づき、彼女の心を掻き乱した。そのせいでこころは苦しんでいたし、今もきっと苦しんでいる。
こころは大切な幼馴染だ。
初めて会った時から、こころの事を守っているつもりでいた。大事な娘を扱う様に。
けれど、こころを一番傷つけていたのは俺自身だった。
こころの気持ちをないがしろにしたせいで、こんなにも不安定になってしまっている。
どうしてもっと早く気付かなかったのかと、過去を自分を殴ってやりたい。
「小さな親切、大きなお世話ってやつか……」
もし俺が声をかけなかったら、こころはもっと強くなっていたのかもしれない。
しかし、仮にそれが正解だとしても俺はこころと友達になっているだろう。
「どうしたら良かったのかなぁ……」
こう言った時は何でも知ってる黒服さんの出番──と言うわけにもいかないだろう。
これは俺とこころが解決しなきゃいけない。
「ごめんな。こころ……」
腕枕で寝かせたこころの頬をそっと撫でる。
こころの寝顔はとても苦しそうだった。
ふと天井を見上げれば、俺とこころが写った写真がいくつも貼ってあるのが見える。それだけ俺が必要だったのだろう。
「バカだなぁ……俺って……」
自虐の笑みが顔面を支配したのが分かる。
だが、自分を責めてもこころが良くなる訳ではない。無駄な事をしている暇があったら、こころを安心させる事に力を尽くすべきだろう。
「俺がいるからな……」
そう囁いてみるが、こころの表情が晴れることはない。
こころの
心の闇は、拭えない。
ああ〜シリアスが身体に染み渡るぅ〜……。
この救いようのない感じ好きやわ〜(恍惚)
笑顔の人ほど泣かせたい。泣いてる人ほど笑わせたい(格言)