【完結】いちばん小さな大魔王! 作:コントラポストは全てを解決する
昼休み…それは朝早く学校に登校し、聞きたくもない授業を四時間近く聞いた生徒にとってオアシスそのもの。
クラスのほとんどの人が、友人と一緒に昼食を取っていた。
そんな昼休みの一時に、昼食も済ませずスマホを弄りながらニマニマしている生徒が一人。
「ふえぇ…今日も可愛いな〜」
彼女の名前は松原花音。
ドジっ娘なうえ内気で常にオドオドしており、更に方向音痴でもある。
基本引っ込み思案だが、時たま芯の強い言動を見せて皆を驚かす事もある少し変わった少女。
その彼女が今何をしているかと言えば、ただスマホに映る一人の男の子を見て自分の中の欲求を発散しているだけだった。
「はあ…花音、またお昼を食べずに竜介の写真を…」
「あ、千聖ちゃん。ごめんね、こうしてないと何だか落ち着かないんだ…」
「貴方ね…もうそれ病気よ?」
「ふえぇ…そんな事ないよお…」
危ない性癖を持った花音を注意するのは、ブロンドの髪をした少女―白鷺千聖。
千聖は、毎日毎日ご飯も食べず竜介の写真ばかりを見ている花音に対し、食事を与えるのと花音の性癖を正常に戻す役目を担っていた。
「花音、ちゃんと食事を摂らないとそろそろ倒れるわよ?」
「千聖ちゃん、食欲は竜介君の写真を見ることによって満たす事が出来るんだよ?」
「訳の分からない事を言ってないでご飯を食べなさい。ほら、スマホは没収!」
「あ〜!千聖ちゃん返してよ〜!」
スマホを奪い花音に取られないよう制服のポケットにしまう。
花音は可愛らしく上目遣いで返却をねだったが、千聖の張り付いた様な笑顔を前にして一瞬で平伏した。
「う〜分かったよ〜、ちゃんとご飯食べるからそしたら返してね?」
「最初からそうすれば良いのよ。まったく…いつまでこの面倒臭い花音を相手にし続けなければいけないのかしら…」
「竜介君を私の弟にするまでかな?」
「花音…なんでそんな歪んでしまったの?…昔のクラゲ好きだった気弱で純粋な貴方は何処へ……」
千聖に酷い言われようの花音だが、千聖自身も竜介を自分専用のマネージャーにしようとしてるのを知っているため花音は何も言わない。
「じゃあ…いただきます」
「待ちなさい花音。それは何?」
「何って、林檎だよ?」
「お弁当、ちゃんと持って来ているのでしょう?なら、そっちにしなさい。スマホを返して欲しいのは分かるわ。でも、ずるをしてはダメよ?」
「ほ、本当にこれだけしか持ってきてないよ?」
冷や汗を垂らしながら目を逸らす花音。嘘をついているのがバレバレだった。
そして千聖も花音が嘘をつくだろうと予想していため、先程取り上げたスマホをポケットから取り出す。
「ちゃんと食べないとこの中の写真…消すわよ?」
「しゃ、写真ならまた撮るもん…!」
「む、今日は往生際が悪いわね」
そもそもの話しが、スマホの写真を見たくてお昼ご飯を食べ始めたと言うのに、その写真を消されては元も子もないのではないかと千聖は考える。
そして、そんな疑問を千聖に思わせた花音自身は、ただただ意地で弁当を取り出そうとしないだけだった。
「はあ…仕方ないわね」
「…千聖ちゃん、何してるの?」
「電話よ。最終手段に移ることにしたわ。あんまり迷惑掛けたくなかったから今まではしないようにしていたけど、今回は仕方ないわね」
「?」
千聖は取り出したスマホを耳にあて、数秒してから誰かと話し出す。
誰に電話を掛けているか花音はまったく検討がつかなかったが、千聖が電話相手に交渉…というより半脅迫の電話をしているのを見て一層疑問を深くした。
それから数分、花音と千聖のいる二年A組に一人の青年がやってくる。
「千聖さんいますかー?」
「竜介君!?」
そこには花音の未来の弟(予定)である、神楽竜介がいた。
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こころと美咲と有咲の三人で一緒に昼ご飯を食べていたら、千聖さんから電話が掛かって来た。
電話内容は、花音先輩がダイエット中でご飯を食べないから何とか食べてくれるように説得して欲しいというもの。
女の子のダイエット減食なんてよくある事なので別に大丈夫だろうという旨を千聖さんに伝え電話を切り、こころが語る『神楽竜介と弦巻こころのハッピーラッキースマイル計画』について話を聞いていた。
しかしその後、千聖さんから「来なかったらこれからずっと麻弥ちゃんとの接触禁止ね♪」という脅迫電話が掛かって来たので俺はダッシュで千聖さんの教室へ向かう事になった。
「で、千聖さん。花音先輩がご飯を食べないって言ってましたけど具体的にはどれくらい?」
「そうね、先週は確かコンビニで買ってきた食パンを一日一枚ずつ食べていたわ。それと竜介、参考までになのだけど食細い女の子はどう思う?」
「ん〜…何をどれくらい食べるかはその人次第なんであまり強くは言えないですけど、俺はたくさん食べる人の方が好きです」
「ですってよ?花音」
「ふえぇ…」
相変わらずふえぇと言っている花音先輩に対し、諭すように言う千聖さん。
その後、花音先輩は何も言わずカバンから弁当箱を取り出し黙々と食べ始めた。
どうやら、何故かは知らないが俺の言葉が効いたらしい。
千聖さんは、こうなる事を読んで俺を脅してまでここに連れて来たのだろうか。
自分自身の信頼を捨て、男を利用してでも友の健康を守り抜こうとするとは、千聖さんには恐れ入る。
「うふふ、どうだったかしら花音?」
「千聖ちゃんは意地悪だよ…」
「あの、要件済んだっぽいので戻って良いですか?」
「まだダメよ」
「はい…」
顔に張り付いたような笑顔を向けながら千聖さんは俺が戻るのを拒否する。
麻弥さん接触禁止法を阻止するには、まだ少し時間が掛かりそうだ。
そんな事を考えている中、不意に俺のスマホが鳴る。
「ん、巴から電話だ。もしもし?」
『あ、りゅう兄?今時間大丈夫?』
「あこ!?ど、どうしたこんな時間に…まさか、巴に何かあったのか?」
『え?お姉ちゃんは元気だよ!……じゃなくて、少しりゅう兄の声が聞きたくなっちゃってね…あこがお姉ちゃんに頼んで携帯貸して貰ったんだ!』
「そ、そうか」
ただでさえ急に電話してきて驚いてるのに、その理由が『声が聞きたかったから』なんて言われたら心臓が飛び出してしまう。
本当、あこは俺を誑かすのが上手すぎる。
「にしても、話のネタになりそうな事がないな……あこはどうだ?」
『うーん……あ、そういえば昨日NFOでお姉ちゃんに似合いそうな衣装みつけたな〜』
「ほー…どんな感じなんだ?」
『えっと、全体的に黒くて兜を付けない鎧だったかな。はちまきには天下統一って書いてあったんだ。あと、背中のついてる旗に赤蘭無双って書いてあった』
試しにあこが言った鎧を着た巴を想像してみる。
…うむ、中々似合いそうだ。
ただ、巴の場合は無双というよりかは本拠地でどっしり構えているイメージの方が強い。
「あ、そうだ。近くに巴いる?」
『え?一応いるけど代わる?』
「ああ、頼む」
俺が頼むと、あこは快く了承してくれる。
その後、電話を代わって貰った巴の声が聞こえてきた。
「もしもし?」と聞こえた巴の声は、少し涙ぐんでいる。
「ゲーム内とは言え、大好きな妹に服を見繕って貰った気分はどうだ?」
『ああ…感激だ。最近はよくゲームに入り浸かることも多いし、女子としての成長に不安を感じていたが杞憂だったよ』
「それは良かった」
あこが見繕ったのは鎧だったのでそれが女子力かと問われれば迷わずNoと答えるが、この妹バカが嬉しそうなので黙っておこうと思う。
そんな事を思っていると、巴が『あ、そういえば…』と話を変えてきた。
『最近、燐子さんがあことショッピングデートしてたっていう情報をモカから聞いたぞ?』
「ほう…」
巴の言う燐子さんとは白金燐子という人で、あこと同じくRoseliaに所属している黒髪ロングの女の子。
そして、俺と同じくあこに惚れ込んでいる俺の恋敵でもある。
『で、竜介はどうする?』
「決まってるだろ、あっちが外ならこっちは中だ」
『なるほど…けど、そうするんならアタシも着いて行くからな?応援はするが、まだ完全に認めたわけじゃないし』
「ああ、分かってる」
巴がそう言ってくれた事に対し、俺は心の中で安堵の息を吐く。
さすがに妹が一人で男の家に行くのに、それを見過ごす姉はいないだろう。
仮にそんな姉がいたら俺は幻滅する。
『じゃ、そういう事で。そろそろあこに変わるな。……ん?あこは何処に行った?蘭ーあこが何処に行ったか…え?友達に呼ばれて戻ってった?そうか……悪い竜介、なんかあこに用事が出来たっぽい。あこから掛けたのになんか悪いな…』
「いや、気にしなくて良いよ。じゃあまたな、巴義姉さん」
『それはまだ早い』
「へーい」
巴に軽い説教と共に電話を切られる。
スマホをポケットにしまい、いつの間にか居なくなった千聖さんに続くように俺も教室を後にしようとした。
しかし、制服の袖を花音先輩に掴まれ行動を阻まれてしまう。
「竜介君」
「何でしょうか、花音先輩」
「あーん♪」
「へ?あ、はい。あーん」
花音先輩につくね串を向けられたので、そのまま一口で頂いた。
ニコニコ顔の花音先輩に疑問を抱きながら、俺は今度こそと教室の入口に向かって足を運ばせる。
しかし、再び花音先輩に引き留められてしまい、今度はプチトマトを向けてきた。
表情は相変わらずニコニコ顔だが、その背後にうっすらと修羅が見える。
何故この人は、こんなにも機嫌を損ねているのだろうか。
「ふふ♪はい次、あーん」
「え、あの花音先輩…俺そろそろ戻らないと……」
「竜介君?」
「はい、頂きますね。あーん」
威圧的な笑顔で押してくる花音先輩。
いつもとは違い、恐怖すら覚える今の花音先輩に逆らえる人はいるのか。
きっと千聖さんは、花音先輩のこの雰囲気を察し逃げたのだろう。なんて薄情な。
それにしても、花音先輩は何を思ってこんな事をしているのか…考えてみてもさっぱり分からない。
(竜介君のお姉ちゃんになるのは私だもん!)
確固たる意思を灯す目をした花音先輩に、しばらくご飯を食べさせられ続けた。
周囲の人達がひたすら此方を凝視していたが、そんなの知らんこっちゃないとでも言うように花音先輩は気にしない。
一体こんな強靭なメンタル、何処で身につけて来たのだろうか。
俺は心の中でその事を気にしながら、昼休みが終わるまで花音先輩の仕打ちに耐え続けた。