【完結】いちばん小さな大魔王! 作:コントラポストは全てを解決する
間奏はパラレル話にしてたけど、これはほんへで起こったことにしようと思う。
七月三日──またの名を魔王生誕日。愛しく凛々しい我が魔王生誕の日。
──祝うしかないだろ。
「祝福の、鬼だッ!!!」
そう声高らかに叫ぶ俺がいるのはお馴染み羽沢珈琲店。
去年まで個人的にあこの誕生日を祝っていた俺だが、今年はアフグロの皆でお祝いする事になっていた。そのために払った対価はそれなりに大きく、かなりの労力を持っていかれる羽目に。ここぞとばかりに俺をこき使うつぐみパパの目は、何とも愉快痛快と言ったものだったのを覚えている。しかし、こんな所でへばっている場合ではない。今俺が過ごしている昼休憩が終わった後、ケーキ作りに取り掛かる予定なのだ。
「なんか、今日に限ってお客さん多かったな。つぐみ」
「そうだね。なんでだろ?」
死んだ目をしたつぐみを横目にカップラーメンのスープを啜りながら、俺は午前中の事を思い出す。開店一時間後くらいに流れこんで来た年若きJK達の姿を。
それは正に濁流と言っても差し支えないものだった。
「まあ、過ぎた事だし気にしなくていっか。つぐみ、先にキッチン入ってるな」
「うん。わかったよー……」
テーブルに突っ伏し手をヒラヒラとさせて返事をするつぐみに同情しながら、キッチンからボールやら砂糖やらをお借りする。
着々と準備を進める中で俺はふと気になった事をつぐみに尋ねた。
「つぐみ達は、毎年あこに何あげてるんだ?」
「えっとね、皆ハンカチとかヘアピンとかをあげてたかな。巴ちゃんは何故か毎年太鼓の撥を渡してたけど。竜介君は?」
「俺もそんな感じかな。昔は手作りのクッキーとかだったけど、中学上がった時くらいからアクセサリー渡すようになったよ。あこの好きな物って意外と難しいんだよな……」
かっこいい物が好きだからと、中学生がよく買うあの剣のストラップをあげれば良いって話にはならないのだ。過去に一度そう言った物をプレゼントした時には、フィギアの武器パーツと勘違いされた。あこにもかっこいいの基準があるらしい。
「竜介君、今年は何あげるの?」
「コウモリ型のヘアピンだ。ハンドメイドだけど、材料とかに拘ったからかなり出来のいい物になったよ。過去最高傑作」
「き、気合い入ってるね……」
「祝福の鬼だからな。今日だけは巴と太鼓叩いてもいいと思ってる」
祝いの宴は無礼講。古より伝わる祭事の楽しみ方だ。
「さて、夕飯の支度もあるし、ちゃちゃっとケーキ作っちゃうか。目標はひまりの体重二キロ増しだな。怪しまれないよう量じゃなくてカロリーで行く」
「やめてあげなよ……」
つぐみの呆れた目を華麗に受け流し、頭の中で何を作ろうかと考えながら俺は「ふへへ」と笑った。
◇
「ねえねえ、りんりん」
「……?どうしたの、あこちゃん……?」
竜介が外出してしまったため、暇になり燐子の元に訪れていたあこは、日課のNFOの曜日クエ周回をしながら隣でクエストを手伝ってくれている燐子に尋ねた。
「最近ね、りゅう兄が変なの」
「どんな風に、変なの……?」
「帰りが凄く遅かったり、なんかよそよそしかったり……」
胸の内に募っている不安をあこは話した。
「あこ……りゅう兄に何かしちゃったのかな……」
「うーん……りゅっ君があこちゃんを、邪険にしたりはしないと思うけどな……」
「嫌われちゃったらどうしよう……」
「それは、ないんじゃないかな……」
戸惑いながらも苦笑する燐子に、あこは涙目を向ける。本当にそんな事が起こってしまったなら、自分は他所様の目など気にせず泣き喚めいてしまうだろう。あこにはその自信があった。
そんなあこを見て元気付けようとでもしたのか、燐子は引き出しからストラップらしき物を取り出しあこに渡した。
「はい。あこちゃん……」
「これ……聖魔大罪剣チェーニロード・イクリプスのクリアVer.ストラップ……いいの?」
「うん。だって──」
燐子が渡したのはNFOのイベント限定ストラップだった。なぜそれを渡されたのかを聞いてきたあこに、燐子は告げる。
「今日、あこちゃんの誕生日……でしょ?」
「……え?」
間抜けな声で燐子に返した後、PCに常設してある時計で日付を確かめる。間違いなく自分の誕生日だった。
「ふふっ。りゅっ君の事で、頭がいっぱいだったみたいだね……。きっとりゅっ君も、あこちゃんの誕生日の用意……してたんだと思うよ?」
「で、でも、りゅう兄いつもあこに声掛けてくれるよ?」
「じゃあ……今年は何かあるんだよ」
「……そうなのかな」
燐子の説得を受けても、あこはまだ不安な顔をしていた。神楽竜介を前にして一番臆病になってしまうのはあこなのかもしれない。燐子はそう思った。
中々あこの不安が拭えないと燐子が悩んでいたその時、あこのスマホが不意に着信音を鳴らした。
「……お姉ちゃんからだ」
「そうだね……。さ、お呼ばれされたし……行ってらっしゃい、あこちゃん」
「う、うん……」
まだほんの少しだけ残る不安を胸に、あこは羽沢珈琲店を目指した。
___
燐子の家を出てから数十分かけて、あこは羽沢珈琲店にやってきた。カランカランと揺れ響くベルの音を聞きながら、恐る恐る店内を覗く。中に居たのは、自分の姉と、蘭、モカ、ひまり、つぐみ。
──この場に彼はいなかった。
胸の内の不安が的中してしまった。やはり自分は何かしてしまったんだと、そう自覚した瞬間、あこの意思に関係なく涙が零れ落ちる。
「おねーちゃん……」
「ど、どうしたあこ!?」
驚いた声をあげる巴に抱きつき、あこは泣いた。
しばらく泣き続け、段々静かになっていったあこに巴は尋ねる。
「な、何があった?」
「りゅうにいがね……」
「竜介に何かされたのか?」
「ううん……ちがうの……」
泣いて赤くなった目元を擦り拭いた後、あこは燐子に尋ねた事と同じ事を巴に聞いた。
「あ、あー……それはだな……えーっと」
あこの悩みを聞いた巴は、頬をかきながら言いにくそうに口ごもった。
あこはそんな姉の姿を見て、やはり彼に嫌われたのだと悟った。もう涙も出ない。
「あこ……何しちゃったんだろう」
「ち、違うぞあこ!そう言うわけじゃなくてだな……」
両手で謎のジェスチャーをしながら何かを誤魔化そうとする姉。隠し事が苦手な姉が、隠し事をするときにやる癖だ。
もう隠さなくていいのにとあこが思っていると、突然姉がむず痒そうに叫んだ。
「──ったく、竜介はどこほっつき歩いてんだよ!」
「……え?」
姉の言動に間抜けな声を出した。そしてそれの直後、入り口のベルが音を響かせる。思わず振り返ると、
「わ、悪い!スーパーが少し並んでて遅くなった!」
彼がいた。
◆
誕生日会用の料理とケーキを仕上げた所で巴にあこを呼んで貰ったが、その後に飲み物を買い忘れた事に気づいてしまい、近くのスーパーまで買いに行っていた。だが、午前の客がスーパーに流れたのかは知らないが、スーパーが異様に混んでいた。それから飲み物を選ぶのに更に時間をかけてしまい、そんな事に時間をかけるんじゃなかったと後悔しながら急いで皆の元に戻り今に至る。もう既にあこが羽沢珈琲店に到着していたため、皆で出迎えようとしていた予定が狂ってしまった。本当に申し訳ない。
ひとまず問題は片付き、よし始めようと思ったところで別の問題が俺に襲い掛かっていた。
「あ、あこ?どうした?」
あこが抱きついて離してくれないのだ。
「りゅうにいのあほ……」
「え?あ、ごめんなさい?」
何故かあこに怒られ、俺は理由もなく謝罪していた。
あこを怒らせた理由がまったく分からず、取り合えず姉である巴に救難信号を送ると、
「なんか、竜介がよそよそしかったり、ここ一週間帰りが遅い事を心配してたらしいぞ。あと、竜介に嫌われたんじゃないかって」
何かあらぬ誤解が生まれていた事が分かった。
「……ああ、そう言う」
帰りが遅かったのはつぐみパパがバイトとして雇った俺をこき使ったせいだ。
態度がぎこちなかったのは、多分俺がサプライズを意識しすぎたせいで態度に出たのだと思う。申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
「あこを驚かせたくてやってたけど、仇になっちゃったみたいだ。ごめんな」
「……あこのこと、嫌いになってない?」
「当たり前だ。俺には大事な大事な魔王様との契約があるからな。嫌いになる事なんて絶対ないよ」
あこの手をとって、手の甲を撫でながら俺はそう言った。どうか俺の気持ちが伝わっている事を願い、ニコリと笑って見せる。
「そもそも、俺があこを嫌いになってたらまずここにいないだろ。今俺がこうしてあこと手を繋いでる事が全ての答えだ」
「……分かった」
「おう。それなら良かった。じゃあはい、あこにプレゼント」
赤いリボンで飾った小さなプレゼントボックスをあこに渡す。
箱を開け、中身のヘアピンを見たあこは見惚れた様子で「きれい……」と呟いた。どうやら気に入って貰えたようだ。
「あこが前にコウモリ柄の浴衣が着たいって言ってたからさ、コウモリとかが好きなのかなって思って作ってみたんだ。かっこいいだろ?」
「うん。……りゅう兄、つけてみて良い?」
「いいぞ。てか、それはもうあこの物だし。付けるも外すも、売るも捨てるもあこの自由だ」
「そ、そんな事しないよ……もう……」
苦笑交じりにあこはそう言いながら、自分の頭にヘアピンを付けて見せる。
黒を基調に銀縁を付けたコウモリのシルエットモチーフが、あこの髪色とよく似合っていた。
「ど、どうかな?」
「おう。よく似合ってる。かわ──かっこいいぞ」
「にへへ……ありがと♪」
嬉しそうにニヘラと微笑んだあこの姿が俺の視界を支配する。機嫌が戻った途端にこの破壊力。さすがだなと惚れ直してしまった。
そんな俺の胸の内をあこに悟られないようクールに振る舞い、俺は今一度あこの手を取り片膝をつく。
「りゅう兄、どうしたの?」
「うん?いやさ、一番言いたかった事をまだ言ってなかったなって。聞いてくれるか?」
「うん、いいよ!」
「ありがとな。それじゃあ聞いてくれ──」
今回の……今年の誕生日のために作った台詞。
あこを想い、あこへの感謝を込めて書いた恋文代わり。
十六と言う
「──Happy birthday to my Lord.
この世界に生まれて来てくれてありがとう。
私と出会ってくれてありがとう。
貴女と出会い、そして傍にいることが、私の一番の宝物です。
我が命尽きるまで、この宝物を抱き続けたいと願う私の我侭を、どうかお許しください。魔王様」
夕日が沈み、月明かりがあこを照らしていた。月の灯りがコウモリのヘアピンに反射し、一瞬だけ輝く。
「……? なんかかっこよかった!」
「……ははっ、そうか。喜んでもらえて良かったよ」
やっぱり伝わってなかった俺の願いは、星屑の中に消えた事にしようと思う。正直、少しほっとしてる自分がいる。
あこにバレないよう小さな安堵のため息をつき、俺は一緒に笑った。しかしその直後、俺の頭に強い衝撃が走る。
「っつ~~誰だ今殴ったの?」
「竜介……い、今お前……」
どうやら姉の方には伝わってらしい。珍しく……珍しくではないが顔を赤くさせていた。
「そんな怒るなよ。俺が負けたんだし巴にとっちゃ結果オーライだろ?それに今日ぐらい格好つけさせてくれよ」
「いや、怒ってるわけじゃ……いややっぱ何でもない。まあ……今日は見逃してやるよ」
「やったぜ。さてと、じゃあ飲み物でも入れて乾杯を──」
いざ飲み物をと思って振り向くと、ひまりが倒れていた。ラブコメ成分の過剰摂取だろうか。
「おーい、ひまりー起きろー。壁ドンしちまうぞー」
「はッ!なんか今、漫画以上のラブコメシーンを見た気がする」
「こいつ、記憶が飛んでやがる……。まあ冗談はこのくらいにして。ひまり、そこのコーラ取ってくれ」
「はいはーい。いやーそれにしても、良いもの見れたなー」
ちょっとしたひまりとの茶番を披露した後、満足気味のひまりと共に、注いだ飲み物を皆に配る。ひまりとあこ以外は何故か魂を捨てた様な顔をしていた。
「よっしそれじゃあ、あこの誕生日を祝して、乾杯!」
「かんぱーい!」
「かんぱーい!」
『か、乾杯』
俺の一言を機に、コップの小突き合う少し甲高い音が響く。
楽しい楽しいお誕生日会が幕を開けた。俺だけ先にプレゼントを渡してしまったが、まあそれは仕方無い事だろう。そう俺は割り切った後、料理テーブルの前に立って料理を小皿に分ける役につく。そして皆に料理を届けた。
「わあ!りゅう兄の料理だ!いただきます!」
「ゆっくり食べろよ。料理は逃げたりしないからさ」
「リ~くん、モカちゃんにもちょうだ~い」
「お前は量が多すぎるから最後だ」
モカからクレームを貰うアクシデントが起こったが、取りあえず七面鳥の足で黙らせておいた。それ以外は特に問題なく進んでいる。これから問題を起こしそうな人が二名いるが、何か堪えてる様子だった。
料理の方は順調に減っていき、予想通り俺は野菜処理に負われる事になりそうだ。今から覚悟を決めなければ。
「りゅう兄。はい、あーん!」
「あこ……肉の影にピーマン隠してるの気づいてるからな?」
あこからもクレームが来たが、しっかり食べさせておいた。我が魔王超可愛い。
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いやーそれにしても危なかったぜ。危うくあこの誕生日過ぎちまう所だった。わし英語苦手だからどこかおかしかったら言ってくれい。
なんだかんだで評価60手前、感想100手前まで来たこの二次創作。ぶっちゃけここまで人気出るとは思わんかった。