【完結】いちばん小さな大魔王! 作:コントラポストは全てを解決する
ラジオの収録が終わり、役目を終えた俺は事務所の入口に戻って来た。
「ですから私共はお嬢様から命を受けて神楽様の護衛を……!」
「あーはいはい、分かりましたから。次回アポを取ってから来てください」
「くっ……かくなる上は」
俺の目の前に広がっていたのは、事務所の受付嬢さんと、スマホとは違う何かの端末を手に持つ黒服さんが、終わりのない戦いを繰り広げている光景だった。あくまで俺の勘だが、黒服さんが持っているあの端末を起動させたら、この事務所が(物理的に)終わる。そんな気がする。というか行けてしまう気がする。
「あの……黒服さん?」
「ッ!──か、神楽様!ご無事で何よりございます」
「ああ、うん……。無事も何も、ただのラジオ収録だから」
俺の安否を確認した瞬間、黒服さん達の間に流れていた緊張感が解けて行くのが分かった。こころの命令の影響力ちと強すぎやしないだろうか。
もしかしたら命令を遂行しないとクビになる契約でも結んでいるのかもしれない。俺は黒服さん達に同情しながら、念入りに行われるボディーチェックに耐えていた。
「神楽様の身体、メンタル、共に異常なし。これより送迎の準備に取り掛かる。総員、今回のような失態を犯さないよう警戒を怠るな!」
インカムで指示を出した黒服Aさんの前に、例のクソ長い車──リムジンがやってくる。
何故、俺は一国の首相のような扱いを受けているのだろうか。
「神楽様、お帰りの準備が整いました」
リムジンから伸びた赤絨毯が、俺の足元までやって来た。
そんな様子を見て、見送りに来ていた彩先輩と日菜先輩が各々の反応を示す。
「やっぱりかぐ君……すごいお家の人だったんだ……」
「え、いや違います──」
「うわー!あたし一回、こう言う赤いやつの上歩いてみたかったんだー!」
「日菜先輩?そうズカズカと汚しに行くのはちょっと……」
彩先輩はあらぬ誤解をし、日菜先輩は赤絨毯を汚しながらリムジンの中へと飛び込んで行った。
「あの、日菜先輩?仕事は……」
「あたし今日は仕事終わりだよー。一緒に乗ってって良い?竜君」
「いえ、俺に聞かれましても……。えっと良いんでしょうか?黒服さん的には」
「神楽様さえ良ければ、ワタクシ共は特に」
キッチリとサングラスを掛け直しながら、いつもの凛々しい表情で黒服さんは言った。どうやら現段階における黒服さんの操作権は、全て俺に委ねられているらしい。しかし俺は黒服さんの扱い方など知らない。
「無理に俺につくことないですよ?」
「……ワタクシ共はお嬢様の命に対し、場合によっては拒否権を行使出来ると言う事だけお伝えしときます」
つまり、こころの命もあるが、今ここにいるのは自分達の意思でもあると。そう言う事だろうか。だとすれば何故そこまで……と、俺はしばし考えてみたが分からなかった。
「黒服さんには、こころの幸せを見守ってて欲しいんですけどねぇ……」
何となしに呟いてみると、黒服さんが小さく笑った。
「俺、何かおかしい事言いましたか?」
「お気を悪くしたのなら申し訳ございません。お嬢様と同じ事を言っていたので……つい」
どうやらこころも同じ事を思っていたらしい。これが以心伝心と言うものだろう。もしかしたしらメインヒロインはこころだったのかもしれない。
俺はそんな冗談を胸の内に抱えながら、リムジンに乗り込んだ。
それからリムジンと一緒に揺れる事数分。
俺はのんびり窓の外の景色を楽しみながら、腕に押し付けられている日菜先輩のおヒナなお胸の感触を全力で誤魔化していた。
「日菜先輩、胸が当たってます」
「当ててるからね。るんってする?」
「大分してます」
るんっと言うよりドキッの方が正しいが、俺にそんな事はどうでも良かった。
日菜先輩が俺の腕に胸を当てている。しかも意図的にだ。その事実が俺を混乱させる。一体何のハニートラップだろうか。
「えっと、何故こんな事を?」
「竜君の周り、女の子が多すぎるんだもん。それに、もうウカウカしてられなくなって来たし……」
「女の子が多いと言うより、女の子しかいませんね。あはははは」
突き付けられた悲しい現実に俺は殴られながら乾笑していると、日菜先輩により強く腕を抱き締められる。
「笑い事じゃないよ。皆、闘ってるんだからね」
「ああー……麻弥さんも言ってましたよ。ラスボスの魔王が強すぎるっ〜て」
「……確かにそうだね」
いつか麻弥さんと買い物に出掛けた時に聞いた話だ。確か……バトルロワイヤルだが、その中にラスボス級の魔王がいると言う話だった筈だ。
「酷い話ですよねー。バトロワのくせして出来レースなんて。参加者に同情しちゃいますよ」
「……ほんと、酷い話だよ。泣きたいよ」
「いっそ開き直って泣き喚けば、皆諦めてくれるかもしれませんね」
「……それは最後に取っておくよ。ひなちゃんは最後まで諦めない子だからね」
窓の外を見上げながら、既に諦めている様子で日菜先輩は言った。沙綾もそうだが、皆諦めるのが早すぎるのではないだろうかと、俺は全員に訴えたい。
「まあ、頑張ってください。遠目から応援してます」
「他人事だなー竜君は。あたしはどうなっても知らないからね」
「俺は観戦組ですから。それに麻弥さん推しですし」
「ふーん……。あこちゃんの事はもう良いんだ」
不貞腐れてながら放たれた日菜先輩の言葉が、俺の核に突き刺さる。
「え、そのバトロワってあこも出てるんですか?」
「出てるよー。しかも暫定一位」
「よっし」
どうやらあこは血が滲む程頑張っているらしい。今日の晩御飯がステーキになった。
「スーパー行かなきゃな。黒服さん、商店街寄ってもらっても良いですか?」
「承知しました」
指示を受け入れた黒服さんがアクセルを吹かす。何故かは知らないが、黒服さんは法定速度を越えようとしていた。
「飛ばしますので掴まっていてください」
「法律は守ってください」
「……承知しました。別に捕まっても平気でしたのに」
「洒落にならない事言わないでください」
日菜先輩同様、不貞腐れたように言った黒服さんに俺は呆れた視線を向ける。今度権力の使い方を学んでおこうと、俺は心の中で固く誓った。
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「ただいまー……」
「お邪魔しまーす!」
商店街で買い物を終えた後、そこからは日菜先輩と一緒に歩いて帰ってきた。日菜先輩はそのままのノリでうちに寄ることになったので、今も隣にいる。
「おかえりりゅう兄!」
靴を脱いでいると、エプロンとおたまを持ったあこが出迎えてくれた。純粋な幸せが俺の胸に満たされて行く。
「あ、ひなちゃん。いらっしゃい!」
「うん。お邪魔するよ!……って、なんでエプロン?料理は竜君がしてるんじゃないの?」
「最近練習始めたんだー」
あこと日菜先輩が世間話をし始めたのを横目に、俺はリビングに向かった。ドアを明け、ふとテーブルの上を見ると、そこには知らない小包が。差出人を見てみると、弦巻こころの名があった。
「これは──」
包みを剥がして確認してみると、その中からアルバムらしき本が出て来た。
バトルロワイヤルで……出来レース……。キ-ンキ-ン
<オ-ワリ-ノ-ナイ-タタ-カ-イヲ-
ぱすぱれラジオやったので、そのままのノリでひなちゃん編をやろうかなと思います。こころん編のように暗くならないよう頑張りたい。