【完結】いちばん小さな大魔王!   作:コントラポストは全てを解決する

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祝え! 全ガールズバンドを凌駕し、音階を超え新たな旋律を刻み続ける奏の王者が歩む物語、奏王降臨暦《いちばん小さな大魔王!》30奏目の公開である!

お祝いコメが来たらいいなー(遠い目)


第30奏 むっつり堕天使ツグリエル

 羽丘復帰祝いをした翌日の朝のこと。

 

 

 俺がいつも通りあこと一緒に登校し中等部まで送り届けた後、走って高等部の校舎まで向かっていた時に、それは起こった。

 

 捕まったのだ──生徒会(つぐみ)に。

 

 はいはい分かりますよ?皆さんの言いたい事は十分に分かりますよと、誰に向けるわけでもなく青い空に理解を示す。今曇っているけど。

 ──それで?俺はなんで連行されたの?

 頭の中にはハテナで作った菊の造花が、昨日の蟹の身を思わせるかの如く脳に敷き詰められていた。

 

 体はパイプ椅子に縛り付けられて、目の前には『生徒会』の三文字が書かれた腕章を付けたつぐみが俺を見下ろしている。

 風格には凄みがあらわれ、普段の朗らかな彼女を感じさせない目をしていた。

 正に殺し屋の目だ。

 

 ──……あかん、死ぬ。

 

「竜介君」

「……なんでしょうか?」

 

 光が消えたつぐみの目は、人ではなくゴミを見ていた。

 

「私、今怒ってるよ」

「な、なぜ?」

「分からない?」

 

 ギギギッとつぐみが首を傾ける。

 何が原因でこうなったのかは知らないが、とりあえず耐えられる空気ではなかった。その内呼吸も出来なくなるのではと、本気で思ってしまう。

 

「被告!神楽竜介……君!」

「え、あ、はい?」

 

 突然裁判が始まった。

 名前を呼び捨て出来ないところにつぐみらしさを感じながら、俺は突如下される審議に息を呑む。

 

「あなたは昨日、越えてはいけない一線を越えてしまいました」

「越えてはいけない、一線?」

「そうだよ。まさか竜介君がそんな事する人だとは思ってなかった……悲しいよ……私は」

 

 嘘泣きではなく本気で涙を拭うつぐみ。

 俺が越えた一線とはどれだけ大きな物だったのだろうか。

 

「昨日ね、魚屋のおじさんとお父さんが話してるのを聞いちゃったんだ……」

 

 魚屋……つぐみパパ……。

 二つのワードと昨日の記憶が頭の中で錯綜した後、一本の線で結ばれた。

 

「──まさか」

 

 本場産の蟹とイクラを買った事を咎められたのだろうか。やはり高校一年生が中学三年生と一緒に買うものしては高級過ぎたようだ。

 魚屋のおじさんも良くないと思っていたのなら止めてくれれば良いのにと、俺は軽く愚痴を吐く。

 そんな俺につぐみが涙ながらに語りかけた。

 

「私、幼馴染だからって油断してたのかもしれない……。でも、それも仕方ないよね……。竜介君、いつも優しかったもん……」

「違うんだつぐみ!あれはちょっと気分が浮かれていたせいで──」

「少し浮かれたって言う理由で、あんな事したの?」

「うぐっ……」

 

 ぐうの音も出なかった。

 確かに俺達平民があんな上物を食う機会なんて、正月とかお盆ぐらいしかない。

 どうやら俺の犯した罪は、俺が思っていた以上に大きかったようだ。

 

「せめて……一言ぐらい相談してよ……」

「……悪い。でも、断れなかったんだ……。あこが入れてくれって頼んで来て……拒めなかった……」

「ッ!そ、そうだったんだ……。竜介君から強要したわけじゃなかったんだね……」

「さすがにそんな事は出来なねえよ……」

 

 もしあこが持ってこなかったら、アレルギーなどを考えて入れる事はまず考えなかっただろう。甲殻類はアレルギーが多いと聞くし。

 

「そっか……ちょっとだけ安心しちゃった……。でもね竜介君……竜介君が犯した罪はまだあるんだ……」

「ま、まだあるのか……」

「これは今朝、紗夜さんがこころちゃんから聞いたって言う話なんだけどね……」

「あ、あぁ……」

 

 今度の俺は、一体何をしでかしてしまったのだろうか。

 俺の中で当たり前だと思っていた事が、絶賛大罪判定を貰っている。まるで法律が変わってしまったかのようだ。

 そう頭の中で考えなながら、俺はつぐみの審判を聞く。

 

「竜介君、こころちゃんと一緒に一夜を過ごしたんだよね?」

「あ、ああそうだが……」

「……抱いたの?」

「だ、抱いたが?」

 

 答えた瞬間、つぐみの手からハンカチが落ちる。

 まさか……ハグもダメだと言うのだろうか。そうなると俺のコミュニケーション手段がなくなってしまうのだが。

 

「何が……どこがいけなかったんだ?」

「全部だよ!竜介君にはあこちゃんがいるのに……なんで!?なんでなの竜介君!?」

「お、落ち着けつぐみ……。それと、あこにも偶にしてるぞ?」

「そう言う事じゃないよ!?」

 

 ダンっ!とつぐみがテーブルを叩く。

 

「ほんとに……ほんとにどうしちゃったの?竜介君……。そんな事する人じゃなかったのに……。何処で間違っ──もしかして……お爺さんが亡くなったショックで……」

 

 涙を拭いたつぐみが俺の元に近寄り、そっと俺の頭を抱きしめた。つぐみの成長中のやわらかさが顔を覆う。

 蟹とイクラ購入とこころにハグをしただけで何故こんな事をされるのかは分からなかったが、つぐみが何も言うなという目で見てくるので、何も言わない事にする。

 

「竜介君。ごめんね?」

「お、おう?別にそこまで気負わなくていいぞ?」

「ううん、違うの竜介君。これは幼馴染として竜介君を止められなかった私の責任でもあるんだよ」

 

 パチ、パチと、つぐみが制服のボタンを外して行く。

 

「……つぐみ?」

 

 制服を脱ぎかけのつぐみが、俺の声に応える。

 

「言わないで竜介君。私が、ちゃんと全部面倒見るからね?だから、二人で頑張ろ?あこちゃんとこころちゃんには悪いけど……竜介君にはもう、私しかいないから……」

 

 Yシャツのボタンを全て外し、下着を露わにするつぐみ。まるで、俺とおせっせをしようとしているかのようだった。

 

 純粋にちょっと待って欲しい。

 

 何故だかは分からない。理由も知らないけど、つぐみと俺の間で物凄く酷いア〇ジャッシュ案件が起こってるような気がしてきた。

 法律が変わったのかと思っていたが、これは違うとさすがの俺でも分かる。つぐみは何かを勘違いしていると。

 

「な、なあ、つぐみ……」

「ん?どうしたの?私は何人でも大丈夫だよ?」

「いや、そうじゃなくてさ……つぐみは俺が何したと思ってるんだ?」

「何って──」

 

 泣いて目元が赤くなったつぐみが、そう尋ねた俺に向かって今世紀最大の爆弾を投下する。

 

「竜介君、あこちゃんとこころちゃんを……その……に、妊娠させちゃったんでしょ?」

 

 ──……ふぁ?

 

「お、俺はそんな事してないぞ?それに、俺はてっきり昨日の夕方に高い食材買った事を咎められてるのかと思って……」

 

「──……ふぇ?」

 

 

 

 

 それから、つぐみに全ての事情を聞き、抱えた違和感の全てが解消した。

 誤解の原因としては、魚屋のおじさんが俺とあこが結婚するかもしれないと言った冗談を間に受けてしまったのと、やむを得ない結婚=デキ婚と勘違いしてしまったためだった。

 こころの方に至っては、

 

「だって、こころちゃんが『竜介と一緒に寝たら、新しい愛が生まれたわ!』って言ってたって紗夜さんから教えて貰って……」

 

 との事らしい。

 つまり、全部あのフライドポテトのせいである。再び紗夜先輩にフライドポテトお預けの刑を実行する時が来たようだ。嗚呼、悲しきかな。

 

「うぅ〜……ごめんね竜介君……」

「いや、うん……改めてつぐみの純粋さを知ったよ。詐欺とかには気をつけてな?」

 

 つぐみはいつかオレオレ詐欺に引っかかってしまう気がする。

 そんな事を思いながら、俺は頬をぽりぽりとかく。

 

「それにしてもあれだな……」

「な、なに……?」

「俺って、あんまり信頼されてないんだなーって」

「そ、そんな事──」

 

 つぐみが俺の意見を否定しようとしたところで、外がピカっと光った。

 

 ──はは。神が煽って来やがるぜ。

 

 ぼーっとしながらそんな事を思いつつ、抱きついて来たつぐみを宥めていた。

 

「な、何から何までごめんね……あんなに酷い事言っちゃったのに……」

「まあ、誤解の一つや二つ、する時あるだろ。制服脱ぎ出した時は驚いたけど」

「あ、あれは!その……あの……」

 

 あたふたとしながら、つぐみが何とか弁明を試みる。

 

「そ、そう!竜介君との子供を作ってから、一緒に夜逃げしようと……し、て……ち、違うよ竜介君!?私そんな子じゃないからね!」

 

 勝手に自爆した。

 

「はは。つぐみはむっつりさんだな」

「〜〜ッ!違うんだってば〜!」

「むっつぐむっつぐ」

「うぅ〜っ!」

 

 雷と恥じらいで涙を流すつぐみの頭を撫でながら、俺は笑っていた。

 これぞほんとの恥雷(はじらい)。つっまんね。

 

 ___

 

 

 むっつぐを否定しながら雷に怯えるつぐみを宥めて、あやして、寝かせていたら、無事に一限目を遅刻。しかし、幸いな事に自習になっていたのでお咎めなしとなった。

 リュックサックを机の横フックにかけ、中から弁当箱を取り出す。

 

「はいこれ。蘭の分の弁当。屋上行けなさそうだし先に渡しとく」

「あ、ありがと。……その、何かあったの?」

 

 心配そうな瞳で見つめる蘭の頭を撫でながら、俺は何でもないと返す。

 

「生徒会室で雷に怯えてたつぐみを寝かせて保健室に連れて行ってただけだ」

「ふーん……それにしては遅かったじゃん」

「つぐみがむっつぐってただけだ」

「何それ?」

 

 さすがに内容は教えられなかった。

 むっつぐむっつぐ。

 




むっつぐむっつぐ

何だかとても罪深いワードを生み出してしまった気がする。
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